気づかなかった同居人
気づかなかった同居人
「その様子だとさっきのでかい音はお前だったのか……」
男はまるで自分の家のようにくつろぎながら俺に声をかけてきた。
「死んだばかりで何もわかんねぇだろ。とりあえずそこに座んな。」
俺の部屋なのにお前が言うのかという気持ちもあったが、俺は男に言われがまま男の向かい側に座った。
「まずは自己紹介からだ俺の名前は渡辺だ。お前は驚いたかもしれねぇがお前がここに住む前から俺はここに住んでた。」
渡辺と名乗る男が自己紹介を終え俺も自己紹介を返した。
「俺は佐藤海斗っていいます。あの住んでいたというのは……」
「お前が見えていなかっただけでずっとこの部屋にいたってことだ。まぁお前は寝る時くらいしか家にいなかったがな。」
死んだことで見えるようになったと言うことなのだろう。つまり帰り道で死んだはずの俺に視線が向けられていたのは見えていなかった人達から向けられた視線だったのだろう。
「先に住んでたとはいえ借りたお前の部屋に住んでたお詫びとして幽霊の先輩としてお前にいくつかアドバイスしてやる。口を挟まずに聞けよ。」
「帰る途中で気づいたかもしれねぇが不思議なことに俺達には感覚が残っている。暑い、寒いを感じるし、幽霊同士なら触れることもできる。だから俺達も夏には涼むし冬には暖かい場所に行く。」
渡辺さんの話を聞き水場に霊が集まるという話が頭に浮かんだ。夏は川で涼み、冬は銭湯やお風呂場に集まっているのではないかと。
「それとだ死んじまったのになんで?と思うかもしれねぇが目的を持て。目的を持たねぇと考えちゃいけねぇこと考えちまうようになっちまう。だから成仏したいでも家族を見守りたいでも旅行したいでも、なんでもいい目的を持って行動しろ。」
それからしばらく渡辺さんの話しは続き、あまり他の幽霊達に関わろうとしないこと、着てる服や身体の状態は死んだ時のイメージに引っ張られていることなどいろいろ教わった。
「渡辺さん。いろいろ教えて頂きありがとうございました。」
俺は渡辺さんに感謝の気持ちを込めて頭を下げた。初めは一人で考え事をしたい気持ちだったが、結果的に渡辺さんがいてくれたおかげで心も落ち着き自分の目的について考えることができる。
「別にたいしたことは教えてねぇよ。俺はしばらく外に出るからこれからのことゆっくり考えな。」
「こんな夜遅くにですか?」
「俺たちは寝ないからな。時間なんて関係ないさ。」
そういうと渡辺さんは立ち上がり扉の方へ向かった。
「そういえば言い忘れてたけど黒っぽいやつには近ずかなよ危ねぇからな。」
渡辺さんはそう言い残し部屋をあとにした。