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ロリババアロボ ー 6歳からの楽しい傭兵生活 ー  作者: 紫炎
第一部 六歳児の初めての傭兵団

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第123話 幼女、次の手を考える

 バルの鉄機兵マキーニ『ムサシ』が銀霧蒸気を噴き上げながら、陣形を組んだ軽装甲ライト鉄機兵マキーニたちへと駆けていく。それはマルスの『デアヘルメェス』ほどではないにしても、『ムサシ』の突進速度には軽装甲ライトによる速度を重視した鉄機兵マキーニたちであっても驚きの声を上げるほどのものだった。


『こいつ、速い!?』

『ヤツがマスカーの生き残り。スリアシを使うぞ』


 ムハルド王国の兵たちはベラと同じ程度にはバルのことも情報として知らされて行動していた。一部、流浪の傭兵となった者を除けばすでに滅亡したと言っても間違いではないマスカー一族だが、その武勇は今もムハルド王国でも知られているのだ。

 そのマスカーの力の象徴であったギミックウェポン抜刀加速鞘クイックスラッシャーから、黒鬼鋼クロキハガネで造られたカタナ『オニキリ』が放たれる。


『馬鹿なッ』


 抜刀加速鞘クイックスラッシャーによって加速された刃は灼熱の赤い輝きを放ち、目の前の軽装甲ライト鉄機兵マキーニを腕から銅まで真っ二つに切り裂いた。それは、その加速を制御できるギミックアーム怪力乱神マシラオがあるからこそできる芸当であった。


『装甲がッ、役に立たな!?』

『だが灼熱ヒート化は一瞬。であれば』


 その言葉を聞いてバルの口元がつり上がり、笑みを浮かべた。

 実際にベラが乗る『アイアンディーナ』の仕込み杭打機スティンガーなどもそうであるように、必要魔力量が多いために灼熱ヒート化した武装は継続して使用ができない。本来であれば確かに灼熱ヒート化は持続せず、精々が一撃程度だ。

 しかしバルの持っているオニキリは特別製だ。切り裂かれた鉄機兵マキーニと乗り手の魂力プラーナを吸収することで灼熱ヒート化を継続する魔性のカタナだ。

 そして本来黒いはずの刀身は赤き輝きを宿したままに、返す刀で二機、三機とその場で切り裂き、正確に乗り手の命を奪っていく。


『ウワァアアアアッ!』

『遅いな』


 さらに背後から軽装甲ライト鉄機兵マキーニが迫ってきたが、その相手に対してバルは、抜刀加速鞘クイックスラッシャーを回転させて、その反対側に収まっていた脇差しヒゲキリの柄を前に向けさせると、『ムサシ』の左手で握らせて振り抜き、その軽装甲ライト鉄機兵マキーニも貫いた。


『僕の出番がないねえ』


 そんなバルの戦いを見ていたマルスがそう口にする。もっともマルスの鉄機兵マキーニ『デアヘルメェス』の方とてただ見ているわけではない。『デアヘルメェス』は、分断されていた残り二機の軽装甲ライト鉄機兵マキーニたちと対峙していた。


『た、隊長?』

『ここはお前だけでも……』


 隊長機が部下の機体を逃がそうとしているようだったが、


『悪いけど、どちらもここでしとめさせてもらうよ』


 『デアヘルメェス』がそれを許すことは当然なく、マルスは隊長機を撫でるようにレイピアで切り裂いて刃より発せられる帯電スタンの効果で機体の活動を停止させると、続いての二機めも難なく踏み込んで倒し、その場での戦闘は終わりを迎えたのであった。




  **********




 戦闘を終えたバルたちがベラドンナ傭兵団の元へと戻ると、鉄機兵用輸送車キャリアの中からは悲鳴が響き渡っていた。


「おや、戻ってきたようだね」


 その鉄機兵用輸送車キャリアの前で陣取っていたベラが、鉄機兵マキーニから降りてきたバルたちへと声をかける。そのベラの周囲にはパラやデュナン、ジョン・モーディアス、それにマイアーが並んでいた。

 対してバルとコーザは頭を下げ、マルスは笑みを浮かべながらベラの前へと立った。


「やあベラちゃん。やってるようだね」


 その視線の先にあるのは悲鳴の響いている鉄機兵用輸送車キャリアの中だ。マルスの言葉には、ベラも肩をすくめながら鉄機兵用輸送車キャリアへと視線を向ける。


「ああ、さすがはムハルドの隊長さんだ。なかなか粘る。ありゃあ、死ぬまで口を開かないね」


 響いている悲鳴は鉄機獣ガルムの部隊の隊長のものだった。ジャダンとエナのコンビに拷問を任せているが、その悲鳴からしてまだ情報を出させられてはいないようだった。とはいえ、ベラの顔には余裕があった。


