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ロリババアロボ ー 6歳からの楽しい傭兵生活 ー  作者: 紫炎
第二部 九歳児の楽しい戦乱の歩き方

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第196話 少女、侵略を開始する

「というわけでさ。予定通りに全部終えてきたよ。けど、面白いように制圧できてたね。総団長の奴隷のジャダン。あの人が頑張ったおかげで被害も大してなかったよ。まあ、周りの評判は悪いけど」

「まあ、いつものことさね。ご苦労だったサティア。また飛んでもらうからしっかり休んでおきな。ケフィンもね」


 天幕の中、報告を終えたサティアとケフィンが今や主となったベラへと頭を下げる。

 エルフ族のサティアと獣人のケフィン。そのどちらの表情からも疲れが見えていた。何しろふたりはメガハヌの街から竜の墓所へと急ぎ向かってアッダの砦攻略戦に参加した後、再びここまで戻ってきたのだ。サティアが空を飛ぶ風精機シルフィを有しているとはいえ、彼らの行動はあまりにも早く、その負担に疲労も溜まっていた。


「ああ、そうだ。ジャダンも一緒だったはずだけど、アレはどうしてるんだい?」

「アイツなら、すっごく抵抗してたからね」

「総団長に言われた通り、拘束魔術で転がした後に縛って連れてきた。今は死んだように眠っている」


 ジャダンの主人代理を請け負っていたケフィンの言葉にベラが「だろうねえ」とゲラゲラ笑った。そのベラにケフィンが眉をひそめながら話を続ける。


「しかし良かったのか? あの男、能力はともかくとして、タチが悪過ぎる。サティアが運べるのはふたりが限度。俺のついでとはいえ、わざわざ急いで戻さなくとも良かったとも思うが?」


 航空型フライヤー風精機シルフィの輸送能力はそう高くはない。自分も含め陸路で普通に合流しても……とケフィンは考えたがベラは首を横に振った。


「あたしゃ正直ロロナ族をまだ信用できちゃいないからね。どう動くにしても獣人を使うならアンタが必要だケフィン」


 今ベラのもとにいる獣人たちはジルガ族以外にダール将軍から離反したロロナ族がいるが、その理由は獣人特有の竜信仰によるものであった。ベラはそれだけを根拠に信用できるほど、まだロロナ族を見極めてはいない。


「それにジャダンは便利だが、首輪をかけておかないと危なっかしくて仕方がないしねえ。というか、アイツ好きにさせてたら二、三日で殺されるんじゃないかい? 多分、耐えきれなくなった味方にさ」

「なるほど。確かに」


 それから続いたベラの言葉も聞いて、ケフィンも納得したのか頷いた。

 ジャダンは人を殺すことに、人を燃やすことに、人に苦痛を与えることになによりも喜びと感じている狂人だ。対人戦において恐るべき戦闘力を発揮するが、その有り様は周囲に不快感しか感じさせず、預けられたケフィンにしてもどう扱ったらよいのかを測りかねていた。


「ま、呼び止めて悪かったね。まずは休みな。こっちはこれから一戦あるが、ソレが終わればまた頼むこともあるしね」


 その言葉にふたりが再度頷いてから天幕を出ると、ベラはフンッと笑いながら椅子に座り直して目の前の地図を眺めた。そこに描かれているのはムハルド王国の領土だ。ベラがその地図の東部へと視線を向けると、そこにはメガハヌの街から交易都市レオールへ続くベラたちの移動ルートと、竜の墓所からレオールへと続くルートのふたつが記入されていた。状況はベラの予想通り、いやそれ以上に上手く進んでいる。


「よしよし。これで懸念もひとつ消えた。しかし、こいつはツキが回ってきているというよりはドラゴンと獣人、どちらにも相手が慣れていないから優位にやれている……ということなんだろうね。で、どうだい?」


