氷天遊戯・第二幕
桜桃島の最も高い地点。
そこから桜桃島の景色を眺めている者がいた。
彼女の名は久春、季四姉妹の長女。
久春は春と共にある。
そのため、常春の地である桜桃島にずっと居座っている。
「いつ見てもこの景色は飽きないな」
「何をしてるんです?」
そして、橙色の髪をした者。
彼女はオレンジ、ウキュウから分かれた者。
「私は春をこの身全てを使って感じているんだ」
「そうですか」
「お前こそ何をしてる?」
「視察ですよ」
「…フッ、あの兄妹にフラれたか?」
「あの子達の頼りになる人が私以外にできたのです。嬉しいですよ」
「そうか」
風が強く吹き付ける。
桜の木が激しく揺れる。
「…桜が泣いている」
それを見て久春はそう言った。
「え…?」
「何かが来た」
「あぁ、酷い目に遭った」
シリウスはあのゾンビの一件で酷く疲れているようだ。
その疲れを癒すように空を眺めている。
「こんなふうに空を眺めるのはいつぶりだろう?最近は戦い続きだったから」
「…そこのお主」
誰かがシリウスに声をかけた。
「ん?」
「妹を探しているのだが、お主は知らぬかの?」
「その妹さんの名前は?」
「月読と言うのだが」
「月読…!?」
シリウスの記憶にいないわけがない者。
「知っておるのか?」
「あぁ」
「それはありがたい。…おっと、申し遅れた妾は天照、月読の姉だ」
シリウスは天照をまじまじと見る。
確かに顔立ちが似ている。
「驚いた、本当に姉妹なんだ」
「実は、弟もおるのだが…喧嘩したっきりどこか行ってしまってな、どこにいるのか分からんのだ」
「へぇ」
「須佐男と言ってな、本当はまた会いたいのだが…」
「…」
シリウスは気の毒そうな視線を向ける。
「それはそうと、月読の所まで案内してはもらえないか?」
「分かった…」
その時、遠くにさっきまでなかったはずの巨大な何かが見えた。
「!?」
天照とシリウスはすぐにそれを確認する。
それは大きく迫り上がった氷、その一部だった。
「氷?」
少し前、桜桃島にて
「冥に伝えます」
久春の言葉を聞いて、オレンジはそう決心する。
「あぁ、急げ。奴は気配を隠すのが上手かった。我々では勝てない」
「…!急ぎます」
オレンジに緊張が走った。
「…!」
月読もその気配に感づいた。
「月読様…?」
かぐやは月読の異変に気づく、だが気配には意識は向いていない。
「かぐや、気を付け…!」
月読が警告する頃にはもう遅かった。
もう闇はそこまで来ていた。
「やぁ、初めまして月読さん?」
ヴェイン、闇の超越者が2人に手が届く距離に迫っていた。
「貴様…!」
月読はヴェインを見るなり戦闘体制に入る。
「殺気立ってる。その判断は正解」
「冥と彩はどうした!?」
「僕が1人だと思った?ここは昔攻めたことがあってね。他の奴に攻めさせたら簡単に向かっちゃったよ。そのおかげでこうして新しいおもちゃが手に入りそうだ」
闇はかぐやを取り込もうとしている。
「かぐやに手を出すな!」
「君じゃ少し地味だからなぁ。彼女の方が面白そう」
かぐやはなす術なく取り込まれた。
「じゃあね」
ヴェインは闇と共に消えた。
津波のように早い侵食だった。
かぐやの魂は既に闇に覆われている。
「…転移!」
月読はかぐやを連れて桜桃島から素早く離れた。
そして、今に至る。
「お主、戦えるか?」
天照はシリウスに問いかけた。
「あぁ!」
「よし、ならば氷の所で集合だ。先に行っている」
そうして、天照はその姿を消した。
「っ!?」
(月読みたいだ…同じ力が…?)
「いや、今はそんな場合じゃない!」
シリウスも空に飛び上がって氷の方へと向かう。
(あの氷は間違いない、かぐやだ。何があった?)
