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ロリババアロボ ー 6歳からの楽しい傭兵生活 ー  作者: 紫炎
第一部 六歳児の初めての傭兵団

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第128話 幼女、奴隷離れする

『捕獲命令だぁ?』


 見上げれば、崖の上にいるのは二十機の竜機兵ドラグーンたちであった。それをベラは眉をひそめながら観察する。


(こりゃあ、さっきのムハルドよりも厳しいかもしれないねえ)


 数こそ多くはないが、先ほどのムハルド王国軍とは違う空気が並び立つ機体からは発せられていた。また、ベラたちが以前に対峙した竜機兵ドラグーンたちとも違うようで、全機が翼と尾を付けているようだった。

 そして、中心にいるデイドンの竜機兵ドラグーンの姿は6メートル近い大型のもので、ルーイン王国軍から得ていた情報とは違い、頭部には首が三つ存在していた。その三つの首、六つの水晶眼が『アイアンディーナ』へと向けられると、デイドンの声が響いた。


『ええ、捕獲命令です。イシュタリアの賢人。彼の者が命ぜねば、まさか軍を統率する私がここまで来るわけがないでしょう? いくら私以外では捕らえられなさそうだとは言ってもね。あなたはよほど重要な存在のようだ、ベラさん』


 その言葉に『アイアンディーナ』の背後に控えている広域通信型リエゾン風精機シルフィの中にいるパラから『……デイドン様』と呟く声が聞こえてきた。

 パラは元々デイドンの従者のひとりであった者だ。現在の状況には何とも言えないものがあるのだろう。ともあれ、戦場においてそんな感傷はなんら意味をなさない。パラもそれ以上は何も言わず、ベラも気にした素振りも見せずにデイドンへと返事する。


『その賢人とやらが何を望んでいるのかは知らないけどね。大将のアンタが出向いてきたってのは確かに結構なことのようだ。けど、こっちは一戦交えてお疲れなんだよ。少し休ませてくれてもいいんじゃないかい?』


 そう茶化した口調で言うベラだが、それが受け入れられるとは当然思っていない。相手の返答を待ちながら、ベラは操者の座コクピットの中でグリップを手離し、一度手をギュッと握りながら、己の身体の状態を確認する。

 鉄機兵マキーニ『アイアンディーナ』の方は、先ほどの戦闘で魂力プラーナを吸収しているためかなり力が有り余ってはいるのだが、ベラ本人は戦闘の興奮状態で今は感じていないが、実際の体力がそれほど残っているわけではなかった。


(まあ、まだ……やれるかね)


 そうベラは判断し、再びグリップを握りしめて『エルダーグレイ』を見る。そして三つ首の機体から『そうですか』という声が返ってきた。


『では、申し訳ないですがもう一戦お願いします。その後は長く休息をとれるでしょうからね』

『ハッ、そう言うと思ったよ』


 そう口にして、『アイアンディーナ』が一歩前へと出る。


『あ?』


 その次の瞬間、『アイアンディーナ』の横の岩壁からミシリという音が聞こえたのだ。


『主様ッ!?』

『不味い。下がってください。早く』


 そして、次の起こる状況をその場の全員が察知し、一斉に動き出す。


『同じ手を使うかい!?』


 『アイアンディーナ』が勢いよく前へと走り、次の瞬間には崖が崩れて岩や砂利が流れて始める。それに逃げ遅れたデュナン隊の鉄機兵マキーニや騎兵が悲鳴を上げながら飲まれ、そのまま岩壁の逆の谷へと投げ出される者もいて崩落音と共に悲鳴が下方へと落ちていくのが聞こえた。


『クソッ、やられた』


 ベラが悪態をつく。『アイアンディーナ』とベラドンナ傭兵団の間には、今や崩れた岩の壁があって両者を遮っていた。そして、崖崩れを起こしたであろう竜機兵ドラグーンの一機が上で飛び立つのを見ながら、ベラが従者のパラへ指示を出す。


『パラ、あたしのことは気にせずに先へと進め』


 その言葉にパラは絶句し、それからすぐに言葉を返す。


『いけませんベラ様。あなたひとりを残すなど』


 だがベラはパラの言葉を遮り、『いいから行きな』と叫んで返した。状況はすでに動いている。作戦を練る時間も説明する時間もない。


『ここを崩すのは手間だ。あたしひとりならどうとでもなるが、これ以上留まってはムハルドが引き返してくるかもしれない。さっさとお姫さん連れて行くんだよ!』


 そう言ってその場に一機残された『アイアンディーナ』が仁王立ちをして構え、ベラが声を張り上げた。


『お前が殿しんがりだバル。エルシャで合流するよ』

『承知した』

『いくよバル。ベラちゃん、無理はしないでね』


 バルの『ムサシ』が、マルスの『デアヘルメェス』が進み出す足音が聞こえ、続けて鉄機兵用輸送車キャリアがその場から動き出していく音も響き渡る。それに対してデイドンもただ見ているというわけではなかった。