 ベラは左右に控えていたガイガンとパラへとそれぞれ視線を向けてから、目の前の地図を指差して尋ねた。元より従者であるパラだけでなく、カールの父でありカイゼル族の族長代理であったガイガンもこの場にいるのは、今の彼がベラ直属の竜撃隊の隊長であり、パラ同様にベラの従者となったからだ。そして最初に口を開いたのはパラだった。


「ベラ様のおっしゃる通り、今はまだ敵も慣れていないのが功を奏しているのでしょう。であれば優位性を保てていられるうちに動けるだけ動いておきたいところですね」

「まあ、そうですがねえ。ともあれ、アッダの砦を経由してあちら側からもレオール攻略戦の戦力を送れるのは大きい。加えて我らに賛同した北部族とも合流できれば、それだけでレオールに集結する戦力は今の倍は増えましょうな。それに置いてきた鉄機兵マキーニ鉄機獣ガルムを無事回収できたのも僥倖でした」


 パラとガイガンのそれぞれの言葉にベラが頷く。

 奪い取ったアッダの砦は、ジルガ族とカイゼル族の共同攻略によって手に入れたものだ。その作戦指示は航空型フライヤー風精機シルフィに乗ったサティアによって竜の墓所へと届けられ、同じく飛行能力のある槍鱗竜ロックギーガも一緒に向かっていた。

 またその際のロックギーガの背には竜の巫女リリエやケフィン、ジャダンと共にカイゼル族の戦士も何人か乗っていて、彼らはメガハヌの街に来る途中で放棄した機体を回収していたのである。


「どうやら東部軍はあたしらが包囲を抜けたのを察して、すぐに退却したようだ。こっちとしては探索が継続されずに助かった形だけど、思い切りがいい指揮官てのは厄介そうではあるね」

「東部軍を率いているのはザモス将軍という男です。ダール将軍に比べれば凡百な将ではありますが、であればこそそこまで上り詰めた能力は確かなものでしょう」


 ガイガンの忠告にベラが頷く。


「対峙する相手としてはなかなか面白そうだってわけかい。まあこのまま堅牢な竜の墓所に向かうのも悪くないが、中央からは遠い。ここから先は足がかりになるレオールを占拠できるかどうかが肝だからね。もっともその前に……」


 天幕の外からはズシンという鉄機兵マキーニの足音がいくつも聞こえている。であれば準備もそろそろ終わりだろうとベラは考え、立ち上がった。


「雑用をひとつひとつ片付けていこうかい」


 現在ベラたちはメガハヌの街を離れ、アザンタの丘という場所に陣を敷いていた。

 そこはメガハヌの街から交易都市レオールに向かう途中に存在しているドルドリアムの砦の手前であり、これよりベラたちはその砦の攻略を開始しようとしていたのである。




  **********




『ヘイロー大傭兵団、攻めてきました。戦力差大きく、我らだけでは持ちこたえる以上のことは難しかろうと思われます』

「分かっておるわ。しかし、こちらは守れれば良いのだ。東部軍の本隊ももう動いておる。それまで保たせれば良い。悠然と構えよ。悠然とな」


 兵よりの通信にドルドリアムの砦の指揮官は余裕ある声でそう返した。

 昨日の夜にヘイロー大傭兵団が近隣の丘に陣を敷いたことを当然彼らは気付いていた。

 とはいえ砦にある戦力だけで抗することはできず、指揮官である彼が最初に行ったのはレオールにいるムハルド王国東部軍へ早馬を飛ばしたことと籠城の準備であった。

 下手に手を出したところで勝ち目はない。であれば、その場は耐えて東部軍本隊と共にヘイロー大傭兵団を倒すのがドルドリアムの砦を護るは唯一の勝ち筋と指揮官は考えていた。

