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ロリババアロボ ー 6歳からの楽しい傭兵生活 ー  作者: 紫炎
第二部 九歳児の楽しい戦乱の歩き方

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第179話 少女、起きる

(ここは……?)


 ベラが目を開けると、そこはどこかの部屋の中だった。

 部屋の内装には覚えがなく、そもそもベラの最後の記憶は『アイアンディーナ』の操者の座コクピットの中であった。己の記憶にないのであれば、誰かが自分をここまで運んだことになる。問題はそれを行ったのが敵か味方かということだが、その懸念はすぐに解消された。


「目を覚まされましたかベラ様?」


 部屋の中には彼女の従者であるパラの姿があった。最悪敵陣の中という可能性も頭に浮かんだベラだったが、考え過ぎであった。


「ああ、パラかい。どうやらあたしゃ、戦闘中に寝ちまったようだね。情けないねえ」


 ベラがしみじみとそう言うとパラが苦笑する。

 パラが聞いた話では、ベラは機竜形態の『アイアンディーナ』による単独飛行でメガハヌの街へとやってきて、ムハルド王国中央軍の都市侵入部隊を壊滅し、その後に傭兵たちを率いて戦場を突破してダール将軍と戦い退けたとのことだった。元々ラーサ族という身体能力に恵まれた種族であるうえに、今は竜の血を受けた竜人という特別な存在となったベラだが、それでも9歳の子供だ。疲労で倒れて当然であった。


「御身はまだ成長の過程であるのですから致し方ないことでしょう。ともあれ、ベラ様が参戦されたことにより、ダール将軍も退き、昨日の戦いには勝利することができました」

「そうかい。ムハルドの連中は、あのまま退いたんだね。となるとここはメガハヌか」

「はい。メガハヌにある屋敷の一室です。今は戦闘の翌日で……ちょうど昼を回ったところですね。ムハルドからの再度の襲撃もなく、現在は敵陣営を監視しつつ次の衝突に備えているところです」


 その言葉にベラが目を細め、それから少し考え事をしながら口を開いた。


「一日か。となるとガイガンたちはまだ到着はしていないね?」

「はい。先ほど確認に向かわせたサティアが戻ってきましたが、あちらからの返答は早くて明日の朝に……とのことだったそうです。道はあるので夜通しで進んでいくと」


 パラの報告はおおよそベラの想定した通りのものだ。だからベラはその言葉に頷きながら「なるほどね」と返す。


「順調と言えば順調かい。けど敵の動向が分かり辛いね。結局ムハルドが退いた理由はなんだったんだい?」


 敵が撤退した理由はドラゴン発見の報告により増援ありと判断したダール将軍の早とちりであったが、その事実を知らないベラにとって彼らの行動は不可解であった。もっともパラも相手の事情を知っているはずもなく首を横に振る。


「現時点では不明です。どうやら何かを警戒していたようだとの報告はありますが……サティアに確認させましたが、増援もないようですので、一旦引いて戦力を増強するつもりだというわけでもないようです」


 サティアの航空型フライヤー風精機シルフィの有用度は、こういう場面で生きてくる。

 空を飛べるということのアドヴァンテージは直接的な戦闘よりも偵察や連絡などにおいてこそ真価を発揮するものだ。そのことに頷きながらもベラは考える。


(まあ、東部軍もあたしらを今は探してるはずだしすぐには動けないはずさね。にしても、そうした偵察をサティアだけにさせ続けるのも無理がある。ケフィンを早いとこ使えるようにしておかないと)


 魔獣使いテイマーならばマドル鳥などに憑依することで、航空型フライヤー風精機シルフィと同等の効果が得られるし、実際に団にヴォルフがいたときにはマドル鳥とローアダンウルフでの偵察は非常に役立っていたのだ。また獣人のジルガ族がそのまま戦力として加われば、そうした偵察部隊を編成することも可能になる。

 基本的に獣人は軍隊に正式に加わることは少なく、一族や魔獣使い テイマー個人が雇いとして使われる程度ではあるのだが、今のベラはソレを己の軍勢に加えられる立ち位置にいる。

 であれば……と思いながらベラが窓の外を見ると、何羽かの鳥が街の上空を飛んでいる姿が見えた。その動きを見ながら、ベラが眉をひそめる。何かしらの自然ではない意図をその鳥の軌跡に感じたのだ。


「……マドル鳥か。あの動きは妙だね」

「ベラ様?」


 ベラの視線を追ったパラも鳥の姿を確認し、目を細めて観察する。数は二。それはまるで街中を俯瞰して観察しているようにも見え、確かに妙な引っかかりをパラも感じた。


魔獣使いテイマーですか?」

「さてね。街中で射るのはお行儀が良いとは言えないが、アレは打ち落としておいた方がいいね。ま、勘違いだったとしても飯のタネが増えるんだ。文句はないだろう?」

「分かりました。それではそのように」


 その言葉にベラが頷く。

 それからベラはベッドから降りると化粧を自らに施した後、パラに着替えを命じた。信頼できる女性の従者も今は居らぬために、それはパラの役割となっていたのだ。続けてパラの用意した宝石箱が運ばれ、ベラはその中にある指輪、ネックレス、サークレット、ピアスなど宝石を散りばめられた装飾品を次々と身に付けていく。それら大量の装飾品をジャラジャラと鳴らしながら、ベラは満足そうな顔でパラに視線を向ける。


