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ロリババアロボ ー 6歳からの楽しい傭兵生活 ー  作者: 紫炎
第一部 六歳児の初めての傭兵団

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第129話 幼女、殺し合う

『復活した? いや、違う?』


 ベラが鋭い目線で周囲を見回す。立ち上がった六機の竜機兵ドラグーンであったが、その内の三機はまたすぐにその場で崩れ落ち、そのまま装甲内部から煙を噴き上げて動かなくなった。


『なーるほど。どうも、操者の座コクピットを完全に潰しちまったのは駄目らしいねぇ』


 崩れた三機の鉄機兵マキーニは、それぞれが回転歯剣チェーンソー仕込み杭打機スティンガーにやられた竜機兵ドラグーンであった。その竜機兵ドラグーンの胸部は、抉られ、灼かれ、内部のほとんどが破壊し尽くされている。

 対して今も動いているのは、飛んでいたところをベラに墜とされた二機と、ウォーハンマーで貫かれた一機。そして、ウォーハンマーのピックを抜いた竜機兵ドラグーンの胸部ハッチが剥がれて、操者の座コクピットの内部が露出した。


「ギギギィィイイイェェエエ」


 そこにいたのは血塗れのドラゴニュートにも似た姿の乗り手であった。目が飛び出して充血し、口からは長く細い舌が伸びている。


『ほぉ。こりゃあ、見事な蜥蜴じゃないか』


 それを見て、ベラが思わず笑ってしまう。


『精霊族は鉄機兵マキーニには乗れない。竜心石が精霊機エレメントと反発するからね。で、だ。竜機兵ドラグーンってのは例外ってわけじゃあなけりゃあ……』


 それからベラがふと何かに気付いて、『アイアンディーナ』の水晶眼をデイドンへと向けて尋ねた。


『なあ、デイドン。まさかぁ、アンタ。ずいぶんと男前になってないかい?』


 その言葉にデイドンの竜機兵ドラグーン『エルダーグレイ』からくぐもった笑いが漏れる。


『相変わらず、鋭いですねえ。そうですね。一応、人族だった頃の面影ぐらいは残ってるんじゃないですか』


 そう口にしたデイドンが『エルダーグレイ』の持っている槍を『アイアンディーナ』へとかざした。


『ベラさん、私はね。パロマとの戦争で手に入れた強心器、あれの発動でどうにか生き延びたんですよ。ローウェン帝国の圧倒的な軍勢を前にして、周囲が血に沈む中、死ぬほど足掻いて、敵を殺して、気が付けば味方も殺めながら生き長らえた。ま、人間の姿はおろか『エルダーグレイ』と一体化して、ここから出れなくなりましたがね』

『あのドラゴンになった槍使いと同じってことかい?』

『そういうことです。その後に私は捕らえられましたが、それでも、私という存在の価値をあのイシュタリアの賢人は理解し、こうして今ローウェン帝国の八機将のひとりとして今ここにいる』

『八機将……ね。つまりは、あの銀のすばしっこいヤツと同じってことかい』


 ウォート・ゼクロム。ベラとやり合った特化型鉄機兵マキーニの乗り手もローウェン帝国八機将と名乗っていた。同じように名乗っている以上は両者の立場は同格ということになる。


『あの方も恐るべき人ですがね。まあ、私は座が空いていたから座っただけの、あくまでミソッカスです。恐らくは竜機兵ドラグーンの生産が軌道に乗れば、この座を退くことになるでしょうが……くく、けれど、我らを率いし総大将は大した方ですよ。あなたも会ってみれば多分驚く』


 その言葉に熱があったのを感じて、ベラは目を細めた。


『ああ、そうかい。そんであんたはその総大将に心酔してルーインを裏切ったってぇわけかい』

『まあ、選択肢など元々ありませんでしたが、そんなところですね。そして……』


 その言葉と同時に周囲の竜機兵ドラグーンたちが一斉に『アイアンディーナ』へと飛びかかった。


『こうしてあなたを捕らえようとしているわけです』

『そうかい。ま、それにしてもコイツら』


 ベラがハルバードを投げつけ、二機の鉄機兵マキーニの動きを止めると、背後の再生した竜機兵ドラグーンの方へと駆けだした。


『あんたの手下らしくない温さがあるね!』

「ギケェエエ」


 そのまま、胸部ハッチの破壊されている竜機兵ドラグーンへと肉薄し、その操者の座コクピットを鉄の拳で叩きつけた。


『要は、乗り手を完全に潰しちまえばいいってこったろ』


 続けて、落ちているウォーハンマーを蹴り上げて、迫る竜機兵ドラグーンへと振り下ろし、さらにもう一機には回転歯剣チェーンソーを突き出す。


『ギキャァアアアアア!?』


 人ではない異形の悲鳴が響き渡り、回転歯剣チェーンソー竜機兵ドラグーンの胸部を貫いていた。だが、振り下ろしたウォーハンマーの方は竜機兵ドラグーンに両手をクロスして受け止められている。


『ハッ、高い高ーいってね』


 それをベラが笑いながら、回転歯剣チェーンソー操者の座コクピットから横へと薙いで、並んでいた竜機兵ドラグーンを切り裂いた。両手をクロスしていたが故にその胴は無防備で、それは操者の座コクピットをも破壊した。


