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ロリババアロボ ー 6歳からの楽しい傭兵生活 ー  作者: 紫炎
第二部 九歳児の楽しい戦乱の歩き方

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第182話 少女、決める

「それで? なんだか随分と辛気臭いツラが並んでいるねえ。何かあったのかい?」


 足を組んで座っているベラがそう言って場にいる顔を見回した。全員が何とも言えない顔をしているが、その中でリンロー獣機兵ビースト部隊の副官であるジャイロが立ち上がって口を開いた。


「ベラ団長。リンロー隊長は、どうなったんですかい!?」


 彼らにはリンローは治療中との報告しかいっていない。心配であるのだろうジャイロの言葉にベラは「今はぐっすり眠ってるよ」と返す。そして、その返答にジャイロが眉をひそめた。


「ですが、悲鳴が響いてるって聞いてるんですが。レオルフも奇妙な変形を繰り返してるって報告ありましたし?」

「だぁかぁら、言ったろう。『今は』ぐっすり眠ってるって。レオルフももうすっかり静かなもんさ。あ……いや、普通に寝ているだけだよ。別にぽっくり逝っちまったって例えじゃあない」


 話している途中で顔を青ざめ始めたジャイロの勘違いを、ベラが笑いながら正す。どうやらジャイロはリンローがすでに死んだのではと考え始めていたようだった。その様子にベラはやれやれと肩をすくめる。


「マギノには話を通しておくから、後で会いにいって見りゃあいいさ。実際オルガンも、だからようやく安心してグースカ眠っちまってここにいないわけでね。まあ、どっちも目が覚めりゃあピンピンしてるんじゃあないかい?」


 その言葉にジャイロが安堵し、オルガンの副官であるビードも頷いた。それからベラが再度周囲を見渡して再度尋ねる。


「でだ。この空気の悪さはなんだい? あたしゃ、戦いの話をしに来たんだ。ムハルドとの殺し合いの話をね。だけど、闘争の空気じゃあないね。あたしゃあ、思春期の餓鬼の相談事を受けに来たわけじゃあないんだが……カール、どういうことなのか説明をしてくれないかい?」


 ベラの視線を受けてバツの悪そうな顔をしたカールが席を立ち、ジャイロとビードが睨みつける。傭兵団長も同じというほどでもないが、あまり好意的ではないという顔をしてカールを見た。


「承知した。その前にベラ団長。我が父とカイゼル族を救ってくれたことに感謝する。この命、ここよりすべてをあなたに預ける所存だ」

「ふん。ガイガンはなかなか使える男だったからね。行った甲斐はあったさ。ロックギーガにも会えたしね」

「え、そうなんすか?」


 思わず出た言葉に、ベラが後ろにいるジャダンをギロッと睨みつける。その射殺すような視線に思わずジャダンが後ずさる。


「この場で奴隷の発言の権限はないねえ。躾を受けるかい?」


 ベラの言葉に、出過ぎたと気付いたとジャダンがヒヒヒと誤魔化し笑いを見せながら口を閉じた。代わってパラがベラに尋ねる。


「ロックギーガ……ヴォルフが護っていたドラゴンですが、戦力となるのですかベラ様?」


 その問いに周囲が騒めく。この場でロックギーガのことを知っているのは、サティアの報告を受け取っていたパラとカールのみであった。また、ヴォルフの死についてもすでに聞かされていたパラはその質問に自ら表情を曇らせる。


「問題はないさ。まあ到着は明日って話だが、この二年のフラストレーションが溜まってるからねえ。大暴れしてくれそうさね」


 その言葉にォォオオオという声が上がる。

 ロックギーガの名は知らずとも、ヘイロー傭兵団の前身であるベラドンナ傭兵団がドラゴンを使役していたこと自体は有名な話だ。そのドラゴンが現実に存在し戦線に加わるのだとなれば、彼らの士気が上がるのも当然であった。ともあれ、それはこの場においては余剰な話だ。

 ベラが手をあげて静まれとの意志を見せると、再び静まった部屋の中でカールがゆっくりと口を開いた。


「我が配下で、この街を任せていた戦士ゾルンがムハルド側に寝返っていた。北門と南門、双方を護っていた兵を殺し、門を内部から開けて手引きしようとしていたのが確認取れた。今はゾルンの直属の配下の生き残りを捕らえ、尋問を行っているところだ」

「それって……ああ、アレかい。あのときの」


 カールの言葉を聞いて、ベラはその場の空気の意味を理解した。


「あたしが街に降りて早々に見かけた、あんの不景気そうな顔していたアイツかい。カール、あんたんところの連中を殺してたからぶっ潰しちまったんだが……問題はなかったんだよねえ?」


 ベラにしてみれば、それはすでに終わったことだった。だから今の今まで忘れていたのだ。それから眉をひそめながらベラが尋ねると、カールが頭を垂れて肯定する。


「ベラ団長がゾルンを誅し、また北と南の双方から攻めてきたムハルドの侵入部隊をも殲滅してくれたからこそ事なきを得た。あのままの状況が進めば、最悪の事態が訪れていた。そして、それらすべては部下の裏切りに気付けなかった俺の不甲斐なさ故だ」


