疲れた…
「殺すなって、どういう事?」
禮がアレスに聞いた。
「こいつらは元はこんな化け物じゃなかった。元は俺たちの味方だった」
「でも、それをどうするのよ」
「俺たちに依頼した人は殺さず弱らせてくれって言っていた」
「ふーん、そいつは中々なことを頼んでくる奴ね。あんた、騙されてるんじゃないの?」
「騙してなんかいないよ」
「!?」
空からここの誰の声でもない新しい声が聞こえた。
「あんた…」
アレスは空を見ながらこう言った。
「待たせてすまないね」
鏡無はそう言うと、巨大な植物を一点に凝縮させるように消し去った。
「なっ!?」
鏡無の背後にあった水晶が増え、3つになった。
「…ほらこの通りさ、弱らせてくれないとこれが出来ないんだよ」
「背中に水晶…黒装束…、あなた、名前は何?」
禮は突然鏡無にそう聞いた。
「ん?私は万封院 鏡無だよ」
「万封院…!」
禮は驚いていた。
「じゃあね、次がある」
そうして鏡無は次のところに向かった。
「昔の教え子達の末裔か、ちゃんと強くて助かるなぁ」
鏡無はそう呟いた。
シリウスはシアンの無差別攻撃をなんとか防いでいる。
しかし、未だ傷が癒えないシリウスには厳しい戦いだった。
「くそ…動けない」
シアンは無慈悲な攻撃を止めることはない。
不意にシリウスの頭上に茎が振り下ろされる。
シリウスは避けきれず、槍で防いだ。
「っ!」
その一撃は手負のシリウスには重すぎた。
「かっ…」
頭の傷からまた、血が出てきた。
「やばい…竜技・天雷!」
天から雷がシアンに降り注ぐ。
しかし、ダメージを受けている様子はあれど動きは止まらない。
「ダメだ…威力が足りない…!」
「天命の護符」
「!」
「喑命の護符」
白黒二つの札がシアンに飛んでいく。
そして二つがぶつかると、強力な斥力が生じた。
「ふふ、これが二つの札を使える私の得意技さ」
そして、シアンも鏡無に水晶にされた。
「父さん…」
「少し弛んでるんじゃないか?シリウス」
「うるさい、うるさい」
シリウスは少しムキになっている。
「ははは…あぁ、こういう話もいいけど、時間がない。桜桃島へ私を連れていってくれ」
「桜桃島か…分かった」
「待ってくれ!」
耀夏が二人の元へ駆けてきた。
「あなたは?」
鏡無は耀夏にそう聞いた。
「僕はジョシュの、元はあんな姿じゃないけど、あの植物の友達なんだ。あの子は?帰ってくるのか?」
「…えぇ、きっと帰ってきますよ」
鏡無は微笑みながらそう言った。
「…!」
「シリウス、行くぞ」
「…ああ」
そうしてシリウスは鏡無を連れて飛んでいった。
「なんか、父さん悪そうなこと言うな」
「仕方ないだろ?どうなるかは私にも分からん。一番穏便な方法だった。あぁ、それはいいとして…この持ち方はなんだい?」
シリウスは鏡無の肩を掴んで、ぶら下げるようにして飛んでいる。
「一番穏便な方法だった…」
「そんな訳!?」
「…それにしても、父さん死んだはずじゃなかったの?」
「………そんな事言った?」
鏡無はしばらく考えてそう言った。
「…え?」
「私、お前にいい加減旅に出ろ、私はもう帰ってこないからな、とは言った。死んだとは言ってない」
「それ…ほぼ同じ意味じゃ?」
「違うだろ?そもそもあれを言ってから100年だぞ?どれだけ引きこもっているんだお前は!?」
「…うぅ」
「…君がじいちゃんと慕っている人。1000年前、この世界に名を轟かせた竜人、ベテルギウス。私の良き友だったよ。その彼からお前を任された。お前はよく育ったけど、その怠け癖だけはどうにもならなかった。…そんなお前を動かしたのは一体何なんだい?」
「…いい友達に会ったんだよ」
「そうか、その友達には感謝しないとな」
話しているうちに桜桃島が見えてきた。
