頭の中の実況アナウンサー
ほとばしる閃き。電車に揺られ、音楽に耳を傾けながら、摩訶不思議な文章を考える時間はとても楽しい。
でも、最近ふと気付いた。
頭の中にはストーリーを編む自分のほかに、たぶん“もう一人”いる。
そいつは、やけに張り切った競馬の実況アナウンサーのような声で、私の思考を追いかけてくる。
「さぁ、はじまりました! 本日の執筆レース!」
私が言葉を探して立ち止まれば、
「おっとここでスピードが落ちました! 展開が読めません!」
と、余計なアナウンスを挟んでくる。
もちろん助けてはくれない。
アドバイスなんて皆無。
けれど批判と茶化しだけは、妙に的確で容赦がない。
「それ、らしくない」
「平凡すぎますね〜」
──と、痛いところばかり刺してくる。
正直、かなり厄介。
でも、そいつがいなかったら、私はもっと楽に書ける代わりに、私じゃなくなるのだろう。
だから今日、この文章でそのナレーターを表舞台に引きずり出そうとしている。
……のだが、頭の中が、やたら騒がしい。
「そんなこと書くな!」と皮肉げな声が止めに入り、すぐさま実況が被さる。
「はい! ここでまさかの“自己暴露コーナー”に突入!」
──挙げ句の果てには、
「おっと! これは完全に脱線です!」
と勝手に締めくくろうとする。
そこで意識がふっと途切れた。
気が付くと電車は、
私の降りるべき駅を通り過ぎていた。




