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天来  作者:
ユグドラシル
39/59

疲れた…

「殺すなって、どういう事?」

禮がアレスに聞いた。

「こいつらは元はこんな化け物じゃなかった。元は俺たちの味方だった」

「でも、それをどうするのよ」

「俺たちに依頼した人は殺さず弱らせてくれって言っていた」

「ふーん、そいつは中々なことを頼んでくる奴ね。あんた、騙されてるんじゃないの?」

「騙してなんかいないよ」

「!?」

空からここの誰の声でもない新しい声が聞こえた。

「あんた…」

アレスは空を見ながらこう言った。

「待たせてすまないね」

鏡無はそう言うと、巨大な植物を一点に凝縮させるように消し去った。

「なっ!?」

鏡無の背後にあった水晶が増え、3つになった。

「…ほらこの通りさ、弱らせてくれないとこれが出来ないんだよ」

「背中に水晶…黒装束…、あなた、名前は何?」

禮は突然鏡無にそう聞いた。

「ん?私は万封院(ばんふういん) 鏡無(きょうむ)だよ」

「万封院…!」

禮は驚いていた。

「じゃあね、次がある」

そうして鏡無は次のところに向かった。

「昔の教え子達の末裔か、ちゃんと強くて助かるなぁ」

鏡無はそう呟いた。


シリウスはシアンの無差別攻撃をなんとか防いでいる。

しかし、未だ傷が癒えないシリウスには厳しい戦いだった。

「くそ…動けない」

シアンは無慈悲な攻撃を止めることはない。

不意にシリウスの頭上に茎が振り下ろされる。

シリウスは避けきれず、槍で防いだ。

「っ!」

その一撃は手負のシリウスには重すぎた。

「かっ…」

頭の傷からまた、血が出てきた。

「やばい…竜技・天雷!」

天から雷がシアンに降り注ぐ。

しかし、ダメージを受けている様子はあれど動きは止まらない。

「ダメだ…威力が足りない…!」

「天命の護符」

「!」

「喑命の護符」

白黒二つの札がシアンに飛んでいく。

そして二つがぶつかると、強力な斥力が生じた。

「ふふ、これが二つの札を使える私の得意技さ」

そして、シアンも鏡無に水晶にされた。

「父さん…」

「少し弛んでるんじゃないか?シリウス」

「うるさい、うるさい」

シリウスは少しムキになっている。

「ははは…あぁ、こういう話もいいけど、時間がない。桜桃島へ私を連れていってくれ」

「桜桃島か…分かった」

「待ってくれ!」

耀夏が二人の元へ駆けてきた。

「あなたは?」

鏡無は耀夏にそう聞いた。

「僕はジョシュの、元はあんな姿じゃないけど、あの植物の友達なんだ。あの子は?帰ってくるのか?」

「…えぇ、きっと帰ってきますよ」

鏡無は微笑みながらそう言った。

「…!」

「シリウス、行くぞ」

「…ああ」

そうしてシリウスは鏡無を連れて飛んでいった。


「なんか、父さん悪そうなこと言うな」

「仕方ないだろ?どうなるかは私にも分からん。一番穏便な方法だった。あぁ、それはいいとして…この持ち方はなんだい?」

シリウスは鏡無の肩を掴んで、ぶら下げるようにして飛んでいる。

「一番穏便な方法だった…」

「そんな訳!?」

「…それにしても、父さん死んだはずじゃなかったの?」

「………そんな事言った?」

鏡無はしばらく考えてそう言った。

「…え?」

「私、お前にいい加減旅に出ろ、私はもう帰ってこないからな、とは言った。死んだとは言ってない」

「それ…ほぼ同じ意味じゃ?」

「違うだろ?そもそもあれを言ってから100年だぞ?どれだけ引きこもっているんだお前は!?」

「…うぅ」

「…君がじいちゃんと慕っている人。1000年前、この世界に名を轟かせた竜人、ベテルギウス。私の良き友だったよ。その彼からお前を任された。お前はよく育ったけど、その怠け癖だけはどうにもならなかった。…そんなお前を動かしたのは一体何なんだい?」

