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ロリババアロボ ー 6歳からの楽しい傭兵生活 ー  作者: 紫炎
第一部 六歳児の初めての傭兵団

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第100話 幼女、逃げ支度をする

 領主の舘の中庭、そこにはヴァーラとドーアンが揃っていた。

 周囲に聞き耳を立てられない距離で話せる場所というのがこの屋敷では思いの外少なく、用意された部屋の中も安全とは言えなかったために彼らは人に聞かせたくない話をする場合にはここまで来て行っていた。そして、相も変わらずヴァーラの表情には余裕がないようだった。

 もっともそれも当然と言えば当然の話で、すでに彼の人生におけるチャンスの時間はカウントダウンを迎えていたのである。


「エーデル様からもうじきこの領地の移譲が確定するとの話を聞いた。もうタイムリミットだぞ叔父上」


 そう口にするヴァーラの言葉に対してドーアンは「ああ」と冷静に返す。もちろんドーアンとて焦りがないわけではなかった。ことはモーディアス家のことだけではなく、ドーアンたちユティアス家の問題でもある。しかしドーアンは、チャンスとなるのは領地の移譲が完了した後、ベラ・ヘイローに対してエーデルがなんら干渉する理由が消えた時であると考えていた。ベラが簡単にこちらの誘いに乗らない以上、その前の時点で下手に動きを見せて拗らせるのもよろしくないだろうと。そのためにドーアンは今の時点ではヴァーラを留めるように説得していた。


「まあ、少し待て。要はエーデル様が口を出せない状況ならば良いのだからな。そのチャンスはもうじき訪れるはずだ」


 その後にこの地に留まる王女を護るのは、ヴァーラたちモーディアス騎士団である。ベラドンナ傭兵団との関わりが消えたエーデルが頼みの綱である自分たちを蔑ろにしないようにと誘導すれば或いは……ドーアンの考えていたのはそうしたものだった。

 しかし、その叔父の考えに気付いていないヴァーラは首を傾げる。それからヴァーラがドーアンに言葉の真意を尋ねようとしたところ、舘の中がにわかに騒がしくなっていることに気付いた。


「叔父上。何か様子がおかしいように思えますが」

「ふむ。おい、そこの。何かあったのか?」


 ドーアンが忙しそうに走ってきていたドワーフの老人に尋ねる。


「あん。ああ、騎士様方ですかい。すまねえが今はご主人様の命で忙しいんだ。話は王女様の方にも通してある。そっちで聞いてくれ」


 そう言ってドワーフの老人はガレージのある方へとドカドカと走っていってしまった。


「クソッ、なんと無礼な」


 ヴァーラが悪態付いた。とても一介の奴隷の態度とは思えなかったのだが、今のがベラの奴隷であったことはヴァーラも認識している。そうでなければその場で斬ってやるのに……と考えたが、それは考えても詮無きことと舌打ちするに留めた。


「主が主ならば、その下もその程度か。それにしても叔父上、何かあったようですが」

「そうだな。エーデル様に話が通っているということはかなりの事態のようだ」


 ヴァーラの憤りとは逆にドーアンは少しばかり沈んだ声で返事をした。ドーアンは今の言葉の中に何かとてつもなく嫌な予感がすると感じていたのだ。それからすぐのことである。配下の騎士が走ってヴァーラたちの元へと慌ただしく報告にやってきたのは。

そして、その報告の内容はドーアンの予感を大きく上回る凶報だった。




  **********




「そんでぇ。どういうこったご主人様?」


 ボルドが遅れて領主の舘内にあるガレージの中に入ると、そこには自分以外のベラドンナ傭兵団のメンバーが全員揃っていた。


「遅いよボルド。死にたいのかい。たく、敵が攻め込んでくるってのに呑気なこった」


 すでに戦装束に着替え終わっているベラがそう言って笑う。


「いやいや、そりゃあ俺が悪いけどよぉ。つかムハルドが攻めてくるってのはマジなのかよ?」

「ヒヒヒヒ、マジっすよボルドの旦那。ヴォルフの旦那がマドル鳥で見たみたいっすから」


 舌をチラチラとさせているジャダンの言葉に、その場でローアダンウルフのゼファーを従えているヴォルフが頷いた。その横にはバル、デュナン、エナも並んでいる。また、奴隷ではないパラとマギノはベラの背後に控えていた。


