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ロリババアロボ ー 6歳からの楽しい傭兵生活 ー  作者: 紫炎
第二部 九歳児の楽しい戦乱の歩き方

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第186話 少女、燃やす

 ベラが掛け声をかけるまでもなく、カイゼル族の鉄機兵マキーニが一斉に退いていく。次に何が起こるのかを彼らは知っていた。『アイアンディーナ』の右肩の装甲が開き、中から赤い水晶が出ているのに彼らは気付いていた。

 その赤い水晶、『竜の心臓』と呼ばれているものは、元々ドラゴンのコアであったものだ。空を流れる魔力の川ナーガラインより魔力を得て動いている鉄機兵マキーニに更なる力をもたらす『竜の心臓』は活性化し、右腕の先にある竜頭へと竜気と呼ばれる変異魔力を送っていた。そして、そのエネルギーはあぎとの内部で炎へと変換され、それは牙と牙の間より漏れ始めていた。だから、次に何が起こるのかなどカイゼル族には一目瞭然であった。もっとも、それは経験則によるモノであって対峙していたムハルドの戦士たちに分かるものでは当然ない。

 そして、上空より降下してくる槍鱗竜ロックギーガが大きく口を開き、鉄機兵マキーニ『アイアンディーナ』の右腕の竜頭もあぎとを広げ、双方から同時に紅蓮の炎が吐き出された。


『クソッ、下がれ。散れぇ!』


 それを見た指揮官らしき男の指示は適切ではあった。

 しかし分かってからではもう遅いのだ。カイゼル族の鉄機兵マキーニの奇襲によって一カ所に留められていたムハルドの鉄機兵マキーニたちは一斉に放たれた二方向からの炎の波に飲み込まれる。


『燃え、燃えてるぞ。嘘だろう!?』

『ィヤダァアアア』


 悲壮な声を上げて胸部ハッチから飛び出て、炎の中を転げ回る兵の姿があった。そのまま静かに倒れる鉄機兵マキーニがあった。

 爆破型ボマー火精機ザラマスなどといった一部の鉄機兵マキーニ精霊機エレメントなどには耐火防壁が存在しているが、通常の鉄機兵マキーニの胸部ハッチは炎に耐え得る構造にはなっていない。故にブレスの熱は操者の座コクピットの中にまで入り込み、乗り手を次々と焼き殺していく。

 火達磨となって転げ回る鉄機兵マキーニたちを前にして、ガイガンが思わず『こりゃあ、酷えな』と呟いたのが通信越しにベラの耳にも届いたが、実際ベラの目にもそれはひどい光景として映っていた。まさしく地獄絵図と呼ぶに相応しいものだと感じていた。


『ヒャッヒャ。ま、さすがに相手も無能じゃあないようだねえ』


 もっとも、細められた少女の瞳の中にあるのは哀れみではない。死にゆく者や、死んだ者への憐憫の情も宿してはいない。ただ、口から漏れる笑いに反して、ベラはただ状況を冷静に見据えていた。


『片付けられたのは半分ってとこかい。まあ残りも戦力としては落ちてるだろうけどねぇ。ガイガン、後続が来る前に全部潰しちまうよ!』

『承知! お前たち、手心など加えるなよ。ムハルドのクソ共を殲滅しろ!!』


 ベラに指示されたガイガンが己の鉄機兵マキーニ『ダーティズム』を操作し、配下と共にムハルド王国軍の掃討を開始していく。数の上ではまだムハルドの方が上ではあったが、ブレスのダメージは隊全体に及んでいる。もはや十全に戦闘を行える機体などムハルド側にはなく、戦いは一方的な展開になっていた。


『馬鹿な。こんな瞬く間に我々が殺られるだと? そんなことはあり得ん。後続が来れば立て直せる。持ち堪えよ、ムハルドの勇者たちよ』

『オォォオオオオオオオオオッ』


 対して、ブレスから逃れていたムハルドの指揮官が吠え、残りの鉄機兵マキーニたちが声を張り上げて返事をする。

 その間にもカイゼル族は攻撃に入り、さらには『アイアンディーナ』や地上に降り立った槍鱗竜ロックギーガも動き出していた。




  **********




『鱗が剣を弾く。しかもこいつの動きは何だ?』

『人間のように槍を使うのか!? ギャアアアアア』

『鱗が飛ばされて刺さった!?』


 ドラゴンと対峙したムハルドの鉄機兵マキーニからの悲鳴が、この場の指揮官であるゼニスの耳に入ってくる。

 カイゼル族だけでも厄介だというのに、彼らを襲うドラゴンの力は異常であった。己らの武器は通らず、相手は獣であるにもかかわらず槍のように長い爪を使って人の技のような槍さばきを見せてくる。

 全長15メートル。尾などの長さを除けば足先から頭部まで10メートルほどのそのドラゴンは、巨獣として見た場合でも相当に大きく、通常の鉄機兵マキーニの倍以上の高さはあった。それは人と鉄機兵マキーニほどの差に等しい。

