第200話 少女、お爺ちゃんを打(ぶ)つ
歓声が響き渡っている。血の気の多い男たちが拳を振り上げて叫ぶ前で二体の鋼鉄の巨人が激突し、鉄と鉄とがぶつかり合って火花が散ち、激突音が周囲に木霊した。
『両腕は見るからにギミック。ウォーハンマーのあのゴチャツキ具合はギミックウェポンだろうが……しかし、どうなんだろうね』
ベラはそう呟きながら、アイゼンの駆る『ミョウオー』の振るうウォーハンマーの攻撃を自分のウォーハンマーで当てて逸らす。『竜の心臓』を起動していない『アイアンディーナ』では、大型の鉄機兵である『ミョウオー』に出力では劣っているために正面からの打ち合いでは勝てない。
『大したパワーはないようだな。メシは食っておるのか。メシは?』
『ハッ、ディーナは成長期なんだよ』
ベラがそう返しながら『アイアンディーナ』を踏み出させ、『ミョウオー』のウォーハンマーの一撃をかいくぐるって懐に飛び込もうとするが、
『おや、そっちの腕は起動しているかい?』
何かに気付いたベラはフットペダルを強く踏み込んで、すぐさま後ろへと『アイアンディーナ』を下がらせる。
『チッ!?』
それにアイゼンは舌打ちしながらもウォーハンマーから離した『ミョウオー』の左腕を伸ばす。しかし、その左腕の指は『アイアンディーナ』の装甲をわずかに掠めはしたが捕らえることはできない。
『掴めれば、どうにかなるってのかい。速度も速いが出力も高めと……多少厄介だが』
とはいえ伸びた『ミョウオー』の腕からは銀霧蒸気が噴き出し、その動きも違っていた。
故にそれがギミックを仕込んだ腕なのは一目瞭然だが、問題なのは組み合わせだ。
空に流れる魔力の川より供給された魔力で鉄機兵は動く。鉄機兵はガタイが大きければ魔力を貯める性質も持つ神造筋肉の量も増え比例してそのキャパシティも上昇するのだが、それでも本体に内蔵されているギミックであるにしろ、武装に内蔵されたギミックウェポンにしろ、使用には制限が付きまとう。
なお、『竜の心臓』を別に持つ『アイアンディーナ』や『竜の心臓』化した竜心石を持つ竜機兵はその制限が少なく、獣機兵は逆に本体性能に特化しているためにギミックが扱えないのだが、アイゼンの『ミョウオー』は鉄機兵だ。
(ウォーハンマーを握っている方はギミックを発動させていない……が)
周辺の魔力を調べる魔力メーターの計測値を見れば、目の前の『ミョウオー』が何かを発動し続けているだろうというのは分かる。
『まさか、溜めているのかい?』
『カッ!』
次の瞬間、『ミョウオー』の背のパイプから銀霧蒸気が勢いよく噴き出し、同時に通常よりも大きいウォーハンマーから噴射口が出てきて、そこから炎が噴射して加速していく。
『それは魔力を溜めて使うタイプのギミックウェポン!?』
『そういうッ、ことだぁあ!』
そのまま勢いよく炎を噴き上げて振り下ろされるウォーハンマーだが、
『ヒャッ!』
それをベラは『アイアンディーナ』の左腕に仕込んである仕込み杭打機を放ってウォーハンマーの側面にぶつけ、わずかにだが軌道を逸らして機体への攻撃を避けた。
『そこに狙って当てられるのか。化け物か貴様! だがッ』
その状況にアイゼンはアームグリップを操作し、ウォーハンマーの噴射口の角度を動かしてウォーハンマーの軌道をねじ曲げていく。対して『アイアンディーナ』は一歩を踏み出し『ミョウオー』へと迫った。
『遅いんだよ』
『なんだ、その腕は!?』
叫ぶアイゼンの前で、ベラは『竜の心臓』を起動させた『アイアンディーナ』の右腕で『ミョウオー』のウォーハンマーを掴んで止めたのだ。『ミョウオー』のウォーハンマーからはまだ炎が噴き上げるが、勢いを止められたソレは動かない。
『この怪力乱神に匹敵するパワーだと? だがこちらには右腕がある!』
『いいのかい? こっちはブットいのが出るんだがねえ!』
ベラの左腕には先ほどウォーハンマーを弾いた仕込み杭打機が仕込まれているのだ。そのベラの言葉にアイゼンは躊躇した。組み合えば貫かれると。
実際のところ、一度撃った仕込み杭打機の再度の射出には未だ時間が足りない。だが、そのことにアイゼンが気付く前に状況は完了していた。
『なんだ、足?』
気が付けば『アイアンディーナ』の臀部から伸びている尾が『ミョウオー』の足に絡みついていたのだ。そして『ミョウオー』はそのまま勢いよく引っ張られて機体を地面に叩きつけられた。
「族長ッ!?」
「やっちまえぇええええ!」
叫ぶギャラリーの前で『アイアンディーナ』が追撃にとウォーハンマーを振り下ろし、アイゼンがとっさに『ミョウオー』を操作してその一撃を避けた。そして、『ミョウオー』が転げた勢いのままに距離を取って立ち上がると、ウォーハンマーを構えながら『アイアンディーナ』へと叫んだ。
『見逃したな、貴様!』
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『あん? ああ、機体の性能差で負けたなんて言われたら困るだろう』
アイゼンの問いに対し、対峙した相手から返ってきた言葉は実に舐めたととられても仕方のないものであった。
