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ロリババアロボ ー 6歳からの楽しい傭兵生活 ー  作者: 紫炎
第一部 六歳児の初めての傭兵団

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第113話 幼女、感動の再会を見る

 デュナンは目の前の並んでいる男たちを見回した。

 オルドソード傭兵団。それはかつてデュナンがパロマ王国で団長をしていた傭兵団であった。

 奴隷となったデュナンがもう二度と会うこともないと思っていた彼らがそこにいた。しかし、その数はおおよそ二百名ほど。デュナンがいた頃よりもずいぶんと少なくなっているようだった。


「数が少ないようだね」


 その様子にベラが眉をひそめる。この場に何故オルドソード傭兵団がいるかは分からぬが、団員数はデュナンから聞かされていた。その数約五百名。しかし、今この場にいるのはその半数以下である。それはデュナンも当然気になるところではあったが、オルドソード傭兵団の面々はガルドの前で勝手に口を開くことを許されてはおらず、言葉を発することはできない。そして、その理由を口にしたのは、ガルドと共にいたジグモンドであった。


「彼らはローウェン帝国に使い捨てのように扱われていたと聞いています」


 その言葉を聞いてデュナンが息を飲んだ。

 もっとも実際に彼らにトドメを刺したのは当然ルーイン王国軍ではあるのだが、そのようなことをおくびにも出さずにジグモンドは話を続ける。


「その後に隙を見て逃走するも、脱走の際にもかなりやられたということですね。結果、足の速い者しかこちらにこられなかった……ということでしたか?」


 ジグモンドの言葉に、オルドソード傭兵団の中で今のリーダー格らしい人物がその場で「はっ」と答えて頷いた。

 その人物はデュナンがもっとも信頼していた副団長のアルキスであった。そのアルキスの表情を見て、デュナンはジグモンドの言葉が事実であることを悟る。そうした様子を眺めながら、ベラがジグモンドに尋ねる。


「で、これを報酬に? 厄介払いじゃあないのかい?」


 そういうベラにジグモンドは「まあ、実力はそれなりですがね」とだけ答えた。

 実際、パロマから逃れてきた彼らをルーイン王国軍が手に余していたのも事実である。

 普通の傭兵として扱うには信用がないが、その実力は捨ておけない。結局のところ、こちらでもローウェン帝国と同じく使い潰そうか……と考えていた矢先に引き取り手が現れたのだから、ジグモンドとしてもこれ幸いではあったのだ。

 そのジグモンドの言葉を聞いてベラが「やれやれ」という顔をしながら、一歩前に出てデュナンに尋ねた。


「で、デュナン。こいつらは使えそうのかい?」


 いきなり出てきた幼女に傭兵団の面々は状況が掴めずに首を傾げるが、デュナンが「はっ、ご主人様」と声を上げて幼女に跪いたのを見て、彼らは驚きの目で両者を見た。

 オルドソード傭兵団にまではさすがにベラ・ヘイローの噂は届いていない。だから彼らが思い浮かんだのは、目の前にいる褐色肌の幼女はデュナンを奴隷にしたどこぞの貴族のご息女なのではないか……というくらいであった。

 もっともデュナンにしてみればベラの問いは非常に恐ろしいものであった。かつての己の部下の運命が今、自分の言葉ひとつで決まってしまう。それは己が傭兵団長であった頃ならば常ではあったが、奴隷に落ちた身で背負えるものか……という思いにも駆られたが、オルドソード傭兵団の面々を見てデュナンの表情が変わった。それからデュナンが叫ぶ。


「お前ら、俺のシゴキにまだ付いてこれるか!」


 応っ


 一糸乱れぬ声が返ってくる。


 それを聞き、その表情を見て、彼らが己を待っていること、またその実力は衰えてはいないだろうことをデュナンは理解すると、ベラへと振り向いて強く頷いた。


「俺が育てた兵たちです。必ずやお役に立てるかと」


 そのデュナンの言葉を聞いて、ベラは思案する。

 それから今の仲間と、今後の戦いを思い、どうするべきか……それを決めるとベラは、ジグモンドとガルドへと向き合って口を開いた。


「それじゃあ有り難く頂戴する。好きに使わせてもらうよ」


 その言葉にガルドが「うむ」と頷き、ジグモンドも「では、手続きは後ほど」と言った。それからガルドが、婚約の誓約書をひとまず用意しそれをベラが受けると、そのままガルドたちはキャリアベースから去っていったのである。




