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ロリババアロボ ー 6歳からの楽しい傭兵生活 ー  作者: 紫炎
第二部 九歳児の楽しい戦乱の歩き方

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第199話 少女、お爺ちゃんと対峙する


「グッ……」


 ベラたちのいる天幕より出て、自分たちが野営している陣地へと戻ったアイゼンが苦痛に顔が歪めていた。それは無理もないことだった。アイゼンは視覚外からの鉄機兵マキーニの一撃を受けたのだ。その場においてはなんでもないという素振りで立ち去ったアイゼンだが、当然ダメージはあった。


「あの鉄機兵マキーニの乗り手。イカれてやがる」

「大丈夫ですか族長。戦いに支障があるのであれば……」


 配下の戦士の言葉にアイゼンが「問題ない」と口にして笑みを作る。


「確かに痛むが、それでも戦闘に支障はきたさないだろうよ。まったくアレの加減は絶妙だったわ」

「あの乗り手、それほどの技量だったと?」


 その問いにはアイゼンが頷く。アイゼンを以ってしても褒めざるを得ないほどに、あの場で攻撃を仕掛けた鉄機兵マキーニの操作は見事であったと彼は感じていた。その言葉にドーマ族の戦士の一人が「まさか」と呟く。


「マスカーの……あの男が戻ってきているのでは?」

「いや、それはないな」


 アイゼンが即座にそう返しながら肩を回した。それから己の状態に問題がないことを理解して頷くと、話を続けていく。


「ベラの下にいたらしいバル・マスカーは、現在クィーン・ベラドンナの副将となっているらしいからな。それに振り下ろしたのもウォーハンマー。マスカーの者が使うわけもない」


 ドーマ族がウォーハンマーを使うように、マスカー族はカタナという武器を使う。その言葉にドーマ族の戦士がなるほどと頷いた。


「しかし、そのバルに逃げられたのでしたな。あのベラという小娘。確かに幼き姿こそ驚きましたが、その事実からして器が知れるというもの。やはり臆病者の血筋というわけですかな」

「おい。それはもう言うな」


 古参の戦士からの言葉に口にした若い戦士が首を傾げたが、それにはアイゼンが「良い」と返した。


「アレが我が娘を娶ったラウン・ヘイローの娘だとしても、やることは変わらんよ」


 その言葉に戦士たちの一部でどよめきが起こる。

 彼らはベラが一族を逃げた者の血筋であるということは知っていたが、そもそもが忌避されていた話題であったためにその内情までは聞かされていなかった。もっともソレは当然のこと。ベラ・ヘイローはつまりアイゼンの孫であり、族長の恥をドーマ族内で話題にすることが避けられていたのだから、若い戦士たちはラウン・ヘイローとアイゼンの娘のことなぞ知るわけもなかった。


「娘を奴隷として売り、パロマ程度の弱兵に殺されたとあれば、アレらに対してはワシが言うべきことは何もない。ただ恥であるだけだ。だが、あのベラという娘は確かにワシの孫なのだろうよ。ところでだ。気付いた者はおるか?」

「何をです?」


 戦士の問いに、アイゼンがニヤリと笑う。


「あの乱入した鉄機兵マキーニだが、操っていたのは恐らくベラだぞ」

「何を馬鹿な。ベラ・ヘイローならば目の前にいましたぞ」


 それはあの場にいた誰もが理解していることだが、アイゼンは首を横に振る。


「確かにな。だが、ベラの首に下がっていた竜心石には輝きがあった。ま、戦いになれば分かることだろうが……どの道、ここで我らが勝とうとあれの軍門に下るのは違いない。だとすれば、景気良く勝たねばな」

「それが納得いかんのですよ」


 アイゼンの言葉に若き戦士たちが憤る。老練の戦士たちにしても、言いたいことがあるという顔だった。


「我らが二年以上の、いや……もう三年にもなる戦いを後目に、カイゼルの連中は我らを無視して北部族をまとめていった。すべて奴らが台無しにしたにもかかわらず」


 その戦士の言葉の通り、彼らは三年前のムハルドとの戦いに敗北した後、隣国アルタゴニアの領土へと逃げ延び、今日までムハルド王国へとゲリラ戦を仕掛けていた。人員に限りがある彼らではそうするしかなかったのだ。もっとも、かつては傭兵である彼らの雇い主として友好的であったアルタゴニア王国もムハルドとローウェンに屈したのか今では敵対関係となり、彼らは現在追い詰められていた。

