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2年1組の傍観者


 このクラスで一番の人気君は、満場一致で桐山君だろう。整った顔に良くできた脳みそ。小さな顔とは不釣り合いなほど上背のあるスタイルは、言わずもがな、抜群だ。

 そんな良くできた男の子がもてないわけがない。それでも同性から僻まれず、むしろ哀れんでしまうのは彼の不毛な片想いが原因だろう。


「ああ。なんで羽織さんはあんなに儚いんだろう」


 今日も美しいその顔を憂いで歪ませてしまっている。それがアンニュイでたまらん!という女子もいるが大概は彼のその姿を『残念王子』と呼んでいた。


「そのハオリさん? が、どうかしたのかよ」


 会話を成り立たせてやるのは、面倒見の良いふじ君だ。彼は先日、彼の恋心――クラスの大概の人が気づいていた――が報われ、今は最高に気分が良いことだろう。


「どうかしたって、羽織さんの存在が既に儚いだろ」


 これは恋する男性にありがちな、女性像だ。儚い女性はそう多くない。


「あっそ」


 藤君、匙を投げるのは早すぎる。


「羽織さんが助けてって言ってくれたら、いつだって駆けつけるのに」


 残念王子の云われはこういった発言からも由来している。ヘタレなのだ。


「助けてって言えないんじゃないの?」

「そうだよな! 俺、ちょっと羽織さんに連絡してみるわ!」


 そう言って桐山君は携帯を片手に教室を退室した。


「なぁ、藤」


 黙って聞いていた風道君が面倒そうに藤君へ視線を向けた。


「なに?」

「ハオリさんって大学生だっけ?」

「ああ。街中で傘もささずに佇んでた羽織さんを桐山が声かけたって聞いたけど」

「ハオリさんは彼氏がいるんじゃないのか?」


 それは、だれもわからない問題だった。

 ハオリさんという女性が私たち高校生からしてみれば随分大人な女性で、一塊の高校生がどうこうできる相手ではないのでは、と皆が思っていた。


「…わからない」


 彼氏がいるいないにかかわらず、ハオリさんは桐山君をどう思っているのか。


 ――想像するだけで胸が痛い。


 報われない片想いはなぜこうも悲しいのだろう。


 ふぅ、と息を吐き出し、視線を窓の方へ移す。そこには清々しいほど晴れ渡った景色があり、そのあまりに平穏で日常の景色に癒された。

 それから、もう一度視線を彼らに戻すと風道君の顔が少し歪んでいた。

 彼は彼で何か思うところでもあるのだろうか。その原因を様々な想像を頭の中で創り出していると桐山君が大きな音をたてながらドアの前で仁王立ちして登場した。


「は、ハオリさんのとこ行ってくる! 先生に何か適当にいっといて!」


 これがハオリさんにとってヒーロー登場となればいいのだけれど。


 ――きっと、そう上手くはいかない。


 だけど、皆笑顔を浮かべて言うんだ。


「がんばれよ! 桐山!」


 恋は残酷だ。

 せめて。

 せめてハオリさんが彼の登場を喜んでくれますように。

 傍観者のわたしにはこれしかできない。



 ――なんて残酷な。





『2年1組の傍観者』 完

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