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ロリババアロボ ー 6歳からの楽しい傭兵生活 ー  作者: 紫炎
第二部 九歳児の楽しい戦乱の歩き方

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第163話 少女、ペットを手懐ける

 ソレが暗い岩穴の中で待ち続けて、どれくらいの刻が経ったのだろうか。ただ己が主を待ち続け、ソレはずっとその場にいた。

 元々は血の色をしていた不定形のソレは入り込んだ死骸といつしか一体化していた。死してなお強大な生命力を保つ肉が、ソレと同化したのだ。ソレは今の己が巨大な翼の生えた蜥蜴になっていることを理解していた。

 もっとも、そんなことはソレには関係がなかった。ソレはただ主の言葉に従い、命じられたままにずっと待ち続けるだけなのだ。

 最後の命令を聞いてから、どれだけのときが経ったのかソレには分からない。何しろ、日を数えるという概念がソレにはない。身体は肥大し、与えられた餌を喰い続ける日々が漫然と過ぎていく。それでもソレは待ち続けた。


 けれども、そのときは訪れた。

 唐突に主との繋がりが切れたのをソレは感じたのだ。


 例え離れていようと、ソレは常に主と繋がっていた。

 意志を投げかけても返ってこなかったが、それでも感じていたのだ。だが、つい先ほどまであった主の気配が今はもうない。


 そのことを察したソレは立ち上がった。


 周囲にいた、主と似た小さき者たちが動き始めたソレを止めようとしたが、ソレにとって重要なのは主だけであった。故に邪魔立てする彼らをソレは許さなかった。また、邪魔をする彼らこそがソレから主を奪った輩たちなのでは……とも考えた。

 そうなってしまえばもう繋ぎ止めていた拘束具などソレに意味がない。灼熱の炎の息で鎖を溶かして破壊し、周囲の小さき者たちを引き裂いてソレは穴蔵をすぐさま出ていった。

 そしてソレが外へ出ると地上はまだ明るく、日が出ている時間であった。ともあれ外に出てたソレは、主の気配が完全に断たれたことをはっきりと感じた。その意味するところが『死である』と本能でソレは悟っていた。

 その事実を理解したソレから沸き上がる怒りは咆哮となり、谷の中を響き渡った。

 周囲の檻の中の巨獣たちは怯えて硬直し、ソレが動き回る力を得るために次々と喰われていった。

 その間にも小さき者たちは抵抗していたのだが、ソレには通じない。ついには無駄と理解して逃げて出していく。

 無論、ソレがそのことを許すわけもなかった。

 追い詰め、殺すのだ。主を殺した者たちを殺し尽くす。

 食事ではない。報復をソレは望んだ。憎悪によってその身を動かし、彼らを始末しようと走り出す。

 対して彼らの乗る狼たちは優秀だった。怯えこそしているが、止まれば死ぬのは理解しているのだろう。必死でソレから逃げ続けた。


 逃がすものかとソレは思った。


 そうして一気に己を走らせる。以前とは違い、操るという感じはない。もはやソレは己の肉体。動かすには慣れが必要だ。前足と後ろ足を動かし、相手を見据えて前へと進む。

 次第にその動かし方にも馴染んだソレは、ようやく小さき者に追いつくとまずは一体を喰らった。続けて他も……ソレがそう思った直後である。空より己と似た存在がやってきたのは。


「じゃあ、あたしがひと暴れ付き合ってやるさ。久々の再会だしねえ!」


 唐突に声が聞こえた。何が起きたのかは分からなかった。

 突然やって来た怪物は、いきなりロックギーガの足に何かに絡ませ転ばせて、炎を吐いてソレを包み込み、ソレの頭を何かで叩き付けてきた。


 ギュガァアアアアアアアア


 ソレは己の口から悲鳴が漏れたのを聞いた。

 吐き出された炎はまるで効かなかったが、頭部に受けたダメージはソレの内部に浸透してきたのだ。もっともすぐさま次が来ると思い、ソレは覚悟して身構えたが、不思議と追撃はなかった。

 それからソレが警戒しながら振り向き、己を攻撃した相手を見ると、そこにはいつの間にか小さき者たちと同じ姿をした鉄の巨人が立っていた。

 どういう理屈かはソレには分からないが、どうやら空を飛ぶ怪物は巨人へと変わったようだった。

 そして、その巨人からは懐かしき匂いをいくつか感じたのだがソレには思い出せない。


『ヒャッヒャ、アンタとやり合うのは鉱山街以来かねえ。ロックギーガ!』


 懐かしい声が巨人から聞こえてくる。

 そして、ソレは己がロックギーガと呼ばれていたことを思い出した。同時に目の前の存在から強者の臭いも感じ取っていた。己よりも小さき存在であるにも関わらず、最大限の脅威だと感じていた。

