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幼馴染の宣誓

 風道かざみち 祐介ゆうすけには、幼馴染の女の子が一人いた。

 小さな頃からずっと一緒に歩んできて、一緒にいることに何の疑問も抱かずに人生を寄り添ってきた女の子だ。

 そんな女の子がある日突然、いままで輝いていた表情を崩し、暗く陰りが見え、俺との距離をおき始めた。

 今思えばそれは当然の成り行きだとわかるが、当時どうしようもなくガキだった俺には到底理解できなかった。これが、初恋であることさえも気づかない間抜けだったんだ、わからなくて当然だったのかもしれない。


 そんな幼馴染との昔話なんてなんの面白味のない話は、ここでは割愛させていただこう。


 ――どこにでもある普通の失恋話なんだからさ。



 ◇ ◇ ◇



 クラスが歓声に湧き上がる中、ふじ波留はるは二人とも顔を赤く染め、二人の世界へとどっぷり浸かっていた。

 胸に何の痛みも感じない、と言えば嘘になることは自分が一番わかっていたが、わからないフリをして微笑んだ。


「風道は、ばかなの?」


 未だに俺を囲っていた女の子の内の一人――加藤が呆れたように言い放った。


「ちょっと、それは流石に酷くない?」

「なんで自分でくっつけちゃうわけ?」


 加藤は声こそ震えていなかったが、泣きそうな表情で俺を睨みつけてきた。


 だったら、どうしろって言うんだよ。


 そう吐き捨てたいのに、俺は笑顔を貼り付けたまま「天使だから?」と戯けた。


 ――初恋は実らない。


 そんなジンクスあってたまるか、と散々足掻いたんだ。

 もう、勘弁してくれ。


「か、風道!」


 見なくてもわかる。

 俺がどれ程の期間この声を聞きいていたか、聞き続けたいと願ったか、お前らにわかるか?

 わかられてたまるか。


「なんだよ、波留」


 鬱陶しく囲んでいる女達を掻き分け、声のする方へ一歩近づくと案の定、青井あおい 波留はるが真っ赤な顔で体を小さくして突っ立っていた。

 きっとクラスで話しかけることが波留にとっては地獄だ。

 それなのに、俺に声をかけた。

 周りのやつらをかきわけるように声を張り上げて。


 くそ。

 可愛いじゃねぇか。


「メール…見た」


 視線を床に落としたが、すぐに目線を合わせてそう言い放った。


 ああ。

 やっぱり、好きだ。

 それでも、これを口から出して言葉にしてはいけない。

 それくらいは、わかるくらいの理性は持ってるつもりだ。


 すきだ。


 心の中で何度も叫んだが、誰も耳を傾けない。

 ――それでいいんだ。


「…貸しだからな」


 俺はお前の味方でいる。

 最後まで。


 昔、そう言って波留の震える肩を抱いたことを思い出した。

 今も言ってやろうか、と一瞬考えたがそんなこっぱずかしいセリフを高校生になって言えるはずもない。

 かと言って、笑ってよかったな、なんて男前なことはまだ言えない。

 もっと気の利いた言葉を伝えたかったのに、目の前の波留が昔みたいになんの遠慮もなく満面の笑みで「仕方ないなぁ」なんて可愛らしいことを言ったので、もうどうでもよかった。



 だから、改めて誓う。



 何があっても波留の幼馴染で味方で在り続けよう、と。


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