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ロリババアロボ ー 6歳からの楽しい傭兵生活 ー  作者: 紫炎
第二部 九歳児の楽しい戦乱の歩き方

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第175話 少女、頑張って走る

 戦いは続いてゆく。

 メガハヌの街の前で行われているヘイロー傭兵団とムハルド王国中央軍の戦いは激化の一途をたどっていた。そして、勢いは確実にムハルド王国軍にあった。元々練度に差がある上に、街の内部に敵がいると知らされたことでヘイロー傭兵団の中に動揺が広がりつつあったのだ。街の中からいつ己の背に敵の刃を向けられるかと、彼らは気が気ではなく、前からも後ろからも警戒せねばならなくなっていた。


『カール様、獣機兵ビースト部隊がダール将軍と接触。リンローとオルガンが交戦状態です』


 そして戦場の空を飛び回る航空型フライヤー風精機シルフィから通信が入る。その精霊機エレメントを操るサティアからの報告を聞きながら、カールが舌打ちする。


『だろうな。こっちは囮で本命は獣機兵ビースト部隊の切り崩しか。さすがに見てやがる。しかし、見事にハマってこちらはこちらで動けないが』


 迫る槍を左右の腕にそれぞれ持った盾で弾いたカールが、一気に鉄機兵マキーニを懐に潜り込ませようとしたが、それは他の鉄機兵マキーニたちによって止められた。

 また同時に周囲から糸と呼ばれる白い玉が放たれ、カールが鉄機兵マキーニ『ムスタッシュ』の盾で受けると、接触した場所から拡散して蜘蛛の糸のように盾にへばりついた。それは関節などに絡まれば、鉄機兵マキーニの行動を著しく制限する道具であった。


『汚ねえなあ。そんなん受けるかよ、馬鹿が!』


 対鉄機兵マキーニ兵装を所持した部隊が、カールを攻撃していた。そこにカールの歩兵部隊が慌てて弓矢を仕掛けるが、その攻撃はムハルド王国の鉄機兵マキーニが前に出て弾かれてしまう。敵の確かな連携にも練度の高さを見たカールが眉をひそめる。


『ダール将軍め。自分の部隊を俺に当てて、自分だけで行きやがるとは念の入れようだな。おい』

『裏切り者カール。貴様は将軍に変わって我らが仕留める!』

『お前ら程度に俺がやれるかよ』


 カールが返し言葉で盾を目の前の鉄機兵マキーニにぶつけるが退け反らせる程度ですぐに持ち直した。ダール将軍配下の鉄機兵マキーニたちもカールほどの腕ではないものの相当な乗り手であったのだ。

 それに彼らの目的はカールをその場に留めることだ。無論、倒せるならば倒そうとするだろうが、容易に踏み込まず、決して無理をしない戦いにカールも苛立ちを露わにしている。


(不味いな。街の方がどうなっているのかも分からん。このままリンローたちがやられた上に街も奪われては立て直すのは難しいぞ)


 カールの焦りは募っていく。

 何故、敵が街に侵入したのかも分からないのだ。

 今も偵察部隊を街に送り込んではいるが、かといって本当に敵がいたとしても戦力をそちらに避ける余裕はない。一度街に退避し、門を閉じた上で内部の敵を掃討しようとも考えたが、獣機兵ビースト部隊が敵に取り憑かれて動けない。今下がれば彼らを置き去りにしかねない。

 また、このまま部隊の支柱であるリンローとオルガンがダール将軍に倒されれば彼らの部隊が崩壊する可能性は高かった。獣機兵ビースト乗りの半獣人たちは、以前までカールたちとは睨み合い監視し合う関係であったし、今も関係が良好とは言えないのだ。

 今彼らをつなぎ止めているのは、実際に半獣人の発狂を防ぐ方法を示したことと、リンローとオルガンという精神的な支柱がいてこそのものだ。だが、増援を送ろうにも回せる兵自体がいないのだ。


(八方塞がりか。本当によく見ている)


 ダール将軍が二度のぶつかり合いで、カールたちの戦力や関係性を看破した上でこうした行動に出たのであろうことは想像に難くない。

 であれば、そんな相手に対して己はどう行動するか。そうカールが思案しながら戦っているときに、突然味方の広域通信型リエゾン風精機シルフィからリンロー傭兵団全隊に向けての通信が入ってきた。その内容に上空を舞うサティアが驚きの声を上げる。


『え。これって? ちょっと、カール様。今の連絡って』

『ああ、今の報告が事実なら……だったら』


 先ほどまでとは打って変わってカールの顔に笑みが宿る。届いた声はカールにとってまさしく救いの言葉であった。




  **********




 気配が変わった。そう、ダール将軍は察した。

 つい今し方、ヘイロー傭兵団全隊が何かしらの通信を受け取ったようなのは動きで読みとれた。そして、それを聞いて敵の勢いに火が付いたのもダール将軍は肌で感じとっていた。


