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ロリババアロボ ー 6歳からの楽しい傭兵生活 ー  作者: 紫炎
第一部 六歳児の初めての傭兵団

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第118話 幼女、陥落を告げる

 早朝からのパロマ・ローウェン混成軍の再度の襲撃により、ルーイン王国軍は敗退せざるを得なかった。そしてルーイン王国軍は前線基地と近隣のエミルの街を放棄する決断をすると、コロサスの街まで退却していったのだ。そして退却する軍隊の中にはベラ率いるベラドンナ傭兵団もいて、彼女らがコロサスの街へと入ったのは退却から五日が過ぎた頃であった。



「たく、人使いの荒ぇご主人様だぜ」


 そう言いながらボルドはベンマーク商会所有の屋敷の中を歩いていく。

 コロサスの街に辿り着いたベラたちは、現在はベンマーク商会の施設を借り切っていた。この施設は実際にはコーザ個人のものではなくベンマーク商会の所有物ではあるのだが、コーザが一族へと送った絶縁状は未だ受理されたわけではなく、現時点でのコーザは自分の裁量でそれを行うことができる立場にあった。


「しっかし、いいのかね。勝手に使っちまって」


 コーザの事情をあまり理解していないボルドがそう言って頭をかきながらそう呟いく。もっともベラドンナ傭兵団が貸し切らなければ商会は他の騎士団や傭兵団に居座られる可能性もあった。身内であるコーザのいる傭兵団に使われているのであればそれは結果としてベンマーク商会の益となってはいるのだ。

 そしてボルドが短くない通路を進んでいくと、目的の部屋の前へと辿り着き、ドアノッカーを叩いた。それから少し間が空いてから、中からガチャリと音がしてドアが開けられる。


「よぉ、へぇるぜ」

「あいよ。さっさと入ってきな」


 その言葉に従ってボルドが中へと入ると、部屋にはいつも通りにふんぞり返った姿勢で椅子に座っているベラと、その前にあるソファーに座っている従者のパラとコーザがいた。


「なんでぇ? どうしたんだよ?」


 部屋の中の空気の悪さに思わずボルドが問いかけた。明らかに三人が三人ともピリピリとしていた。その雰囲気に気圧されたボルドにパラが顔を上げて何かを口にしようとしたが、結局何も言わずに顔を落とす。それを見てボルドがますます首を傾げたが、ベラが「ハッ」と笑いながら口を開いた。


「ついさっきガルドが来たのさ。そんでチョイと頼まれごとを受けちまってね」

「頼まれごと?」


 ボルドは益々分からぬと言う顔をしたが、ベラがニタリと笑う。


「ああ、ルーイン王国の王都アルザスが落ちた。その後始末のひとつを頼まれてね」

「……ハァ?」


 それにはさすがにボルドが大きな声を上げた。だがその場にいるパラとコーザは何も言わない。彼らはベラの言葉を否定しない。


「って、おいおい……マジなのかよ?」


 そのボルドの言葉にパラが苦々しい顔で頷きながら、重い口を開く。


「ローウェン帝国はパロマ王国だけではなく、隣国であるビアーマ共和国とも同盟を結んでいたのですよ。当然ビアーマ共和国側から王都への侵攻ルートにはそれぞれの領主の領軍もおりますが、それらすべてが突破され、王都が陥落したのはすでに三日前だそうです。この街に知らされたのは早馬でつい先ほどのことですが」


