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ロリババアロボ ー 6歳からの楽しい傭兵生活 ー  作者: 紫炎
第二部 九歳児の楽しい戦乱の歩き方

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第174話 少女、ゴミを片付ける

『ふぅ、うちのモンに手ぇ出してんじゃあないよ。誰だか知んないけどね』


 ベラがそう言って、ウォーハンマーにこびり付いた肉片を振るい落とすと一息つけた。

 それからすぐに爆裂ボルトを作動させて『アイアンディーナ』の背中から竜翼ドラゴンウィングを外して地面に落とす。すでに使用できる状態ではないソレは、今の『アイアンディーナ』にとってはデッドウェイトでしかなかった。

 それからガキンと『アイアンディーナ』が肩を鳴らしながら周囲を見渡し、ムハルド王国の紋章を付けた鉄機兵マキーニたちとそれらの周囲に並ぶ歩兵たちを水晶眼で睨みつけた。


『で、ムハルドの兵隊さんかい? どうやら今中に入ってきたばかり……と。ギリギリ間に合ったようだけど、それにしてもカールも何をやってるんだろうねえ。こんな簡単に門なんて開けられちゃってね』


 少し怒りの混じった声でそんなことを呟きながら、ベラは『アイアインディーナ』を一歩進ませてウォーハンマーを握り締めた。

 一方でムハルド王国の兵たちは今、目の前で起きている状況に混乱し、どう動くかべきかの判断に迷っているようだった。

 何しろ唐突に空から下りたドラゴン擬きの鉄機兵マキーニが、着地と同時に街の中の協力者を殺し尽くしたのだ。もっともどうであれ、この場の状況を見ればそれは敵なのだろうとは彼らも理解はできている。


『ええい。全員構えろ。たかだか一機の鉄機兵マキーニだ。取り囲んで仕留めてしまえ!』


 それから指揮官らしい鉄機兵マキーニからすぐさま指示が飛ぶと、ムハルド王国軍は『アイアンディーナ』に対して取り囲むように動き出した。

 それを見ながらベラはさらに一息ついた。その顔からは汗がすでに垂れ落ちている。ガイガン率いるカイゼル族と槍鱗竜ロックギーガを置いての単独は彼女の体力を大きく削っていたが、今のベラは笑みを浮かべている。ここに至るまでのフラストレーションを発散する相手が目の前にいるのだ。その瞳は肉食獣のソレとなっていた。


『ああ、ふぅ……まぁ、ちと動きが遅いが、せっかく急いできたんだ。楽しませてくれるんだろう……ねっ!』


 そう言ってベラが『竜の心臓』を起動させながら、フットペダルを強く踏んで『アイアンディーナ』も駆け出させた。


『不用意に近付きおって』

『俺が受け止める。その間に一気に叩け!』


 そこに盾持ちの鉄機兵マキーニが二機前に出たが、ベラは気にせず『アイアンディーナ』を踏み込ませた。石畳の道が割れ、『アイアンディーナ』が一気に振り被る。


『ブッ潰れなぁあ!』


 その次の瞬間、右肩部より露出した『竜の心臓』から竜腕ドラゴンアームへと膨大な『竜気』が流れると、通常の鉄機兵マキーニではあり得ぬ出力でウォーハンマーが走った。


『ゴッ、馬鹿な!?』


 乗り手が驚きの声を上げるが、ウォーハンマーは止まらない。それは前に出された盾を破壊し、鉄機兵マキーニのフレームをひしゃげさせ、中の操者の座コクピットと共に乗り手をも潰すと、そのまま横に並んだ鉄機兵マキーニも巻き込んで吹き飛ばした。

 その常識外れのパワーにムハルドの兵たちが驚くが、その間にもさらに踏み込んだベラが、周辺の歩兵たちを向かって、右腕に付いた竜頭からのブレスを放って燃やしていく。

 炎の海がその場にできて、その中でまるで踊り狂うように兵たちが暴れて死んでいく。彼らは対鉄機兵マキーニ兵装装備の兵たちだ。ある意味では鉄機兵マキーニよりも厄介な相手だ。だからこそ、ベラは優先して彼らを始末する。彼らの攻撃を喰らうことは機動力を武器とするベラにとっては非常に危険な相手であった。


『おっと、一旦打ち止めかい?』


 ベラがそう言っている間にも、露出していた『竜の心臓』が輝きを失い。肩部へと再度収納されていく。こうなると竜腕ドラゴンアームのパワーも落ち、炎のブレスの出力も激減するが、だからといってそれはベラにとって致命的なものではない。


『ま、こっからはあたしの腕の見せ所だね』


 流れ出る汗を拭いながらそう口にしたベラがフットペダルを踏んで敵の中へと踏み込んでいく。最初のインパクトから立ち直れていない敵は、それに対応できない。流れるようにウォーハンマーで叩きつけられ、左腕の仕込み杭打機スティンガーで盾ごと貫かれ、竜尾ドラゴンテイルで転ばせられて歩兵を巻き込んだところをショートソードで突き刺さされ、瞬く間に数を減らしていく。それはベラの普段の戦いに比べても性急なものではあったが、ここに来るまでの疲労により早々にケリを付けねば保たないという事情もあった。


『なんというヤツ!? この技量、赤い機体。間違いない。こいつは、あのハシド王子を殺した、あの』

『ヒャッハァアア!』


 メガハヌの街潜入の任されたムハルド王国軍の司令官は、目の前の敵の正体に気付いた直後に操者の座コクピットへと錨投擲機アンカーショットが突き刺さって絶命した。そして、周囲は静まり返り、北門前で動いている存在は『アイアンディーナ』のみとなっていた。


『ふぅっ……』


 そして、操者の座コクピットにもたれ掛かったベラが大きく息を吐く。機体はまったくの無傷ではあるが、ベラはここまで『アイアンディーナ』を飛ばし続けたことで相当に消耗していた。


『少々、無茶したかねえ。まあ、クールダウンするにゃあこれぐらいがちょうどいいが』


 ベラは己の頬を伝う汗を再度拭いながら、操者の座コクピットに添え付けてある水筒から水を口に含んだ。それから街の西へと視線を向けると苦く笑う。


『さて、存外に苦戦しているようじゃあないか。仕方ない。ちとしんどいけどね。少し尻を叩きに行ってやるかい』


 それからベラは『アイアンディーナ』の足を両軍が激突し合っている戦場へと向けさせる。

 鉄と鉄とがぶつかり合う戦いの音は今もまだ続いていた。

次回予告:『第175話 少女、割り込みをする』


あら、ベラちゃん。お掃除、随分と早く片付きましたね。

いつもより……そうですね、例えるなら1000文字くらい

短い時間で終わった気がします。次はもっと頑張りましょうね。

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