表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ロリババアロボ ー 6歳からの楽しい傭兵生活 ー  作者: 紫炎
第一部 六歳児の初めての傭兵団

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

123/390

第122話 幼女、帰りを待つ

鉄機獣ガルムと同等の速度を出す鉄機兵マキーニか』


 コーザの鉄機獣ガルムに跨がった鉄機兵マキーニ『ムサシ』の横で併走している鉄機兵マキーニを見ながら、バルはそう呟いた。

 そこにいたのはルーイン王国軍の『剣』のひとりであるマルスの鉄機兵マキーニ『デアヘルメィス』。その機体は、鉄機獣ガルムと並んで移動することが可能なほどに脚力に優れた鉄機兵マキーニであった。


(ローウェン帝国のウォートとかいう男の鉄機兵マキーニと同系統の調整がされているようだが……)


 バルがその『デアヘルメェス』を見ながら最初に思い浮かんだのは、ローウェン帝国八機将のひとりウォート・ゼクロムの乗っていた鉄機兵マキーニであった。ベラの『アイアンディーナ』と対等以上に立ち回った速度重視の鉄機兵マキーニ。『デアヘルメェス』はそれに近いコンセプトで成長しているようだった。

 もっとも限りなく軽量化を行い、防御などまるで無視した造りであったウォートの鉄機兵マキーニと比べ、『デアエルメェス』は要所には軽装甲を身に付けており、そこまで特化しているというわけではなかったが。


『いやー、それにしても面白い鉄機兵マキーニだなぁ。僕にもひとつ下さいよ』


 『デアヘルメェス』の中から、軽い口調の声が聞こえてきた。どうやらマルスは鉄機獣ガルムにかなり関心を持っているようだった。それには鉄機獣ガルムに乗っているコーザが困った顔をしながら言葉を返す。


『そりゃベラ様に聞いて下さい。今回も何機かは確保するんじゃないですか?』


 実際にベラは鉄機獣ガルムの利便性の高さから今回も隊長機は鹵獲して手に入れるつもりのようではあった。とはいえ、今は急ぎの移動だ。複数機を持って移動できるかは微妙なところではあったが。


『それよりもマルス様はカルビン騎士団の団長であらせられますでしょう。よく単独で参加などいたしましたよね』


 そのコーザの返し通り、今回の王女の護衛はベラドンナ傭兵団を中心としている。それ以外ではジョン・モーディアスの配下がいるが、マルスの方はといえば己の騎士団も付けずに単独での傘下となっていた。


『ははは、腰巾着から離れられる良い機会だったからね』


 対してマルスの答えは実にあっさりしたものだ。


『うちの騎士団は恥ずかしながら家柄と僕の手柄に群がるだけの能なしばかりになってしまっていてね。副官のメイリーは良くしてくれてはいるけど、こうして君たちと共に戦う方が僕のストレスが少ないのは確かだね』


 マルスがそう言ってバルへと視線を向けた。

 それに気付いたバルが少しだけ目を細めたが、操者の座コクピットの中でのことなので当然コーザにもマルスにも分からない。ともあれ、ここで彼らのどちらの方が強いかを決めるためにいきなり戦い始めるといったこともなく、彼らは追跡に集中しながら駆けていく。


 現在バルたちはベラドンナ傭兵団から離れ、逃げ出した二機の鉄機獣ガルムを追跡していた。

 すでに隊長機を鹵獲しているために敵側の情報入手に関して問題はないだろうが、相手側に情報が漏れるのは当然よろしくはない。

 鉄機獣ガルムの部隊が戻らなければいずれにせよ己らの存在は気付かれるが、それでもタイミングを考えれば時間は稼げていた方が彼らにとってプラスであった。


 そして少し進んだところでマルスからコーザへと通信が入る。

 その理由はコーザにも理解できている。正面に土煙が見えてきたのだ。それは恐らく追っていた鉄機獣ガルムたちのものであった。


『アレだね。先に行くよ』

『先にって……まだ速くなるんですか?』


 驚いた顔のコーザの前を『デアヘルメィス』が抜き去っていく。背のパイプから銀霧蒸気を激しく出しながら、その先へと進んでいく。


『コーザ。こちらも頼む』

『ハァ、仕方ない。接敵したら私は逃げるからなバル』


 コーザは戦闘要員ではないのだ。訓練された鉄機獣ガルムと対峙しようものなら、己の機体が元隊長機であったとしてもまともに戦える自信はなかった。対してバルがぼそりと呟く。


