第11話 幼女、後始末をする
さて、戦いが終われば事後の処理が待っている。
まずは盗賊団の残りの始末だが、実のところほとんどの盗賊は戦闘中に死亡していた。数名は脱出したようだが、砦に残っていた盗賊も3人ほどいたらしい。
らしいというのは、現時点においてはすでに死んでいるためである。ベラたちが発見したときには見るも無惨な姿となっていた。彼らは捕らわれていた女性たちのリンチによって殺されたようである。
村から出る際に女たちは夫や子供を殺されている。強者と弱者の立場が入れ替わったのだから、それは起こるべくして起こった状況なのだろう。
そのことに関してベラとしては手間が省けただけなのだから特に言うことはなかった。死んだ盗賊は賞金首ではない。かといっても逃がすわけにもいかない。
捕らえて奴隷として売るのも面倒であり、元々ベラも殺す以外の道は特に考えてはいなかった。もっともベラに始末された方が楽には死ねただろうが。
そして、ベラはボルドに指示をして鉄機兵乗りと火精機乗りの首を集めさせ、砦内にあった金や調度品などをまとめさせた。ベラ自身が動かなかったのは、解放した女たちがどう動くか分からなかったからだ。
盗賊の所有物は基本的には盗賊を討伐した者が所有することが出来るルールではあり、元来の所有者が探しているものがあれば、高額で引き取られることもある。しかし、この近辺で襲って手に入れたモノなどたかがしれており、集めたモノも実際あまり期待は出来そうにないものばかりだった。
なお、ボルドが動き回っている間にベラが何をしていたかと言えば自分の鉄機兵『アイアンディーナ』の改修検討である。そして考えの纏まったベラは仕事をすべて終えたボルドにまたまた一働きさせることにしたのであった。
『チクショウ。老人をここまでこき使うか。絶対に良い死に方しねえぞ、おめ、ご主人様よぉ』
「ヒャッヒャ、この歳で死に方なんざ気にしてられるかい。いいからさっさとやるんだよ」
ボルドの悪態を笑って返しながらベラは『アイアンディーナ』の改修作業を見ていた。それは『アイアンディーナ』の左腕を外し、アバレスの鉄機兵の持っていたギミック腕を取り付ける作業だ。
ボルドの地精機『バッカス』の両腕からガシャガシャと無数の小さな補助腕が出て『アイアンディーナ』の左腕のボルトを外していく。それが終われば続けて外装を外し、そして関節部の各種のアタッチメントも外し、左腕を抜いていく。
続けて地精機『バッカス』は、すでに取り外していたアバレスの鉄機兵のギミック腕を『アイアンディーナ』に取り付ける作業に入る。
そして『アイアンディーナ』とアバレスの鉄機兵の規格自体は共通であったようで接続自体は上手くいった。接続し直した神経網の伝達率もほぼ問題なく、馴染めば元の腕と同じように扱えるはずだった。もっとも肝心のギミックを『アイアンディーナ』に使用させるためには『アイアンディーナ』の構造自体を改変する必要がある。
実際のところ、この鉄機兵の内部構造の大半を占める機械と呼ばれる部分については人間はまだそのほとんどを解明出来ていない。
規格があえば、人力で取り外して接続することも可能だが、こうした内部構造自体を変えるとなると魂力を消費し、構造体自体を改変する必要がある。
そして鉄機兵だけでは魂力を消費しても『修復』や自身の構造体の『強化』しか出来ないために、ギミックを取り付けるなどの能力改変には精霊機による調整機能が必須とされているわけである。
特にドワーフの地精機はその方面に優れているとされており、ボルドもその例に漏れず調整を得意としているようだった。
「しかし、不思議な光景だねえ」
ベラは『アイアンディーナ』の左腕から胴体部にかけて、魔力光が流れるように輝いている光景を見ながらそう呟いた。
『なんでも、鉄に宿る小さき神々が、天より授けられた設計図の通りに変質を行っている……っていうことらしいんだがよ』
ボルドは、地精機の中でそんなことを口にしながら作業を行っていく。
「どういう意味だい?」
『さあ? 俺も一族の伝承として聞いているだけだからな。そして、その小さき神々への供物が魂力と呼ばれるモノだって話だ』
魂力は巨獣を殺したり、鉄機兵を破壊した際に、竜心石に吸収されるエネルギーのことである。魔力と似ているが、厳密には違うもので、これを消費することで鉄機兵を変質させることが可能となるのである。
その後もベラはボルドに指示をして装甲板を換えさせたり、左手のアタッチメントに盾を接続させたり、小剣を腰に設置させたりと、矢継ぎ早に指示を出していき、『アイアンディーナ』の改修が完了したのはもう夜にさしかかった頃合いであった。
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そして翌日、ベラとボルドは破壊した盗賊団の鉄機兵を砦の中央にまとめておいた。一機は持ち帰ることにしていたが、その他の鉄機兵の竜心石は魂力を得るために破壊している。
