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ロリババアロボ ー 6歳からの楽しい傭兵生活 ー  作者: 紫炎
第二部 九歳児の楽しい戦乱の歩き方

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第192話 少女、ペットを見舞う

 ベラ総団長を中心とした団の編成も速やかに行われ、ヘイロー大傭兵団の次の目的も決定した。そして、ムハルド王国中央軍が完全に撤退したのを確認したのと同時に東部侵攻のための準備に動き出したのである。

 現時点においても、サティアの航空型フライヤー風精機シルフィをジルガ族のいる竜の墓所へと向かわせ、同時にムハルド王国東部軍の動きに関しては鉄機獣ガルム隊を編成して走らせている。

 また、ムハルドを退けたことで兵たちの士気は高く、団内の大部分の人員を占めるラーサ族も己らが故郷を取り戻そうと活気付いていた。

雇いの傭兵団も前回の戦争で白旗を上げた傭兵たちを吸収し、戦奴隷もかき集められ戦力の拡充が進められていく。

 そんな状況の中で、ベラは今やマギノの研究所と化した施設へと赴いていた。

 そこにはベラの『アイアンディーナ』と、生まれ変わった『レオルフ』が収容されている。己の愛機と『レオルフ』とその乗り手であるリンローの安否も今後の戦いを考えればベラには気がかりであったのだ。



「よぉ、ご主人様。総団長が呑気に散歩か?」


 研究所のガレージの中に入ったベラをボルドがそう言って出迎える。他の整備兵は訪れた小さきリーダーを前に怯えた顔で頭を下げていたが、それは力によって成り上がった者に相応しい、ベラにとってはいつも通りの光景でもあった。ゆえにベラも気にせず、ボルトに言葉を返す。


「ハッ、軽口はいいんだよ。ディーナの様子を見に来たのさ。調子はどうだい?」


 対してボルドは奥に鎮座させている『アイアンディーナ』を見ながら「悪くかぁないな」と口にした。


「そっちの『レオルフ』がそばにいるのが嬉しいのか、いつも以上に大人しいもんだぜ。ロックギーガのいる方にも時折顔を向けてるのは気になるがな」


 そのボルドの言葉は比喩ではなく、ベラが搭乗せずとも『アイアンディーナ』は動くのだ。それは独自に活動するハグレ鉄機兵マキーニとも似てはいるが、『アイアンディーナ』はベラに従い、暴れ回ることもない。また、それは横に並べられた『レオルフ』にも似たところがあった。


「ロックギーガもディーナにとっちゃあ子分みたいなもんだからね。街中にはさすがに置き続けるわけにもいかないけど、後で会わせてはおいてやるかね」


 ベラがそう言って、窓の外へと視線を向ける。

 槍鱗竜ロックギーガは現在ベラの向いた方角の、街の外離れに置かれている。

 その周囲には竜の巫女リリエを中心とした獣人の集落が作られ、ケフィンやロロナ族の魔獣たちも共にその場にいるようだった。


「後な。『アイアンディーナ』だが、少し形状が変わったみたいだな」

「へぇ。そりゃ機竜形態に関係することかい?」


 変わったというのには、ベラも心当たりがあった。機竜形態での移動速度が以前よりも上昇していると戦闘中にベラも感じていたのだ。それにボルドが「気付いてたか」と言いながら頷いた。


「変わったのは少しだけどな。変形後の足関節部分の遊びが以前より大きくなってるし、より前傾姿勢に、合わせて尾が太くなってる。恐らくは機竜形態で活動し続けたことで、最適化が進んだんだろう。使い続けりゃまだ機動力は上がるだろうぜ」

「へぇ、そいつは僥倖。あたしのディーナだけはある。それで、あっちの方はまだ修復中かい?」


 ベラがそう口にして視線を向けたのは『レオルフ』だ。装甲部分を外され、右腕は『ドーラン』に切り裂かれた後からまだ戻されていない。もっともそれは放置されているというわけではなく、修復自体は続けられているようだった。


「いきなり無茶させ過ぎたんだ。『アイアンディーナ』以上に機構が普通の鉄機兵マキーニと違うから、混機兵キメラだったか? 今後のことも考えて、ある程度はバラして中を確認しながら直しているところだ。乗り手を見る限り、まーた無茶しやがるだろうしな」


 そうボルドが口にして、肩をすくめる。

 ベラの愛機である『アイアンディーナ』は変形こそするが未だベースは鉄機兵マキーニと判断されているのだが、『レオルフ』は獣機兵ビースト竜機兵ドラグーンの要素が完全に混合した機体、混機兵キメラと名付けられた別種とされていた。


「ま、肝心なところで使えなくなるのも困るしね。徹底的にやっておくれ」

「あいよご主人様」

「しっかし、背中は変わらないか。翼が生えていれば良かったんだけどねえ」


 その理由は無論引っ剥がして自分に移植させるためであったが、『レオルフ』には竜翼ドラゴンウィングは生えてこなかった。


「それっぽい原型が背部にはできてるから将来的には可能性あるけどな。まあマギノの爺さんの話じゃあ、本人の無意識の中に飛びたいって欲求があるかどうかの問題じゃあないかって言ってたけどな」

「そうかい。待ちゃあ、いつかは生えるのかねえ」


 少しだけ期待を込めたベラの問いに、ボルドが「かもしれねえな」と返しつつも空を飛ぶことに興味を持つベラを珍しく感じていた。ここまでベラが個人的な関心を示したのはボルドの知る限り『アイアンディーナ』や金、宝石、それに男の下腹部ぐらいなものであった。


