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ロリババアロボ ー 6歳からの楽しい傭兵生活 ー  作者: 紫炎
第一部 六歳児の初めての傭兵団

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第19話 幼女、名前を決める

 戦争の前線基地でもあるモルソンの街は、荒くれ者の傭兵たちが闊歩する非常に治安の悪い街として知られている。

 勿論、他の街と比べて治安が悪いのは事実ではあるが、娼婦と酒と薬が売られ、それを傭兵たちは戦働きで得た金を湯水のように流し込んでいるため、彼らは彼らで街の繁栄に貢献しているという側面もあった。

 また傭兵には傭兵のルールがある。故に街中で騒動が起こることも、思ったほど多いわけでもなく、一般的に考えられているほどに悪い場所でもなかったりもする。


 とはいえ、それはそうした事情を知らぬ者には分からぬことでもある。


『ガラ悪りぃなあ』


 荷車を運びながらボルドがそう呟いた。そして荷車の上にはベラのアイアンディーナとバルのムサシが乗せられている。この街の中は戦時中ということもあって鉄機兵マキーニが入ることが許可されていた。

 そしてボルドたちを見る周囲の視線は、車の荷に集中し、そしてそこに貼られているベンマーク商会の紋を見ては離れていく。

 ルーイン王国内でのベンマーク商会はそこそこに有力な商会だ。その紋の使用許可を得ている鉄機兵マキーニ乗りなど木っ端な傭兵たちから見れば絡むのが危険な相手と映るのだろう。力の差、身分の差はこの世界においては大きな格差を生む。傭兵とて跳ねっ返りは長くは生きられない。処世術も傭兵に求められる能力だった。


「戦争やってるんだ。ガラが悪いのは当然さね。ま、コロサスに比べれば活気もイマイチだが、そこまで言うのは贅沢ってもんかね」


 荷車に乗っている『アイアンディーナ』の上でくつろいでるベラがそう口にする。街にたむろしている傭兵たちは、そんなベラを不思議なモノを見るように眺めていた。


「主様よ、あまり油断はするなよ」


 そばにいるバルがそう主をいさめるが、ベラは「ヒャッ」と笑って口を開く。


「いいや、するさ。そのためにアンタがいるんだろう? 仕事はきっちりして貰うよ」


 その言葉にバルは嘆息する。もっとも、ベラの言葉もまた事実ではある。バルとボルドはどちらかは(主に虫除けとしてだが)護衛としてベラの付き添いをすることになっている。

 もっともバルもベラの言葉を額面通りには受け取ってはいない。ベラの気性から考えれば、口ではああいうものの油断などするはずもないし、火の粉がかかりそうになれば喜んで払いに行くだろうともバルは考えている。

 もっともそれはバルも同様……というよりは、バルの方にこそ当てはまる考えであった。そもそもベラは好戦的ではあっても、戦闘狂ではない。戦闘そのものに生きる喜びを見いだしているわけではないのだ。


「それよりもせっかくコーザに融通して貰ったんだ。あいつのコネの宿にさっさと着けて、まずは奴隷商のところにいかないとね。そんで続いては傭兵組合所か」


 そうベラは口にする。現在のベラたちはコーザのキャラバンとは契約を終え、すでに離れて行動していた。

 コーザたちは騎士たちの居住区に入り、領主との面会があるらしい。そしてベラたちは道中の盗賊団の討伐報酬や鉄機兵マキーニ買取により、すでにコーザからは多額の金を受け取っていて、随分と実入りが良くなっていた。


 また、バルと鉄機兵マキーニ『ムサシ』が増えたことで雑用係がボルドだけでは足りなくなっている感があった。なのでベラは精霊機エレメントがもう一機欲しいと感じていて、購入するつもりのようであった。


(まあ、ブッチャケ贅沢な話だぜ)


