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ロリババアロボ ー 6歳からの楽しい傭兵生活 ー  作者: 紫炎
第一部 六歳児の初めての傭兵団

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第110話 幼女、大きいと言う

「へぇ。大層な顔ぶれじゃあないか」


 ガルドに呼ばれ、兵に案内されるままにベラが大きくしっかりした造りの天幕へと入ると、そこにはガルドを始めとした騎士団の団長の面々が並んでいた。


(お姫さんに、ああ兄弟仲良く……ではないようだけど、ヴァーラたちも一緒にいるみたいだね)


 ガルドの横にはエーデル王女、さらに離れた位置にジョンとヴァーラのモーディアス兄弟も立っているのをベラは目撃した。

 そしてベラの背後には従者であるパラと護衛であるバルが続いている。

 そのベラの登場を目にしたガルドが少しばかり目を細めた。ベラには分からなかったが、それは珍しくガルドが驚いている表情であった。もっとも周囲のざわめきはガルドのわずかな変化をかき消すほどに大きかった。

 それも仕方のないことではある。実在のベラを見てしまえば、知らぬ者は皆担がれているようにしか思えないのだ。

 今のベラは白い毛皮のコートを纏い、全身を、宝石をちりばめた装飾品で着飾り、さらにその背にはオリハルコンのウォーハンマーを背負っている。またベラは、子供とは思えないほどに丁寧な仕上げではあるものの、妙にケバケバしい化粧を己の顔に施していた。

 そんな着飾ったベラがゆっくりとガルドの前へと歩み、それからジャラリと装飾品が揺れて音を鳴らしながら、パラ、バルと共に頭を垂れた。


「ベラドンナ傭兵団 団長ベラ・ヘイロー。参上したよ」


 口調こそソレだが、ベラにしてみればこれまでにない丁重な素振りではあった。

 そもそも、この場においてベラの立場はあまり大きいものとは言えない。ベラは爵位を受けたとはいえ一代限りの貴族だ。また傭兵団の団長など実質的なものはともかく、目の前の彼らにとっては末端の兵を扱う連絡係のようなものだった。

 またベラが名を馳せたモルド鉱山街の戦いはその後の状況により、実状を知っている者が極端に少ない。確かにベラの名は多少知れ渡ってはいるが、実際に見た者たちの証言はマユツバモノのおとぎ話のようなものにしか聞こえず、吟遊詩人などにも扱われてもいたのである。

 そんな渦中の人であるベラに対してガルドが口を開いた。


「ベラ・ヘイロー。エーデル王女の護衛任務ご苦労であった。顔を上げよ」


 その言葉を、顔を落としながら聞いていたベラが「おや?」という顔をする。すでにエーデルとヴァーラがガルドと共にいるのだ。であればラハール領とムハルド王国の件は知っているはずである。

 そんなことを考えながらベラが顔を上げるとガルドと視線が合った。そしてその表情が他言無用と告げているのをベラは理解する。


(ああ、そういうことかい。だったら事前に教えておいて欲しいものだね)


 ベラはそう思いながらも顔には出さずに頷いた。

 また顔を上げたベラの容姿が見えた周囲からは再び動揺の声が挙がった。小人コロボ族かと思った者もいたのだろうが、間近で見ればベラが子供であることは明らかであったのだ。

 そんな周囲の反応を無視してガルドが口を開く。


「ベラ・ヘイロー。これよりそなたには我が方の『剣』へと任命する。励むように」

「はぁ?」


 続いてガルドの唐突な言葉にベラが目を細めた。それも『聞いていない』話だ。

 『剣』とはこの地域で呼ばれる戦場に置ける立ち位置のことだ。要は権限を持った遊撃隊である。大戦帰りのように並ならぬ力量を持つ兵を最大限活用するために用意された役回りで、現在、この戦場では二名の鉄機兵マキーニ乗りがそれを担っていた。

 無論、それを周囲の貴族たちが飲めるかと言えば当然否であった。


「こんな子供がですか?」

「ガルド様。お戯れを」


 そんな言葉が上がると周囲からも同意の声が漏れ始めた。それをベラが冷めた目で見る。


(……茶番だねえ)


 最初に声を上げたふたりの動きをベラは見逃してはいなかった。声を上げる動作の時からベラは見ていた。最初から予定した者の動きであったとベラは見抜いていたのだ。

 つまりこの状況は誰かの、恐らくは目の前のガルドが入れた仕込みである……と、そうベラは判断した。

 それからどう出るつもりなのかと思いながらガルドを見たが、ガルドは周囲を見回しながらまだ口を開かない。


「しかし私はモルド鉱山街での戦いを見たぞ」

「そうだ。あの巨大トカゲを殺せるのは竜殺し以外にはない」


 モルド鉱山街で共に戦っていた者からも声が上がる。その顔をベラは覚えてはいなかったが、どうやら味方もいるようだとベラは理解する。その状況を見定めながら、ガルドは右手を挙げた。