 その疑問への答えはないが、ロックギーガは本能に従い巨人を睨みつける。


 ギュルルルルル


 うなり声を上げ、敵を牽制する。

 だが、それからどうする? もはや新しく生まれ変わったロックギーガにはその先が分からない。かつての不定形のものであったときにはできていたことができない。

 だから、ロックギーガは今や己そのものであるドラゴンの記憶をたぐっていく。

 その先にあったのは、かつてドラゴンが人であった頃の女槍使いの記憶。人であったドラゴンの意志はすでに尽きてはいたが、その技は身体が覚えている。


 であれば、どうするか。


 ロックギーガが行ったのは両腕の爪を伸ばすことだった。硬く、鋭く、折れず貫けるように、まるで槍のように爪を伸ばしていく。

 そして、対峙する巨人が持っている得物がウォーハンマーだと女の記憶が伝えてくる。

 それは金属の塊で相手を殴り付ける武器であり、また鈍器の反対に設置されたピックは鉄機兵マキーニの装甲をも貫くのだとロックギーガは知った。

 だが、そのウォーハンマーよりも己の槍爪は長い。届

 かなければどうということはない。そう考え、ロックギーガは女の記憶を元にして槍爪を構えて突き、目の前の敵、鉄機兵マキーニと呼ばれている巨人を攻撃していく。


『ホゥ。ケダモノのくせに人様の真似事かい。ああ、そういえば元々、そのドラゴンは槍使いだったね。おお、怖い怖い』


 巨人からそんな言葉が漏れる。女の記憶が教えてくれているために、言葉の意味はロックギーガにも分かる。

 だが、相手の言葉の意図することは分からない。

 怖いと口にしていたが、相手が恐れている様子はまるでなかったのだ。むしろ喜んでいるようにロックギーガには感じられていた。


 ギュガァアアアア


 ロックギーガが吠える。

 相手が恐れてなかろうが、ロックギーガの攻撃を警戒しているのは間違いない。何故ならば避けているのだ。ロックギーガの突きを。高速で繰り出される二本の槍爪を巨人は避け続けていく。

 当たれば己の勝ちだとロックギーガは考えるが、その立ち回りはえらく速く、ロックギーガの視覚にまるで収まらない。ただ速いわけではないのだ。フェイントを織り交ぜながら、最小限の動きで槍爪をかわし続けている。

 それでも、一度でも槍爪とウォーハンマーを付き合わせて留まらせれば、そこに尾とブレスを使って仕留めることもできるはずだとロックギーガは考えていた。

 だが、それができない。身長の差は二倍はあり、体格で考えれば勝負になどならないはずの相手であるにも関わらず勝てない。それどころか、掠ることすらできない。まるですり抜けるように己の攻撃が当たらない。

 また、相手の攻撃は次々と当たっていく。まだ致命傷はないが鱗が削られ、表皮が見えて始めていた。このまま攻撃が続けば、結果がどうなるかは明らかだった。1は重なれば増えてはいくが、0は0のままなのだ。

 故にロックギーガは焦り始めていた。攻撃を加えながら、尾を使って振り払おうとして、それを避けられて、すぐさま近付かれる。


『ああ、そうかい。なかなか良い仕上がりだ。おっと、ちょい甘めだよ、それは!』


 そう相手が口にしながら槍爪を弾いた瞬間にロックギーガが炎を吐いた。周囲の檻の中にいた巨獣がそれを浴びて悲鳴を上げたが、そんなことはロックギーガの知ったことではない。それよりも敵は……と思った瞬間に下から鋭いものが振り上がり、ロックギーガの喉袋が貫かれた。


 ギュガァアアアアアアッ


 ロックギーガが咆哮する。巨人の左腕のてのひらから鋭い鉄の杭が出て、それが喉袋を貫いたのだ。

 喉袋は普段は鱗に包まれ、ブレスを吐く際のわずかな瞬間にのみ露出する。そこを巨人は狙ったのである。

 それから炎はあぎとからではなく、穴のあいた喉袋から出てロックギーガ自身を内部から焼いた。

 だが、相手の手は止まらない。巨人は、その場に落ちていた先ほどロックギーガの足を絡めた鎖をめざとく見つけると、ウォーハンマーのピックを引っかけて振るい、ロックギーガの足に再度巻き付けてその動きを封じてきた。


