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ロリババアロボ ー 6歳からの楽しい傭兵生活 ー  作者: 紫炎
第一部 六歳児の初めての傭兵団

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第101話 幼女、盾を用意する

「ベラ・ヘイロー。使いの者から話を聞きました。詳しい状況をお聞かせ願いますか?」


 ガレージの中にエーデルたちがカツカツと足音を鳴らしながら進んでくる。もっともその表情はここまでに見せていたものとは違い、焦りが浮かび上がっていた。


「そもそも非常識であろう。エーデル様をこのような場所に案内して」


 エーデルの後ろでヴァーラが憤るが、その声はただ単に不安を押し殺しているだけの虚勢であるのは誰の目にも明らかだった。故にその言葉にベラはヒャッヒャと笑う。


「申し訳ないね。こっちにももう余裕がなくてねぇ。手っ取り早く話を進めるためにこっちに来てもらうしかなかったのさ」


 そう言ってベラが目を細めながらヴァーラ、ドーアン、最後にエーデルを見る。


「どういうことでしょうか?」


 その視線を向けられたエーデルが尋ねると、ベラはクイッと顎を動かして後ろに視線を向けた。そこにあるのは鉄機兵用輸送車キャリアとそれに繋がれた腐り竜ドラゴンゾンビだ。


「あたしらはここを出るつもりだから、お姫様もついでにご一緒したらどうかって話だよ」

「ここを明け渡すということか?」


 ドーアンの問いにベラは「そうだよ」と返した。


「とっととさっさとここからしっぽ巻いて逃げないと怖いヤツらがやってくるからねえ。まったく、脅しをかけてきたかと思えば普通に仕掛けてくるとはね。よく分からない連中さ。そういうのとはあまりことを構えたくなくてね」


 そう言って肩をすくめながらベラがパラへと視線を向ける。


「ほら、パラ。説明してやりな」

「はっ」


 ベラの言葉にパラが一歩前に出て頭を下げた。


「僭越ながらベラ様の従者である私が現在の状況を説明させていただきます。まずはこちらをご覧ください」


 そう言って、パラが置かれているテーブルの前へと進み、広げてある地図をエーデルたちに見せた。そこにはこのヘールの街の周辺と、その上にルーイン将棋と呼ばれるボードゲームの駒がいくつか置かれていた。


「これは敵の配置か?」

「はい。こちらには巨獣使いビグステイマーが居りますので、ある程度の配置は確認できています」


 その説明を聞いたドーアンの視線がヴォルフに向けられる。|巨獣使い( ビグステイマー)や魔獣使いテイマーは戦場では非常に重宝する存在ではある。だが、その有り様は騎士などとは馴染まず、大抵は戦地での雇いとしてしか使われないのが現状だ。それが傭兵団に個人として所属しているのは非常に珍しいことであった。


「なるほどな。それで?」


 ドーアンが続きを促し、パラが再び地図に視線を向けた。


「状況ですが現在のヘールの街がここで、ここより西側の……現在はこの森を抜けた地点より直線的にムハルドの軍隊が向かってきているようです。その数はおおよそ鉄機兵マキーニ百五十機、それ以外の兵の数は五百名というところでしょうか」


 その言葉にエーデルがクラッと倒れかかり、そばにいた世話係に支えられた。またヴァーラとドーアンにしても驚きの顔を隠せていなかった。それはエーデルたちにしてみれば、もうほとんどどうしようもないくらいに確実に詰みの状況であった。


「もちろん、こちらの巨獣使いビグステイマーが放った鳥の目で確認したものですので正確ではありませんが、そう数は違わないかと思います」


 パラの言葉にヴォルフが静かに頷く。ヴォルフたちのような獣人族が戦場で雇われる利用法はこうした索敵などが主である。鉱山街前でベラたちを襲ったようにゲリラ戦法を取ることもあるが、彼らの能力は真正面からのぶつかり合いよりも裏方で生かすことに向いていた。


「それが事実として、逃げきれるのか?」


 少しうわずった声のヴァーラがパラに問いかけた。


「このままでは難しいでしょう。何しろ戦力が違います。その上にこのヘールの街の兵たちも敵と見ていた方が良いでしょうからね。動きも筒抜けです」

「どういうことだ?」


 ヴァーラの問いにはベラが口を開いた。


「街から鳥をいくつか放った奴がいる。情報を送ってるのがいるみたいだね」

「そんなヤツ、見つけだして捕まえてしまえ!」

「そうしてる間に連中が来ちまうけど、良いのかい?」

「だったらどうしろと言うんだ?」

「だから逃げるのさ」


 憤るヴァーラに、ヒャッヒャと笑いながらベラがそう返した。それに対してエーデルが一歩前に出てベラに口を開いた。


「お待ちください。これは何かの誤解のはずです。ムハルドと我が国は友好関係を結んでいます。ここで契約も締結して、わたくしがムハルドの方々にこの地に譲り渡すことをお伝えすれば」

「ハッ、完全武装で攻め込む気満々の連中を相手に話し合い? 連中がここに来るまでにこのラハール領の他の街を通過しなかったとでも思うかい? 連絡がないのは単に遅れているだけだと思うかい?」

「それは……」


 エーデルが言いよどむ。


「まあ、あんたがそうするんならあたしゃ、止めないさ。けど鼻息荒くして完全に殺す気で迫ってくる連中だ。お姫様、アンタの価値を連中が認めなけりゃあミルアの門をブッ壊されるほど使い込まれた後に達磨にされて転がされるよ。それで死ねりゃあ幸せだが、女である以上はそんなことが果たして許されると思うかい?」