『予想よりも接触が早い。誘われたか?』


 その言葉にコーザは訝しげな視線をバルの乗る『ムサシ』に向けたが、そのバルの言葉はコーザへの返しというよりも、自分への確認の言葉のようだった。




  **********




『誘われたかな?』


 そして、バルの懸念を先攻していたマルスも同じように感じていた。

 目の前の二機の移動速度が明らかに変化している。唐突に速度が遅くなったようだったが、マルスの『デアヘルメェス』を確認してからは接触せぬように再び速くなっていた。

 だが『デアヘルメェス』の速度がさらに増したことで彼らに焦りが生まれたようにもマルスには感じられた。その走りに宿る意志から彼らが何かを狙っていて『デアヘルメェス』の速度がそれを崩していると判断する。


(先ほどの奇襲は間違いなく連中には不意打ちで、把握はできていなかったはず。それが今になって誘いをかけるということは……)


 そう思案しかけたマルスの左右から何かが迫る気配がした。


『ああ、ここで待っていたのか』


 そう口にしながらマルスはグリップを降り、フットペダルを小刻みに刻んで、迫ってきたソレを避けた。


『待ち伏せされていたか。広域通信型リエゾンとでも連絡を取っていたのか……な?』


 そう呟きながらマルスが目を見開いた。左右から飛び出してきたのは正面のものとは違う二機の鉄機獣ガルムであった。だが、その背についているものを見てマルスの警戒心が一気に上昇した。


鉄機獣ガルム二機、背に大砲だって?』


 一瞬マルスが左腕を前に出して、撃ち出されたソレに接触させる。


『つっ!?』


 衝撃が走り、マルスがうめき声を上げながら姿勢を崩さぬように操作しつつ下がった。続けて二射、三射と放たれた攻撃を避けながらマルスが『面白い使い方をするな』と口を開く。

 それから鎖の絡まった左手がもう動かないのを確認しつつ、マルスは足を止めずに周囲へと視線を送る。

 森の中からは鉄機獣ガルム軽装甲ライト鉄機兵マキーニが、さらには鉄機獣ガルムの背には大砲が接続されて砲手もいて、また撃ち出したのは対鉄機兵マキーニ兵装である『鎖』であった。


『マルス様ッ』


 その場にコーザの鉄機獣ガルムが追いつき、通信で声をかける。


『コーザか。こいつらは僕がやるよ。それよりも広域通信型リエゾンがいる。それを探してくれるかい?』


 マルスの言葉にコーザが息を飲むが、それが追っていた二機が他の部隊と合流したことに対するマルスの結論だった。

 恐らくは移動中に二機の鉄機獣ガルムは別の部隊の広域通信型リエゾン風精機シルフィと通信で接触し、少ない数で追撃してきたマルスたちを囲んで倒そうという気なのだとマルスは考えていた

 もっとも、その命令にはコーザが眉をひそめた。ベラであればいざ知らず、目の前にいる敵の数は多く、さらにマルスの鉄機兵マキーニの左腕はすでに『鎖』によって封じられる。


『ですがマルス様の鉄機兵マキーニの腕が』

『承知した。コーザ、あの丘を進め』


 コーザは無謀と考え忠告しようとしたが、バルがそれを遮り、そう口にする。


『理解しているようだな。そういうことだ。コーザ、頼んだぞ』


 その双方の言葉にコーザが戸惑うが、マルスとバルのどちらからも言われては従わないわけにはいかない。それから『ご武運を』とコーザが口にし、『ムサシ』を乗せたまま森の中へと駆けていく。併せてバルたちを鉄機獣ガルムが三機追いかけていったのを見れば、バルの指示した方角に広域通信型リエゾン風精機シルフィがいるだろうことと間違いないだろうと考えた。それからマルスは『デアエルメェス』の腰に刺さっているレイピアを一本抜いて構えた。