「静まれ」


 そしてガルドが声を上げると周囲のざわめきがピタリと消えた。ガルドの言葉を疑問視する者はいても、ガルドという男自身に対して反発できる者はこの場にはいないようである。


「みなの考えは分かった。目の前のベラ・ヘイローに対してみなが不安を抱えているということを」


 そうガルドが言うと、ベラを知っている一部を除いた者たちから同意の頷きが返ってきた。


「であれば、実力が見たい……とそういうことだな?」


 続いての言葉にベラが「ヒャッ」と笑い声を上げた。

 下手すぎる芝居に思わず、大声で笑いそうになったがベラは何とか堪えながらガルドを見る。


「と、いうことだベラ・ヘイロー。みなの同意を得るために我とひと勝負やってみるのはどうか?」


 その言葉にベラが笑みを浮かべながら、言葉を返す。


「回りくどい口説き文句は女に嫌われるよ」

「知らんな。我は望んだ女を逃したことはない」


 その返しにベラが「ヒャッヒャッ」と笑いながら頷いた。


「まあ、いいさ。あんたのはデカそうだ。お受けしよう。ガルド・モーディアス将軍閣下。アンタに授けられた宝剣の持ち手に恥じぬ腕を見せてやるさ」


 ベラの言葉にジョンとヴァーラがピクリと動く。同時に周囲からも動揺の声が上がった。その、この場で己の所有を確実にしておこうというベラの考えにガルドも頷いた。兄弟が苦い顔をするが、ガルドの同意は覆らない。

 そしてベラの鉄機兵マキーニ『アイアンディーナ』とガルドの鉄機兵マキーニ『トールハンマー』の対戦が決まり、その場は解散となったのであった。




  **********




「何がどうなってるんだか。たく、いきなりってのは勘弁して欲しいぜ」


 整備を終えたボルドがそう口にしてからため息をついた。

 そのボルドの前ではベラの乗った『アイアンディーナ』が鉄機兵用輸送車キャリアから降りて、ゆっくりと歩いて陣地の中へと入っていくのが見えていた。


「まあ、特に問題もねえか。背中のアタッチメントを代えただけだしな」


 そう言ってボルドがどっこらしょと腰を下ろす。

 それはつい三十分前のことだ。ベラがガルドに呼ばれ戻ってくると、すぐさま『アイアンディーナ』を使えるようにしろとボルドに告げてきたのである。


「あーあ。翼外しちゃったよ。動かしてるところ見たかったのにねえ」


 ボルドの横でガッカリとした声を出したのはマギノであった。もっともその翼こそが急ぎ対応しなければならない問題だった。ベラの機体は特に損傷もなかったのだから、それがなければボルドたちも焦る必要はなかったのである。

 そのマギノの指摘する翼、竜翼ドラゴンウィングと名付けられたギミックは先ほどまで『アイアンディーナ』の背に取り付けられていた。しかし「今は邪魔だから」というもっともなベラの要望により外された。


「うっせーぞマギノの爺さん。あんなもん邪魔だっての。自在に飛べるってぇわけでもねえだろうし。試したのだって何回か羽ばたかせた程度だろうが」


 ボルドがそう言って肩を落としているマギノに苦言を呈する。

 その竜翼ドラゴンウィングはゼハーダン森林地帯での戦闘で倒した竜機兵ドラグーンからはぎ取ったものだ。

 他の鉄機兵マキーニで試しても使用は不可能だったのだが、ベラの『アイアンディーナ』だけは何故か接続が可能であった。

 そのためにベラはマギノとボルドに指示をして『アイアンディーナ』にそれを装備させてみたのだが、実際に試してみたところ戦闘での活用はかなり難しいと言わざるを得ないシロモノだった。

 どうにもまともに使えるようになったとしても消費魔力量が大きく戦闘での活用は限られそうだった。

 精々が腐り竜ドラゴンゾンビがよくやるように空中からの奇襲をかけるか、ゼハーダン森林地帯で竜機兵ドラグーンがしたように逃走の手段、或いは移動手段に使える程度だろうと思われた。

 だからベラが「外せ」と言ったのも当然のことではあるのだが、突然すぎるオーダーにボルドたちが慌てるのも当然のことで、ボルドやマギノ、そのほかのベラドンナ傭兵団の精霊機エレメント乗りたちはその場で疲れて転がっていた。