  **********




 それからベラや他のメンバーも去り、その場に残されたのはデュナンとパラ、それにオルドソード傭兵団の面々だけとなった。

 なお、ベラが去る前に決めたことはふたつである。

 ひとつは、オルドソード傭兵団は重量のある対鉄機兵マキーニ用兵装を所持していなかったため、その他の物資も含めてリストアップし、コーザに鉄機獣ガルムでコロサスの街に買い出しに行かせることとなった。

 さらにもうひとつはオルドソード傭兵団の鉄機兵マキーニ調整メンテナンスを受けさせることであった。

 また現在のオルドソード傭兵団の内訳ではあるが、鉄機兵マキーニ五機に精霊機エレメント二機、それ以外では騎馬兵が百五十、それ以外の歩兵等が三十ほどといったところである。


「で、結局なんだったんですか団長。あの子供は?」


 ようやく上がいなくなったため、オルドソード傭兵団の副団長であるアルキスがデュナンに近付いてきて声をかける。その言葉にデュナンが渋い顔をする。


「団長はよせ。ウチの団長はさっきのお人だ。俺のご主人であるベラ・ヘイロー様、たった今からお前たちの雇い主にもなったようだがな」


 そう言ってデュナンが笑うが、アルキスたちは目をパチクリとさせて困惑した。それからアルキスが「あっ」という声を上げる。


「そういや、子供が団長の傭兵団の噂を聞いたことがあったけど……まさか、あれっすか?」


 それはここに来てから、別の傭兵との酒盛りで聞いた話である。ルーイン王国には異常に強い子供の傭兵がいると。

 実際に鉄機兵マキーニはベラが乗れているように子供でも操ることは可能であるため、子供の乗り手がまったくのゼロというわけではない。ジョンやヴァーラもベラよりも年は上の頃ではあったが、まだ一桁の年の時に鉄機兵マキーニに乗せられていた。ともあれ、噂になるほどの子供の傭兵などそう何人もいるわけもないのだから、デュナンもそれはベラのことだろうと頷いた。


「そりゃあ、ご主人様ぐらいだろうな。あんな人は他にはいねえだろ」


 そう口にするデュナンに、オルドソード傭兵団の面々が戸惑っている中、デュナンがギロリと睨んで口を開いた。


「で、こっちのことは後で話すとしてだ。なんで、てめえらがここにいるんだ? 話は一応さっき聞いたがな。そもそも雇われのお前らが強制されるってのが分からないんだが」


 当然のこととして、傭兵団とは雇われて戦争に参加する者たちだ。役回りとして捨て駒扱いされることもなくはないが、だが奴隷のように強制されて働くものでもないはずであった。

 それに対してアルキスは眉をひそめながら、言葉を返す。


「少なくとも、団長が……じゃなくて、デュナンさ……ま? デュナンさん?」

「デュナンさんで良い」


 デュナンの言葉にアルキスが頷くと、話を進める。


「デュナンさんが奇襲して捕まって、それからコージン将軍が指揮を取っていたモルド鉱山街での戦いまでは真っ当だったんですよ」


 それからアルキスが話すには、オルドソード傭兵団はデュナンが捕らえられたという間諜の知らせを聞き、身代金交換か、或いは人質交換用にルーインの貴族を捕らえようと躍起になっていたそうだった。

 だが結局のところ、街での戦闘はルーイン王国軍が優勢となり、コージン将軍が死に、ドラゴンの横やりが入ったことで撤退を余儀なくされたためにオルドソード傭兵団も退かざるを得なかった。そして、問題はその後であった。


「パロマの中央よりローウェン帝国との混成軍がやってきたんですよ。他の傭兵団もそうだったんですが、あの竜機兵ドラグーンとかいう鉄機兵マキーニモドキで威圧されて、奴隷同然の扱いを受けることとなったんですよ。従わなければ殺すぞってね」

「酷いな、それは」


 デュナンが眉をひそめる。そんな暴力的な扱いで傭兵を掌握するなど、これまでならばあり得ない話である。


「一方で、傭兵の中から竜機兵ドラグーンへのクラスアップを行うような話もありましてね。ローウェン帝国といえば、かつてはこの地域一帯を支配しかけた連中じゃないですか。一旗揚げるならここで……って連中が率先して動き出したんですよ」