 ボルドはベラからその話を聞いてそう思った。

 精霊機エレメント乗りは、言ってみれば鉄機兵マキーニよりも弱い、代替え品のような存在である。勿論、普通の戦奴隷よりは強力だが、値段を考えればコストパフォーマンスが高いとは言えず、であれば戦奴隷10人を買うか、普通に傭兵を雇う方が効率は良い。

 ベラも傭兵を雇う方向でも考えてはいるが、自分の周りには自分に逆らわず、好きに動かせる奴隷で固めておきたいと考えてもいるようだった。

 とはいえボルドにしてみれば手が増えるのはありがたい。立ったり歩いたりするだけでフレームや関節部の劣化が起こる鉄機兵マキーニと違い、精霊機エレメントは召喚で呼び出すためにパーツの消耗がない。そのため現在もボルドがひとりでベラたちの鉄機兵マキーニを荷車で運んでいるのだ。交代要員がいれば、ボルドの負担も随分と減ってくるだろう。


 ともあれ、ベラたちは予定通りにベンマーク商会贔屓の宿『エヌカル』へとたどり着いた。その後はボルドに鉄機兵マキーニの見張り番を任せて、ベラとバルは奴隷商の館のある商業区の奥へと向かうことにした。


「しつこく絡んでくるのがいたら腕の二三本なら斬り飛ばして構わないからね」

「承知した」


 道中のそのベラの言葉にバルも迷うことなく言葉を返したが、その心配はほとんど無用だった。

 ベラの容姿は確かに周囲を惹くが、バルに喧嘩を売ろうという者はいなかったのだ。ベラとバルがラーサ族同士というのも絡まれなかった要因の一つだろう。生粋の戦闘民族の身内を目の前で襲うなど、チンピラ程度の実力では正気の沙汰の行為ではない。


 そんな事情もあり、問題なく道を進んでいくベラたちであったが、途中で声をかけてくる一団もあった。


「バル、バル・マスカーじゃないか!」


 頑強な肉体の大男が率いている傭兵たちを制止させてから近付いてきた。どうやら相手の目的はベラではなくバルだったようである。


「知り合いかい?」

「いや……」


 ベラの問いにバルは首を傾げながら、そう答える。記憶から大男の顔を探しているようだがやはり覚えはないようだった。そのバルの反応に大男は笑って口を開いた。


「ああ、俺はあんたのファンだったもんだ。いつぞやは儲けさせてもらったからな」


 つまりは剣闘士としてのバルのファンということなのだろう。その言葉にベラとバルも得心いったというような顔をした。


「アンタも戦争に参加するとはな。まあ実力からすれば当然ではあるが、しかし親子連れか?」


 大男の言葉にベラが「ヒャッ」と笑い、バルがバツの悪い顔をする。正しくは主従の関係であり、ベラが『主』でバルが『従』だ。さすがに自分のファンという男にその関係を知られるのはバルも抵抗があり、特には口には出さなかったしベラも何も言わなかった。


「て、おいおい。奴隷印付きってどういうことだよ?」


 そして大男は気付いた。バルの首筋についた奴隷の紋様を、である。

 元々奴隷印は誰からも見えるようにしておくのが一般的でバルもそうしているので、大男が気付くのは寧ろ遅かったと言って良い。

 また、見えるようにしているのは、その人物が奴隷であることを示すためではあるが、同時に奴隷を護るためでもある。


 奴隷といっても様々な者がいるが共通して言えることは彼らは万民に従う者ではなく、自身を購入した主にのみ従う者なのだ。


 奴隷を傷つける行為は、それは主の所有物を傷つける行為でもある。力ある主の奴隷に手を出せば、それは力ある主の報復を受けることにもなりかねない。

 ましてや使用人程度ならいざ知らず、戦闘奴隷の、それもバルのように明らかに並の傭兵よりも上の装備を着こなしている奴隷は実質的にそこいらの傭兵よりも立場はかなり上の存在であるのだ。