 そんな状況だ。当然のことながら、彼も本当に余裕があるわけではない。けれどもここから先は持久戦。敵をこの場で抑え、本隊到着まで砦を攻略されることなく保たせる。そのためにも逸ることなく余裕を持って耐え続ける姿勢を彼は部下たちに示さねばならなかった。そのために彼は鉄機兵マキーニにも乗らず、今はまだそのときではないとこうして落ち着いた風を装っているのだ。

 もっともそのすぐ後に起きた状況には、さすがの指揮官の表情からも平静さも消えた。何しろ凄まじい轟音が突如として響き渡ったのだ。それはまるで巨大な岩がぶつかったかのような『門に何かが激突した』音だった。


「な、なんだぁ!?」


 驚きのあまり声が上擦った指揮官の目に、一瞬だけ門から赤い何かが突き出したのが見えた。それはすぐさま門から消えたが、さらにまた激突音が響き渡り、衝撃による振動で城壁の上にいた兵たちが雨あられと落とされていく。


『大変です。巨大な鉄機獣ガルムらしき機体が門へとぶつかっています。それを護るように展開された赤い鉄機兵マキーニを中心とした戦力に我が方は近付けず』


 通信兵からの慌てた報告に、指揮官らの顔色はみるみる蒼白となっていく。

 報告を聞かずとも彼らの目の前で門が歪んでいくのが見えていた。ただ力任せにやられているのではなく、それは恐らく灼熱ヒート化による熱によって脆くなってきているようだった。


『このままでは保ちません。あれは破壊槌タイプの鉄機獣ガルムです!』

「破壊槌だと? そんなもの、聞いたこともないぞ!」


 指揮官が悲鳴のような声を上げたが、もう遅い。

 続けての一撃で門が吹き飛び、外から炎のタテガミを広げた鉄機獣ガルムらしき機体が砦内へと飛び込んできた。それはそのまま近くにいた鉄機兵マキーニの一機を勢いのままに角で貫くと砦の壁まで駆けて激突させ、衝撃により胴の上下を分断させた。無論、中の乗り手が生きているはずもなく、内部で潰されて即死だ。


「チィ、取り囲め。対鉄機兵マキーニ兵装で動きを止めよ!」


 その様子にすぐさま正気を取り戻した指揮官の言葉に、周囲の兵たちが慌てて動き始めた。

 破壊力は確かに凄まじく、その巨体も確かに脅威。しかし、それが人の動かすものであれば、可動部を止め、視界を封じれば対処のしようもある。それが鉄機兵マキーニと生身の人間が相対するための基本的な戦術だ。

 だが、それを行おうと動き出した兵たちが、門の外より放たれた炎の道によってまとめて焼き尽くされていく。


「出過ぎだ、馬鹿が。あたしに尻拭いをさせんじゃあないよ」


 続けて少女の声がその場に響き、門の外から先ほどの鉄機獣ガルムタイプとは違う機体がノシリと姿を現した。


「ドラゴン?」


 目を丸くした指揮官がそう呟いた。伝説にあるドラゴンとしか見えない赤い機体がそこにあったのだ。そして、先ほど入ってきた鉄機獣ガルムと思われた巨大な機体の方も、よく見れば同じドラゴンを模したものだと彼らは気付いた。


『すんません大将。どうにも出力が安定しませんで』

「いいわけはいいんだよ。さっさと機人形態に戻りな。こっから先は特攻ブッコむんじゃなくブン殴る方が早いからね」

「なんだ、アレは!? 機体が変形するだと!」


 そして、彼らの前で二機のドラゴンタイプの機体が人の姿へと変わっていく。さらには門の外から鉄機兵マキーニ獣機兵ビーストを先頭に多くのヘイロー大傭兵団の兵たちもなだれ込み、戦いは一方的なものへと変わり、それから半刻と経たずにドルドリアムの砦は降参に追い込まれることとなったのである。


次回予告:『第197話 少女、遠征する』


 ベラちゃん、華麗に入場を決めましたが一番乗りは取られちゃいましたね。

 このまま目的地までビューンと向かいたいものですが、はてさてどうなることやら。

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