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ロリババアロボ ー 6歳からの楽しい傭兵生活 ー  作者: 紫炎
第二部 九歳児の楽しい戦乱の歩き方

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第173話 少女、ダイブする

『今度は朝から来やがるか』

『まあ早朝攻めはよくある手だからな』


 ムハルド王国中央軍の三度目の襲撃を前にして、そう言い合っているのは獣機兵ビースト部隊を率いている獅子半獣人のリンローと鬼半獣人のオルガンであった。

 リンローは獅子の姿を模した獣機兵ビーストに、オルガンはオーガの姿を模した獣機兵ビーストにそれぞれ乗って、配下の獣機兵ビーストたちと進軍している。

 基本的に獣機兵ビースト部隊は魔獣の種類ごとに編成が行われており、斥候部隊はゴブリンタイプ、機動戦闘部隊はコボルトタイプ、重装甲部隊はオーガタイプなどという風に分けられていた。

 もっとも獣血剤に使用される魔獣の種類がある程度固定されたのは、獣機兵ビースト部隊が導入されしばらくしてからのことであり、リンローがそうであるように初期においてはサーベルライオンなどといった珍しいタイプの魔獣がベースにされることもあった。なお、オルガンも初期型ではあるのだが、正式採用に至ったオーガタイプであったために精神状態は他に比べれば安定しているようだった。


『ハッ、傷に染み渡るなぁ』


 そして、移動をしながらのリンローの呟きにオルガンが眉をひそめる。


『血か。飲み過ぎるのもどうかとは思うぞ』

『言うなよ。この後の戦いのための景気付けさ。これが俺の中に人間を取り込むってことなんだろう?』

『そういう話だが……逆だと思っていたんだがな』


 獣機兵ビースト乗りの半獣人は『人の血を得る』ことで、人の因子を取り込み、獣に近付くのを防いでいるというのがマギノの説明だ。人間を食らうという行為を考えれば、そこそが獣に近付くものだとリンローたちは認識していたのだが、実際には逆なのだ。

 確かに人食いに忌避感を持たない傾向にある者たちが生き残り、そうではない者たちの方が早く狂っていったが、それは精神の弱さから来るものだろうと彼らは考えていた。


『より罪を犯した者が生き残り、人であろうとした者が獣と化すか。皮肉が過ぎる』

『言うなよ。飲み辛くなる』


 そう言葉にしたリンローが口に含んでいるのは、途中の街で仕入れた奴隷の血だ。

 血さえ手に入れば殺す必要はなく、彼らは食事用の奴隷を購入することで、定期的に血液を入手するようにしていた。血を奪われる奴隷は言ってみれば家畜にも等しい扱いではあるが、良好な健康状態を維持させるために食事を十分に取らされることもあり、待遇においての不満は少ないようだった。


『まあ、いずれは飲まずに済むこともあるかもしれん。慣れたくはないな』

『そうだな。団長が天下を取りゃあ、マギノの爺さんがもっとちゃんとした治療だって考えてくれるさ』


 それは誰のためではなく、ただマギノの知識欲のためかもしれないが、それでも彼らの治療はそのまま進められる予定であった。それが、常日頃狂うことを恐れて生きてきた獣機兵ビースト部隊を取り込めた最大の理由である。もっとも、理由はそれひとつではない。


『相手の動きが変わったな。そろそろ戦闘になるぞ。お前の方は大丈夫かリンロー?』

『ああ。まだ傷口には響くが、血は補充した。やれるさ』


 そう返したリンローは今、その肉体にかなりの傷を負っていた。

 ラハール領各地の獣機兵ビースト部隊と合流した際に起きた一悶着で、彼は自ら身体を張って集まった獣機兵ビースト部の説得を行ったときに付けられたものだ。また、今リンローの背についているのは彼とやり合った者たちが多い。忠義というには荒々しい、言ってみれば獣の群れのボスに対してのように彼らはリンローに従っていた。


『今はこれを理由に下がれねえ。下の連中に俺らがムハルドと戦う姿勢を見せなきゃならねえしな』


 状況を打開するためには団長たちの帰還が必要だ。

 そして、それまでにこの場を維持し続けるためには彼らの心を繋ぎ止めておく必要が彼らにはあった。リンローは己の背中を配下に示すために、負傷だからと戦場を下がるわけにはいかなかった。