「ふーん。それで、そっちの人ってこと?」


 その余裕の理由は何か……ということに気付いたマルスの指摘に、ベラがヘラッと笑いながら頷いて、ベラたちの前で地図に向かい合っているムハルド王国の兵を見た。


「で、アンタはどうだい? 隊長さんを見習ってみて、もう少し粘ってもいいんだけどさ」

「は、はい。ムハルドは、こ、ここと……この場所で……」


 ベラに尋ねられたその兵士は、ベラの質問に答えることなく、目の前に置かれた地図に震える指を差してムハルド王国軍の配置を必死で説明していた。


「なるほどね。エルシャ王国への安全なルートはやはり押さえられているわけか」


 その指の先を見ながらマルスが頷く。


「まあ、そういうことさ。こいつが正しいことを言っていれば……だけどね」

「言っています。言っていますから、ラーサ隊長のようなことは……本当に」


 ベラの視線を受けて、兵士は怯えた顔でまくし立てるようにそう返す。その様子からここまでの間に散々脅しがかけられたことを察したマルスが肩をすくめた。


「脅しすぎてないかい?」

「普通だろ?」


 マルスの言葉にベラはそう返す。それには周囲にいたパラとジョンは顔をしかめていたが、マイアーやデュナンは特に気にした様子もなかった。 


「で、そっちはどうだったんだい?」

「別の隊と遭遇した。連絡係の広域通信型リエゾンも含めてすべて滞りなく」


 ベラの問いにはバルが答える。その横ではマルスがコーザを見ながら口を開く。


「一応、みやげもあるよ。ねえコーザ?」

「あ、はい。ふたつだけですが、鉄機獣ガルムの背につける対鉄機兵マキーニ用砲台を入手しました。人力による手動発射なので射手が落とされる危険はありますが」

「へぇ、面白いね。けど、いいのかい?」

「は?」


 ベラの問いにコーザが首を傾げる。


「アンタも戦場での役割が見つかったってことじゃないかい?」

「い、いや」


 そのコーザの戸惑う顔を見てベラが笑う。


「まあ、輸送手段を戦闘に出すつもりはあまりないんだけどね。ひとまずは今回鉄機獣ガルムを二機は確保したし、そちらで使って見るさ」


 その話を聞いてマルスがうらやましそうな顔をする。


「欲しいなぁ」

「やらないよ。自分とこの騎士団連れてくりゃあ余りもんをお持ち帰りもできただろうけどね。今回はあたしはあたしらが持ち帰る戦利品しか運べないよ」


 ベラの言葉にマルスが肩をすくめる。現状では確かにマルスには分が悪い話であった。それからベラは、仲間たちに地図を見るように促す。


「さて、マルスやバルも来たから話を戻すけどね。今私たちがいるのはこのエルシャ王国とルーイン王国を分けているザッカバラン山脈の麓で、ガルド将軍のいるコロサスの街はここだ。そっちの状況は分からないが、まあ助けがくるこたぁないわな」


 ガルド将軍率いるルーイン王国軍は、デイドンのパロマ・ローウェン連合軍を退けながら、ベラたちの後を追う予定となっている。

 とはいえ、率いている数が数だ。王都を攻略したビアーマ・ローウェン連合軍が合流して攻めてくる前に退却するとガルドは言っていたが、大人数での移動で騎馬兵を基準としたベラドンナ傭兵団の速度に追いつくことはあり得ない。ベラたちは今の人数でエーデル王女をエルシャ王国へと送り届けるしかなかった。


「ムハルドは情報が確かならばローウェンとは共に行動していない」


 ベラの言葉にそばにいるムハルド兵がひきつった顔で、うんうんと頷いている。


「連中はラハール領で一度本国から兵を補充し、こうしてエルシャまでの道を遮るように陣を張っているわけだが、まあ数で言えば他の軍勢に比べれば多くはない。とはいえあたしらの十倍はいるが」

「突破は無理ですね」


 パラがそう口にする。その横にいたジョン・モーディアスが地図を見ながら、口を開く。


「連中の戦力はジェドの傘下も入っているとはいえ、ラハール領にも兵を置いている。我がモーディアスの兵を殺してくれた恨みもあり……殺るならばこの機を……と思うのだが」

「けど、まともにやりあえば相当死にそうだけどね。王女様だけでなく、あんたの命も保証はしないよジョン」


 笑って言うベラにジョンが渋い顔をする。たとえ十倍差であってもベラならばはねのけられるという他人任せの算段がそこにはあったが、ベラの言葉の通りにそれが可能であったとしてもぶつかった際の犠牲は免れない。

 

「まあ、ムハルドより手前からザッカバラン山脈に入り、抜けるしかないのではないですか?」


 そうパラが言い、それには周囲の誰からも反論はなかった。ひとりを除いては……だが。


「ふーむ。山を抜けるという選択肢しかないのは確かだけどねえ。しかし、面白くはないね」


 ベラはそう言って北の地を見ながら笑った。その顔を見て何人かが非常に嫌な予感がしたが、ベラもそれを気にする性格ではない。そして続けてこう口にしたのだ。


「ま、場合によっては仕掛けてみても良いかもしれないね」

次回更新は、6月1日(月)00:00予定となります。


次回予告:『第123話 幼女、山へと挑む(仮)』


 お兄さんたちを集めてベラちゃんがなにやらご相談中。

 大きなお兄さん方にはできないような子供らしい提案でみんなをびっくりさせてしまいましょうね。

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