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ロリババアロボ ー 6歳からの楽しい傭兵生活 ー  作者: 紫炎
第二部 九歳児の楽しい戦乱の歩き方

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第147話 少女、前菜を食べる

『伝令。ベラ・ヘイローが搭乗していると思わしき赤き鉄機兵マキーニが、空中を移動しながら中央広場に近付いてきているとのことです』


 その報告がラハール領主であるカール・カイゼルの元に届いたのは、獣機兵ビースト部隊を取りまとめているリンローたちが『アイアンディーナ』を目撃したときよりも少し前のことであった。

 その頃にはカールはすでに己の鉄機兵マキーニ『ムスタッシュ』に搭乗して、ガレージで待機していた。

 ベラ・ヘイローに送った使者に本日、決闘法フェーデに乗っ取った決闘を行うと告げ、相手もソレを了承したのだ。本物のベラ・ヘイローと戦う。それは他のあらゆることよりも、カールの心を動かす魅力的な話であった。

 戦闘民族とも言われるラーサ族の中でも血の気の荒い方とされているカールにとって、近年の状況は拷問に等しかった。部族を人質に取られ、己はパロマとムハルドに挟まれた僻地で飼い殺され、さらには獣機兵ビーストなどという番犬まで用意されて監視され続けている。

 いつ爆発してもおかしくない気持ちを抱えたままだった彼の元に来たのが、ルーイン解放軍との共闘だった。

 だが、そんな提案よりも彼が惹かれたのはソレを告げに来た少女であった。かつてムハルド王国の第二王子を殺した幼女の名を名乗り、カールに決闘法フェーデを申し込んできた。送った使者からの報告ですでに確信に変わりつつあったが、加えてたったひとりで挑んでくる今の状況だ。もはやカールには疑う余地がなかった。


『ははは、来たか。それもテメエみてえに空を飛んでだとよサティア。やっぱり本物だわな』

「そう言ったじゃん、おっさん。けどさぁ、ひとりで乗り込んでくるって馬鹿なんじゃないの?」


 そばに立っているエルフ族の少年サティアの言葉に『そうでもねえさ』とカールは返した。


『うちらにゃあ、空を飛んでるヤツを倒せる武器がほとんどねえから、空飛んで逃げられたら手が出せねえ。仲間を置いてきたのも戦うにしろ、逃げるにしろ、身軽でありたかったからだろう』

『まあ、確かに。けど、僕に追いかけろってのは無しで頼むよ。あの子供、なんか怖いし。多分殺されちゃうから』


 航空型フライヤー風精機シルフィ精霊機エレメントの中でも本当に珍しい機体を操れる少年の言葉にカールが笑う。


『当然だな。お前を無駄に消費させるような真似するつもりはねえよ。でだ。レイモンド、リンローたちはどうしてる?』


 それからカールは背後に控えている副官レイモンドの鉄機兵マキーニに、己の機体『ムスタッシュ』の頭部を向ける。対してレイモンドからすぐさま返事が返ってきた。


『ひとまずは見守るようですよ。とはいえ、街の主要なポイントは押さえられています。決闘が終わった後にどう動いてくるかが問題です』

『なら、こちらも『準備を』しておけ。俺は客人をおもてなししなきゃあならないからな。そっちは任せたぜ』


 その言葉に「ハッ」と返して頭を下げるレイモンドと手を振って見送るサティアを残し、カール・カイゼルの鉄機兵マキーニ『ムスタッシュ』が中央広場へと動き出した。




  **********




『ふん。何やら二通りいるみたいだね』


 一方で風を切りながら赤い鉄機兵マキーニ『アイアンディーナ』は街の上空を飛んでいた。その機体の中で、ベラは水晶眼を通しながら街中の状況を確認している。

 そして旋回しながら己の記憶の中にあるヘールの街と比較して状況を見ていると、ムハルド王国軍の中でも二通りの動きがあるのが見えてきていた。その片方は獣機兵ビーストの集団であり、もう片方は鉄機兵マキーニの集団だ。それらがにらみ合いをしているのが見て取れた。

 それからベラは翼を広げて滑空し、かつてジェド・ラハールを仕留めた広場へと降り立ったのであった。


『ハッ、中々のお出迎えだね』


 そう言ってベラが笑う。中央広場は元々決闘の場として用意されており、すでに鉄機兵マキーニ獣機兵ビースト、生身の兵たちが周囲には並んでいた。とはいえ、さすがに空からやってくるとは誰も思っていなかったようで、みな一同に呆気にとられた顔をしていた。もっともソレはすべてが……というわけではなかった。一機の獣機兵ビーストが降りてきた『アイアンディーナ』に向かって近付き始めたのだ。


『バカ野郎ゾーン。今は止まれ』

『うるせえ。俺はこの日を待ってたんだ。コイツを殺す日をな』


 仲間であろう機体が呼び止めるが、ゾーンと呼ばれた男の乗る獣機兵ビーストの歩みは止まらず、ようやく動きを止めたのは『アイアンディーナ』との間合いギリギリの場所に着いたときだった。