 そこまで言ったパラに続いてコーザが青い顔をしながら、口を開いた。


「ウチの実家も状況は不明です。こういうことがあれば真っ先に逃げ出してくるのですが、連絡もないということはあまり良い兆候ではありませんね」

「……マジかよ」


 そう一言ボルドが呟く。ベラが「ヒャッヒャ」と笑う。


「それにだ。西からはムハルドの軍も来てるんだよ。まあ連中もグルだってことだろうね。寄ってたかってルーインをイジメたいようだ」

「周辺三国がローウェン帝国と組んでルーインを落としに来たってのか。そいつはもう詰んでるじゃねえか」


 そのボルドの言葉にはベラも「かもねぇ」と返した。


「王都を襲ったのは竜機兵ドラグーンとは別の獣機兵ビーストってヤツらしいし、どうにも遊ばれてるね」


 竜機兵ドラグーンが出てきた時にも妙な感じがベラにはしていたのだ。まるでもらったばかりの玩具で遊ぶような、相手がどこか慣れていないようにベラには見えていた。


「あるいはこのルーイン王国は連中の新兵器の実験場にされたってことかもしれないね。まあ、そのおかげで得たものがあるけどさ」


 竜機兵ドラグーンの装備と腐り竜ドラゴンゾンビは、アレらとの対峙なしでは手に入らなかった。故に結果としてベラは己の力を増すことには成功していた。


「どうすんだよ? この国は負けちまった……ってことなんだよな?」

「そりゃあ、気の早い話だ。第二王子のドルーディア様ってのが指揮を執って王都の南にある砦に軍を集めて抗戦しているらしい。で、コロサスも放棄して王都に向かって合流せよって命令がガルドに来たようなのさ。こっちにも連合軍がいる以上は、それも難しいけどね。それに、あたしらにはもう……」

「……もう?」


 ボルドの問いにベラは少し考えてから「まあ、後で話すさ」とだけ返した。そのことにボルドが不満そうな顔をするが、ベラは気にせず「で、そっちの方はどうなんだい?」と尋ねる。

 そのベラの言葉の意味するところは『アイアンディーナ』の修理についての報告である。それにはボルドも気持ちを切り替えて頷いた。元々ボルドは、の報告のためにこの場に来ていたのだ。


「ああ、『アイアンディーナ』の修理は大体済んでるぜ。もう戦場に出ても問題はねえ」


 そのボルドの言葉にベラも満足そうに頷きながら、さらに尋ねる。


「そりゃあ結構。で、あれの調子も悪くはなさそうかい?」

「問題はないが……色々と手は加えたからな。『アイアンディーナ』の魂力プラーナはもう空欠だ。さすがにな」

「構いやしないさ。あんなもんはね。また貯めりゃあいいんだ」


 ベラがそう返す。実際にベラは戦場に出るたびに、他の鉄機兵マキーニを圧倒し、殺し尽くし、魂力プラーナを吸収し続けていた。ここまでは腰回りを中心とした強化を行っていたが、今回は完全に戦闘能力向上のための全体的な底上げを行っていた。ローウェン帝国八機将ウォート・ゼクロムとの戦闘はベラにとっても苦いものであったらしかった。


「貯めるのはよろしいのですが。ベラ様、あまりご無理はなさらぬよう」

「分かってるさ。ありゃあ、あたしのミスだ。もう二度と繰り返す気はないよ」


 パラの苦言にベラが苦い顔をして返す。前回の戦闘での『アイアンディーナ』の負った傷はベラが独断専行し過ぎていたために起こった問題であった。

 敵の襲撃に対して華麗に空から登場したように見えた『アイアンディーナ』であったが、実際には竜翼ドラゴンウィングの暴走により『飛び過ぎて』いたのだ。

 それでも敵を倒しながらの着地は見事なものではあったが、『ムサシ』も腐り竜ドラゴンゾンビも他の仲間たちもいない状態でヴェルラントリザード四体を相手取ったために『アイアンディーナ』はそれなりに深刻なダメージを受けざるを得なかったのである。


「ま、あの翼も次はちゃんと慣らしてから使うさ。それで良いだろう?」

「ハッ、出過ぎたことを口にしました。申し訳ありません」


 そう言ってパラが頭を下げる。


「さてと、左腕も含めて今からチョイと見るかい。パラ、後は任せて良いかい?」

「問題ありません。準備は整えておきます」


 そしてベラが立ち上がると、パラがかけてあったいつもの白いコートをベラに羽織らせる。それからベラはボルドと共に部屋を出て、『アイアンディーナ』の元へと向かうことにしたのである。




  **********




「しかし、やっぱり殺気立ってるねえ」


 ベラたちがガレージに向かうためにベンマーク商会の屋敷を出ると、外が異様な雰囲気に満ちているのに気付いた。

 そこでは傭兵たちが慌ただしく走り回り、荷台を抱えた商人らしき者たちが列をなし、街のどこかでは怒号と泣き声が響き渡っていた。


「そりゃあな。バルが一緒でなけりゃあ、俺だってちーと出歩きたくねえわ」


 戦争に突入して非常事態となったコロサスの街の中は喧噪に包まれていた。ふたりの後ろにバルが控えて周囲を牽制してはいるが、それがなければすぐさま囲まれかねない雰囲気がそこにはあった。