同じ頃、別の所からも氷を見た者がいた。
「じいちゃん、あれ、なんかヤバいのがあるですやん!」
雪那もその氷を見ていた。
そして、急いで雪樂を起こした。
「なんじゃ、老人をそんな扱いするでない」
雪樂は起きる事を拒んだ。
「でっかいのがあるんですやん!」
雪那はそんな事に構っている場合ではなかった。
「うるさいのぉ」
雪樂は気だるそうに起きる。
「あれ!」
雪那は巨大な氷の山を指刺す。
「おぉ、これは…まずいな」
雪樂も事の重大さを理解した。
「雪那!行くぞ!」
雪樂はすぐにドアから飛び出ていった。
「おう!ですやん!」
雪那も銃を持って出ていった。
氷の中心部では、新たな氷が絶えず生み出されていった。
それらはまるで生きているかのように広がっていく。
「かぐやっ!」
月読はそれらを捌いているが、自分の身を守る以上の進展は望めない。
自身に向かってくる氷を砕くのに手一杯な様子だ。
(かぐやの力が増している、あの男の仕業か…!)
「困っておるようだな、妹よ」
「…!」
天照が月読の元に飛んできていた。
「姉上…起きたのか?」
月読は天照の方を見た。
「紅炎!」
炎が月読の目の前の氷を溶かしていく。
「よそ見」
天照は月読を咎める。
「…すまない」
「よい、お前は可愛い妹だからな。さて、この刀を使うのもいつぶりか」
天照の手が炎を纏い、光り輝く。
そして、その光に照らされながら赤く燃えるような刀が出現した。
その刀は天照の手に宿った。
「やはり、お前はいつでも手に馴染む。
金烏の飛翔!」
業火が空へと舞い上がる。
『神器・天道の神剣』
レキスにすら知られなかった未知の超越者、天照。
その天照の神器。
天道の神剣は炎を纏い、空間を切り裂く。
そして天道の神剣は天照の起こす炎の力をその刀身に宿す事もできる。
それが『空間の超越者・天照』の神器、天道の神剣である。
「姉上…」
月読は、その炎に無意識にも見惚れている。
「何を呆けておる。お前も戦うのだ」
天照は月読の鏡に手を当てる。
鏡は赤く変色していく。
「紅鏡」
鏡からの光線は一時的に炎を纏うことになる。
「ほら、妾の力を分けてやる。朔日の紋様を作れ」
「承知…朔の刻!」
鏡の紋様が消え、30個に増えた。
そこに天照が力を注ぐ。
「…溜まりました」
「なら、放て」
「解放!」
鏡から強力な光線が炎を纏って放たれた。
眼前の氷を全て溶かし砕く。
「流石は我が妹」
しかし、それでも氷は際限なく膨張し続ける。
「とてつもないな、これだけ砕いても底が見えぬ。やはり核を叩くべきか」
「…それは!」
月読は天照の言葉に強く反応する。
「なんだ?」
「かぐやは殺したくない」
「何故?」
「大切な者だから」
月読は正直だった。
天照に、姉に嘘をついてもすぐにバレる事を知っていたから。
「ならん…と、言いたい所だが、妹の頼みならば無下にはできんな」
「姉上…」
「では、この氷をなんとかする方法を考えるぞ」
「はい」
「はぁ〜あ、なんでこんなだるい事しなきゃらんの?」
とある男がそう漏らした。
「黙れ、ヴェイン様の命令だ」
もう1人の男が冷たくそう言った。
「桜桃島の鬼と天狗から逃げるのに苦労したのに、ヴェイン様は人使い荒いよねぇ」
「暇人が何を言うか」
「あぁ?」
「ほら行くぞ、命令を遂行する時が来た」
「はいよ」
2人の男は氷の方へと進んでいく。
シリウスは天照の後を追っていた。
「なぁ、お兄さん」
その時、誰かがシリウスに声をかける。
「誰?」
「俺は須佐男。向こうでなんか戦ってそうだから行こうと思ったんだけど。誰か戦ってるよね?」
「少なくともかぐやと天照って奴らが…」
「そうか、じゃあ俺も参戦させてもらうよ」