「…いい友達に会ったんだよ」

「そうか、その友達には感謝しないとな」

話しているうちに桜桃島が見えてきた。

「あれだ…」

島の端の方、大きな植物が蠢いている。

「まだ…生きているな」

「よかった、あの二人ならもう倒してもおかしくなさそうだったけど。間に合ったよ」

シリウスはその方に向かった。


植物は周りの木々を薙ぎ倒している。

「橙さん…どうしたのですか!?」

彩は植物を攻撃できずにいる。

「彩、躊躇うな!」

駆けつけた冥が彩に呼びかける。

「兄上!?、しかし…!」

「こうなってはいくら彼女といえど仕方あるまい!」

「…殺す他ないと?」

「彩、私達はこの島を、夢幻街の民を守るためにいるのだ、覚悟を決めろ!」

巨大な植物は無機質な様子で辺りを破壊している。

「…分かりました兄上、…百花繚乱!」

彩のかまいたちが無数に広がり、植物の体を切り刻んでいく。

「それでいい、塵旋風!」

冥も地面を抉るような猛風を巻き起こし植物を攻撃する。

この猛攻を受け、植物は力をなくしたように萎れてた。

「さぁ、トドメだ!」

「いえ、兄上!」

「彩?」

「いつまでも肝心な時に腹を括れないままではいけません!私は決めた、この島に仇なす者に一切の容赦はしないと!!」

彩は刀を振り上げる。

「ストーーーップ!」

上空から声が響く。

「!?」

彩と冥は空を見た。

シリウスと鏡無が落ちてきている。

「シリウス殿!?」

「容赦して!?」

シリウスは必死にそう訴えた。

鏡無はすぐにオレンジを水晶に閉じ込めた。

「あ、危ない…」

シリウスはその様子を見て安堵した。

「シリウス殿…どうしてここに?」

彩はシリウスにそう聞いた。

「世界中でこの植物が暴れていた。俺たちはそれを治めていたんだ」

「そうですか…」

「あの人は知り合いだったの?」

「はい…」

「殺さなくて…よかったね」

「ええ、本当に…」

彩は俯いた。

「そうだぞ、君達は若いからすぐに殺すという選択をとってしまうのだ。もっと命を重くみた方がいいのだよ!」

鏡無は声高らかにそういった。

「…シリウス殿、あの方は誰ですか?」

「まぁ…俺のお父さん」

シリウスはそう答えた。

「まぁ、シリウス殿の父上殿!?」

彩は驚いている。

「特に君だよ、天狗の少年よ」

鏡無は冥にそう言った。

「!」

「彼女は君の何だ?」

「彼女は…橙さんは、昔から私たちの姉のような人だった…」

冥は気まずそうにそう言った。

「そんな人を簡単に殺すなど言ってはならんよ」

「し、しかし、それではこの島が…」

「君の判断が間違っていたとは思わん。実際私達が来なければ、君達が彼女を殺さなければ、その被害は計り知れん。だが、大事な人を殺すという判断が早すぎる、もっとその人を殺す事を、自分の手をかけがえのない人の為に汚す事を躊躇い、悩め。そのままでは、その犠牲にしてもいい大事な人はいつか自分になってしまう」

「っ…私は…!」 

「すぐに何かを犠牲にするのは良くないと私は思う、それが自分なら最悪だ。数多くの命と一つの命、より重いのは多い方なのかもしれない。だが、それは、それは決して一つの命の重さを否定する事にはならない。…難しい事だろう、よく考える事だ。シリウス行くぞ」

「…分かったよ」

シリウスは鏡無を連れて桜桃島を後にした。

「彩よ…」

冥はそう言葉を溢した。

「はい?」

「私は間違っていたのだろうか?」

「…私にも分かりません。ただ、私があの時、橙さんをすぐに殺さなかったのは、間違いじゃないと思えました」

「…そうか」


「やー、セレナ!やっと終わるよ」

「遅いのよ、ノロマ」

セレナは黄色の巨大植物を火で囲って動けなくしている。

「はーい、封印!」

この植物も水晶として閉じ込められた。

「ようやく終わりだね。あとはウキュウを元に戻すだけだ」

「あぁ、俺も…疲れた…」

シリウスはそう言って倒れた。

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