イノセント・ナイトメア
シリウスは1人、月に見られながら立っている。
「ここは…?」
周りは何もなく、漠然と地面が広がっているだけだ。
「何も…ない…?」
油絵のように渦巻く空は距離感を麻痺させる。
シリウスは辺りを警戒しながら歩き出した。
しばらく歩くと一本の木を見つけた。
「なんだ…この木」
シリウスはなんとなくそこに手を当てる。
「…?」
どこか違和感を感じたが、その正体を掴めない。
結局また歩き出すも疲れて座ってしまう。
「はぁ〜なんだ、ここは?」
シリウスは空を見上げて、星のない夜空を眺めている。
「光は月だけか…」
そうして半ば虚な様子で月を見ていると、不意に小さな玉が「コトン」と落ちた。
「…?」
シリウスは少しの間状況が飲み込めなかったが、その小さな玉は月と同じ模様をしている。
「!」
異変に気づき、咄嗟に空を見上げると月が無くなっていた。
「はぁ…!?」
シリウスは辺りを見回した。
この、今までに経験したことのない現象が平常心を狂わせる。
「これは、敵の術か!?」
シリウスはすぐに走り出した。
「もしかしたら、どこかに出口が…」
すると急に何かにぶつかった。
「?」
目の前を見ても、さっきと変わらない夜空が見えるだけだ。
シリウスは手を前に伸ばす。
そうしたら、何かが手に当たる。
「なんだ?」
それをなんとなく押してみる。
その時、目の前の景色が歪曲したように見えると、目の前の景色はただのハリボテだと分かった。
夜空が描かれた一枚絵が地面に倒れる。
その奥は白一色の平坦な光景が広がるのみで他には何も認知できない。
「…っ……!」
シリウスは絶句した。
ここでは自身が今、無秩序な世界にいることしか理解できなかった。
倒してしまってからは四方が白色に囲まれている。
しかし、一つだけ違うものがある。
木だ。
一本だけ立っていた木は確かに残っていた。
シリウスはそこに向かった。
「この木の違和感…」
ドアを開くように木の表面を剥いた。
「…!」
そうすると目の前には一本道がこちらを待ち構えていた。
後ろを振り向くも後ろには闇があるのみ。
「場所が変わったのか…」
シリウスはその道を進んでいく。
目に見えるのは前の道のみで、横は暗くて見えない。
しばらくすると、後ろから何かが聞こえた。
「?」
後ろを振り返ると、月の模様の巨大な球体が転がってきていた。
「!」
シリウスはそれから逃げた。
「一体ここはなんなんだ!?」
シリウスには直感的に分かった、ここではあの玉に対抗する手段がないこと、ここは逃げるしかないことに。
必死に逃げている最中に、側面の暗闇の中に一筋の光が、通れる道があるのが分かった。
シリウスはそこに逃げ込んだ。
球体はそこを通り過ぎていく。
「はぁ…はぁ…」
息が荒くなって、汗も流れてくる。
逃げ込んだ道の先を見ると、光る鍵が浮かんでいる。
「鍵?」
シリウスはそれを手に取る。
近くに鍵穴があったのでそこに差し込んだ。
鍵を開けたと思ったら、開いたのは地面だった。
「!?」
シリウスは絵画のように多数の色が混ざった混沌の海の中に放り出された。
「うわぁぁ!」
そこは永遠に落ち続けるような、終わりのない地獄ような、下を見ても変わりゆく変わらない景色が続いている。
「空を…!」
シリウスはどうにか飛べないかと羽を動かすも、動かなかった。
「くそ…!」
ここでは永遠に落ち続けるしか無かった。
そう思われたが、それは唐突に終わりを告げる。
突然小さな光が現れ、徐々に大きくなっていく。
「!?」
やがてそれは目の前全てを覆い尽くすほどに広がっていった。
「なんだ!?」
「えー、もう起こしちゃったのー?」
「あんたはやりすぎなのよ!」
周りの音が少しずつ聞こえてくる。
「う……」
シリウスが目を覚ますと、見知らぬ2人がこちらを見ていた。
「はぁ…はぁ…」
シリウスはベッドの上にいた。
先程まで眠っていたのは確実だが、悪夢のせいで疲弊している。
「ふっ、あはははははははははははは!」
すると1人がシリウスの顔を見て笑い出した。
「…!?」
シリウスはギョッとする。
「あんたのその表情!最高〜!!」
「あんたは反省しないねぇ!」
もう1人はその人に向かって説教をしているみたいだが、その人は聞く耳を持たない。
「君達は誰?」
シリウスは2人にそう聞いた。
「私はヤマセ、セレナに倒れてたあんたの世話を頼まれたのよ。で、こいつがテラル、悪夢の元凶はこいつよ」
「そうさ、君の夢の中に侵入して恐ーい夢を見せたのさ。怖がってくれたかな?」
ケラケラと笑いながらテラルはそう言った。
「…なるほど」
シリウスの声に怒りが見える。
テラルはそれを察した。
「お、おっと、ちょっと待った。そ、そうだ!俺は君を元気づけ…」
「問答無用!!」
シリウスの手刀がテラルの額に振り下ろされた。
「ぎゃああああああああああ!」