 また、ベラはそれでも切り抜けられるだろうが、自分は身ぐるみはがされて最悪殺されるだろうな……とボルドは考えていた。


「ガルド将軍が負け、西からのムハルド侵攻もすでに広まってきてやがる。今は王都側に逃げるか、北経由でビアーマ共和国か、迂回してエルシャ王国に逃げこむかで右往左往してるところだろうよ」

「ははは、そりゃあ嫌な三択だね」 


 王都は陥落し、ビアーマ共和国は侵略側に回った。少なくとも二択はハズレだ。


「こっちにしてみても笑い事じゃあねえんだけどよ」


 ボルドの言葉にベラが「ヒャッヒャ」と笑う。


「ま、辿り着けるんならエルシャに行くべきだろうがね。あそこはモーリアンの影響下にある。ローウェンだろうが、早々に攻められないはずさ」

「確かにそうだがよ。エルシャは厳しいだろう。通り道がほとんど道じゃねえって噂じゃねえか」


 コロサスの街から北はジリアード山脈よりも険しいザッカバラン山脈がそびえ立っていてエルシャ王国はその先にあるが、通常であれば西から迂回して入る必要がある。それでも道は険しく、実際にルーイン王国とエルシャ王国の交流はほとんどないと言っても間違いではなかった。


「そうだねえ。厳しいんだ。それが問題なんだよ」


 ベラがひとりそう呟いて、そのまま先へと歩いていくと、正面からこちらに向かってやってくる見知った顔を発見した。


「やあ、元気そうじゃあないかマイアー」


 その相手はかつてベラに雇われ、さらにはジョン・ロブナールの愛人となったマイアーであった。

 以前とは違う小綺麗な格好で、周囲に騎士たちを連れながらマイアーは街を歩いていたのだ。それからマイアーはベラの姿を見ると、少しだけ安堵した顔で口を開いた。


「ああ、ベラ様かい。ちょうど良かった。これからそっちに向かうところだったんだ」


 その言葉にベラが眉をひそめながら尋ねる。


「何か用かい?」

「おや、話はすでに聞いているって伺ったけど?」


 そのマイアーの言葉でベラの疑問も氷解する。


「ああ、あの件かい。こっちはさっき聞いたばかりなんだけどね」

「急ぎの案件だからね。さっさと進めなきゃあ行けない」


 何の話だか分からぬボルドの前で、会話が続いていく。それはここまでの経緯と軽い挨拶のようなものであったが、本題はこんな道端で告げられるものではない。故にベラも「じゃあ」と言いながら、道の先へと視線を向けた。


「この先に使っているガレージがある。貴族の愛人様にゃあちょいと汚いところになるが付いてきな」


 その言葉にはマイアーが肩をすくめる。


「つーか、あんたはその貴族の奥方様になるんだろうに」

「ちぃと股開いてガキを捻り出す約束をしたってだけの話さ。そんだけだよ」

「そんだけって」


 マイアーは呆れ顔をして、周囲の騎士たちも何とも言えない顔をしている。ベラがガルドと婚姻したことを彼らも知ってはいるのだ。つまりはベラの股から捻り出される予定の子供は自分たちの主の子でもあるのだから、どう反応して良いのか分からぬのも道理であった。

 その上に実際に彼らの目の前の人物と、婚姻をした相手と、その上に前回の戦いでの実績を上げた傭兵団の団長が彼らの中ではどうにも結びついてくれない。

 そうした中でベラは目を細めて、騎士のひとりへと視線を向けた。


「で、マイアー。そっちのヤツァ、なんだい?」


 それからベラが騎士のひとりを指差して尋ねたのだ。


「ああ、気付くんだ。やっぱり」

「だから言ったんですよ」


 マイアーが眉をひそめながら、騎士に口を開いた。それからその騎士が一歩前に出て、その横に付いたマイアーが口を開いた。


「こちらはベラ様と同じ『剣』のひとりであるカルビン騎士団のマルス様だよ。例の件で同行なさる予定なんでね」

「ああ、なるほどね。そういう繋がりかい」


 その言葉に、ベラは目を細めながら頷いた。


次回更新は4月27日(月)00:00予定。


次回予告:『第119話 幼女、改修する(仮)』


 そのうち遊びに行こうかなと思っていたテーマパークが実はもうなくなっていた……なんてことがあったら悲しいですよね。

 ともあれベラちゃんは何やら準備を整えているようです。果たしてベラちゃんは何をしようとしているのでしょうかね。

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