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ロリババアロボ ー 6歳からの楽しい傭兵生活 ー  作者: 紫炎
第二部 九歳児の楽しい戦乱の歩き方

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第187話 少女、走り続ける

『ゼニスからの報告はまだないのか?』

『はい、将軍。未だゼニス副官からの連絡はございません』


 ムハルド王国中央軍とヘイロー大傭兵団。早朝より共に進軍を開始した両陣営が激突を迎えようという直前のダール将軍の問いに、連絡兵の応答は先ほどと変わらぬままだった。

 ダール将軍は、たったひとりを相手取るために鉄機兵マキーニ鉄機獣ガルムの部隊計八十機をゼニスに付けて送り出したのだ。或いは伏兵が潜んでいるかもしれぬと考えての過剰戦力。そこまで用意したのだから万が一にもゼニスが失敗するとはダール将軍も考えていなかったのだが、けれども彼の胸騒ぎは止まらなかった。


『ならば吉報を待つしかなかろうな』


 今のダール将軍にはゼニスの状況を確かめるすべはない。何より部下の身を案じ続けていられる状況でもなかった。目前にヘイロー大傭兵団の軍勢が迫っているのだ。故にゼニスのことを頭から切り離し、目の前の敵に集中しようと正面を睨みつけた。


『先ほど大傭兵団などと名乗っていたようだが……それにしても連中、やたら士気が高いな』


 こうして対峙しているだけで、ダール将軍にも以前との違いがはっきりと分かった。

 カイゼル族の部隊と獣機兵ビースト部隊の動きが大きく変わっていた。先の戦いでは互いを牽制しあいながら、それぞれが干渉せぬように動いていた彼らが今は一個の軍隊として機能しているようにダール将軍には見えていた。


『アレが戻ってきただけで、こうも変わるものなのか。であれば、ゼニスを向かわせたのは間違いではなかったな』


 ダール将軍は知らない。彼らの纏まりの理由は、カイゼル族の裏切り者を餌にベラがそれぞれの立場の調整を行った結果であることを。現在の獣機兵ビースト部隊は、ただ治療という餌につられて動いているだけの存在ではなく、一方でカイゼル族も裏切りを出した失点を取り戻すためにと意気込んで動いている。


『ともあれ、対峙すれば連中も現実が見えてくるだろうさ。さあ、行くぞ! ムハルドの精鋭たちよ!』


 ダール将軍が声を張り上げて剣を振るい、それにォォオオオと声を上げながら彼の左右に並んでいた軍勢が動き出した。

 騎士型鉄機兵マキーニと歩兵とで編成された戦闘部隊や、機動力を生かした対鉄機兵マキーニ兵装を有した騎兵隊、鉄機獣ガルム軽装甲ライト鉄機兵マキーニを中心とした機動部隊、さらに左右の端には傭兵部隊が並んで突き進み、それはヘイロー大傭兵団も似たような編成であり、やがては軍と軍とが激突していく。

 それに併せて、ダール将軍の鉄機兵マキーニ『ドーラン』も足を進めていく。鉄機兵マキーニ乗りの指揮官は己が武勇を示すためにも前線に出ることが多いし、実際魂力プラーナを吸収し、成長した指揮官クラスの鉄機兵マキーニは戦力としても大きい。ダール将軍の『ドーラン』も例に漏れず強力な機体だが、今回はベラに敗退したという事実を塗りつぶすためにも彼自身の実績が必要とされていた。


『ダール将軍だ!』

『アレを倒せば大手柄だぞ!』


 そして『ドーラン』に気付いたヘイロー大傭兵団の機体が近付いてくる。それらは獣のフォルムをしている獣機兵ビースト部隊のものだ。


『ぶつけてきたのはカールの部隊ではなく、獣機兵ビースト部隊か。私も甘く見られたものだ』


 そう言いながら、ダール将軍は迫る獣機兵ビーストたちへと一歩を踏み込み、大きさの違うふた振りの剣で二機を同時に斬り裂いた。

 その両脇は配下の鉄機兵マキーニたちが並び立つ。その圧力と『ドーラン』の斬撃を前に獣機兵ビースト部隊が後込みするのを睨みつけながら、ダール将軍が口を開く。


『ハッ、どれだけ鼻息を荒くしようと腕の差はいかんともしがたかろうよ。それは軍の数と質にも言えることだがな』


 前回の戦いで退いたとはいえ、総戦力はムハルドに分があり、消耗もヘイロー大傭兵団の方が大きい。幾度となくぶつかり合えば、傾いた均衡がさらに一方に寄るのは当然のこと。ダール将軍の言葉はそうした事情を踏まえた事実であった。