「やっぱり、これがあると落ち着くねえ。中々のものじゃあないか」

「は、この街の商人たちから献上品も貰い受けましたので。残りは魔導輸送車マナキャリアへと運んであります」


 パラノの言葉にベラは満足そうな顔で笑う。

 金銀財宝の収集はベラにとってライフワークのようなものだった。

 また、そうしたベラの嗜好は意図的に広められてもおり、街の有力者たちからも献上品として財宝の類が集まってきてもいた。それは法的な整備がされていれば賄賂とも言えるものだが、今はベラたちが法そのものであり、ベラが受け取る分には問題にもならない。


「それじゃあたしはちとディーナとマギノのところに寄ってくる。パラは、その間にカールたちを招集しておいておくれ。次がいつ来るか分からないからね。動けるときに動いておきたい」

「承知いたしました。それではジャダン、ベラ様をご案内しろ」


 そのパラの言葉に外にいたらしいリザードマンのジャダンが「ヒヒヒ」と笑いながら、扉を開けて中に入ってきた。


「遅いお目覚めのようで」

「そっちはいつも通りで何よりだ。どうやら、怪我もしていないようだね」

「あっしらはベラ様の大切な所有物ですからね。ソレを大事に護っているのも奴隷の務めだとのことで、待機させられていたんでさぁ」


 不満そうに言うジャダンの言葉を聞いたベラが後ろにいるパラを見ると、案の定の嫌そうな顔をしていた。パラが暴走しそうなジャダンを押さえつけていたのだろうということは想像に難くなく、またジャダンの不満の顔からしてこちらの方の不満も相当なものだろうとベラは察した。


「ジャダン。次は問題なく戦わせてやるさ。だからそこら辺のをつまみ食いはするんじゃないよ」

「ヒヒヒ、分かりました。楽しみっすねえ」


 ジャダンのチロチロとした舌がわずかに揺れる。それからベラはマントを羽織ると部屋を出ていった。そしてジャダンに案内されて通路を歩きながら窓の外へと眼をやり、街の様子や周辺の兵たちも観察していく。その様子にジャダンが「どうっすかね?」と尋ねるとベラが「ハッ」と鼻で笑った。


「どいつもこいつも随分と疲れてるようだ。もう一日は経ってるってのにね」

「続けて三度の襲撃っすからねえ。まあ、疲れてんのはあちらさんも同じなんでしょうが」


 ジャダンがそう口にした通り、襲撃を行ったムハルド王国中央軍も同じく疲労しているはずだった。もっともだからといって兵としての練度の差を考えれば油断もできない。またベラが気になったのは、兵たちの疲労だけではない。


「それに獣機兵ビーストとカールの部隊はやはりまだ馬が合わないのかい?」


 ベラがいたときにはまとまりを見せていたヘイロー傭兵団が今は二分されているような状況だ。その問いにジャダンは頷きながらチロリと舌を出して笑う。


「まあ、そこはご主人様が戻ってきたなら解決したも同然でしょうよ。リンローの旦那を救ったご主人様の登場は半獣人ハーフ連中の間でも評判のようっすから」


 その言葉にベラは「ああ、そうかい」とだけ返す。

 それが評判に『なった』のか評判に『した』のかは分からないが、そうした話題は士気高揚にも繋がるし、ベラも己の軍勢を動かしやすくなる。もっとも根本の問題を変えねば同様の状況が繰り返される可能性は高いのだからこれも対策が必要な案件ではあるし、またリンローの名前が出たことでベラの目は一層鋭くなった。

 今向かっているのはマギノが研究室として借り切った屋敷の一角だ。そこにリンローがいるはずなのだが、今のリンローが決して楽観視できない状況であることもすでに聞いていた。

 ジャダンもベラが何を考えているかに気付いたようで、なんとも言えない顔をすると、ベラの方が目を細めて尋ねた。


「それで、あんたのその顔から察するに、どうにも良くない状態のようだねえ?」

「へぇ。ご主人様のときとはまた違うんで、なんとも言い難いんですがねえ。リンローの旦那は……」


 それからジャダンが真面目な顔で口を開く。


「このままだと死にますな」

次回予告:『第180話 少女、あげる』


みんなからいっぱいプレゼントを貰えて、ベラちゃんもご満悦。

けれどもペットのリンローの具合が良くないみたい。

少し心配ですし、お見舞いに行ってあげましょうか。

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