だが、抜け殻である機体も売り物にはなる。新しい鉄機兵の苗床に出来たり、パーツをバラして『アイアンディーナ』にしたように他の鉄機兵につけることも出来る。
そうした回収の専門のスカベンジャーという職業の者もいて、ベラは後ほど街に戻った後にコーザに回収を願い出るつもりだった。
「しかし、連中の鉄機兵。どうも騎士団仕様のようだが、まさかルーインのじゃねえよな?」
まとめて運び出し終えて地精機から出てきたボルドがそんなことを口にする。それに対してはベラも特にもったいぶらずに返事をした。
「連中はパロマの騎士団さ。ご丁寧に乗ってた奴らの懐にパロマ騎士団の紋章入り小剣が入っていたからね。大方、負け戦の時にでも逃げ出した連中なんだろうよ」
「となると、賞金首にボーナスがつくんじゃねえか?」
そのボルドの言葉にベラも「ヒャッヒャッヒャ」と笑った。
敵国の鉄機兵乗りであり、その首には褒賞金がついている。証明の小剣があるので脱走兵だろうと問題なく褒賞金は手に入るはずで、ボルドの言葉通りに追加の金が貰えるはずだった。
「そうなったら、アンタにもひと樽ぐらいはくれてやってもいいかもね」
そのベラのつぶやきにはボルドも思わずゴクリと喉が鳴ってしまう。ドワーフ族にとって酒とはその身に流れる血に等しい飲み物だ。そのボルドの変化にベラはさらに笑うと、続けての問題に目を向ける。
その問題とは、盗賊団に捕らえられていた女たちの扱いであった。
すでに一晩は明けて落ち着いた女たちは、ベラとボルドに砦の中央に集められていた。
「そんで、女が全部で24人かい。思ったよりも多かったんだね」
「ああ、まあな」
ボルドは若干言葉を濁した。
正確には女は25人いたのだ。だが盗賊の頭らしき男の部屋で一人は暴行を受けて死んでいた。その暴行跡は新しく、それも女の手によるものらしく、おそらく殺ったのは目の前の連中だろうとボルドには想像がついた。顔はほとんど潰れていたが、まだ年端も行かない少女のようだった。
「なんだい?」
「いや……なんでもねえ」
ベラの訝しげな視線にボルドは首を振る。敢えてここで報告することもない。ボスの女になった少女が恨みを買われて殺されたというだけのことだ。残された盗賊をリンチで殺すような女たちだ。下手に拗らせて女たちが叛意を見せれば、目の前の幼女は容赦なく切り捨てるかもしれない。いや、確実にそうするだろうとボルドは考えていた。
「ふーん。まあ、いいさ。それで話はまとまったのかい?」
ベラは視線をボルドから女たちに向ける。ベラも一晩、答えを待っていたのだ。選択肢は多くない。もう頃合いだろうと考えていた。
「あ、ああ。私がとりあえず、まとめ役をさせてもらっているラマだ」
女のひとりが、前に出てそう答えた。
20代半ばといったところか。この盗賊団で捕らえられた女たちのとりまとめをしていた女性だったらしい。男どもの尻を蹴り上げて働かすようなタイプではあるが、彼女は自分の子供よりも小さい幼女に対して怯えた目を向けて立っていた。
「あんた……いや、あなたのいう通りに私たちはコロセスに行くよ」
「全員かい?」
ベラの言葉にラマという女も、その後ろにいる女たちも頷いた。中には10を越えたばかりの少女もいたが、彼女らに与えられた選択肢は少なかった。
村の男たちは盗賊団にすべて殺されており、村に戻っても働き手はおらず、領主に税を払うことは出来ない。それどころか今年は不作だった上に備蓄も奪われているのでそのままでは飢え死にするしかない有様だ。
故に女たちはベラの伝手で奴隷となって明日食うものを確保するか、或いは村に戻って飢え死にするか、もしくは結局は二束三文で奴隷として売られるかしかなかった。
村を捨ててなんの保証もなく見果てぬ地へと逃亡する道もあるが、それはもっとも生存する確率の低い賭けだろう。そんな無謀を許すほどイシュタリアの大地は優しく出来てはいない。
とはいえだ。女たちの決定については正直に言えばベラとしてはどうでも良かった。ヴァガーテ商会に引き渡せば金にはなるだろうが、そんなことよりもさっさと次の仕事にかかりたいというのがベラの本音である。戦奴都市コロセスに送り届けるのも手が掛かる。鉄機兵を一体持ち帰ることで進行速度が遅くなるので、ついでとばかりにベラはそのことを口にしていたが、そうでなければ、女たちを解放したままさっさと帰っていたに違いない。
ともあれ、ベラとボルドは、女たちを引き連れて街へと戻ることとなった。ギミックと鉄機兵の両方が手に入ったのだ。戦果としてはこれ以上ないものであった。
次回更新は2月2日(月)0:00。
次回予告:『第12話 幼女、紹介される』
ベラちゃんは小さいのに働き者。
奴隷の仲介に、ロボットの修理、それに情報収集。
幼女は今日も元気に頑張ります。




