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ロリババアロボ ー 6歳からの楽しい傭兵生活 ー  作者: 紫炎
第一部 六歳児の初めての傭兵団

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第112話 幼女、孕ませろと言われる

「畜生、やってくれるぜ」


 キャリアベース(鉄機兵用輸送車キャリアから骨組みを伸ばして天幕へとしたもの)へと戻ってきた『アイアンディーナ』を見ながらボルドがそう口にする。

 たかだか模擬試合、ベラの腕であれば大したダメージもなかろうとボルドは思っていたのだが、『アイアンディーナ』の損傷は思ったよりも酷かった。

 もっとも外から受けたダメージはなく、それはベラの操作に機体が内部から悲鳴を上げた結果によるものだ。

 特に問題なのは竜腕ドラゴンアームの付け根部分で、竜腕ドラゴンアームの動きと過剰な出力に耐えきれずに胴体部分の装甲がめくり上がっていた。


「ヒャヒャ、ちょいとハシャぎ過ぎたよ」


 ベラが『アイアンディーナ』から降りて、ボルドにそう口にする。


「勘弁してくれ……つっても、そんだけの化け物が相手だったってことなんだろうけどよ。こいつぁ、手がかかるぜご主人様」

「まあ、結構な相手だったからねえ。その分のリターンは小さくないけどね」


 現場においての最高権限を持つ遊撃隊の地位『剣』。それがベラが手に入れたものだ。

 ベラにとっては最良のポジションであり、その采配こそがベラの力を最大限に生かすであろうことをガルドは理解していたし、元々はジェド・ラハールのために用意されていた役割でもあった。


「で、戦闘はどうなってんだよ? 竜血の力があっても修復には二日は欲しいぜ。ジェド・ラハールとの戦い以上に内部の損耗が大きいし、今回のケースを踏まえて改修もしておきたいんだけどよ」

「そうだね。まあ、最悪バルたちにでも任せるさ。それぐらいはそろそろ任せておきたいしね」


 すでにこの戦争に参加する気でいるベラがそう言って『アイアンディーナ』を見た。ガルドの鉄機兵マキーニ『トールハンマー』のパワーが大きかったために、何度となく続いた打ち合いで『アイアンディーナ』は見た目以上にダメージを負っていたのである。


「しかしだ。パワー勝負となるとやっぱり、竜腕ドラゴンアーム鉄機兵マキーニの部分が負けちまうね」


 その言葉にはボルドも頷く。


「そうだな。バランスは悪くなるが、魂力プラーナを使って右側を厚めに固定する方向で強化するように調整するしかねえな。バランスがズレるから慣れが必要だぜ?」

「そいつは最初から分かってて、これを装着させたんだ。ま、上手く操ってみせるから、アンタらはアンタらで上手く改修しておくれ」


 そう言い合っているベラたちに、マギノが近づいて声をかけてきた。


「で、ベラちゃん。あれはどうするんだい?」


 それからマギノが視線を向けたのは、竜翼ドラゴンウィングである。マギノはあれを早く試して欲しくて仕方がないらしかった。対してベラも思い出したように「ああ、そうだった」と声を上げる。


「実はガルドが見たがっていてね。すぐさま付けて欲しいんだけど」


 その言葉に「ゲー」と言ってボルドが嫌な顔をした。


「後で飛ぶ練習ぐらいはしたいけど、今のところは外しておくしかないね。正直、普通に戦ってるときには使える気がしない」


 大量の自然魔力マナを消費しながら空を飛ぶ利点がそもそもベラには感じられなかった。囲まれた状態からの離脱や、空中からの襲撃、砦への単機での潜入などの限定した状況であれば……とも思うが、常時装備しておいてはデッドウェイトにしかならない。


「うーん、そうかい。残念だねえ」


 マギノがそう口にするが、ベラの言葉の意味も分かっているので、それ以上は特には何も言ってはこなかった。

 それからベラたちは、今回のガルドという高レベルの相手との戦闘結果からの『アイアンディーナ』の改修作業の洗い出しを検討しはじめたのだが、その途中で連絡係として本部の天幕に残っていたパラが足早にキャリアベースの中へと入ってきた。