「あれだ…」
島の端の方、大きな植物が蠢いている。
「まだ…生きているな」
「よかった、あの二人ならもう倒してもおかしくなさそうだったけど。間に合ったよ」
シリウスはその方に向かった。
植物は周りの木々を薙ぎ倒している。
「橙さん…どうしたのですか!?」
彩は植物を攻撃できずにいる。
「彩、躊躇うな!」
駆けつけた冥が彩に呼びかける。
「兄上!?、しかし…!」
「こうなってはいくら彼女といえど仕方あるまい!」
「…殺す他ないと?」
「彩、私達はこの島を、夢幻街の民を守るためにいるのだ、覚悟を決めろ!」
巨大な植物は無機質な様子で辺りを破壊している。
「…分かりました兄上、…百花繚乱!」
彩のかまいたちが無数に広がり、植物の体を切り刻んでいく。
「それでいい、塵旋風!」
冥も地面を抉るような猛風を巻き起こし植物を攻撃する。
この猛攻を受け、植物は力をなくしたように萎れてた。
「さぁ、トドメだ!」
「いえ、兄上!」
「彩?」
「いつまでも肝心な時に腹を括れないままではいけません!私は決めた、この島に仇なす者に一切の容赦はしないと!!」
彩は刀を振り上げる。
「ストーーーップ!」
上空から声が響く。
「!?」
彩と冥は空を見た。
シリウスと鏡無が落ちてきている。
「シリウス殿!?」
「容赦して!?」
シリウスは必死にそう訴えた。
鏡無はすぐにオレンジを水晶に閉じ込めた。
「あ、危ない…」
シリウスはその様子を見て安堵した。
「シリウス殿…どうしてここに?」
彩はシリウスにそう聞いた。
「世界中でこの植物が暴れていた。俺たちはそれを治めていたんだ」
「そうですか…」
「あの人は知り合いだったの?」
「はい…」
「殺さなくて…よかったね」
「ええ、本当に…」
彩は俯いた。
「そうだぞ、君達は若いからすぐに殺すという選択をとってしまうのだ。もっと命を重くみた方がいいのだよ!」
鏡無は声高らかにそういった。
「…シリウス殿、あの方は誰ですか?」
「まぁ…俺のお父さん」
シリウスはそう答えた。
「まぁ、シリウス殿の父上殿!?」
彩は驚いている。
「特に君だよ、天狗の少年よ」
鏡無は冥にそう言った。
「!」
「彼女は君の何だ?」
「彼女は…橙さんは、昔から私たちの姉のような人だった…」
冥は気まずそうにそう言った。
「そんな人を簡単に殺すなど言ってはならんよ」
「し、しかし、それではこの島が…」
「君の判断が間違っていたとは思わん。実際私達が来なければ、君達が彼女を殺さなければ、その被害は計り知れん。だが、大事な人を殺すという判断が早すぎる、もっとその人を殺す事を、自分の手をかけがえのない人の為に汚す事を躊躇い、悩め。そのままでは、その犠牲にしてもいい大事な人はいつか自分になってしまう」
「っ…私は…!」
「すぐに何かを犠牲にするのは良くないと私は思う、それが自分なら最悪だ。数多くの命と一つの命、より重いのは多い方なのかもしれない。だが、それは、それは決して一つの命の重さを否定する事にはならない。…難しい事だろう、よく考える事だ。シリウス行くぞ」
「…分かったよ」
シリウスは鏡無を連れて桜桃島を後にした。
「彩よ…」
冥はそう言葉を溢した。
「はい?」
「私は間違っていたのだろうか?」
「…私にも分かりません。ただ、私があの時、橙さんをすぐに殺さなかったのは、間違いじゃないと思えました」
「…そうか」
「やー、セレナ!やっと終わるよ」
「遅いのよ、ノロマ」
セレナは黄色の巨大植物を火で囲って動けなくしている。
「はーい、封印!」
この植物も水晶として閉じ込められた。
「ようやく終わりだね。あとはウキュウを元に戻すだけだ」
「あぁ、俺も…疲れた…」
シリウスはそう言って倒れた。