 それからというもの、彼らはまるで人間の盾のように扱われ、最終的に限界だと感じて脱走するまでに二百が死に、さらにここにたどり着くまでに百が死んだとアルキスがため息をつきながら語り終えた。


「なるほどな……そいつは、苦労かけたな」

「いえ。そちらこそ、どうだったんです? 見たところ、悪い扱いではないんでしょうが」


 アルキスの問いにデュナンが「あー、それはだな」とどう言えば良いかと思案していると、ここまで黙っていたパラがデュナンの後ろに周り、持っていた紙の束でポンとデュナンの頭を叩いた。


「パラ?」

「ほら、ベラ様のお仕事をまずは優先してください。その後に酒盛りを開くことは許可します」


 その言葉にデュナンが笑みを浮かべる。


「その席で、デュナンも今のうちに彼らに礼儀を叩き込んでおきなさい。お仲間を酷い目に合わせたくはないでしょ?」


 パラにそう言われると、デュナンの顔がたちまち険しくなった。

 ベラは自分たちに対して寛容な部分があることはある。しかし、それはあくまで能力に応じた対価のようなもの。そして、デュナンは急ぎ現在のオルドソード傭兵団メンバーのリストや必要物資などをまとめ上げてコーザに渡すと、そのままコーザは鉄機獣ガルムでコロサスの街へと向かうこととなった。

 それからデュナンはオルドソード傭兵団のメンバーを集め、酒を用意し、ベラドンナ傭兵団に入ってからここまで起きたことを話し始めたのである。

 最初は冗談だと笑っていた面々も、デュナンの真剣な顔や、実際に見た鉄機兵マキーニや、この基地内でのベラドンナ傭兵団の状況などを鑑みて、それが事実であることを知り、その顔から笑みが消えていった。

 そうした状況の中で酒盛りは静かに進み、その日は特に何事も起きることはなかった。

 そして、異変は翌日の朝に起きたのである。




  **********




「あ?」


 パチリとベラの目が見開いた。


 そこは鉄機兵用輸送車キャリアの中にある小部屋で、ベラの専用部屋だ。鉄機兵用輸送車キャリアの中だけあって小さな小部屋だが、その部屋はベッドをのぞけば金銀財宝にあふれており、ほとんど金庫の中と言い換えても可笑しくはない様子だった。

 その中でベラは己の意識を覚醒させ、目を見開いた。何かを感じたようだった。

 それからベラは窓の外の光を見て、今が朝方であるのを確認すると、己のベッドを飛び降りた。


「まだ、静かなようだが……なんだかザワザワするね」


 そして、ベラは床に散らばっている宝石の指輪を適当に指にはめながら、白い毛皮のコートを上に羽織り、ガチャンと上へと続く扉を開けて鉄機兵用輸送車キャリアの上に昇ると、ジリアード山脈の方へと視線を向ける。


「ふーむ」


 また日は昇りきっておらず、薄暗い。その中でベラは目を細めて周囲を見回した。目で見た限りでは何か変化があるようには見えなかった。しかし、わずかだがベラは違和感があった。ベラはその違和感を気のせいだと切って捨てることはしない。


「こりゃあ、来るかね?」


 そう口にしたベラが鉄機兵用輸送車キャリアの下を見ると、キャリアベースの天幕の中からバルも出てきて、外を見回し始めていた。


「バル」


 ベラの呼ぶ声にバルが気付いて上を向く。


「下の連中を起こして、準備にかかりな。多分、来るよ」


 そのベラの指示にバルは頷くと、そのまま天幕へと戻っていった。

 そして、天幕の中からボルドの声がまず聞こえてきて、やがて何人もの声が続いて響き、次第に騒がしくなっていく。それからパラが天幕を飛び出すと、近くでほとんど野宿の状態のオルドソード傭兵団へと向かっていった。


 敵襲の知らせが届いたのは、それから少し後のことであった。


次回更新は3月16日(月)00:00予定。


次回予告:『第114話 幼女、朝の挨拶をする(仮)』


どうやらモーニングコールのサービスが来たようです。

少しだけ眠い目をこすってコーヒー代わりに血臭でお目覚め……なんていうのも、たまには良いかもしれませんね。

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