氷は溶けて春が来る
「っは!」
シリウスが目を覚ますと、そこはどこか見慣れた和室だった。
身を起こして辺りを見回すと、ここが彩の屋敷だと分かった。
「戦いは…どうなったんだ…?」
「無事に終わりましたよ」
シリウスが声の方に振り向くと彩がいた。
「彩…」
「死人もおらず、無事に事は終着しました」
「そうか…」
「シリウス殿のご活躍のお陰です」
「皆の、な。…渡月教の奴らは?」
「あの方達であれば、今はこの桜桃島にいます」
「大丈夫か?あの三人組はともかく月読なんて…」
「…その、月読といった女性は一番大人しいです」
「あいつが…!?」
シリウスは驚いた様子だった。
「というのも、あれからずっと黙って空をぼんやり見ている様子で。私達もなんとも…」
「そうか…。少し会いに行ってみるか」
「もう、お身体は大丈夫なのですか?」
「あぁ、バッチリ動ける」
「そう、よかったです。では、私がそこへ案内しましょう」
シリウスは彩の案内に従い街を歩いていく。
「そういえば、俺はどれだけ寝てたんだ?」
「ざっと一週間です」
「なっ!?」
「それも仕方ありませんよ。シリウス殿の傷はかなり深刻でしたから」
「そ、そうか…」
そうしてしばらく歩くと、彩はとある店に入っていった。
「…?」
疑問に思いながらもシリウスは後に続いた。
「千手、どうなの?お店の調子は」
「ふふ、聞いて驚け、もう私の店はこの街の流行よ」
「…?」
シリウスは首を傾げる。
「彼女の糸で作った織物が、夢幻街で流行っているのですよ」
「へぇ、いい職を見つけたな」
シリウスが関心している。
「しかし、かぐや様に会う機会が減るのは由々しき問題だわ」
千手はそう言って眉をひそめた。
すると、客が入ってきた。
「どうも、織物を頼んでもよろしいですか?」
「ほら、お客さんだ。あんたらは帰った帰った」
千手は2人を追い出すように手を払った。
「行こうか」
シリウスは彩にそう言った。
「そうですね」
2人は店から出ていった。
そして、また2人は街の中を歩いていく。
「鏡はまた前のように用心棒をやっているそうです」
「刀を持っていたやつか。危ないことするなぁ」
「確かにそうですね」
彩は面白そうに笑う。
シリウスはその様子をまじまじと見ていた。
「…彩って」
「?」
「よく笑うようになったね」
「そうですか?」
彩は不意をつかれたような顔をする。
「前はもっとお堅い表情してた」
シリウスはわざとらしくしかめっ面を見せる。
「…両親が死んでから、私達の影は濃くなりました。兄は笑みを溢すことをほとんどせず、私の心も沈んでいきました」
「…」
「そんな時シリウス殿が、私に光を向けてくれた。優しくしてくれた。シリウス殿が私の心をほぐしてくれたんです」
彩は澄み渡る笑顔をシリウスに見せた。
「…」
シリウスは照れくさそうに笑った。
「だから…」
「?」
「もし、いつかシリウス殿に何か悪い事があったら。私がきっと助けます。あの時のお返しをします。…必ず」
「そっか、じゃあ、その時はきっと助けておくれよ」
「はい!」
その後、彩は冥の屋敷に案内した。
「シリウス殿、怪我はもういいのか?」
冥はシリウス達を迎える。
「あぁ、もう大丈夫だ」
「そうか、それはよかった」
「月読はここにいるのか?」
「一時的に私の屋敷に置いている。しかし、黙ったままの廃人のようになってしまった」
「それは彩から聞いた。月読に会わせてくれないか?」
「分かった、こっちだ」
彩に変わって冥がシリウスを連れていった。
「ここだ」
そう言った冥の先には、とある部屋があった。
「この部屋にいるのか」
「あぁ」
そして、シリウスは部屋の中に入っていった。
部屋の端、窓の近くに月読はいた。
「…月読」
聞き覚えのある声だったためか、一瞬月読はこちらを振り向いたが、
「シリウスか…」
と言って向き直ってしまった。
「何をしているんだ?」
「貴様には関係ない」
「そうもいかない。一度戦った仲だろ?」
「…」
しばらくの沈黙が訪れる。
「…妾は一人で貴様に戦いを挑むべきだった」
その沈黙を破ったのは月読自身だった。
「?」
「妾は修羅の道を歩くつもりだった。渡月教もただの貴様と戦うための手駒にするつもりだった。だが、いつどこで宿ったのかも分からないが、情が宿ってしまった」
「…!」
「最後、かぐやが割って入った時。妾はかぐやごと貴様を貫くつもりだった。でも、出来なかった…。妾は戦いのために千年生きたというのに…」
「月読…」
「へぇ、お月様も情なんて湧くんだなぁ」
他の者の声がした。
「お前は…」
「あんたが…鏡?」
「やぁ、竜人さん。こうして話すのは初めだなぁ」
「どうしてここに?」
「面白そうだから来たのさぁ。おっと、俺だけじゃないぜ。お客様もお連れしたさぁ」
そうすると後ろからかぐやが入ってきた。
「…かぐや!」
月読はかぐやの来訪に驚いた。
「さ、俺たちはお暇するさぁ」
「っと…!」
少し強引に鏡はシリウスを部屋から連れ出した。
部屋には二人だけ残された。
「月読様…」
かぐやは少し緊張した様子で話した。
「…なんだ?」
「月読様はどうして、私に情を?」
「………きっと、お前が可哀想だと、信頼する者を失ったお前が可哀想だと思ったのだ」
「…そう、だったのですね」
「私もずっと一人なのにな」
自らを嘲るようにそう言った。
「月読様…」
(………こういう時、なんて声をかければいいの!?も〜鏡のやつめ、いい加減なんだから…)
「なんと、声をかけて良いか分からないというような顔をしているな」
かぐやは心を見透かされ戸惑う。
「図星か?」
「…自分の心の中は分からないのに、私の心の中は分かるのですね」
会話を続けようとして、つい皮肉めいた事を言ってしまった。
(し、しまった…)
かぐやは発言を後悔した。
「…フフッ」
月読は笑った。
かぐやの記憶の中では初めてと言っていいほどだった。
緊張がほぐれ、かぐやにも笑みが溢れる。
「私には、戦いの道しかないと思っていた。だが、お前とならそれ以外の道も悪くないかも知れぬ」
「月読様…!」
かぐやは嬉しそうにしている。
「月読様、今から街の甘味処に行きましょう?あそこ美味しいらしいんですよ!」
「そうか、なら行ってみるか」
部屋の外にいた鏡とシリウスは微笑ましく聞いていた。
かぐやって罪な人