 その言葉にカールの部下たちがなんとも言えない顔をして、獣機兵ビースト部隊の副官たちが苛立ちの混じった顔でカールを睨みつける。無論カールがゾルンの裏切りを知っていたと彼らも思っているわけではないが、現状でカイゼル族よりも低い地位にある獣機兵ビースト部隊としては、このミスを捨て置けるわけもなかった。それから双方の様子を見たベラが口を開く。


「であれば、獣機兵ビースト部隊がカールに指揮を預けられないという空気になるのも致し方ないかねえ」


 ベラの言葉にジャイロとビードが頷き、カールの配下たちが苦い顔をする。


「もっとも、だからと言ってここでカールを罰するつもりもないけどね。今、内部をゴタゴタさせるのは面倒だし、部下の不始末といってもこの場合は微妙だしねえ」


 その言葉にジャイロとビードの眉間にしわが寄せられるが、続けてのベラの言葉を聞いて表情が変わる。


「もっとも代わりではないけどね。ダール将軍を足止めし、前回の戦いでムハルドを退却させる一因を担ったリンローを副団長へと置こうとは考えている。リンローはまだすぐには動けないからオルガンを代理とするがね」


 ベラのその決定にこの場にいる全員がざわめいた。


「もともと寄せ集めでそれぞれの部隊は個別で運用していたわけだが、ここで組織の方も形にしておく。カールとリンローをそれぞれ副団長とし、獣機兵ビースト部隊をカイゼル部隊と対等のモノとして扱う」

「それは……」


 カールの部下のひとりが声を上げるが、ベラに睨まれて言葉を詰まらせる。


「止せ、アインツ。ベラ団長、その命令承った。俺が言うことじゃあないが、現状のままでは確かに行き詰まっていた。ここまでの経緯もある。俺では獣機兵ビースト部隊を従えることはできない」


 そのカールの言葉の通り、カールの部隊と獣機兵ビースト部隊の間の空気は如何ともしがたく、両者を繋いでいたベラが離れていたことに加え、各地の獣機兵ビースト部隊が揃い戦力も拡充され、ゾルンの件が発生したことで亀裂はさらに広がりつつあった。それを回避するためにも、ベラの選択を受け入れるしかないのはこの場の誰もが理解していたのである。


「そして、ヘイロー傭兵団もヘイロー大傭兵団と呼称を変える。まあ、デカくなったしね」

「へ? 大傭兵団? このままムハルドを攻め込むなら、国取りじゃあねえんで? 傭兵団のままでいいんですかい?」


 首を傾げるジャイロの問いにベラが笑う。

 元々のこの遠征の目的は、ラハール領の防衛だ。だが、ベラがそれで終わらせるつもりがないことは誰の目にも明らかであった。北のラーサ族をまとめ上げ、ムハルド王国に反旗を翻して国を割り、そのまま喰らい尽くす。そのビジョンをこの場にいる誰もが頭に思い浮かべていた。それからベラが口を開く。


「いいのさ。あたしが造るのは傭兵国家だ。だから、あたしが従えるのは傭兵団だ」

「傭兵国家……それはクィーン・ベラドンナのモーリアンと同じ?」


 眉をひそめたカールの問いにベラが頷いた。


「かつてクィーン・ベラドンナが造った傭兵国家は、結局自身がおっ死んだことで二十年と経たずにそのていを失い失敗した。だが、あたしが造る国は違う。まだ若いしねえ。少なくとも倍は続くだろうさ」


 そう言ってベラが静かに、その場にいる者たちを見た。


「この身に流れる血はラーサ族の、戦いの一族のものだ。部族として各国に傭兵に出向き、シノギを稼いできたあたしらを中心とするならば、モーリアンのような腑抜けにはならないさ。どこの誰よりも上手く、戦うために存在する国家を成せるだろう。あたしらみたいな戦いしか能のない連中が生きるための場が生み出せるってぇわけだ」


 その言葉は、カールたちや、ジャイロたち、それにその場にいる傭兵団の団長にも甘美な響きであった。その反応に満足そうに頷きながら、ベラは言葉を重ねていく。


「だから、あたしはまずはムハルドを奪う。次は腑抜けたあのババアの遺産であるモーリアン傭兵国家を喰らい、ローウェンのジーンのドタマに『今度こそ』ウォーハンマーを叩きつけてやるのさ!」


 そう口にしたベラの口上はまったく予定していないものではない。内扮の最中にある傭兵国家モーリアンを奪おうという算段は元よりベラにあった。パラに指示を出して得ていた情報を基に予定を修正し、方向性を定めた結果として今の宣言があった。

 しかし、その中に無意識のうちに付け加えられた言葉が、まるで欠けていた歯車が収まったようにベラには感じられた。それは今の充足した生き方を得る前の、かつての己が苛立ちのままに探していたものだった。そして『潰すべき頭』を見つけたと感じたベラの肉食獣の笑みを前にその場の全員が息を飲んだ。一瞬ではあるが、彼らは皆一様にその場に老婆の姿を見たと……そう感じたのであった。

次回予告:『第183話 少女、攻める』


ベラちゃんが人の頭をかち割りたくなる、ちょっとだけ変わった癖があることをみなさま覚えておいででしょうか。どうやらベラちゃんはこれまで見つからなかった、本当に自分がかち割りたい頭をようやく見つけたようですよ。良かったね。ベラちゃん!

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