 殺される。


 ロックギーガは焦った。

 このままでは己の命は絶たれる。目の前の敵は本物だ。己の上位の存在だ。それをはっきりとロックギーガは確信した。殺されると感じた。だが本能ではない、別の部分が己の死を拒絶している。

 死ぬわけにはいかないのだ。ロックギーガは咆哮し、全身の鱗をさらに尖らせていく。槍のように伸ばし鋭くし、それを巨人へと一気に解き放つ。


『飛び道具かい。結構じゃあないか』


 そう言いながら巨人がまったく気負うことなく跳び下がった。槍鱗は当たりはしなかったが、巨人を退かせることには成功した。

 喉袋は破損しもうしばらくは炎が吐けないが、ロックギーガには槍のような爪がある。牙がある。尾があるのだ。

 それらを総動員し、眼前の敵を退けようとロックギーガは駆け出した。


『生きよ』


 主の最後の命令がロックギーガを突き動かす。それを果たそうと吠えた。己の主は最後までロックギーガを生かすためにすべてを注いでいたのだ。その意志を破らせるわけにはいかない。ロックギーガは生きなければならなかった。

 そして、そこから先ロックギーガが振るうのは、尋常ならざる暴力の嵐であった。

 縦横無尽に、がむしゃらに巨人に対してロックギーガは攻撃を仕掛けていく。だが、それでも敵は倒せぬ。下がらせることどころか攻撃が掠りもしない。


 だが、ついにそれは訪れた。


 わずかな隙を感じたロックギーガの右の槍爪が、敵の脇腹を貫いたのだ。それはまるで吸い寄せられるかのような鋭い一撃。ロックギーガはやったと感じた。だが、次の瞬間にその認識が勘違いだと気付いた。

 ロックギーガは敵の意志を感じた。顔も見えぬのに相手がニヤリと笑ったと理解した。この状況を狙ったのは己ではなく巨人の方だったのだ。


『ヒヤッハァアアアアアアア』


 そして、けたたましい声が響いて巨人の左手から熱せられた鉄杭が伸びるとロックギーガの右腕が貫かれて槍爪が折れ、同時に左腕もウォーハンマーのピックが突き刺さって関節を破壊される。ロックギーガがとっさに尾を振るって逃れようとするも、折れて宙を舞っていた槍爪を掴んだ巨人が迫る尾を突き、そのまま地面へと落として突き立て留めた。


 ギャワッァアアアアア


 ロックギーガが叫ぶ。ここまでのすべてが防がれた。しかし、まだロックギーガには武器がある。

 ドラゴンにとって最大の武器。それは強靱なあぎとと何者をも貫く牙。そして、ロックギーガはあぎとを開いて牙を突き立てようとし、次の瞬間には巨人の臀部より伸びた尾に口元を絡め取られて、そのまま頭を地面に叩き付けられた。

 その攻防はまさしく一瞬の出来事であった。

 土煙舞う中、ロックギーガが巨人を見上げれば、右肩からは己のコアと同種の宝玉が露出していた。それが巨人にドラゴンを押さえつけるほどの力を与えているとロックギーガは理解する。そして、巨人が腰からギャリギャリと咆哮する武器を取り出して、ロックギーガの頭部に近づけてきた。ソレが己を殺すに十分な力を秘めているとロックギーガには分かった。

 以前にもロックギーガは見たことがあるのだ。対峙したことがあるのだ。それこそがドラゴンをも殺す剣なのだと知っていた。


『まあまあだったね。けど、これでシメだ。後はあんたが選びな』


 目の前の巨人から、そんな言葉が投げかけられた。

 かつて人間であったドラゴンの記憶から言葉の意味は分かる。

 だが、言葉など分からずともロックギーガはもう悟っていた。そこにいるのは同種だった。そして、ロックギーガに対して群れに加わるか、それとも死かを求めているのだ。


 ギュガァ……


 声が漏れる。ロックギーガの選択は決まっていた。

 己が主の意志を、本能の導く先を見定め、その場で力を落とし、腹を出して大地に転がった。己が意志は示した。後は新たなる主に委ねよう……と。


 そして二頭の闘いは決着し、まるで猿のような甲高い笑い声がその場に響いたのであった。

次回予告:『第164話 少女、ペットをしつける』


おじちゃんから譲り受けたペットは少しヤンチャさんでしたが、ベラちゃんの優しさに触れて心を開いたようです。

 それにしても……ふふふ、お腹を出して寝転がって、まるで子犬みたいで可愛いですね。

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