「そういうことだよ。街の中にいる兵たちも同調していたのか連絡を寄越していなかったようだし、あたしらもずいぶんと人望なかったんだねえ」


 ヒャッハッハッハと笑うベラにボルドが額に手を当ててため息をつくが、頭が痛くなったところで事態は変わらない。


「まったく契約の前にこの有り様だぁ。運の悪いことだよ」


 そう言っているベラだが、不快そうな顔はしていなかった。むしろ、燃料を注がれて活き活きとしているようなそんな印象すらボルドは受けた。


「でぇ、ボルド。鉄機兵マキーニの方は問題ないんだろうね。そっちも遅れてましたってんなら、それこそ目も当てられないよ」

「いやいや。鉄機兵マキーニは問題ねえっての。エナの『トモエ』の調整だってすでに済んでるしよぉ。そんなのそっちのマギノの爺さんから聞いてるだろうに」


 ボルドの言葉にベラがヒャッヒャッヒャと笑う。

 ジェドとの戦闘によりベラの『アイアンディーナ』はまた腰回りの安定強化をしたぐらいだったが、その他の戦力についてはかなりの強化があった。

 その内訳だが、まずはバルの『ムサシ』が元々の想定通りに『怪力乱神マシラオ 』と『抜刀加速鞘クイックスラッシャー』を装着し、デュナンの『ザッハナイン』にはジェドの鉄機兵マキーニのギミックである『強化の四肢アッパーリム』を新たに身につけさせていた。

 またエナ・マスカー用の鉄機兵マキーニ『トモエ』も新規で導入されており、他にもマギノの水精機ウンディ『オアシス』 も加わっている。強化だけではなく鉄機兵マキーニ精霊機エレメントが一機ずつ増えており、以前に比べればその戦力は上昇していた。

 またそうした装備の調整もすでにすべて済んでいて、いつでも稼働できる状態になっていた。

 それらを使った戦闘が早速行われるのかとボルドが厳しい表情をしたのだが、次にベラから出た言葉は意外なものであった。


「そんなわけで、あたしらはこの街を放棄してルーイン王国内へと逃げ帰るよ」

「マジかよッ!?」


 ボルドが目を丸くする。こういう状況ならベラは「来たヤツぁ、全部ブッ殺すよー」とでも言って、敵を返り討ちにしにいきそうな気がしていたのだ。


「返り討ちだーって向かいやしないのかよ?」

「ハッ、バカをお言いでないよ。野盗上がりの傭兵どもの軍隊じゃあないんだ。ムハルドっていやー、ラーサ族の戦士たちなんだよ。それが百機程度はいるらしい上にラーサ族の戦士は生身でも存外に強力な相手だからね。そんなのに正面から挑むなんてことをするのはオツムのイカレた連中ぐらいなもんだ」

「お、おおう。そうだな。そうだよな。普通、そうするよな」


 言われて改めて納得するボルドにベラがムスッとした顔をした。


「意外そうな顔をするんじゃないよ、まったく」

「けど、いつもなら……よぉ」

「ボルド。あんた、あたしをバルみたいな戦闘狂と同類と思ってないかい?」

「へ、いやぁ……んなこたぁ」


 ボルドが顔をひきつらせてそう返した。ちなみに今の話でバルからは特に反応はなかった。先ほどベラから同じ話を聞いて撤退の言葉に若干残念そうな顔をしていたぐらいである。


「金にもならんことをする理由もないさ。それに連中を蹴ちらせたとしても次が来るかもしれないし、ルーインは今パロマと殺り合ってるからね。余計な戦力をこっちに送り込んでくれるとも思えない。補給もない上にここでの地盤は元々売り払う予定だったからボロボロ。残って戦う意味ってあるのかい?」

「あー、そりゃあ……ねぇなあ」


 ボルドが素直にそう返した。またエーデルたちとの領地の契約については現段階ではもはや破棄するしかないであろうとベラは考えていた。

 エーデルの目的は、ムハルド王国にこの地を譲ることであったのだ。しかし、あちらから侵攻を仕掛けてきた現在ではもはやその意味はない。


「それに連中の侵攻の名目が交友関係にあったジェド・ラハールの弔いだとすればあたしらは問答無用で襲われるわけだからねえ。ま、盾役がいる内にさっさと逃げるのがいいのさ」

「盾役?」


 首を傾げるボルドの背後にあるガレージの入り口から、騒がしい声が聞こえてきた。


「ほーら。ようやく、来たよ盾が」


 そしてガレージに入ってきた者たちを見ながらベラがそう呟いた。

 そのガレージの中に入ってきた者とはエーデルと、その世話係と文官らしきお付きの者、それからヴァーラとドーアンの五名であった。


次回更新は12月29日(月)00:00予定。


次回予告:『第101話 幼女、盾を用意する(仮)』


ベラちゃんはお利口さんですね。

まだ小さいのにちゃんと計算ができるようですよ。

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