 彼らが追い詰められた一因が、カイゼル族が仮初めとはいえムハルド側に立ったためであることはまぎれもない事実だ。南部族を統一したムハルド王国とは違い、横の繋がりしかない北部族を束ねるには力ある部族が声を上げねばならなかったが、その一端を担うカイゼル族が懐柔されたことで彼らの動きは大きく鈍ったのだ。

 カイゼル族とそれに追従した大多数の北部族がちゃんとドーマ族に付いていれば、或いはヴォルディアナ地方のすべてを奪われることもなかったはずだ……という認識はドーマ族内では共通したものだった。

 対して、アイゼンは「だが」と口にする。


「カールはこの日のために準備をしていたのだろう。そしてあのベラには力がある」


 ここまでカールが水面下で動いてレールを敷き続けていたからこそ、ヘイロー大傭兵団の動きは素早い。

 ただ北部族を束ねただけではムハルド王国に対抗するのは難しかったはずだが、ベラは獣機兵ビーストや獣人たちも味方に付けた。ドラゴンなどという馬鹿げたものも戦力とし、さらにはルーイン解放軍の後ろ盾もあり背中の心配もない。

 そこにすぐさまドーマ族が加わらなかったのは、アイゼンがカイゼル族との連絡を拒否していたからだ。無論ムハルド側にいた部族の言葉を信じられるかといえば否であるので、その判断自体は間違いとは言えないが、ともあれ彼らは出遅れた。故にその遅れを打開すべく、アイゼンは天幕内での行動は自らを高く売るためのパフォーマンスを行った。

 今更横から入って軍の主導権を手に入れることなどは当然不可能だろうが、こうして己らが戦力を示すことで彼らは自らの価値を上げようとした。通常であれば敵対しかねぬ行為でも、今は交易都市レオールを攻めようとしているときだ。戦力は喉から手が出るほどに欲しているだろうからと、挑発行為を行ったのだ。

 ラーサ族は古くから傭兵稼業で稼いできた者たち、攻撃的なやり取りも彼らにしてみれば交渉の一環だ。思うところあっても、意識の上ではその認識が前提だと……その場にいるドーマ族の戦士たちも分かっていた。ただひとりを除いては。


「クク。遠隔操作なぞ曲芸の域だが、それであの加減を見せたのだ。噂通りなら、やはり恐るべき手練れなのだろうな。正直に言って……」


 その言葉に戦士たちがゾクリと震えた。放たれる獣のような闘気は、常にそばにいる彼らにとっても怯えざるを得ないものだった。同時に彼らにも分かってはいた。この老人にとって、ここまでのすべてが建前なのだと。一族の脱走者への怒りも、孫への憐憫も、一族のための交渉も……すべては己が闘争欲を満たすための建前。結局のところ……


『昂ぶるわな』


 アイゼンという老人は、戦い以外はどうでも良いという考えの持ち主であった。




  **********




「娯楽に飢えてるのかねえ」

『快進撃で昂ぶっているんでしょう』


 アイゼンとのやり取りの後、鉄機兵マキーニが動き回れる範囲が確保された平地の周りを盾持ちのオーガタイプ獣機兵ビーストで取り囲んだだけの形で用意された簡易闘技場が用意されていた。そして、その周囲にはヘイロー大傭兵団の兵士たちが並び立ち、これから始まる対決を今か今かと待ち構えている。

 機竜形態の『アイアンディーナ』に乗っているベラは少し離れた場所でその様子を眺めながら、横に並んでいる風精機シルフィを纏ったパラの言葉に眉をひそめた。


「まあ、戦争前にそうなっているのは良いことなんだけどねえ。パラ、レオールを落とした後にあまり『オイタ』はしないように言い含めておきな。多少なら許すけどね」

『承知しております。美味しいところは総取りが基本ですからね』


 部下が派手に暴れて、略奪行為(美味しいところ)過剰に働らかれて(持っていかれて)も困るのだ。

 街を支配する上層部を抑え、より効率的に、効果的に財産を奪い、街そのものを自分たちのためのムハルド王国の前線基地に仕立て上げる。それがベストな状況だ。確かに兵にも褒美は必要だし、街の人間に立場の違いを分からせる必要もある。だが、焼け野原にしては意味もないし、過度に悪感情を煽って背中を狙われても困ってしまう。


