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ロリババアロボ ー 6歳からの楽しい傭兵生活 ー  作者: 紫炎
第二部 九歳児の楽しい戦乱の歩き方

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第190話 少女、ペットを褒めない

「おやおや、ボロボロだねえ。リベンジ戦だったんだろう? ダチへの土産にしちゃあショぼくないかい?」

『生きてりゃ、土産も増やせまさぁ。こっちに比べてそちらは快勝だったようで。つーか、そっちの形態の方が気にいってんですかい?』


 装甲がひしゃげ、腕は切り落とされ、それでもどうにか動いている『レオルフ』に乗ったリンローと、機竜形態の『アイアンディーナ』に乗ったベラがそう言葉を交わした。

 戦闘終了後、ムハルド王国中央軍が過ぎ去った後にベラたちが辿り着いた先は戦場の中央であった。そして、その場にいたのはギリギリで持ちこたえていた『レオルフ』たち獣機兵ビースト部隊だ。彼らはムハルド王国中央軍が撤退するまでこの場で戦い続けていた。


操者の座コクピットの中は狭いからねえ。こっちの方が空気を肌で感じるし、まあ気持ちは楽だね」

『俺の機竜形態は外に操者の座コクピット出ねえから、あんま変わんねえっすけどね。つか、ダール将軍逃がしました。すんません』


 そのリンローの言葉の通り、ダール将軍はすでに去った後だ。

 もっともベラの見る限りダール将軍を倒すどころか、ほぼ完敗。『レオルフ』が保ったことこそが奇跡に近い状況のようであった。実際ベラたちの介入で戦いの状況に変わりがなければリンローは倒されていただろう。それほどのわずかな差でリンローは生存を勝ち取っていた。


『申し訳ありません団長。ダール将軍、取り逃がしました』


 そして、オルガンが続けてその場で報告と謝罪を行う。

 それからオルガンの続けての報告に寄れば、リンローの『レオルフ』は本気を出した『ドーラン』と対峙して、トドメを刺される直前でダール将軍は退き揚げたのだという。無論、情けをかけられたわけではなく、ベラたちの進撃により、それ以上の戦闘継続は不可能と判断しての行動だったのだろうとオルガンは付け加えた。


『俺がもう少し押さえてりゃあ……あっちもギリギリだったぽいのによぉ』

「そのギリギリを見定めるのが上手い男なんだろうさ。けど、本気を出したってのは気になるねえ。あたしと殺り合ったときにはそんなもん出してこなかったハズだけどね」

『周囲の魔力を強制的に奪って一時的に出力を上げる。そういうギミックのようでした』

『けど、オーバーフロー起こしたのか途中で動きが鈍ったな。それに団長が近付いたのに気付いて退いたって感じだったぜ』


 オルガンとリンローの言葉にベラが『へぇ』と声を漏らし、それから「噛み合いは良さそうだねえ」と口にして少しだけ笑った。『アイアンディーナ』に内蔵されている、自ら魔力を生み出す『竜の心臓』があれば相手の出力にも対抗ができるし、魔力濃度の薄さも短期的であれば問題にはならない。次にダール将軍と対峙したとき、あるいはそれが勝敗の有無を分けるかもしれないとベラは考えた。


『とはいえ、ダールの野郎も想像以上にお硬いお前が予想外だったんだろうよ。アレと仲間なだけはあるな』

『うへぇ。けど、同族の気配が感じるのは妙なもんだな』


 オルガンにそう返すリンローの『レオルフ』に槍鱗竜ロックギーガが近付き、頬擦りを始めた。どうやらリンローと『レオルフ』に同族意識を感じているようであった。

 それから続けてカールたちもその場に合流し、彼らは互いの勝利を讃えあい始めた。前回のムハルドの唐突な撤退とは違い、今回は彼らにとっても実感あるモノだった。ベラ・ヘイローという頭が機能し得た勝利に、彼らは自分の未来が明るいものとなるだろうと感じていた。

 一方でムハルド王国中央軍の陣営は、当然ながら出撃前とは打って変わっての重苦しい空気に包まれながらの撤退となっていた。そこには勝者と敗者の明確な差が存在し、特に自陣に戻ったダール将軍にもたらされた報告は彼ほどの武人であっても絶句せざるを得ないものだった。




  *********




「これがゼニス……か」


 うめき声を上げながらダール将軍が回収されたソレを見て、ワナワナと唇を震わせていた。

 そこにあったのは、かつて己の副官を務めたゼニスの成れの果て、ただの肉の塊だ。

 操者の座コクピットの真上にある頭部が陥没し、それが乗り手を圧殺するのは鉄機兵マキーニ乗りとしては珍しくもない死に様だ。そこにある肉塊も、兵たちが潰れた鉄機兵マキーニの中から拾い集めて回収したものであった。

