佐藤海人の過去
満月の夜。いつものように他の子供達はお年寄り達と一緒にいるが優里ちゃんだけが一人でいた。不憫に思った俺は優里ちゃんがいる隣の部屋へ行き優里ちゃんがいる部屋に手を手影絵の犬の形にして突っ込み話しかけた。
「コンバンハユリチャン。ヒトリデサミシイカラボクト、オシャベリシテクレナイカナ?。」
声を高くして話した。部屋の様子は伺えないが上手く影絵になっていることを願う。
「クスクス新しく来たおじさんでしょ。そんなことしても今の小学生は騙せないよ。直接は怖いから無理だけど壁越しならお話できるよ!」
優里ちゃんは少し笑い言葉を投げ返してくれた。
「ありがとう。おじさんも一人で退屈だったから嬉しいよ。」
とはいえ今どきの子供とどんな話をすればよいのだろうか。仕事ばかりしていたから何も知らないぞ!
「ねぇおじさん。おじさんの生きてた頃のお話聞かせて!」
「どうして?おじさんの昔話なんて面白くないと思うよ?」
「私ね……大人の人に乱暴されて……首締められて殺されちゃったの。だからもし私が生きてたらどんな人生歩んだのかなって……。」
小林から聞いてはいたが、この歳で殺され親からも離れないといけないのは辛いだろう。この子が望むならいくらでも俺の話を聞かせてやろう。
「つまらないと思うけどそれでもいいかな?」
「うん!大丈夫!」
「一番古い記憶は三歳の頃お母さんにソリに乗せてもらって引っ張ってもらってたね!その時は確か買い物に向かってた時だけど買い物した荷物と俺が乗ってたから。お母さん家に着くのにも一苦労だったろうね!」
「私もお父さんとソリで遊んでもらったことあるよ!けどお父さん小さい雪山作ってそこでしか滑らせてくれなくて少し物足りなかった〜」
「お父さんも優里ちゃんに怪我してほしくなかったんだろうね。」
それから少し母親との記憶を優里ちゃんと共有した。
「次の記憶は……五歳の秋頃かな?寒かったのを覚えてる。お母さんが出かけたきり帰って来なかった。」
「どうして帰ってこなかったの?お父さんは?」
「ごめん!子供に話す話じゃなかった!お父さんは物心ついた頃にはいなかったから覚えてないんだ。」
「じゃあ、おじさんもパパとママと一緒にいられなかったんだ……一緒だね。」
「そうだね……その後は親戚の家をたらい回しにされて小学生の頃には落ち着いたね。」
感情が込み上げてくる……。
「結局新しい家でも上手く甘えることができなくて、自分のおもちゃがないから一人でさっきみたいに影絵で遊んでたよ。」
子供に話すような話じゃない……
「今思うと嫌われたくなかったんだと思う……学校でも人がやりたがらないことを率先して頑張ってた。」
………………
「大人になってからも「おじさん!」」
気づくと優里ちゃんに抱きしめられていた。
「思い出させてごめんなさい……おじさんも大変だったんだね……私おじさんは怖くないから一緒に遊ぼ!」
そういった優里ちゃんの手は震えていた。俺は何をしているんだろう……年端もいかない女の子に無理をさせ心配をさせ。
「ごめんね。もう大丈夫だから。今日は二人でお話しよっか!」
俺と優里ちゃんで一晩中遊んでその日を終えた。




