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ロリババアロボ ー 6歳からの楽しい傭兵生活 ー  作者: 紫炎
第二部 九歳児の楽しい戦乱の歩き方

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第159話 少女、礼儀作法を教える

「まさか聞いてはいたが、本当に子供とは……」


 ムハルド王国軍と獣人の操る巨獣たちとの戦闘終了後。崖の上から翼を広げて下りてきた赤い鉄機兵マキーニの中から出てきた子供を見て、ガイガン・カイゼルがそう呟いた。

 すでにサティアを通じて、己の息子がまだ年も一桁の子供の配下となったことを彼は知っていた。

 もちろん、それだけであれば何の冗談かと噴飯ものではあるだろうが、その子供がムハルドの王子を殺した赤い魔女、反ムハルドの象徴とも言えるラーサの少女戦士であれば話は別だ。

 とはいえ、それでもその配下に付いたという意味を、ガイガンを含めてカイゼル族は『勘違いを』していた。

 実際に王子を殺されたムハルド王国の兵たちとは違い、彼らは赤い魔女の噂を眉唾であると思っていたし、王子を殺したのはマスカー族の戦士であるとも伝えられていたのだ。だからガイガンは象徴足る少女に実体などなく、ただの旗印としてでっち上げたのだろうとここまで考えていた。

 だから彼は己の孫よりも小さな子供を前に何ともいえない表情をせざるを得なかった。そして、その戸惑いはガイガンだけではなく、カイゼル族全体からも空気としてにじみ出ていた。すでに下りていたサティアとボルドがその様子に苦笑する中、ベラはいつもと変わらぬ顔をしてウォーハンマーの柄を地面に付けて口を開いた。


「ハッ。子供だから何だってんだい? あんたらはあたしの下に付くんだろ。だったら言葉には気を付けな。あたしは礼儀知らずは嫌いだよ」


 その挑発的な言葉に顔をしかめた者こそいたが、口に出す者まではいなかった。

 部族長であるカールが認め、そのことを彼の従者であるサティアが証明しているのだから、それも当然だろう。そもそも、先ほどの戦いを彼らは見ていた。崖上だったから何が起きていたのかまでは詳しく分からなかったが、上空からドラゴンの姿で炎を吐き、歩兵も鉄機兵マキーニもまるで雨のように崖下へと落としていったのを彼らはその目に焼き付けていた。

 今の彼らにとって分からないのは、それがこの少女によるものなのか、乗っている鉄機兵マキーニの能力によるものなのか……ということだ。

 ただ与えられた力に溺れた子供……という方が話としてはしっくりと来る。だが、その推測を目の前の子供の発する空気が許さない。だから、今もなお彼らは戸惑いながらガイガンとベラを見ていた。

 ともあれ、その様子はベラにとってはいつも通りのことではあるので特に気にはしない。それよりも彼女には他に気になることがいくつかあった。そのもっともたるのが女たちの抱き抱えている赤子の数だ。


「それにしてもガキ抱えてる女が多いね」

「二年だ。連中に寄ってたかってヤられてりゃあそうもなる。だが、アレらはいずれ父親を殺す戦士に育つだろう」

「なるほどね。まあ、そうかい」


 忌々しげな顔をしたガイガンに、ベラが面白くもなさそうに頷く。ベラも己がつまらないことを尋ねたという自覚はある。二年という月日は敗北した側の女の腹が膨れて赤子が出てくるには十分な時間であった……という、ただそれだけのことだ。

 ともあれ、お荷物を捨てる気はないという意志を感じたベラは、そのことは口に出さずに続けてガイガンに尋ねる。


「それで敵はどうしたんだい? 全滅させちゃあいないようだけど」


 壊滅させたにしては倒れている鉄機兵マキーニや巨獣の数が少ない。最初にベラが仕掛けたときに上空から見ていた数と一致していなかった。

 そして、その言葉に答えたのは、そばに近付いてきていたサティアであった。


「ベラ様、ムハルドの鉄機兵マキーニたちなら後退していったよ。鉄機獣ガルムに乗ってたから、もう追いつけないとは思うけど」

「巨獣は竜の墓所の方に向かっていったな。巨獣か、操ってる方かは分からねえが、アイアンディーナを見て動きがおかしくなっていたようだぜ」


 続くボルドの報告にベラが「へぇ」と口にしながら目を細める。


「ムハルドの方はまあ、いいさね。上は全部潰した。少なくともあの部隊は当面は再編成もできないし、こっちへの手出しは無理だろうさ」

「全部潰した? お前ひとりでか!?」


 思わず口にしたラーサの戦士へとベラが睨みつけると、ガイガンが「馬鹿が」と言って慌てて頭を下げさせた。戦士としての勘がベラからにじみ出た殺気に反応していた。


「す、すまん。気を付けさせる。が、ワシらもまだ戸惑っている。だから」

「イイワケはいらないよ」


 一言、ベラはそう言い捨てる。


「あたしは侮られるのが好きじゃない。それにだ。こうして一刻が命の秤を傾かせるかもしれないってときに、無駄をさえずるアホは死んだ方がこの場の誰のためであるとも思っている」


 口にした男が息を飲んだ。その言葉に命の危機を覚えただけではない。小さな少女から発せられる強烈な圧力に体が強ばったのだ。その様子にガイガンが「待ってくれ」と言葉を返す。


「状況は理解している。これにも改めさせよう」

「ああ、当然だ。あたしを侮っていいのは敵だけだ。侮ってくれるんなら、頭ぁ潰すのが簡単になるからね。けど敵でもないのにそうされたくなかったら、人の言うことはシッカリ聞くようにするんだ。それで全員が生き延びる確率が上がる」