『確かに動きは速い。反応速度が鉄機兵マキーニを超えている。だが単調だ。蜥蜴になって脳味噌が緩くなったんじゃないかい? ……っと。返すよ』


 そう言いながらベラは、『アイアンディーナ』へと投げられたハルバードをかわしもせずに左腕で掴み、そのまま機体を回転させた勢いで相手へと投げ返した。返されたハルバードによって右腕が斬り飛ばされた竜機兵ドラグーンを見ながら、デイドンが呆れた声で言葉が返す。


『急ぎでしたのでね。疲れもしない、言うことだけ聞くのを連れてきたんですが……それにしても強いですね。まったく』


 デイドンの言葉を聞いて、ベラは以前に戦場で見たリザードホースやヴェルラントリザードを思い出した。


『ああ、竜機兵ドラグーンには蜥蜴を操る力があるんだったっけか。うちの獣人が驚いてたよ。ようするにこいつら、アンタの操り人形だね』

『まったく、頭の回るお子さんだ』


 そして竜機兵ドラグーン『エルダーグレイ』が一気に接近してきて槍をベラへと突き出した。


『速いが、やっぱりアンタは素人だね』

『ええ。ですが』

『ぬ、チィッ!?』


 ベラがフットペダルを操作して跳び下がった。同時にその場が炎に包まれる。『エルダーグレイ』の三つ首の内の左右の頭部から炎が吐き出されたのだ。


『そいつはドラゴンの炎かい?』

『そうなんでしょうね。賢人によって頭部を追加でふたつ機体に移植されまして、水晶眼や感応器としての機能はほとんどなくなりましたが、変わって炎を吐き出せるようになったんですよ。元々の機能の一部らしいですね』

『は、元々? そんなことできる鉄機兵マキーニを見たことがないけどね』

鉄機兵マキーニの元々のものということですよ。かつて魔大陸で起きた戦争で大量に流出した『竜の心臓』を元に古イシュタリアの遺産である神機兵を新たに組み上げたのが鉄機兵マキーニです。言ってみれば先祖返りのようなものですよ、これは』

鉄機兵マキーニは元ドラゴンでしたってか? まあ、そんなバカな話……とも言えないか』


 左右より迫る竜機兵ドラグーンを切り払いながらベラがそう返す。


『そうでしょうとも。あなたは実際にドラゴンとなった鉄機兵マキーニを見ている。であれば、理解も早いでしょう』


 そう言いながらデイドンの『エルダーグレイ』が槍を突き出し、『アイアンディーナ』の回転歯剣チェーンソーとぶつかり合う。


『チッ、斬れない。その槍、ギミックウェポンかい?』

『ええ、頑丈でしょう。受ける衝撃を和らげる受け身の装備ですが、あなたの回転歯剣チェーンソーには有効だ』

『対策してんじゃないよ、まったく』


 その『エルダーグレイ』とぶつかり膠着している『アイアンディーナ』へと竜機兵ドラグーンが襲いかかる。それを『アイアンディーナ』は辛うじて避け、『エルダーグレイ』の追撃をかわしながら落ちていたハルバードを拾うと、追う竜機兵ドラグーンへと叩きつけた。


『修復とかさせないよ』


 そのハルバードの投擲が肩へと突き刺さった竜機兵ドラグーンに向かって『アイアンディーナ』は一歩踏み出し、胸部ハッチを仕込み杭打機スティンガーで貫いた。灼熱ヒート化した鉄の杭は内部の乗り手をも焼き尽くし、その動きを停止させる。


『さあ喰らってください!』

『やなこった』


 その直後に背後へと吐かれた炎を、ベラは左腕の盾で防ぎながら跳び下がった。


『おんや。溶けちまったかい。爆砕杭打機イグニススティンガーはもう使えないね』


 そう言いながらベラは溶けていく爆砕杭打機イグニススティンガー発射用の盾をその場でパージすると、さらに一歩下がりながら、周囲を見回す。

 現在の敵の竜機兵ドラグーンの数は『エルダーグレイ』を含めて四機。さすがに消耗してきた身体にベラは少しばかり苦い顔をしながら、敵を睨みつける。


『で、攻めてこないのかい?』


 対して『エルダーグレイ』の動きは止まっていた。そして、三機の竜機兵ドラグーンを前に並べながら、『アイアンディーナ』を見たのだ。


『なるほど。やはり、あなたは尋常ではない。そして、あなたは我が主に似過ぎている。以前はもしや生まれ変わりでは……などとも思ったものですが』

『なんだい?』


 デイドンの言葉にベラが訝しげな視線を、目の前の相手に向けた。


『いやね。ベラさん。相談なのですが……あなた、こちら側に来ませんか?』


次回更新は、7月13日(月)00:00予定となります。


次回予告:『第130話 幼女、貫く(仮)』


魔大陸ってなんか怖そうなところですね。

なんでも、魔物さんがいっぱいいて人間さんは端っこで細々と暮らしているような未開の地なのだそうです。小さな女の子が暮らすには物騒すぎてオススメできそうもないところですね。

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