『クック、あんのクソ団長。今頃来やがったかよ。オセエよ』

『敵の網を潜り抜けてきたんだろう。むしろよく辿り着いたと見るべきだろうが……大丈夫かリンロー?』


 目の前の獣機兵ビーストたちもまた、先ほどよりも力が溢れているようであった。

 そもそも獣機兵ビースト鉄機兵マキーニとは違い、乗り手との連動性が強い機体だ。弱気になれば性能も落ちるし、テンションが上がれば予想外の力も発揮する。


『ふぅ。無駄骨となったかな』


 敵の様子を見ながらダール将軍がぼやく。

 ダール将軍はここまで彼らの心を折る戦い方を展開していた。もはやすべなしと、希望はないのだと知らしめるが如く戦いを演じていた。敢えて彼らのリーダーたちをなぶり、力の差を見せつけることで彼らの意気を削ろうと考えていた。けれども、それは無駄に終わったようだった。

 息を吹き返した相手を見て、ダール将軍は溜め息をついてからオルガンとリンローに問いかける。


『それで、どういうことだ? 何やら活力が戻ってきたようだが、何か楽しいことでもあったか?』

『ああ、あったさ。お前らが街の中に送った部隊な。アレ、全滅したわ』


 リンローがあっさりと告げた言葉に、ダール将軍は少なからずの衝撃を受けた。その場にいる他のムハルドの兵たちにとっては尚更であろう。先ほどの信号弾は紛れもなく彼らの戦力が街の中に入ったことを示すもの。けれども、敵はそれを為したムハルドの部隊が全滅したと言ったのだ。


『フザケたことを抜かすなよ』

『そうしたデマを流さねば、保たぬのだろう』

『哀れな獣どもめ。知恵が足りぬわ』


 リンローの言葉を、己らを騙そうとしているのだろうと感じたムハルド兵たちの声がその場に響いたが、対してリンローたちに動揺の色はない。


『リンローだったな。いまわの際の言葉がそうした偽りで終わって良いのか?』


 また、ダール将軍もリンローたちの言葉を真に受けてはいなかった。

 戦力から考えればヘイロー傭兵団に、街の中にすぐに余剰戦力を送ることはできないはずだし、仮に後詰めの兵を街の中に配置していようとも、到底侵入したムハルドの部隊をすぐに倒せるとは思えなかった。だが、それでも彼らの見せている強気な態度がダール将軍の警戒心を強めていく。ただハッタリをかましているだけにしては、彼らの気配は変わり過ぎていたのだ。


『結構だ。俺が死のうと、どうとでもなるくらいの相手がもうすぐ来るのさ!』


 そう言ってリンローの獣機兵ビースト『レオルフ』が一歩を踏み出した。

 攻撃型であるリンローの獣機兵ビーストはオルガンの機体に比べて攻撃を喰らいやすく、すでに機体はズダボロであった。またリンロー自身も戦う前から相当な傷を負っていて、今や乗り手も機体も満身創痍であった。


『待てリンロー。助けがくるんだ。お前がむざむざ死ぬことは』

『わりいなオルガン。もう身体の方が限界なのさ』


 リンローの言葉にオルガンの顔が歪む。止められぬと悟った。もはや、リンローがここを己の死地にするつもりなのだとオルガンにも分かったのだ。


『ああ、分かった。後は任せろ』

『頼むぜ相棒。そんじゃ、先行くわ』


 そう口にしたリンローの機体から一気に魂力プラーナが吹き出し、そのフォルムをより獣のものに変えていく。すべてを出し尽くし、燃やし尽くすという意志がそこにはあった。


『死地を見出したか。戦士としてそれは望外の喜びなのであろうが……その牙、私に届くと思うか? たかだか獣の牙がこのムハルドの剣を越えられると思うか!』

『なーに、その結果を地獄のみやげに持ってくだけでもる価値はあるさ。ああ、そうだよなザイス!』


 リンローがそう叫ぶ。

 ザイス。その名を知っている者はこの場にはいない。それは最初に人喰いの衝動に駆られたリンローが犠牲にしてしまった親友の名だ。もう命の時間は長くはないと悟ったリンローは友の名を呼びながら、ダール将軍へと向かっていく。それは獣機兵ビーストというよりは巨獣に近い動きであった。


『もはや、ただのけだものか。だがその意気や良し。ムハルド王国中央軍、将軍ダール・ジオーグ・ナハーラ。この双剣を以てお相手いたそう!』


 そして、リンローの獣機兵ビースト『レオルフ』が咆哮し飛びかかり、ダール将軍の鉄機兵マキーニ『ドーラン』の握るふたつの刃が振るわれ、ぶつかり合う金属音と共にその場に火花が散った。

次回予告:『第176話 少女、割り込みをする』


おやおや、割り込み間に合いませんでしたね。

まだ現場に姿は見えませんが、ベラちゃん一生懸命走ってるみたいです。

さあ、みんなも応援して上げましょうね。

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