「ご主人様はどうにもお空にご執心のようだな」

「逆になんで他の連中が惹かれないのかが、あたしにゃ分からないね」


 率直にベラがそう返す。

 ある種子供らしいその反応をボルドは微笑ましく感じたが、ベラは気にせず『アイアンディーナ』に乗って自らチェックをし、それが終わると研究所の方に消えていった。




  **********




「総団長自ら、わざわざ見舞いとは嬉しいね」


 そしてベラが向かった先は、研究所内にある一室。

 そこにはベッドに寝ているリンローと検査に来ているマギノがいた。

 

「はん。元気そうじゃあないかリンロー。マギノ、様子はどうなんだい?」

「やあ、ベラちゃん。彼の調子は悪くはないよ。医者にも診察はしてもらってるんだけど、問題はないって言ってたよ」


 それから「まあ、普通の人間だったらだけど」と付け加える。そこにリンローが笑って胸板を叩いて「大丈夫だ」と口にした。


「文字通り生まれ変わった身体だ。怪我だってもう大したことねえし。疲労感だけはまだ抜けねえけどな」

「それは魔力不足だね。回復に魔力の生成が追い付いてないのさ。おそらくだけど、それが結果的に竜心石を変えつつあるようだけど」


 リンローの首に下げられた竜心石をマギノが指差し、ベラが目を細めてソレを注視する。元々手のひらに収まる程度の大きさの竜心石が今では拳大にまで肥大化していた。また赤いその宝玉は、今も脈打つように光が点滅もしている。


「マギノ。もしかしてだけど、これ竜の心臓になりかかってるのかい?」

「ご名答だね。魔力生成も確認ができてる」


 ベラの言葉に、マギノがそう口にして頷く。


「ベラちゃんも知っている通り、獣機兵ビーストは獣血剤を投与した乗り手の変質を鉄機兵マキーニに逆流させることで魔獣の因子を機体にも与えて変質させたものだ。で、竜機兵ドラグーンは強心器という魔法具を用いて竜心石の中にある竜の因子を引き出し、乗り手と鉄機兵マキーニに竜の因子を与えて変質させている。つまり乗り手経由で魔獣の因子を送るか、竜心石経由で竜の因子を引き出すかという違いが獣機兵ビースト竜機兵ドラグーンにはあるわけだけど」


 それからマギノがリンローの竜心石を大きな目でギロリと見ながら話を続ける。


「リンロー君の場合は、獣機兵ビーストへの変異と同じ方式で竜の因子を送り込んだ。竜の血に獣血剤と同じ処理を行い、竜心石を通して『レオルフ』に竜の力を加えたんだ。そうすることでリンロー君の肉体をドラゴンの再生力で修復し、竜心石自体を活性化させずに『レオルフ』を竜機兵ドラグーンに近い形態にもできたわけだけど……それでも影響がないわけじゃなかったようだね」

「再生ついでにこんな身体になっちまったけどな。元が魔獣に近かったんだから今更だけどよ」


 そう言ってリンローが笑う。今のリンローは獅子と竜を併せ持つ姿をしていた。


「それは仕方がない。そうしなければ君は死んでいたからね。それに活性化を防げたとはいえ、竜心石への影響は少なからずあったようだ。ベラちゃんの『アイアンディーナ』の竜心石は安定しているんだけどね」


 その言葉にベラが自分の首に下げている竜心石を見た。他の竜心石に比べ、赤の色が濃く、淡い輝きも以前より増してはいるが、それでも大きさは変わらない。リンローの竜心石のような変化は起こっていなかった。


「君の場合はその肉体の維持に自己の魔力生成だけでは足りず、竜の心臓化しつつあるその竜心石も必要としているようだからね。場合によっては竜機兵ドラグーン同様に機体に取り込まれる可能性もあるよ」

「あん。そりゃあ、どういうことだよ?」


 眉をひそめるリンローに、マギノが「そうだねえ」と口にする。


「正気を失った半獣人は獣機兵ビーストに取り込まれるのは君たちもよく知っている通りだけどさ。竜機兵ドラグーンは乗り手と竜心石が一体化するんだ。最終的には機体に取り込まれてドラゴンに変異するんだ。成功例は少ないけど、君の場合は可能性があると思う。実際、ロックギーガもそうだったらしいよ。ねえ、ベラちゃん?」

「おい、それマジかよ?」


 リンローが驚きの顔でベラを見ると、ベラは頷き「ああ、そうさ」と返す。


「ロックギーガはさらに別の巨獣も融合してるんだけどね。ドラゴンの身の方は槍使いの鉄機兵マキーニとその乗り手の成れの果てだ。ロックギーガが爪を槍のように使えるのもその名残だろうね」

「冗談じゃあねえんだな」

「こんなつまんない嘘なんざつかないよ」


 ベラが真顔でそう口にすると、リンローは少しだけ顔を伏せ、それから拳を握りしめて「そうかよ」と言いながらゆっくりと顔を上げた。


「けど……それでもよ。俺は、そうなっても戦えるのであれば」


 そう口にしたリンローの表情には、恐れも迷いもなかった。元より狂い死ぬ未来しかなかったのがリンローたち半獣人だ。たとえ姿が変わろうとも仲間と共に戦えるのであれば……とリンローは心の中で結論付け、それからその場で笑みを浮かべて「それはそれで悪かぁねえや」と返したのである。

次回予告:『第193話 少女、侵略を開始する』


ベラちゃんはお空を飛びたいようです。

彼女に翼をプレゼントしてくれる素敵な男性はどこかにいないものでしょうか?


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