『王女が逃げますね。ジード隊、追いなさい』

『させないよ』


 その場で半数の竜機兵ドラグーンが飛び立つが、ベラは『アイアンディーナ』の左腕の爆砕杭打機イグニススティンガーを二発撃って一機を突き刺し、さらにもう一機を錨投擲機アンカーショットで絡めて叩き落とした。だが、他の竜機兵ドラグーンは岩壁を通り過ぎていく。


『結構いかせちまったね。ま、それぐらいは相手してもらわないと割に合わないけどさぁ』


 そう言いながらベラは『アイアンディーナ』から錨投擲機アンカーショットの鎖を外しながら、一歩前へと進む。


『ふふ、お仲間には待ってもらっておいた方が良かったのではないですか?』

『どうかね。いくらあたしを狙っているとはいえ、お姫さんが離れれば追わなきゃいけなくなるだろ。何しろ、この先の山の中は風が強くて飛ぶのも難しいだろう? つまりは結果として分散するのはそちらも同じってぇことになるね』


 そう言って『アイアンディーナ』がウォーハンマーと回転歯剣チェーンソーを構える。


『まあ、その通りですかね』

『そうさ。あの姫さんを逃がして、あたしも後で合流する。合理的だろ? それに、飛んでる奴らを二機も落とせたんだ。結果は上々さ』


 何しろ金属の塊が空から落ちたのだ。当然、竜機兵ドラグーンも乗り手も無事では済まない。先ほどのやり取りの上で戦果を早々に出したベラの気転には、さすがにデイドンも笑うしかなかった。


『大したものだ……とでも言っておきますか。その選択が正しいかは別にしてですがね』


 そう口にして、デイドンの乗る三つ首の大型竜機兵ドラグーン『エルダーグレイ』が翼を広げて崖から降り、それに併せて十機の竜機兵ドラグーンたちも共にその場に降り立った。


『じゃあ、り合おうかい』


 そして、ベラの『アイアンディーナ』が駆け出していく。

 対してデイドンの乗る『エルダーグレイ』の前にいる竜機兵ドラグーンたちも、ハルバードを構えて走り出した。そのハルバードとは、斬る突く打つと多彩な攻撃パターンを持つが故に訓練された兵でなければ扱いが難しい武器だ。また、その竜機兵ドラグーンの立ち振る舞いからも、ベラは目の前の竜機兵ドラグーンたちが元騎士型鉄機兵マキーニであると看破していた。

 つまりは、以前に相対した傭兵鉄機兵マキーニの変異した竜機兵ドラグーンよりも実力は上だろうとベラは考える。


『ま、だとしてもだ』


 ベラは想定した距離まで近付くと、同時に足に装着している射出装置カタパルトを起動させた。するとその場で両足の射出装置カタパルトから鉤爪が地面に突き刺さって固定され、その状態から『アイアンディーナ』が一気に射出されたのだ。

 そして加速した『アイアンディーナ』の回転歯剣チェーンソーが正面の竜機兵ドラグーンの一機をハルバードの柄ごと切り裂き、さらにそばにいた竜機兵ドラグーンの胸部へとウォーハンマーのピックを突き刺した。


『どれだけ機体が強化されようが』


 そこに二機の竜機兵ドラグーンが迫るが、『アイアンディーナ』はウォーハンマーを手放し、勢いを捨てずに駒のように一回転しながら、左手の仕込み杭打機スティンガーを迫る竜機兵ドラグーンへと突き刺して、


『乗り手が変わらなきゃあ意味はないね』


 さらには、もう一機の鉄機兵マキーニへと回転歯剣チェーンソーを突き立てた。回転歯剣チェーンソーの振動音と破砕音がその場に木霊し、操者の座コクピットから赤い血が噴き出した。

 そして、開始よりわずか2分と経たずに六機の竜機兵ドラグーンがその場に崩れ落ちる。対してデイドンはそれほど、あわてる様子もなく『そうですね』と返した。


『ん?』


 それから、ベラは違和感に気付いた。

 周囲で崩れ落ちた何機かの竜機兵ドラグーンが動き出したのが見えたのだ。それにはベラも目を細めながら、回転歯剣チェーンソーと、倒した敵の持っていたハルバードを奪って構えた。

 それに対してデイドンが笑いながら口を開く。


『乗り手は『変わり』ましたよ。『ただの人間』であった頃以上の存在へとね』


 その次の瞬間、倒れていた竜機兵ドラグーンたちが一斉に立ち上がった。

次回更新は、7月6日(月)00:00予定となります。


次回予告:『第129話 幼女、殺し合う(仮)』


バルお兄さんたちとは離れてしまいましたが、デイドンおじさんが寂しくて泣いてしまいそうなベラちゃんに玩具を渡してくれたみたい。良かったですね、ベラちゃん。それ、何度でも遊べるみたいですよ。

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