 そう問いかけるベラの言葉を聞いて、さすがにエーデルの顔からも血の気が引いていく。


「ま、それがお望みならそれはそれでもいいけどね。あたしゃ自殺に付き合う気はないよ」


 そこにドーアンが口を挟んだ。


「確かに現実的な話ではないかもしれませんな。ことはこのラハール領だけに留まりません。正直に申しまして、もうあちらはルーイン王国と構える気があるとしか思えませんな」


 それは護衛騎士の言葉としては分を弁えていないものではあったが、ヴァーラもエーデルもそれを咎めることはしなかった。そうする余裕もなかったということもあるが、その言葉に対して反論する気力もなかった。


「それで、ベラ様は撤退をすると?」


 そう尋ねるドーアンにベラは頷く。そして試すような視線をしているベラと向き合いながらドーアンが「であれば」と視線をエーデルに、それからヴァーラに向け、その場でヴァーラに対して膝を突いた。


「ヴァーラ様。兵をお借りします」

「ど、どうする気だ?」


 ヴァーラは動揺した顔で尋ねた。認めたくないものが目の前にある。そんな表情であった。


「モーディアス騎士団は、これよりムハルド王国の卑劣な侵略軍を殲滅するために出陣いたします」

「馬鹿な……そんなこと、許せるはずがないだろう」


 ヴァーラがそう口にしたのも無理はない。何しろ、ここにいるモーディアス騎士団は鉄機兵マキーニ三十機に兵も百名程度に過ぎない。勇猛と知られるムハルド王国の百を超える鉄機兵マキーニたちにかかればすぐさま塵芥となって消え去ることはヴァーラにも理解できていた。だからヴァーラは、泳いだ目のままにベラを指さした。


「止めろドーアン。おまえがそうする理由はない。そんなものはコイツらに任せればいいんだ」


 そう叫ぶヴァーラにドーアンが首を横に振る。


「たかだが鉄機兵マキーニ四機の傭兵団に盾になれと? ソレは無茶が過ぎる話でしょう」


 それもこの傭兵団ならば不可能ではないだろうとボルドたちならば言えるが、一般常識からすれば論外の話である。そもそも足止めにもなれずに殲滅されるのがオチだろうと。

 少なくともベラを侮っていたヴァーラがそう考えたのは当然のことだ。そしてうめき声を上げて、エーデルを、ベラを、それからドーアンを見た。ヴァーラがドーアンに笑みを浮かべた。どうにかなると、止めておけと、そんな声をかけようとヴァーラが口を開く前にドーアンは首を横に振り、それから優しく声をかけた。


「ヴァーラ様はエーデル王女の護衛をお願いいたします。そちらのベラドンナ傭兵団と協力し、無事のご帰還を」

「そんな……」


 ショックを受けて膝を突いたヴァーラからドーアンは視線をベラへと移す。


「頼まれてくれますか?」


 その言葉にはベラも先ほどとは違う、どこか感心した顔をしながら頷いた。


「ふん。代わりに死んでくれる男の言葉を無碍にできるほどあたしもゲスじゃないつもりだよ」

「駄目だ、それは。全員で逃げれば」


 なおも食い下がるヴァーラにドーアンがその肩に手を乗せて言葉を重ねる。


「逃げきれんでしょうね。軽装甲の鉄機兵マキーニや騎馬兵団もいるかもしれない。いや、いて当たり前でしょう。足止めを食らえばそのまま追いつかれて終わりです。誰かがそれを防がなければならない」

「止めてくれドーアン。おまえがこんなところで死ぬなんて、そんなのは」

「すみません。ヴァーラ様」


 そう言ったドーアンはヴァーラの前に小さな水晶球を取り出すとそれをパチンと割った。その直後にヴァーラの身体が崩れ落ち、ドーアンが抱きとめて支えられた。それをベラが眉をひそめて見ている。


「スタンを封じた魔玉かい」

「ええ、護身用のものですが。この子はまだ、こうした事態に向き合えるほど強くはない。今はこのまま連れて行っていただきたい」

「ハッ、その甘やかしがそいつの成長を阻害してきたと思わないのかね」


 呆れた顔のベラにドーアンが一瞬目を見開き、それから少し笑う。


「ああ、そうだな。そうだ。はは、子供に言われるか……」


 その呟きはベラの耳にまで届いたが聞き流した。分かってはいたのだろうが、言われなければ向き合えないということもある。そして、もう手遅れであることを痛感しドーアンは涙を流した。

 それからドーアンはベラに、エーデルに深々と頭を下げてガレージから出て行く。モーディアス騎士団を率いて彼はこれより死地に赴く。対してベラはベラドンナ傭兵団と王女たちとヴァーラ、それに後からやってきたコーザと共に鉄機兵用輸送車キャリアを動かしてすぐさま街を離れることとなった。


 それから一時間後。ドーアン率いるモーディアス騎士団はムハルド王国の軍隊と衝突するも十分と経たずに壊滅し、その亡骸は勝者の進軍によって踏みにじられた。それから街内に潜伏していた元ジェド配下の兵によってベラドンナ傭兵団の逃走はすぐさま伝わり、追撃の兵が差し向けられたのはその後すぐのことであった。


次回更新はお正月休みを挟んで1月6日(月)00:00予定。


次回予告:『第102話 幼女、待ち伏せをする(仮)』


さあ、鬼ごっこの始まりです。

でもベラちゃんは子供なのでルールをあまり理解していないかもしれません。

鬼を攻撃するのは反則と知っていると良いのですけれども……まあ子供のすることですから少しばかりは大目に見てあげても良いかもしれませんね。

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