それにドーマ族の陣営からの非難の声が上がるが、それにはアイゼンが『黙っておけ』と吠えて制した。何しろ仲間からのベラへの非難は、アイゼンにとっては恥の上塗りでしかなかったのだ。
今の『アイアンディーナ』の攻撃は、完全に見逃されたものだった。放たれた攻撃は大振りも良いところだが、そもそもアイゼンが避けたときには足に絡まっていた尾がすでに離れていた。絡まったままならば、確実に動きを阻害されていたはずなのに……だ。その状況であの言葉。だからこそベラがアイゼンを見逃したことは確かで、その理由も明白だった。
『で、まだやるかいドーマの族長? 後腐れはゴメンだ。膝が折れるまで叩き続けてやるよ』
その言葉に『ミョウオー』が構える。目の前の鉄機兵は強い。
『動力が肩にもあるのか。右腕は竜機兵のものだな?』
『似たようなものだね』
ベラがそう返して『アイアンディーナ』を一歩進める。
ドラゴンの姿に変形する、竜機兵に非常に近い鉄機兵。武装に関してはアイゼンの見る限り、腰部の小剣と砲塔らしきもの、それに背部にある何かもまだ使われていない。そのどれかが噂に聞くドラゴン殺しの剣なのだろうとアイゼンは考えたが、すぐさまそれを振るわせるまでに己が至っていないという事実に唸るしかない。
(初手で防がれたか。恐るべき強さだ)
『ミョウオー』の腕は怪力乱神という、形こそ違うがマスカー族のものと同じくするギミックアームだ。
出力を増大するのに魔力消費が激しいため、本来他のギミックの発動は難しいのだが、『ミョウオー』の持っているウォーハンマーは魔力をチャージして放つタイプの流星落としと呼ばれるギミックウェポンであった。それらを同時発動させることによる圧倒的なパワーで敵を粉砕する必殺の一撃だったが、ベラには通じなかった。
流星落としを仕込み杭打機に当てられて避けられ、怪力乱神のパワーも抗され、転ばされて見逃された。笑ってしまうぐらいに完敗で、けれどもアイゼンは高ぶる気持ちは抑えられない。
『まあ、やらせてもらえるというのであらば』
流星落としは初手殺しの技で、アイゼンの本来の力はまだ出し切ってはいない。
『『ミョウオー』と怪力乱神の真価をお見せしようか!』
そう言って、鉄機兵『ミョウオー』が駆け出した。
流星落としは単純に通常のウォーハンマーよりも重量があり、取り回しは難しいが怪力乱神とアイゼンの技量があれば強力無比な武器となるものだ。
アイゼンは怪力乱神を発動させ続けながら、『アイアンディーナ』に対してひたすらにウォーハンマーを振るい続ける。
対してベラは左腕に装着している白いライトシールドと自らのウォーハンマーを使って受け流す形で一撃一撃を防御していく。それは一方的なアイゼンの攻撃に見えてダメージはほとんどなく、いつしかそれを見ていた周囲のギャラリーの声も消えていた。ドーマ族の戦士にしても、もう何も言えないでいるようだった。アイゼンのすべての攻撃を捌き続けるベラの鉄機兵の操作に、誰も彼もが見入っていたのだ。最初のぶつかり合いとは違い、誰もが理解するしかない技巧の冴えがそこにはあった。
『そのような技術、どこで覚えた? 父親か母親か?』
戦いの最中にアイゼンが問う。あまりにも見事な技だ。だが、ベラの素性を理解しているアイゼンにしてみれば、何故己の孫がそんなことをできているのかが分からない。
『あん? どっちも鉄機兵で戦った姿なんて見たこたぁないねえ』
『では?』
再びウォーハンマー同士が打ち合い、火花が散る。水晶眼を通してアイゼンが見る『アイアンディーナ』の動きは歴戦の戦士そのものだ。それは、かつて戦場で見た黄金の機体を想起させるほどだった。
『見てりゃあ大体分かんだよ。ただそれだけだ』
『神童ということか』
『そういう言葉で片付けてほしくはないねえ』
ベラがそう言って一歩踏み出し、そこにアイゼンが怪力乱神を最大出力で発動させた一撃が振るわれて『アイアンディーナ』の手からウォーハンマーが弾かれた。
『これも若さ故か』
会話に気を取られての読み合いのミス。アイゼンはそう判断し、トドメの一撃を見舞おうとウォーハンマーを振り上げた。
『これで』
『終いだね』
だが次の瞬間に『アイアンディーナ』の尾が宙を舞ったウォーハンマーを掴み、アイゼンの一撃が来る前に『ミョウオー』へとぶつけて機体を弾き飛ばした。
『馬鹿な!?』
その状況にアイゼンが叫ぶが、もう遅い。
続けて咆哮のような機械音が発せられ、体勢を整えようとした『ミョウオー』の前に腰から外された回転歯剣が向けられていた。そしてベラが
『三度目、やるかい?』
『いや、負けだ負け。ここまで見事にやられては言い訳のしようもない』
そしてアイゼンから敗北宣言が告げられると、周囲からォォオオオオオオと歓声が湧き上がった。
こうしてアイゼンが負けたことでドーマ族とその配下の一族たちはベラの下につくことが確定し、戦力を増強したヘイロー大傭兵団が交易都市レオールへと到着したのはそれから三日後のことであった。
次回予告:『第201話 少女、目的地に着く』
ベラちゃん、お爺ちゃんとキチンとお話できたようですね。
みんな仲良しなのが一番ですね。そして、いよいよベラちゃんは目的地に辿り着いたようです。
お土産もたくさん用意しましたし、みなさん歓迎してくれると良いですね。