「ベラ様」


 少し慌てた顔のパラを前に、ベラは眉をひそめながら尋ねる。


「なんだいパラ?」

「ガルド様がこちらにいらしています」


 そう口にしたパラの後ろ、キャリアベースの入り口の外にはもうガルドと、その副官であるジグンモンドの姿が見えた。


「邪魔をするぞ」


 そうしてキャリアベースの中へと入ってきたガルドに、ベラたちが一斉に跪く。それにガルドが「良い」と口にすると、ベラが真っ先に立ち上がった。


「それでどういった用件で?」


 そのベラの問いにガルドが「うむ」と言いながら鉄機兵用輸送車キャリアに立て掛けてある竜翼ドラゴンウィングを見る。


「あれが竜翼ドラゴンウィングか」


 ガルドの言葉を聞き、ジグモンドも興味深そうにそれを見た。


「あれは竜機兵ドラグーンのものなのか?」


 その言葉にベラが頷く。


「ああ、そうだよ。ここにくる途中にチョイと挨拶をしたら、くれたのさ。大将の息子さんから経緯は聞いてると思うけどね?」


 ジグモンドは頷く。ヴァーラやエーデル王女の従者からの報告で、ベラの行動についてはジグモンドもすでに把握していた。その上で先ほどの模擬試合を見れば、ジグモンドもベラがガルドと同等に近い力を持っていると認識せざるを得なかった。


「ああ、それは聞いている。だが何故竜機兵ドラグーンの装備を鉄機兵マキーニで使用できるのかについて我々は聞かされてはいない。見たところ、腕と尻尾のようなものも竜機兵ドラグーンと同じもののようだが?」


 竜機兵ドラグーンのパーツは基本的に鉄機兵マキーニに比べると生物的な形状をしており、見た目だけでもすぐさま判別がつく。竜尾ドラゴンテイルに至っては、そもそも鉄機兵マキーニにはそのようなパーツは存在していないのだ。


「まあ、そうだね。うちのマギノの話じゃ、ドラゴンの血をアイアンディーナが大量に浴びたためじゃないかって言ってたけど、こっちもよくは分からないさ」

「ドラゴン、外にいる巨獣か?」


 ガルドがそう尋ねる。彼らはここに来る途中で腐り竜ドラゴンゾンビも見ている。

 戦場でローウェン帝国が操っていたヴェルラントリザードよりも一回り大きいが、翼は生えているし、ただ大きいトカゲといった感じのヴェルラントリザードとは違って、その風貌は確かに物語にあるようなドラゴンのものだとガルドには理解していた。


「ああ、そうさ。竜機兵ドラグーンが変化してドラゴンになった。今や巨獣と変わらないが、あれは元々鉄機兵マキーニで、竜機兵ドラグーンになって、最後にドラゴンに変わったのさ」


 ベラの言葉にジグモンドが眉をひそめる。


「おんや、副官殿は与太だとでも思ってるのかい?」

「いや、しかし」


 己の心情をずばりベラに指摘され、ジグモンドがシドロモドロになるが、ベラも特には気にせず「ヒャッヒャ」と笑った。


「まあ、どう捉えてもらってもいいさ。少なくともあの時のヤツと違って、ここで戦ってる竜機兵ドラグーンは変わらないみたいだしね」


 そう口にするベラに、ガルドが言葉を返す。


「変わりそうなのがひとりいる」


 ガルドの言葉にベラが眉をひそめた。


「デイドン・ロブナール。ヤツの機体『エルダーグレイ』は今や我が『トールハンマー』と同じサイズであるようだった。その姿も鉄機兵マキーニよりも、竜機兵ドラグーンよりも巨獣に近いように見えた。それこそがドラゴンになる前段階と言うことはないか?」

「デイドンねえ」


 ベラはかつての戦場で回収した、強心器という鉄機兵マキーニを一時的に強化する魔法具をデイドンが持っていたことを思い出した。


(そうなると、あの女と同じようにデイドンも変わった……ということかね)


