渡月教
とある雪の降る町。
そこに三人組が道の中央を堂々と歩いていた。
「この辺りにいるはずよ」
中央にいる女がそう言った。
「かぐや様のお友達って人ですか?」
その隣にいる女はその中央の人、かぐやにそう聞いた。
「そうよ」
「え〜、もういいじゃ無いですか?私達だけで。あのむかつく野郎がいるだけでも嫌なのに…」
「誰がむかつく野郎だい」
もう片方にいる男がそう言い返した。
「あの子達は絶対にこちらに引き入れたいの」
かぐやはそう言った。
「ふーん」
女はつまらなそうにした。
すると前からも屈強な男が三人、同じように堂々と歩いてくる。
「おー?なんだ見ない顔だな」
真ん中の男がそう言った。
辺りがザワザワとしている。
「誰?」
かぐやはそう聞いた。
「誰…?はっ、この町なら俺の名を知らない者はいねぇ。口には気をつけなお嬢ちゃん」
かぐやは周りの怯えた様子を見た。
「こんなチンピラがこの町を牛耳っているの?あの子らがいればそんな事ならないだろうに。いや、干渉しないようにしているのか…?」
かぐやはぶつぶつと呟いている。
「テメェ、聞いてんのか!?」
横にいた男が怒鳴る。
「おい、お前はこの町に来るのが初めてだろうから優しさで見逃してやったが、二度はねぇぞ…!」
真ん中の男もかぐやを襲わんと睨みつけた。
「…おい、鏡。守れ」
かぐやは自身の隣の男に言った。
「守るってのは、自分より弱い奴にするんでねぇ」
「ちっ、千手?」
かぐやは反対の方を見た。
「私はかぐや様のお美しい術が見たいです」
「はぁ、こいつら…」
かぐやは呆れたようにため息をつく。
「おいおい、仲間に見捨てられたか?」
男達は仲間と共にかぐやを嘲笑った。
「おい」
かぐやは男達に向かって言った。
「あ?」
「目障りだ、失せろ」
かぐやはそう言って男達を睨みつけた。
周りの空気が緊張する。
その言葉は、男の逆鱗に触れた。
「俺は言ったよな、二度は無いってなぁ!」
男はかぐやに殴りかかった。
しかし、その拳はかぐやに届かなかった。
男達は全身を氷漬けにされた。
「はぁ、素敵っ!」
千手はかぐやの術に見惚れている。
「て、てめ…」
真ん中の男だけ頭を残されている。
「こいつらも死にはしないだろう。これからは、今日の事を思い出しながら小動物のようにビクビクと過ごしていろ、塵共め…!」
そうして、かぐやは奥の方へ進んで行った。
「流石です、かぐや様!」
千手はかぐやにそう言った。
かぐやはある家の扉を叩く。
「…はーいですやん、どちらさ…!あんたは…」
家から出てきたのは雪那だった。
雪那は驚いた様子でかぐやを見る。
「やぁ、久しぶり。大きくなったわね、雪那」
「そ、それはこっちも同じですやん。生きてたんですやん!?」
「ええ、助けてくれた方がいて」
「一体、誰ですやん?お礼を言いたいですやん」
「その話なんだけど。雪那、あなたも私達と一緒に来ない?」
「え?」
雪那は少し困惑した。
「私達はね、渡月教っていうものを作ったの」
「渡月教…」
雪那の顔が少しずつ懐疑的な表情を浮かべ始める。
「そう、こんな穢れた蛆虫どもが蔓延る下界から、より清く高次な所へ、そう、『月』を目指すの」
「月なんて行けるわけないですやん」
「それがね行けるのよ…信じれば。こんな所から離れましょう?耀夏も創想もあなたのお爺さんも一緒に…」
かぐやは雪那の手を握る。
「みんながみんな悪い人じゃないですやん…」
「あの、この街にいる悪漢ども知ってるでしょ?私達の村で、何が起こったか覚えてるでしょ?あれがあの汚らしい蛆虫どもの本性よ!」
かぐやの声が少し荒くなる。
「違うですやん、汚いものじゃないですやん。あれは、あれは、みんな、怖くて、追い詰められて、仕方なかったのですやん。あれが、私達の本当の姿な訳ないですやん…!今のかぐやはどうしたのですやん?昔の優しいかぐやはこんな事言わないですやん!」
雪那が声を張り上げて、そう言うとかぐやは少し困ったような顔をする。
沈黙がしばらく続く。
「…ごめんなさい、怒らせちゃったみたいね」
名残惜しそうにかぐやは握った手を離す。
「また、来るわ。あなたの心が変わるまで何度でも…」
そう言って、かぐや達は立ち去っていった。
ドアが静かに閉まる。
「うぅ…」
雪那は膝から崩れ落ち、泣いてしまった。
「ねぇ、もう良くないですか、かぐや様?あのガキ、かぐや様に失礼なんですよ。あんなのが仲間なんて…」
「千手」
かぐやは千手の言葉を強く遮った。
「はい…?」
「黙れ…!」
かぐやは冷酷な目を千手にぶつけた。
「ひっ…!」
千手の心は一瞬、雑巾を絞ったかのように苦しくなった。
かぐやは何も言わず歩きだす。
「…」
千手は落ち込んでしまった。
「ふっ」
鏡はその様子を見て笑っている。
「何よ…」
千手は鏡を睨んだ。
「別に、何もないけどさぁ」
ヘラヘラと鏡は笑っている。
「雪那もみんなも絶対に、守ってみせるから」
かぐやはそう呟いた。
シリウスは北の方という情報を元に、空を飛んでいた。
「しかし、北の方と言ってもどうすれば…うん?」
その時、険しい山の上にそびえ立つ、古びた城があった。
「なんだ、あれ?」
シリウスはその城の前に降りて辺りを探ってみる。
「…誰もいないのか?」
その時、何処からか笛の音が聞こえる。
「!」
すると、地面が巨大な針のように変形しシリウスに突きかかった。
「っ!」
シリウスは咄嗟に後ろに飛び、それを躱した。
「…貴様、ここを何処だと思っている!?」
その時、上の方から誰かの声が聞こえる。
「!?」
見上げると城門の上に何者かが立っていた。
「ここは、我が主、ヴァーデン様の領域、侵入者は許しはしない!」