『分かるだろオルガン。俺たちは祖国に裏切られ裏切った。もう賭けるしかねえのさ、あの団長によ』

『ああ、そうだな。分かっているさ』


 オルガンが頷く。どうあるにしろ、このまま行けば彼らには望まぬ死が待っている。それを打開するためにベラ・ヘイローを彼らは選んだのだ。


『ほぉ、面白いことを言うな』


 そして、そのやり取りに介入する声があった。


『なんだ?』

『正面からだ。隊長クラス以上の通信感応……こいつ、まさか』


 動揺するリンローとオルガンを笑う声が響く。相手からの通信はその場のすべての獣機兵ビースト鉄機兵マキーニにも届いているようであった。背後の仲間たちも突然の声にざわついていく。


『裏切った? それもお前たちが望んだ結果だったろうに。今更だな』

『ダール将軍か!?』


 ふたりが驚く前で、正面のムハルド王国の鉄機兵マキーニの列が左右に分かれると、奥から鉄機兵マキーニ『ドーラン』がゆっくりと前に出てきた。それはムハルド王国中央軍を率いるダール将軍の機体であった。


『見つけたぞ裏切り者たちよ』

『なぜここに? 将軍はカールが……』


 オルガンが訝しげな視線をその機体に向ける。

 ヘイロー傭兵団の中でダール将軍とまともにやり合えるのはカールのみだ。だからカールは今、ダール将軍が率いている隊に対して進軍しているはずであった。だが、その呟きに対してダール将軍は『あちらは偽物だ』と口にする。


『伊達に二日探ってたわけではないさ。お前たちの配置は観察し続けてきた。この軍の要はお前たちであろう』


 そう口にしたダール将軍の乗る『ドーラン』から発せられる凶悪な殺気に、その場で獣機兵ビーストたちは動きを止め始め、一歩下がる機体すらあった。獣の因子を取り込んだことで鋭敏となった感覚が、目の前の鉄機兵マキーニの危険性を訴えていたのだ。


『カールが裏切ることは予想できた。だが、お前たちまでとは予想外だったな』

『うるせえよ将軍様よ』


 そのダール将軍の言葉に対し、リンローの機体が一歩を踏み出す。


『今更? 望んだ結果だと? ああ、そうだ。俺たちは勝つために、強くなるためにこんな身体になった。だが、それからあんた方が何してくれた?』

『リンロー、挑発に乗るな』

『知ったことか。結果なら出したはずだ。北部族を支配し、俺たちはひとつのラーサ族になった。だってのによ。なんで俺たちはこんなラハールなんて僻地にいる。あんた、あのとき言ってたぜ。戦争が終わりゃあ、俺たちは北と南を束ねた英雄になれるってな。ありゃあ、嘘だったのか?』


 さらにリンローが前に出て構える。同調した獣機兵ビーストの獅子の頭部が怒りに歪んでいく。


『こんな形を俺らが望んだだと? どのツラ下げてアンタはそう言う? 未だに人間様の面構えのままで俺らを裏切り者だと抜かすか? 俺はな。最初にダチを食らっちまったんだぞ。クソがっ』


 咆哮が周囲の獣機兵ビーストたちにも伝染し、彼らの恐怖も怒りへと染められていく。だが、『ドーラン』の中の人物は動じない。


『強くあれと望んだのだろう? 国のために死ぬと誓ったのだろう? であれば、最後までそうであれ戦士よ。それができぬのならば自害しろ』

『ッザッケンナ!!』

『落ち着け。挑発に乗るなリンロー』

『わーってるさ。だが、ここはやるところだオルガン』

『ああ、それも分かってる。全機、隊列を組め。敵はカールをも手玉に取る相手。だが、アレを倒せばこの戦争は勝てるぞ』


 そう口にしたオルガンに、獣機兵ビーストの中からオォォォオオオという声が発せられ、戦闘態勢に入っていく。だが、そのすぐ後に、背後の街の中から放たれた何かが空中で発光した。