『なあ、総団長。信頼していないわけじゃあないんだけどな。先のことよりも、今はあの爺さんに集中してくれ』


 そこにカールからの通信が入った。


『なんだよカール。ビビってんのか?』

『ああ。ビビってんだよ、リンロー団長。オルガンのオーガ隊は盾をしっかりと構えるように言ってくれ。あれはバーサーカーだからな。どう動くか予想がつかない』

『バーサーカー? 理性はあるように思えたがね?』


 そのベラの言葉には、カールが『だからこそ余計にだ』と返した。


『ああいうときのあのジジイが一番怖い。餌を我慢するために、取り繕ってやがる。ウォーハンマーを叩きつけられたときの目、もう火が付いてやがるぞ。それにアレは大戦帰りだ。総団長も分かるだろう。鷲獅子大戦で多くの武功を上げてアレは生き残ってやがるんだ』

『おい、ちょっと待てよ。ラーサは、アザモスとの戦いのせいで大戦には参加してねえだろ?』


 約十年前に起こったローウェン帝国とドーバー同盟の鷲獅子大戦。ちょうどその頃、ラーサ族は北部族もムハルド王国軍も、海を越えたフィロン大陸にある魔獣国家アザモスからの侵略軍に対しての沿岸防衛に駆り出されていたのだ。そして、それにはリンローもカールも新兵として参加していた。


『ああ、大戦に参加したラーサ族はほとんどいない。当然ドーマ族もアザモスとの戦いには参戦していたが……あの爺さん、それ抜けてひとりで行っちまったんだよ』

『は、ひとりで? アホかい。だが、バルとは気が合いそうだね』


 ベラの言葉にカールが苦笑する。


『バル・マスカーか。それはどうか分からないが、結構な手柄を上げて帰還して、敵前逃亡と非難した当時の族長を血祭りに上げて再び族長に返り咲いて今に至っているようなジジイだ。ベラ団長が負けるとは思わないが、あの爺さんのウォーハンマーはヤバい。当たるなよ?』

「まあ、気を付けるさ。ほどほどにね」


 そう言いながらベラが『アイアンディーナ』を操り、簡易闘技場の中心へと進んでいく。

 そこにはすでにアイゼンの鉄機兵マキーニ『ミョウオー』が立っていた。それはベラのものよりもふた周り大きなウォーハンマーを、やはりふた周りは大きな腕で握って構えている鉄機兵マキーニだった。


『待ちくたびれたぞ』

「ああ、悪いね。けど、主役は遅れてくるもんだろ?」

『小賢しい口を。それにそれは鉄機兵マキーニではなく鉄機獣ガルムか。奇妙な形だが』


 『ミョウオー』の背後に並んでいるドーマの戦士が、戦いになるのかと声を上げた。四本足で移動する鉄機獣ガルムは、斥候や輸送がメインで戦闘能力はそう高くはない。だが、ベラは笑いながら「ディーナ、見せてやりな」と声を上げた。


『何?』


 突然の状況に驚きの声が挙がる中で、『アイアンディーナ』が変形していく。

 腰から足の関節部位が変形し、竜の首は右腕へと変わり、鉄機兵マキーニの頭部が胴体部からせり上がって、入れ替わりで背中にあったベラと操者の座コクピットが中と収納されていく。機竜形態から機人形態へと、ドラゴンから人型へと変わっていく。


「変形した?」

「しかも、あの形は先ほどの」

「やはりベラ・ヘイローの鉄機兵マキーニだったのか?」


 それから尾に巻き付けていたウォーハンマーを手に取り、人の形になった『アイアンディーナ』が『ミョウオー』に対して身構える。


『それは、竜機兵ドラグーンか?』

『分類はまぁだ鉄機兵マキーニらしいがね。で? さあ、やるんだろう、ドーマの族長』


 その言葉にアイゼンの『ミョウオー』も一歩を踏み出し、


『やるとも。ラーサのドーマ族族長アイゼン・ドーマ、推し参る!』

『ヘイロー大傭兵団総団長ベラ・ヘイロー、いくよ!』


 そして両者は一斉に駆け出した。

次回予告:『第200話 少女、お爺ちゃんをつ』


 なんという運命の悪戯でしょう。

 出会ったお爺ちゃんはベラちゃんの本当のお爺ちゃんでした。

 それはふたりだけのダンスパーティが悲劇へと変わった瞬間です。

 お爺ちゃんはこのまま真実を告げぬまま不運ハードラックダンスっちまうのでしょうか。そんなのは悲しすぎます。ベラちゃん、早く気付いて。そして、ふたりの出会いを悲しい思い出にさせないで!

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