 そう言いながらカイゼル族全体に視線を飛ばすベラに対し、他の者たちも反発する姿勢は見せなかった。もっとも、ただ素直に聞こうという目をしていない者も、それなりにいることをベラは気付いていた。


(ふん。なかなか生意気な顔してるのも何人かいるね。やっぱり、ラーサ族は悪くない)


 視線は鋭く、けれども内心ではベラは笑みを浮かべていた。

 猛き戦士の顔をしている連中が多くいることに彼女は満足げであったのだ。


「ともかくだ。上は全滅してる。あたしゃ、食べ残しは嫌いなんでね。鉄機兵マキーニも歩兵も潰して抉って燃やした。で、下に来ていたのは鉄機獣ガルムとセットに機動力を生かした突撃部隊のはずだけど、生き残った戦力じゃあ再戦できる戦力は用意できないだろうね」

「確かに。もう一度当たれば、こちらの数は減らせるかもしれんが……全滅を覚悟してとはいかんだろうな」


 ガイガンが頷く。それからベラが話を続ける。


「それでこのまま墓所を越えれば、平地が続く。サティアの航空型フライヤーがあれば奇襲を受けることもないはずさ。道中でもう一戦はあるかもしれないが、そこを逃げ切ればカールと合流もできる」


 その言葉にカイゼル族のほとんどが安堵にも似た声を上げた。もっとも、難しい顔をしたままの者たちも多くいた。先ほどの注意から彼らはベラに指摘はしなかったが、ベラの言葉はいくつかの問題点が存在していたのだ。そのひとつを口にしたのはエルフのサティアであった。


「まあ、墓所を越えれば僕の風精機シルフィレイラインで敵の接近は把握できるけどね。けど、それって越えられれば……じゃないの?」

「そりゃそうだね」


 ベラがヒャッヒャッヒャと笑うとガイガンを見た。


「ところで、ガイガンだったね。獣人の捕虜は今いるかい?」

「いや、いない。連中はあまりこちらに踏み込まずに退却したからな。生きてるヤツを捕まえることはできなかった」

「ふーん。まあ、だったらちょうどいいかね」


 その言葉の後、ベラが胸に下げている竜心石を握って淡く輝かせると後ろに立っていた『アイアンディーナ』の姿が変わっていく。

 ガイガンたちが驚いた顔でその様子を見ている。

 鉄機兵マキーニの操縦は、竜心石を通じて思念で動かすのが基本だ。グリップもフットペダルも補助器に過ぎない。だが、ベラは離れた位置でも鉄機兵マキーニを操作することができる。『アイアンディーナ』の意識が顕在化し始めている今では、ベラの意図を察してある程度は自立して動くようにもなっていた。

 そして『アイアンディーナ』の頭部が収納され、右腕がせり上がって竜頭となって『竜の心臓』を表に出し、錨投擲機アンカーショットが右腕の代わりとなっていく。


「ドラゴンだと?」

「さっきのアレは本物だったのか」


 カイゼル族が口々に、驚きの声を上げている。

 戦闘中にも視界に入っていたはずだが、改めて見せられれば彼らも驚かざるを得ない。もっともベラの意識が向けられたのは驚くガイガンたちに……ではなかった。


「ちーと臭うかと思えば、やっぱりいたねぇ。あたしの目は誤魔化せないんだよ」


 そう言ってベラが振り被って自分のウォーハンマーを投げると、飛んだ先の巨獣の死骸にぶつかって『人の悲鳴』が響いた。


「声? 獣人か!?」


 その悲鳴を聞いて、ガイガンの顔に緊張が走る。

 彼らは気付かなかったが、その場には獣人のひとりが巨獣の毛の中に隠れていたのだ。それからウォーハンマーが当たったことでうめいている獣人へと、ベラはゆっくりと近付きながら口を開く。


「ハッ。斥候のつもりか、逃げ遅れたのか。それとも近付いてこっちの頭を潰そうとでもしていたのかね」

「チッ、気付いていたのか。いや、アレへの反応でこちらの位置を察したな。そのようなドラゴンもどきで俺を欺くとは」

「もどきねえ。しっかり、反応してたじゃないか。驚いた気配が伝わってきたよ。どうだい、うちのディーナはかわいいだろう? アンタのガーメの首もいきり立っているんじゃないかい?」

「下劣なことを言う子供め。そんなものはもどきだ。鉄機兵マキーニをそのような姿にして何を考えて……」


 そこまで言い掛けてから、獣人がベラの瞳を見て息を飲んだ。

 そこにあるのは金色をした縦長の瞳孔を持つ目であった。その驚き様にベラは満足そうな顔で頷く。


「へぇ。その反応、あんた……この眼を見たことがあるね? あたしゃあ、この先にはこれと同じ目をしたヤツァ、骨しか残っていないって聞いてるんだけどね。こりゃあ、どういうことだろうね?」

「馬鹿な。その目はいったいどうやって……」


 目を見開いて呟く獣人に、ベラが笑いながら口を開く。


「そんじゃあ、詳しく聞かせてもらおうかい。あんたらんところであたしのものを預かってるんじゃないかって噂があってね。なーに、少し話を聞かせてもらうだけさ。素直に答えてくれれば……だけどね」

次回予告:『第160話 少女、お墓に立ち寄る』


ベラちゃんは少しおしゃまな女の子なので、

礼儀作法にうるさいところがありますね。

それでは、案内の人も見つけたし、お墓参りに

参りましょう。

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