『貴様がベラ・ヘイローだな。その機体には覚えがあるぞ』


 ゾーンが、獣機兵ビーストに持たせた斧を『アイアンディーナ』に向かって突きつける。それを見てベラが鼻で笑った。


『その格好。オーガタイプってヤツかい? 頭は悪そうだね』

『黙れ。我が名はゾーン・ガッハ。そして愛機『ネイガンラッセ』。かつてザッカバラン山脈で貴様に汚名を着せられた者のひとりだ。忘れたか?』


 それはつまり、ハシド王子の軍勢の中にいたひとりであるということだ。


『ああ、あの時の尻尾巻いて逃げたヤツのひとりかい。で、そのチキンがあたしに何か用かい?』

『あるさ。俺は、貴様という獲物をカールに、北の者に奪わせはしない。お前を屠るのは、この南部族の役割だ』


 宣言するゾーンに周囲からは歓声が挙がる。その声を発しているのは、ゾーンと同様にかつてハシド王子を護りきれなかった者たちであった。王子を殺害され、逃げ戻った彼らは獣機兵ビースト化させられて懲罰部隊も同然の部隊を編成して死地に送られた。その上、戦争が終わった後にはこのラハール領に飛ばされて隔離されたのだ。故にゾーンたちのベラ・ヘイローに対しての憎悪は人一倍強かった。


『奪わせない……ね。じゃあ、どうするってんだい?』


 明らかに笑っている感じのベラの返しに、ゾーンの額からは青筋が立ち、そのまま獣機兵ビーストに斧を握り締めさせながら一歩を踏み出す。


『決まっている。俺は強くなった。ここまでの間に名ひとつ上げられなかった貴様とは違う。今こそ、あの時の汚辱をそそぐときだ。こんな風になッ!』


 そのゾーンの言葉とともに獣機兵ビースト『ネイガンラッセ』が駆け出した。それには兵たちの心が一気に高まる。それには南部族も北部族も関係ない。何しろ、この場にいるのは戦闘民族と名高いラーサ族の男たちだ。

 突然始まった戦いに爆発的な歓声が起こり、その声を受けながらゾーンの斧が『アイアンディーナ』に向かって振り下ろされる。


『汚辱ねえ。ま、そりゃあ確かにあたしにも責任はあるのかもね』


 そう言いながらベラは、振り下ろされた斧の刃を右の竜腕ドラゴンアームで受け止めた。それを見てゾーンが目を見開く。


『なっ!?』

『だったら仕方がない。あたしも手伝ってやろうじゃあないか、確か、死に損なったんだったね?』


 その言葉とともに『アイアンディーナ』の肩部装甲が開き、内部にあった『竜の心臓』が輝き出した。その間にもベラの話は続いていく。


『そりゃあ、あたしも悪かったよ。あの時、気付いてやれば良かった。死にたかったのに、ちゃんと息の根を止めてやれなくてさッ!』


 そして一気に竜腕ドラゴンアームの出力が上がると『ネイガンラッセ』の斧が一気に握り潰された。それを呆気にとられた顔で見ていたゾーンの前で、ベラが左手でウォーハンマーを振り下ろして左肩に叩き込んで破壊する。


『なんだ? 振動? 馬鹿な、こいつ?』


 叫ぶゾーンに、ベラが親切丁寧な口調で話しかける。


『おやおや、二年以上も経ったからもしかして忘れてたのかい? 覚えていればこんなことはしないはずなんだけどね』


 続けて『ネイガンラッセ』は右腕が竜腕ドラゴンアームによってもぎ取られ、右足が蹴り潰されると石畳に崩れ落ちた。


『それともくっさい魔獣の血を入れて気だけ大きくなっちまったのかね? それとも病気にでもかかっちまったのかもしれないね。馬鹿って言う不治の病にさ』

『くそっ、止めろ。動けネイガン。右手も左手も足はどうなって』


 ゾーンがパニックに陥っている。彼には己の惨状が見えない。視界が限定される獣機兵ビーストの水晶眼では己の被害が確認できないのだ。唯一動かせるのは左足のみだが、それも重心を崩さぬために必死にバランスを取るので精一杯であった。


『ま、忘れてたなら思い出すんだよオーガもどき。私は殺す方だよ。ただただ、一方的にね』


 すでに周囲の兵たちは何も声を発することなく、それに見入っていた。

 彼らがわずか前に期待した刃と刃がぶつかり合う、血湧き肉躍る決闘が起きることはなかった。始まったのはただの処刑だ。二年半前に執行されるはずだったものが、ようやく今再開されただけにすぎない。ただ一方的にムハルドの同胞が殺されていく様を彼らは沈黙したまま見ていることしかできなかった。


『そんな……ちょっと待ってくれ。違う。俺はもっと……こんなはずじゃあ』


 ゾーンの叫び声が木霊する。

 しかし、この結果は至極当然のものだった。

 二年半前に免れた死に、彼は愚かにも自らを近付けてしまった。逃れたのであれば、殺されなかったことに感謝をして、それから逃げ続けていれば良かったのだ。そうゾーンが悟ったとき、振り下ろされたウォーハンマーによって『ネイガンラッセ』の頭部が破壊され、直下にいるゾーンの身体も押し潰されて絶命した。

 その光景を前に、まるで音が死んでしまったかのように周囲は静まり返っていた。ただ崩れた胸部ハッチの中からポタリポタリと血が滴り落ちるのを見て、彼らは目の前の存在と戦うということの意味を知らしめられた。

次回予告:『第148話 少女、タイマンを張る』


メインディッシュの前にオードブルを出すのは当然のこと。

当然のことが当然のようにできる彼らには、ベラちゃんも笑顔でお返しです。

続けてのメインディッシュも美味しくいただけると良いですね。

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