罠
鏡は捕まえた聖職者の首に刃を近づけている。
聖職者の呼吸は荒く、汗も止まらない。
「いいな、俺が合図をしたら俺達ごとあの家を膜で覆うんだ」
鏡が耳元で囁いた。
「わ、分かった…」
「敵の気配がする」
シリウスがそう言った。
「何人だ?」
冥がそう聞いた。
「それは、分からない。でも強い力を持ってる奴が周りにいる」
「そうか」
「多分、この気配は俺達を外に出すためにわざと出してるんだと思う。俺達の場所をここまで割り出した奴らなんだ、そんな事をしてもおかしくない」
「そうだろうな、でもそれでもいい。このままいるのでは無駄だ。素早く敵の方に襲いかかる。それで敵が行動を起こす前に敵を制圧する」
「分かった」
「もし、敵に行動させたら…」
冥がシリウスの方を見た。
シリウスは確かめるように頷く。
冥もそれを見て頷いた。
「行くぞ!」
シリウス達は素早く飛び出した。
鏡はそれを見た。
「今だ!」
鏡はそれを見てすぐに前に飛び出した。
そして、大きな膜がシリウス達とその周辺を包み込んだ。
「1人見つけた!
竜技…」
シリウスは鏡に近づいて技を打とうとする。
「おっと、怖い怖い。それ以上近づかれると、怖くてたまらんなぁ」
シリウスは後ろに引き寄せられるように飛んでいった。
「…!?」
「シリウス殿!?」
シリウスの方を見て隙を晒した冥の周りに糸が巻き付けられた。
「くっ!」
「驚く程上手くいったわ」
横から千手が出て来た。
「先手を取られたか…、かまいたち!」
冥は糸を風で切り、シリウスの方に飛び去った。
「くそっ、なんだあの能力」
随分遠くにシリウスは飛ばされてしまった。
「シリウス殿!」
冥が駆けつけてきた。
「冥…」
「敵は、少なくとも2人…」
冥がそう言いかけると、シリウス達に吹雪が襲いかかった。
「これは…?」
シリウスが冥に聞いた。
「3人目だ…!」
「敵は、2人?」
かぐやは鏡に聞いた。
「出て来たのは2人さぁ」
「他には…?」
「結界内に動いてる奴はいなさそうだけどなぁ」
「なら、お前達は竜人達を拘束しろ」
「分かったさぁ!」
「承知しました!」
「一旦遠ざかろう!」
冥はそう言った。
「あぁ!」
シリウスもそれに同調した。
シリウス達は敵から離れていったが、とある場所で壁のような物にぶつかった。
「これは…結界?」
「…っ、冥!」
吹雪に紛れて、糸が飛んできた。
「塵旋風!」
凄まじい風が糸を切り裂いた。
すると、急に異様にシリウス達の体が重くなった。
「なんだ、これはっ!?」
体の自由を奪われる。
「羽をもいだ鳥って感じさぁ」
誰かの声が聞こえてくる。
「舐めるなよ、竜技・堕天!」
高エネルギーの物質が放たれた。
高温のそれが周りの雪を溶かした。
しかし、敵には当たらなかった。
「狙いが甘い攻撃なんて、簡単に避けられますわ!」
また別の声が聞こえる。
吹雪がすぐに新しい雪を積もらせる。
「はぁ…ぁ…」
体が震える。
「寒いだろ?体温と視界を奪う吹雪さぁ。あんたらに勝ち目はない、諦めなぁ!」
体の重りがさらに強まる。
「…!」
「終わりね。竜人といえど、こうなってしまってはさほど脅威ではないわ」
千手は2人を見つめてそう言った。
そうして、少しずつ近づき、糸を巻き付けようとする。
…その時、結界が破れた。
「待てっ、千手!」
「!?」
空から何かが降って来た。
千手は咄嗟に後ろに引いた。
しかし、腕を斬られていた。
「刀傷…誰が…?」
鏡は千手の腕を見て、困惑する。
鏡は前を見た。
「お前達が、シリウス殿と兄上を狙う者達か…!」
そこには刀を鏡達に向けて立っている彩の姿があった。
「シリウス殿、敵の思惑が分かった」
冥は二つ目の氷の柱から戻った時、そう言った。
「なんだ?」
「奴らの目的はこちらの位置を特定する事だ。二つの柱からこちらの位置を割り出す」
「所定の位置に俺たちを誘き寄せるためじゃないのか?」
「それならば、数日も時間をおいて考えさせる時間を作るのは不自然だ」
「そうか…」
「やはり、彩を島に残しておいて正解だった。敵はこちらを取り囲んで無力化するつもりだろう。彩をその外側から攻め込ませて逆に挟み撃ちにしてやる」
(挟み撃ちにはならなかったが、窮地は脱した…!)
「彩、来てくれたか!」
「えぇ、兄上の言う通りに!」
その言葉を聞いて、千手は動揺した。
「言う通り…?奴はかぐや様の思惑を予測したのか…?あってはならぬ、かぐや様の策略が敵の掌の中に収まるなどあってはならぬ!」
千手は糸をシリウス達を覆うように、伸ばした。
「やめろ、千手!」
鏡が止めるも間に合わない。
「百花繚乱!」
数多くのかまいたちが襲いかかる糸を切り裂いた。
そして、千手の方に飛んでくる。
「なっ!?」
鏡が千手の前に素早く飛び出し、かまいたちを切り伏せた。
「くそ〜あいつ、やるなぁ」
「ご、ごめん。鏡、平静を欠いた」
「分かったらいいさぁ」
鏡が彩をみると、左腕に聖職者が持ち上げられていた。
(刀で脅して、結界を解かせたのか…)
「苦戦しているようだな」
かぐやが後ろから歩いて来た。
「かぐや!」
「かぐや様!」
鏡と千手がかぐやの名を呼んだ。
シリウスがそれを聞いた。
「かぐや…やはりあいつが間の超越者!」
「竜人よ、ここは一旦やめにしよう」
かぐやはそう言った。
「…?」
「私達の決戦の日は十日後の満月の夜だ。北に城を築いて待っている。もうこんな小細工もない。正真正銘の真剣勝負だ」
「…分かった」
「行くぞ、千手、鏡」
かぐや達は静かに立ち去った。
「逃すかっ!」
彩はかぐや達を追おうとした。
「行くな、彩!」
冥がそれを止めた。
「兄上…」
それを聞いて、彩は留まった。
「よかったんですかい?あの女が出て来ても、こちらの方が有利だったでしょう」
鏡はそう聞いた。
「…月のお望みだ」
かぐやはそう答えた。
「へぇ、お月様ねぇ」
「最悪の事態は避けれたが、してやられたな」
シリウスはそう言った。
「この借りは返さねばな」
冥はそう言った。
「私も、シリウス殿と兄上をここまで傷つけた連中を許してはおけません!」
彩も怒りを露わにする。
「待ってろよ、渡月教…!」
シリウスは決意を堅くする。
刀恐怖症確定!