 もっとも奴隷であることには変わりはなく、大男もファンと口にする以上は奴隷に墜ちたバルに思うところがあるのも当然といえば当然でもあった。だが、バルは憤る大男にこう告げる。


「騎士団製の鉄機兵マキーニと引き替えだ。悪い話ではないさ」


 それには大男も「そりゃ随分と買われたんだな」と答えるしかなかった。騎士団製の鉄機兵マキーニの売価はモノにもよるが6000万ゴルディンは下らないと言われている。並の傭兵の稼ぎの2~30年分に相当するが、普通に考えれば、その頃には死んでいるか引退しているかというものだ。


「そんで、あんたは鉄機兵マキーニでもやるのかい?」


 大男がギュッと拳を握って尋ねるとバルも頷いた。


「我が主様には及ばぬが、戦働きではそれなりの活躍を見せよう」


 バルは笑みを浮かべながらそう口にした。いくさの話になると血が高ぶるのだろう。その様子に大男も「なるほどな」と口にして頷いた。どこか満足そうなバルの顔を見て、何かしら感じ取ることがあったのだろう。


「だったら戦場で会えるのを楽しみにしてるさ。あんたの主様ってのにもよろしく言っておいてくれ。そっちの嬢ちゃんもな」

「ああ、分かったよ」


 そう口にする大男にベラはニンマリと笑って答えた。

 バルもベラも大男の勘違いには特には口を挟まなかった。主の娘の護衛にでも出ているのだろうと思わせておいた方が話もスムーズに進むし、よけいな摩擦も起こらないとはどちらも理解している。


 そして大男は、自分の名『オルガ』と自身の傭兵団『狂い牛』の名を告げると仲間と共にその場を去っていった。


「あー、傭兵団の名前か。そういえば考えてなかったね」


 オルガたちの背を見送りながらベラはそう口にした。


「主様は傭兵組合に登録はしてはいるのだろう。つけてはいないのか?」

「自分の名前を入れただけだねえ」


 傭兵組合への登録は通常は傭兵団の代表が登録するものだ。ベラはヤルケの街でいったんは登録済みだが、それは盗賊団の鉄機兵マキーニ乗りの首を穫ったという実績あってのことであった。


「あたしゃ、学がないからね。バル、何か良い名前はないかい?」


 そしてベラはバルにそう投げた。バルとしてはベラに教養がないというのは信じがたい思いがあったが、尋ねられたので口を開いた。


「普通は自分の名前を元にするか、英雄譚や故郷の伝承などにならってつけることが多いようだが。倒した巨獣などを含めることもあるが」

「ビグロベアを名にするのもねえ。何かハッタリの利く強そうな名前は浮かばないのかい?」

 そうバッサリとベラに言われてバルもうなる。


「名前から言ったらベラドンナ……いや」


 ベラから付くのであればまずは例の女王を連想するのはバルとて他の人間と同じだった。だがベラがベラドンナを好いていないのは出会った当初に聞いていた。だからそれを詫びようとして、


「ああ、それはいいね」


 あっさりとベラに了承されたのには、さすがのバルも惚けた顔をした。

「良いのか?」

「あんたが言ったんだろうに」


 呆れたようなベラの言葉にバルが眉をひそめて返す。


「まあ、それはそうだが。女王のことが嫌いではなかったのか?」

「別に負けて死んだババアだからってだけさね。それに、そのベラドンナの名前をあたしが奪っちまえばいいんだろう?」


「は?」


 思わずバルは己の耳を疑った。ベラドンナの名を奪うと口にする幼女をバルは不思議なモノを見るような顔で眺めていた。それをベラは見て笑う。そして「ああ、それだ」と口にした。


「この世界の全員をそうした顔にさせられたら気持ちいいだろうねえ」


 そう呟いたのだった。

次回更新は3月3日(月)0:00。


次回予告:『第20話 幼女、奴隷を増やす』

長く使うものなので、慎重に品を選ばないとなりません。

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