『退くな! 打ち倒せぇえ!』


 もっとも、ダール将軍がさらに一歩を踏み出した直後に声が響き渡り、状況は再び一変する。一度は後ずさった獣機兵ビースト部隊の気勢が戻り一斉に突撃を再開したのだ。そして、その声のした方へと視線を向けたダール将軍の眼に映ったのは普通の鉄機兵マキーニよりも一回りくらい大きい、5メートルはあろうオーガタイプの獣機兵ビーストであった。


『オーガの獣機兵ビースト、オルガンか』


 オーガの因子を受けた獣機兵ビースト『ゼッツァー』。その機体を駆るオルガンが、オーガタイプの部隊と共にスパイククラブを振るいながら戦場を突き抜けてきたのだ。もっとも前回オルガンと並んで挑んできた獅子型の獣機兵ビーストはその近くにはいないようだった。


『やはり、あの獣の獣機兵ビーストは復帰できなかったか。であれば』


 ダール将軍の言葉と共に『ドーラン』が動き出す。

 獣機兵ビースト部隊の支柱はふたつ。カイゼル族に比べて結束力の低い獣機兵ビースト部隊の中心を打ち倒すことこそ、勝利への最短であるとダール将軍は確信していた。一柱はすでに沈んだのだ。であればと、ダール将軍は狙いを定めた。


『オルガンと言ったか。どうやら相棒は死んだようだな』


 その挑発に言葉を返さず、オルガンの『ゼッツァー』がダール将軍の『ドーラン』へと飛びかかる。それを将軍の配下たちは止めない。敢えてオルガンに道を譲り、一騎打ちの舞台を用意する。体躯も出力もオルガンの獣機兵ビーストの方が大きい。一撃が決まれば、ダール将軍の『ドーラン』とて沈められるはずではあったが……


『当たらなければ良いのだ。こういうのはな』


 一歩踏み込んでスパイククラブを避けた『ドーラン』が剣を振るい、『ゼッツァー』の胸部装甲の隙間を狙って斬り付ける。


『ぬ?』


 激突により激しく火花が散るが、剣はその切っ先を内部にまで通さず弾かれた。


『でやぁああああ!』


 その次の瞬間にスパイククラブを手放した『ゼッツァー』が拳を振るい、それを『ドーラン』はとっさに右腕の甲で受けながら後ろに跳ぶ。衝撃が内部のダール将軍本体にまで浸透するが、それで操作を誤るほどダール将軍も甘くはない。


『馬鹿力め。それに内部にもう一枚、仕込んでいるな』

『チッ、アンタらみたいにわずかな間を狙う連中も多いんでな。用心に入れておいたのさ』


 オルガンが舌打ちしながらそう返す。

 オルガンの乗る『ゼッツァー』は機体が大型で、他の機体よりも隙間のある胸部装甲の内側にもう一枚の装甲版を追加していたのだ。もっともそれは付け焼き刃に過ぎず、オルガンの目の前には今の攻撃によって隙間風が入る程度の穴が空いていた。


『けど、俺の腕じゃあやはりアンタにゃ届かないか』

『お前たちの団長であるベラ・ヘイローならまだしもな。だが、アレは何をトチ狂ったか、単独で我が軍に攻めてきた。今頃は我が配下が仕留めているところだろう』


 そう返したダール将軍の言葉に、オルガンが『ハハ』と笑う。


『団長が? では誘い出しには成功したということか』

『なんだと?』

『まあこっちも成功したんだがな』


 その言葉にダール将軍が目を細め、それから固まっていたオーガタイプの獣機兵ビースト部隊が左右に避けるように動き始めたことに気付いた。その先、彼らが取り囲むようにしていた中心にいた『ソレ』の存在にも。


『な、なんだ、それは?』


 その姿にはさしものダール将軍も驚きを隠せない。そこにいたのは鉄機獣ガルムにも似た、四本足の、先ほどのベラの乗っていたという機械のドラゴンに酷似した機体だった。

 かなり大型だが、巨体であるオーガタイプの機体に囲まれていたことと、四つ足であったために高さはなく、今の今までその姿は隠されていたのだ。


『よぉ、ダール。今日は仕返しに来てやったぜ』


 そして、謎の機体より響く声に、ダール将軍がソレに誰が乗っているのかを知る。


『まさか……リンローか? 生きて……いや、それにその機体は?』

『へっ、あのままおっ死ぬところだったんだけどよぉ。うちの団長に言われちまったんだよ』


 機械のドラゴンの中から死んだと思っていた男の声が聞こえてくる。また、そのドラゴンに似た機体は、獣機兵ビースト『レオルフ』とも形状は近かったが、全体的に獣から爬虫類に近いフォルムに変わっていた。そして、その機体の中で、リンローがダール将軍に向かって笑いながら言葉を返した。


『死んだダチに持ってく土産話はもっと豪勢に盛ってやれってな』

次回予告:『第188話 少女、ペットを褒める』


ベラちゃん、頑張って走ってます。

姿は見えませんが、頑張り屋さんのベラちゃんは頑張って走っているのです。

みんなで応援してあげましょうね。

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