 つい朝方まで、己を支えてくれていたものの無残な姿を前に、ダール将軍の心の内では様々な感情が嵐のように渦巻いていた。


「報告に戻った後続部隊を除いて、ゼニス様が率いていた部隊は壊滅しておりました。ゼニス様は最後の力を振り絞り、後続にドラゴンとカイゼル族の鉄機兵マキーニの情報を託して……自身は最後まで」


 報告の兵が沈痛そうな顔でそう報告をする。

 その言葉を聞きながら、ダール将軍は己がどこで間違えたのかを必死で思い起こそうとしていた。

 ダール将軍とて、カイゼル族の存在をまったく想定していなかったわけではない。だからこそ過剰とも言える戦力をゼニスに託したのだ。

 だが、ベラ・ヘイローという規格外の存在と、ドラゴンという巨獣を超えた化け物がすべてを狂わせた。

 それにドラゴンの実在の報告は確かに必要ではあったが、ゼニスの言葉がダール将軍に伝わる前にベラ・ヘイローは戦場に自らをさらけ出してドラゴンを派手に見せつけた。その時点で後続部隊の情報の価値も大きく薄れていた。何もかもが彼の想定を上回っていた。


「無駄死にか、ゼニス。まさか共にここまでやられるとはな。決して甘く見たわけではない……が、今再度挑むことは無駄死にを増やすだけか」


 今回の戦場での損害に加え、副官と50を超える鉄機兵マキーニの戦力を失い、さらにはダール将軍の鉄機兵マキーニ『ドーラン』も現在は動かない。

 鉄機兵マキーニ『ドーラン』に装着されている暴食のトライプオブ胃袋グラトニーと呼ばれるギミックは周辺の魔力を吸い上げて鉄機兵マキーニに強力な出力を持たせ、同時に魔力を吸い尽くすことで周囲の鉄機兵マキーニの動きを鈍らせる能力を持っている。けれども一定時間を超えれば内部機構が焼き切れてロクに動かなくなるというデメリットもあった。ダール将軍はそれを理解したうえでリンローに対して使用していたが、結果は肝心の標的を仕留めきれずに近付くベラ・ヘイローに尻尾を見せて逃げ出した。


「無様。全く以って無様だ。アレを使っても殺し切れぬ硬さか。今回は完敗だな」

「いいえ、まだやれます将軍。今回は手痛くやられたとはいえ、実質的な戦力は均衡を保っております。であれば」


 そう返す兵の言葉に「駄目だ」とダール将軍が口にして首を横に振る。


「確かに兵の数はまだ互角だろう。だがドラゴンがいる。最悪でも火吐きの巨獣用の装備もなければ無駄に損害を増やすだけだ」

「確かにそうですが……ですが、このまま逃げたのでは死した者たちに、ゼニス様にどう申し開きすれば……」


 口惜しいという顔の兵に対し、ダール将軍は苦々しい顔で口を開く。


「今回は下がる。そして東部の連中に伝えてやろう。我々の敗退をな」

「ですが、それでは……やつらにヘイロー大傭兵団を」

「ああ、狙うだろうな。その間に私は一度王都に戻る。そこで待とう。東部軍の敗北を」

「!?」

「私はたかだか反乱軍のひとつも落とせぬ間抜けと笑われるだろう。ドラゴンなど言い訳としてしか伝わらんだろう。構うものか。東部軍も落ちれば、笑っていたやつらも気付く。それまでの間、私は準備を整えておけば良いだけのこと」


 その言葉に驚く兵の前で、ダール将軍が怒りで歪んだ顔で、血走った目をして笑う。


「東部を生贄に危機感を煽り、軍を纏め上げ、そしてあの鬼子を殺す。ベラ・ヘイロー、あれは危険だ。生かしておけば、確実に我らの喉笛を食い破る怪物だ。確実に殺さねば、ムハルドに未来はない。そしてローウェン帝国にも連絡を入れてやろう。やつらはベラドンナ傭兵団のドラゴンを探し続けていたはずだからな」

「それは……帝国には多くの借りがあります。無理な要求を、連中を倒す機会を奪われるやもしれませんが」

「ふん。あの子供もどきを殺せるなら安いものだろう」


 そう言いながらダール将軍が、メガハヌの街を睨みつけた。そこにいるであろう敵を脳裏に焼き付けながら、呪詛のように言葉を綴った。


「今は退く。お前の勝ちだベラ・ヘイロー。だが次は、次こそは殺す。必ず殺してやる。そのときを待っていろ!」


 その翌日、ムハルド王国中央軍はメガハヌの街前より撤退し、ヘイロー大傭兵団の勝利が確定する。そして、それはムハルド王国東部を巡る新たなる戦いの幕開けともなるのであった。

次回予告:『第191話 少女、ペットを見舞う』


ボロボロだったので褒めませんでした。

そしてベラちゃんへのおもてなしに失敗したダールのおじちゃんは傷心のまま、おうちに帰るみたい。

今回は残念な結果でしたけれども、次はもっと盛大なおもてなしで出迎えて欲しいものですね。

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