「まあ、あるかもしれないね。あたしたちが見たものと同じだとすれば……だけどね」


 ベラの言葉にガルドが頷く。


「とはいえだ。お前たちはアレの元で戦っていた経緯もある。そちらの従者は元デイドンの従者でもあると聞く」


 ガルドの視線を受けて、パラがビクッと震えた。その言葉にはベラが目を細めながら尋ねた。


「疑われていると?」

「それは我が払拭させた。我が剣である以上、文句は言わせぬ」

「なるほどねえ。まあ、ありがたい話ではあるけどね」


 先ほどの模擬試合は、実力を示し、周囲を説得させる意味合いもあったようだ。そして平然としているベラにガルドが尋ねる。


「で、討てるか?」

「ああ、楽しみだよ」


 そう言って笑ったベラから発せられた殺気に、ジグモンドが思わず気圧されて一歩下がった。


「それとだ。王女護衛の報酬になるが」


 報酬という単語にベラの頬が一瞬ゆるんだが、続けられた言葉を聞いて珍しくベラが目を丸くした。


「我が正妻の地位をやろう」

「は?」


 その後ろでボルドがガランと工具を落とした。


「あ、すんません。お、お気にせずに」


 慌てて工具を拾うボルドを無視して、ベラがその真意をガルドに問う。


「言っている意味が分からないね。正妻ってのは、あのジョン様の母親のことじゃあないのかい?」


 モーディアス家の後継者であるジョン・モーディアス。今もこの基地内にいるであろう彼の母親がガルドの正妻であるはずだったが、ガルドは己の首を横に振った。


「ジョンもヴァーラも我がモーディアス家を受け継ぐには弱い。故にお前には我が後継者を孕んでもらいたいのだ」


 そのあまりにも直接的な物言いに、ボルドが噴き出しそうになったが今度は押さえ込んだ。不敬とその場で斬り殺されかねないので、ある意味では今のボルドは崖っぷちの状態であるとも言えた。

 対してベラは、ガルドの言葉に少しだけ考えてから口を開く。


「あたしは誰かに縛られるつもりはないんだけどね。まあ、アンタのガキをこさえるのは悪くない。アンタの持っているものは随分とデカそうだしね?」


 そのベラの言葉にガルドは、


「我が国一と言われている」


 と答えた。どうやらガルドは鉄機兵マキーニのことだと勘違いしていたようだが、その返し言葉にはベラは舌なめずりをして笑みを浮かべた。


「そりゃあ、結構。できる体になったら、そしてアンタが死んでなければ、お受けしようじゃあないか」

「うむ。しかしできるとはいつのことか? 我は早めの方が良いのだがな」

「ガルド様。どう見ても彼女はまだ子をなせる年ではありませんが」


 横で頭を抱えながら口を挟んだジグモンドに、ガルドは少しだけ首を捻ってからベラに尋ねた。


「いくつだ?」

「ええと、六歳だね。まだ七の誕生日は迎えてないよ」


 即答するベラにジグモンドが目を丸くした。見た目通りであればおかしい話ではない……が、分かってはいても驚きがあった。一方でガルドはジグモンドに尋ねる。


「無理なのか?」

「無理でしょう。子供もできないし、ガルド様のじゃあ死にますよ。本当に。そもそも月のものもまだないでしょうに」


 ジグモンドの言葉にガルドがうなる。


「そうか。しかし、六歳か……なるほどな」


 何かしら思うところあるのかガルドがそう口にしてから黙ると、代わってジグモンドがベラたちへとむき直して声を上げる。


「まあ、その話は後ほどにいたしましょうガルド様。それとベラ・ヘイロー。この場にデュナン・オルドソードはいるか?」


 ベラが訝しげな視線をジグモンドへ向けるも、その言葉には頷いた。


「ああ、おい。出なデュナン」

「はい」


 ベラの言葉に従ってデュナンが一歩前に出る。その彼にしても何故自分が呼ばれたのは分からなかった。

 元パロマの貴族であることが知られ、スパイ容疑などで処刑されるのではないかという考えがデュナンの中で一瞬よぎったが、ジグモンドを見る限りはそうした雰囲気でもなさそうである。


「ベラ・ヘイロー、この男はお前の奴隷であったな」

「そうだよ。売るには少々値が張るよ」


 ベラの『アイアンディーナ』に次いで『ザッハナイン』のギミックの搭載数は多い。それらを含めてのデュナンの価値は今や相当に高騰していた。


「デュナン・オルドソード。お前はオルドソード傭兵団、そこの傭兵団長であった。間違いないか?」

「はい。間違いありません」


 そのデュナンの言葉にジグモンドが「良し」と頷くと、デュナンとベラに外に出るように促した。そして、ふたりが何事かと思って外に出てみると、そこには傭兵らしき男たちが並んでいたのである。


「団長ッ!」

「お前たち。どうしてここに」


 デュナンが懐かしい顔を前にして思わず駆け寄ろうとするが、


 「ガルド将軍の前である。控えよ」


 ジグモンドの言葉に、その場の全員が動きを止めた。その様子を見ながらベラがジグモンドへと尋ねる。


「で、どういうことなんだい?」


 ベラには目の前の傭兵たちに見覚えはないが、デュナンの様子から誰であるかは察せられた。


 彼らはオルドソード傭兵団。


 かつてデュナン・オルドソードが率いていたパロマ王国出身の傭兵団のメンバーが、ルーイン王国の基地の中に拘束もされずにいたのである。

次回更新は3月9日(月)00:00予定。


次回予告:『第113話 幼女、感動の再会を見る(仮)』


おやおや、ベラちゃんがプロポーズされてしまいましたよ。

そしてデュナンお兄ちゃんには感動の再会が待っていました。

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