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家族の絆とは 2

「ノキア。どうしたのその姿は……」

「何でもない!」


ノキアに近づいてそっと腰を下ろす。目線を合わせば、殴られたような頬を隠すように、ノキアが顔を逸らした。


「……ノキア。またか」

「また?」


グラッドストン伯爵様に振り向いた。


「ノキアは、貧乏男爵だと言われて、いつもからかわれている。その度に、殴り合いになり……そんな姿はしょっちゅうだ。それと、最初に手を出すのは、いつもノキアだ。相手側の家が何も言って来ないのは、私を恐れてのことだろう」


ああ、この怖い顔のグラッドストン伯爵様が、ノキアを守っていたのだ。胸が痛い。ノキアがシルビスティア男爵家のせいで、いじめられていたのだ。


「ノキア。ごめんなさい。お父様や私のせいなのね……」

「やめろと言うのに、やめない奴らが悪いんだ。姉さまたちのせいじゃない! そんなことより! 結婚するって本当なの!?」

「そうよ。だから、これまでみたいに会えなくなってしまうけど……」

「い、嫌だ! 結婚なんてやめてよ!」

「でも、もう決めたの……それに、学校が嫌なら家庭教師をつけましょうか?」

「要らない! これ以上、姉さまがお金を送るのはやめてよ! 家庭教師のほうが、お金がかかるでしょ!」

「でも、結婚しても仕事はあるの。だから、お金も送れるし……」

「要らない! 要らないよ!!」


ラッセル殿下から、聖女の仕事として給金ももらえることになっている。おかげで、今までよりもお義母様とノキアのために仕送りが増やせるのだ。

私とノキアのやり取りをみているグラッドストン伯爵様が冷たく言う。


「ノキアには、私も家庭教師を提案した。だが、リリアーネの金を無駄にできないと言って、意地になって学校に行っているのだ」

「お父様! 余計なことを言わないでください!」


私に知られたくなかったようで、お義母様が慌ててグラッドストン伯爵様を制止しようとした。


「だが、本当のことだ。家庭教師など、珍しい事でもないのに……」

「だからと言って……」

「エイプリル。ノキアの現状を考えろ。何度問題を起こして帰って来ると思っているのだ。家庭教師ぐらいの金は出すと言うのに……」

「だって……リリアーネちゃんのお金を無駄にはできないわ……ノキアだって、そのために頑張って学校に行っているの」


ああ、私の仕送りのせいで、ノキアは学校に行かなければならないと思い込んでいたのだ。

しかも、ノキアの気の強さ。お父様は普通の人だったけど、ノキアは祖父のグラッドストン伯爵様に似ているのだ。いじめられて、泣いて帰るような子ではないのだ。


「お祖父様のせいだ! 姉さまだけ、一人にするから!」

「リリアーネは、グラッドストン伯爵家ではないからな。そのうえ、彼女はすでに成人している。私が庇護する理由がない」

「うるさい! 姉さまだけ、あんな田舎において……!」


ノキアが感情のままに叫んだ。グラッドストン伯爵様は慌てもしない。お義母様は、そっとノキアに近づいて頭を撫でた。


「姉さま! 結婚しないでよ! 今でも毎日会えないのに……っ!」

「でも、もう決まったのよ」


それは、出来ない。王太子殿下からの結婚を勧められて断ることは出来ないのだ。


ノキアは、必死で私の腕を掴んで懇願している。


貧乏男爵。領地もない男爵家。貴族の子供たちが通う学校では、酷く肩身の狭い思いをしたのだろう。シルビスティア男爵家が、お義母様とノキアが生活できないほど落ちぶれてしまったせいで、一緒に暮らすことすら敵わない。

小さなノキアには、ずいぶんと辛い思いをさせてしまっている。


すると、お義母様は、そっとノキアに近づいて頭を撫でた。


「ノキア。それは、ダメ。リリアーネちゃんにも、幸せになってもらわないと……ノキアの我儘で、リリアーネちゃんの結婚をダメにしないで」

「母様……なら、すぐにシルビスティア男爵邸に帰ろう。離れているから、姉さまは結婚しないといけないんじゃないの!?」

「帰っても、リリアーネちゃんは結婚相手のところに行くのよ。だから、ダメ」

「嫌だっ……お金も要らないから、ここにいてよ」


ノキアは、しがみつくように抱き着いて来た。離すまいと必死なのだろう。


「……ノキア……でも、お金は必要なの……何もしないで、人は暮らせないのよ」

「だからって、姉さまばかりが苦労するなんておかしいよ……! 僕も働いたら、姉さまばかりが働く必要はないでしょ……!」

「でも、私が働いた方がお金になるの。聖女なら、仕事はあったし……それに、もうお金の心配はいらないの」


聖女なら、普通よりもお給金はいい。借金返済のせいで裕福にはならなかったけど……すでにクビになっているし。


しかも、どこかの貴族に目を付けられて、聖女をクビにさせてまで妾へと行くことにもなるはずだったのだ。それほど、借金の返済に追われていた。

腕にしがみついているノキアが、抱きついて懇願してくる。


「嫌だよ。行かないで……シルビスティア男爵邸に、帰るから……結婚しないでよ」

「ノキア。結婚は、もう決まったことなの……でも、すぐに出発するわけじゃないから……明日から、毎日グラッドストン伯爵邸に会いに来るわ……その間だけは、一緒に過ごしましょう」

「……なら、今夜はここに泊まりなさい」


今にも涙を流しそうなノキアの頭を撫でながら言うと、グラッドストン伯爵様が最後に一言いう。


「泊まってもいいのですか?」

「宿泊だけだ。執事にゲストルームを準備させよう」


そう言って、持っていた本を置いてグラッドストン伯爵様は出ていった。


今にも泣きそうなノキアを抱き寄せると、殴り合いの喧嘩をしたせいか服も身体もボロボロだ。


「ノキア。怪我を治しましょうね」

「要らない……お祖父様は、嫌いだ……」

「そんなことを言わないで……グラッドストン伯爵様には感謝しているの。ノキアとお義母様が暮らせるのは、グラッドストン伯爵様のおかげなの。彼が、お義母様とノキアを守ってくれているのよ」


顔を上げられずに強がっているノキアにそっと癒しの魔法をかけると、擦り傷が瞬く間に消えていった。









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