『さて、あのベラちゃんを満足させられる結果となるか否か』


 そう言いながら、ルーイン王国最速の鉄機兵マキーニ『デアヘルメェス』は駆け出していく。


『たかだか一機。それに赤いヤツじゃない。囲んで仕留めるぞ』

『隊長を取り戻すんだ』


 対して次々と声が挙がり、ムハルドの鉄機獣ガルム軽装甲ライト鉄機兵マキーニが駆けてくる。


『そりゃあ僕はベラちゃんじゃあないけどねえ』


 そう言いながらマルスは『デアヘルメェス』を操作して、迫ってきた軽装甲ライト鉄機兵マキーニの胸部の隙間を通すようにレイピアで貫いた。悲鳴が漏れるが、それをマルスは気にせず刺したレイピアを手放し、二本目の腰のレイピアを抜く。


『こんのぉおお!』


 さらに別の軽装甲ライト鉄機兵マキーニが斧を振り下ろすが、それをマルスは鎖で固められた左腕で受けながら、一歩進んで体当たりをかける。


『撃てッ』


 続けて鉄機獣ガルムの背の砲台から『鎖』が飛び出し『デアエルメェス』へと向かうが、


『喰らうかよ』


 それを『デアヘルメェス』は地面に対し、足を思いっきり地面に蹴り上げて、跳ね上げた土塊を『鎖』にぶつけて勢いを殺し、そのまま横に飛んだ。


『おぉぉおおっ!』


 さらに近付いた砲台付き鉄機獣ガルムの一機をレイピアで貫くとマルスは『デアエルメェス』の追撃を逃れるために後方へと下がった。


『相手は一機だぞ』

『囲めぇええ』


 それからマルスは、少しばかり顔を歪めながら突き刺したレイピアを手放して、三本目のレイピアを取った。

 携帯していたレイピアは全部で四本。つまり所持しているのは残り二本。迫る軽装甲ライト鉄機兵マキーニを再び貫こうとしてレイピアを向けるが、


『チッ』


 そこに鉄機獣ガルムが二機飛びかかる。

 それに舌打ちしながらマルスが一歩下がり、さらにはすぐさま一歩進んで、大地に足を付けた鉄機獣ガルムの一機をレイピアで貫くと、さらに一歩踏み出しながら最後のレイピアを抜いた。


『がぁあっ!?』

『雷のギミックウェポンだと!』


 そのレイピアが白き稲光を放つと、刃に接触させていた鉄機獣ガルムが崩れ落ちた。そのレイピアは帯電スタン化による放電で相手の動きを止めるギミックウェポンの一種であった。


『で、終わったのかい?』


 ホッと息をついた後にマルスがそう口にすると、通信が入ってきた。


『はい。広域通信型リエゾン鉄機獣ガルムも滞りなく』


 その言葉を返したのはバルの鉄機兵マキーニ『ムサシ』であった。森から出てきたその機体にムハルドの鉄機兵マキーニたちがざわめいたが、バルの言葉通りにその場から離れて隠れていた広域通信型リエゾン風精機シルフィも、追いかけていった鉄機獣ガルムもすでにカタナの錆となっていた。

 残りが軽装甲ライト鉄機兵マキーニのみであるならば逃亡の心配はもはやない。そして、バルとマルスがどちらからともなく頷き合うと、彼らは駆け出して残りの敵の掃討を開始したのである。


次回更新は、5月24日(月)00:00予定となります。


次回予告:『第123話 幼女、先を急ぐ(仮)』


 逃げていったワンちゃんたちはバルお兄ちゃんたちが捕まえてくれたようです。さて捕まえたワンちゃんたちがキャンキャン鳴いていますが、果たしてベラちゃんは今何をしているのでしょうか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