「それにしても不思議だね。規格は同じはずなのにベラちゃんの『アイアンディーナ』にしか使えないなんてねえ。やっぱりあの竜の血を浴びたせいかなぁ?」

「さあな。まあ、他に理由もなさそうだけどよ」


 マギノの問いにボルドがそう返す。

 ベラの『アイアンディーナ』は以前の異形鉄機兵マキーニ、及びドラゴンとの戦闘により若干の変化が起こっていた。それは当初『アイアンディーナ』の全身に浴びせられたドラゴンの血の跡が波紋状になって残っていただけかと思われていたのだが、通常であれば数日を要する魂力プラーナ消費による物質生成も『アイアンディーナ』は短時間に安定して行うことができることが判明していた。

 ベラは戦闘中にダメージを負うことがほとんどないので使われていないが、つまりは戦闘中に機体を修復することも今のアイアンディーナには可能なのである。

 また竜の血は竜機兵ドラグーンパーツの使用条件クリアの鍵でもあったようで、それをマギノが調べて確認がとれたのはラハール領でのことだった。


「するってえと、まだ残ってる竜の血を鉄機兵マキーニに浴びせりゃ竜機兵ドラグーンのパーツも使えるようになるってのか?」

「かもしれないねぇ。どの程度の量が必要なのかは調べてみないと分からないけれども」


 マギノがそう答えてから『アイアンディーナ』を見る。


「で、それで僕たちが頑張って仕上げた『アイアンディーナ』だけど、結局何に使うんだい? 僕は聞かされてないんだけれど」

「なんでもルーインの騎士様と戦うんだとか何とか。俺らは見れねえんだけどな」


 ボルドも『アイアンディーナ』の進む方向に視線を向けながらそう答える。その先にあるのは騎士団の陣地だった。




  **********




 そしてベラの鉄機兵マキーニ『アイアンディーナ』がその場にたどり着いた。そこは騎士団の陣地内にある開けた場所で、周囲には貴族たちが護衛の鉄機兵マキーニと共に囲んでいた。


(なーにを期待してるんだろうねぇ)


 ベラが意地の悪い顔をしながら『アイアンディーナ』の水晶眼に映る光景を眺めている。戦場で負け続きの負け犬たちが与えられた餌を食べて憂さを晴らそうとしているような……そんな様子にしかベラには見えなかった。


『主様……あれは』


 そのベラに背後から声がかかる。そこにいたのはバルの騎士型鉄機兵マキーニ『ムサシ』だ。戦闘によって鉄機兵マキーニが破壊された際の回収係としてバルはその場にいることを許されていた。


『ああ、アレが鉄拳魔人、猛将ガルドの鉄機兵マキーニ『トールハンマー』……ね。なるほど、大きいね』


 ベラが『アイアンディーナ』の正面先にいる鉄機兵マキーニを見る。

 巨大鉄機兵マキーニ『トールハンマー』。その大きさはベラの『アイアンディーナ』の1.5倍ほどはある。また『鉄拳魔人』のふたつ名の通りにガルドの鉄機兵マキーニの本来の武器は鉄拳であるのだが、その手に持っているのはハルバードだった。

 もっとも、本来の武器ではないからといって油断できる相手でもない。


『確かに強いわな。ヒャッヒャッ、ジェドに続いて……面白いねえ』


 ベラはそう言って舌なめずりをしながら一歩前へと出る。ガルドの乗る『トールハンマー』も同じく前へと足を踏み出す。

 向かい合う二機の鉄機兵マキーニの大きさの違いは明らか。しかしベラの赤い機体も臀部より生やした尻尾を振るっており、その姿は巨大な『トールハンマー』に比べても異様さでは劣っていない。

 その尾と右腕の特徴が竜機兵ドラグーンに酷似していることを見ている騎士たちが気付き、奇異の視線と非難の声が上がったが当然ベラは気にしてもいない。

 そして、最初に口を開いたのは声を出したのはガルドの方からだった。


『ベラ・ヘイロー。そちらの鉄機兵マキーニには翼が生えていると聞いていたのだが』


 それは若干残念そうな声だった。どうやらガルドはソレを見れるのを楽しみにしていたらしい。


『ああ、あれかい。まあ終わったら見せてやるよ』

『うむ』


 ベラの言葉にガルドが頷き、そしてハルバードを構えた。対してベラもウォーハンマーを両手で構えてその足をにじり寄らせる。


 そしてガルドの副官が開始の声を上げると、同時に二機の鉄機兵マキーニが駆け出した。


 次の瞬間にはハルバードとウォーハンマーが激突し、その場で火花が散った。


次回更新は2月22日(月)00:00予定。


次回予告:『第111話 幼女、大きそうと言う(仮)』


おやおや大きいですね。

ええ、すごく大きいです。


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