『な、なんだ?』

『ちょっと待て。街の中だと!?』


 それにはオルガンとリンローも目を見開く。それは戦場で合図代わりに使う閃光弾であった。また、それはヘイロー傭兵団では使用していない発光であり、ムハルド王国軍で使用しているものだ。そして撃たれたのは間違いなく街の中だった。その様子に動揺しているリンローたちに気付いたダール将軍が笑う。


『ふん。また、あの中に逃げ込まれては叶わんからな。害虫駆除ならば、まずは巣をどうにかせねばな?』


 その言葉に、獣機兵ビーストたち全員が戦慄する。


『そこまで手を……』


 オルガンが苦い顔をしてダール将軍を見た。

 それはつまり、街にムハルド王国軍が入っているということであった。

 どうして敵が街の中にいるのかは不明だが、状況を考えれば背後の盾を奪われたも同然の彼らの動揺は大きい。また、その状況はこの場以外のすべての戦場でも同じはずであった。

 一方で街の中では……




  **********




「ゾルン様。なぜッ、うぐ!?」

「すまないな。これもまたカイゼル族のためだ」


 そうゾルンは口にすると、死んだ兵から剣を抜いて北門を見た。

 ヘイロー傭兵団が戦闘に入ったのを見計らって、メガハヌの街の北門は開けられていた。それをやったのはゾルンとその部下たちで、周囲に死体となって転がっているのはカールが連れてきたカイゼル族の戦士たちであった。

 北門をくぐり抜け、街の中に入ってくるのはムハルド王国の鉄機兵マキーニや歩兵たちだ。だが北門を護る兵たちは刃を向けるどころか、彼らを迎え入れていた。

 その様子を見てから、ゾルンは街の西へと視線を向ける。


「申し訳ございません。カール様、あなたのことは尊敬もしていますし、できれば味方でいたかった」


 西門の外、そこでは今まさにヘイロー傭兵団がムハルド王国軍との激突が起きているはずだった。その中で、カールは今もゾルンが街を護ってくれていると信じて戦っているはずだ。


「けれども我々は負けたのです」


 そもそもゾルンという男は、カイゼル族の戦士であり、副官であるレイモンドと並びカールがもっとも信用している部下であった。

 ゾルンもそうであるように振る舞ってきたし、実際に心の上ではそうであった。

 だからこそ、カールも信じていたし、獣機兵ビースト部隊もその点においてはゾルンを信頼していた。彼がカールのために動き、常に獣機兵ビースト部隊を牽制していたことを彼らは知っていた。

 だが、ゾルンはその表情に苦悩を刻みながらも、瞳には迷いがなかった。


「カイゼルの血は絶やさせません。私は私なりの忠義を以て、血に従いましょう」


 選択はなされたのだ。ゾルンはカールよりも一族の存続を選んだ。

 それからゾルンは街の南の方へと顔を向けた。北南の門両面からムハルドの兵を街中に入れる予定であったが、南からはムハルド王国の鉄機兵マキーニはこなかった。そのことに眉をひそめながらゾルンは呟く。


「南からのムハルドの兵はまだ来ていないが……まあ、このまま街を占拠することは可能であろう。後は我らの身の振り方だが」

「ゾルン様、アレを!?」


 思惑の中にいたゾルンが、部下の言葉に顔を上げた。


「なんだ……鳥? いや、アレは」


 ゾルンが部下の指差す方角を見て眉をひそめる。大きな鳥のようにも見えていたが、その姿がはっきりと見えたときゾルンの目が見開かれた。

 壊れかけのような金属の翼を広げながら、機械の巨獣が街の中へと降下し、ゾルンたちの前へと降り立ったのだ。それを見て、ゾルンが呆気にとられた顔で口を開く。


「赤い……ドラゴン?」


 そしてゾルンがそう口にした次の瞬間に機械の竜は巨人の姿へと変わり、そのままウォーハンマーを振るってゾルンをただの肉塊へと変えた。

次回予告:『第174話 少女、ゴミを片付ける』


ギリギリでしたがダイブ成功です。素晴らしい。

けれど、やっと辿り着いたのにゴミがそこら中に

散らばっていますよ。哀しいですね。

それじゃあベラちゃん、軽くお掃除しましょうか。

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