 そんな化け物が両腕から伸びた槍爪で次々とムハルドの鉄機兵マキーニを貫いているのだからたまったものではないだろう。対峙している鉄機兵マキーニ乗りたちは生きた心地はしなかっただろうし、実際対峙した彼らの命はすぐに尽きた。

 離れようとしても炎を吐かれ、背後に回ろうとすれば、尾によって弾かれる。全身は硬い鱗に覆われ、その槍のように変質化した鱗を射出もする。まともに対峙するのが馬鹿馬鹿しいほどに、凶悪な相手であった。


『どうしろっていうんだ。こんな化け物!?』

鉄機兵マキーニで勝てる相手じゃないぞ!』


 カイゼル族の鉄機兵マキーニの攻撃を打ち払いながら、ゼニスはそんな部下たちの声に苦い顔をする。

 彼が率いていた二十機は、今や七機にまで減っていた。奇襲による攻撃によって戦力を半減以下にさせられた事実はあれど、実際に正面から戦ったとしてもゼニスにはあのドラゴンを、ベラたちを打ち崩せるとは思えなかった。


(せめて対鉄機兵マキーニ兵装を、対巨獣兵装も用意せねば勝ち目はないか)


 戦況を見れば勝敗はすでに決しているに等しかった。故にゼニスは考える。どうすれば良かったのかと。

 ゼニスが見る限り、あのドラゴンは確かに強いが絶対に倒せない相手ではないように思えた。イシュタリア大陸の人間は古くより巨獣と対峙してきた。対鉄機兵マキーニ兵装も対巨獣兵装を改良したものだし、たとえ巨大な相手であろうとも倒すすべはあるのだ。


(だが、それはこんな足場の悪い森の中では不可能だ。カイゼルの鉄機兵マキーニ共も引き剥がして、しかし、それはどれだけの兵力を割けば……いや、できなくはないのだ。適切に対処さえできれば、間違いなく勝てるはずだ)


 彼の配下の一撃がドラゴンの鱗をすり抜け、傷をつけて血を流れさせていたのが見えていた。刃が効かぬ相手ではない。今の己では無理でも、決して殺せぬ相手ではないのだ。


『私では無理でも、この事実を将軍に知らせねば……私が』


 もはやゼニスは己の命もこの場の配下の命もなきものと考えていた。この包囲を抜けて逃げ出すことは不可能だ。軽装甲ライト鉄機兵マキーニ鉄機獣ガルムもいないのだから、確実に追いつかれる。だが、ゼニスは絶望していない。手段はもうまもなく届くはずだと彼は知っていた。


『来たか!』


 そして彼の鉄機兵マキーニの水晶眼が森の木々の先より近付く後続部隊の姿を捉えた。




  **********




『終いかい』


 次の瞬間、ムハルドの指揮官の鉄機兵マキーニの頭部に『アイアンディーナ』の振り下ろしたウォーハンマーが叩きつけられる。頭部は操者の座コクピットへとめり込み、内部で圧殺された搭乗者の血が隙間から流れ落ちてきた。それからベラは『アイアンディーナ』の水晶眼をムハルドの陣地がある方角へと向ける。森の奥の木々の間に、何機もの鉄機兵マキーニが並んでいるのが見えていたのだ。


『後続部隊でしょうな。近付いてはこないようですが、こちらから向かいますか?』


 その場の掃討を完了したガイガンからの問いに、ベラは『いいや』と言葉を返す。味方が殲滅させられるというのに彼らが動く気配がない。それよりも、わずかにだが後退の姿勢に入っているのも見えていた。


『どうもりあう気はないようだ。こいつがなんか伝えたっぽいね。あたしらの様子を観察している気配がある』


 ベラが眼を細めて、たった今破壊した指揮官の機体へと視線を向ける。何を伝えたのかは分からないが、しかしベラが攻撃を仕掛けたときに相手が防御に入るのが遅れていた。戦い以外の何かに意識を向けていたように感じられたのだ。


『まあ、戦果は上々だ。アレはとりあえず放っておきな。来たらればいい。それよりも』


 そう言いながら、ベラは今頃戦場になっているであろうメガハヌの街の方角へと視線を向けた。またロックギーガも何かを感じて、首を持ち上げてギュルルとうなり声を上げていた。

 どちらも感じているのだ。もうひとつの同族の気配を。


『あっちはあっちで楽しそうになってそうだしねえ。さっさと参加しないと間に合わなくなりそうさ』


 そう言ってベラは笑うと、カイゼル族やロックギーガ、さらには周囲に隠れていた獣人たちや魔獣を率いてその場を後にしたのであった。

次回予告:『第187話 少女、ペットを褒める』


ベラちゃん、ペットのお披露目に大成功!

それじゃあ続いてもっと人が集まっているところで自慢しましょうね。

みんな、きっとビックリすると思いますよ!

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