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雷雨の夜にやって来た骸骨様 2

薬湯が出来上がり、すぐに部屋へと持って行った。倦怠感いっぱいの子供を、骸骨様が支えて起こした。


「おじ様……」

「ああ、大丈夫だ。薬湯を飲みなさい。すぐに身体が楽になる」


薬湯を子供に飲ませると、力なくこくんと飲んだ。そのまま、骸骨様が子供の頭を撫でると、子供は安心したように眠ってしまった。


「では、私は何か食事を準備してきますね。骸骨様は、ここで休んでいてくださいね」


厨房に降りて、スープを温めた。何かすぐに食べられそうなものはないかと、適当にパンやチーズをだした。そして、私は雷に怯えながら、書斎に軽食を並べていた。

その時に、キィッーと扉が開かれると、薄暗い扉から骸骨様が姿を現した。


「失礼。灯りがここから漏れていたので……」

「あの……お子様は大丈夫ですか?」

「ああ。薬湯が効いたおかげで眠った。助かりました」

「それは、良かったです」


両手を揃えて、にこりと笑顔で言うと骸骨様の雰囲気も柔らかくなった。


「骸骨様。お腹は空いていませんか? 少しですが、軽食を準備しました。本当に少しで申し訳ないのですけど……」

「いいので?」

「はい。外はお寒かったですよね? 温かいスープとお茶をどうぞ」


書斎のソファーテーブルの上には、ほんのり湯気が立つスープとお茶にパンにチーズを並べていた。


「こちらにどうぞ」と言うと、骸骨様がソファーに座って食事を始めた。表情がまったく読めないから、美味しいのかどうかもわからない。それ以上に、食べた物はどこにいくのかが、摩訶不思議だけど、お腹から食べた物が出てくることはなかった。


邸の外では、ひたすらに雨が降り続いている。骸骨様と一緒にお茶飲んで、彼の食事も終わろうかとした時に、近くに雷が落ちたかのように、雷音が響き渡った。


「キャア!!」


空気まで震えるようで、その雷にビクつき身体を縮こませた。


「大丈夫か?」

「だ、だ、大丈夫ですっ」


上ずった声で返事をすると、心配気に骸骨様が近づいてきて、私の前に跪いた。


「そうは見えない。雷が怖いのか?」

「その……少しだけ……」


私の震える手を見て、少しだけとは思えないが、と言いたげな骸骨様。その震える私の手に、彼が手を添えた。骨ばった手は指も長くて、男らしいのだろう。骨しか見えないけど。


「一緒に部屋に帰ろう。部屋まで送る。眠るまで一緒にいよう」


私を労わる様に、彼は優しく言う。でも……。


「部屋は……その、」

「どうした? 何もしないから安心しなさい」

「そうではなくてですね……そのですね……この邸には、私人一でして……」

「そのようだな。書斎に来るまでも、人の気配などなかった」

「す、すみません。廊下も真っ暗闇でしたよね。一人だから、邸中に灯りを燈してなくて……」

「家族はどうしたんだ?」

「見ての通り、没落してます……領地のない、爵位だけの貴族で……」


貧乏すぎて、申し訳ない。


「だから、部屋がないのです」

「部屋がない?」

「使ってない部屋は、掃除もいきわたってなくて……」


ベッドも埃が溜まったままで、シーツすら敷いてないのだ。


「でも、大丈夫です。骸骨様は、私の部屋でお子様とお休みください。私は書斎のソファーで休みますので……」

「あの部屋が君の部屋だったのか。それは、すまない。俺たちが部屋を取ってしまったのだな……」

「気にしないでください。お子様の身体が一番です。それに雷が怖くて、今夜はゆっくり寝るつもりはなかったので、ずっと書斎で丸まっていたんです」


だから、骸骨様が訪ねてきた時に、すぐに玄関へと行けたのだ。

その時に、また雷鳴が響いた。


「……っ!!」


ギュッと身体がまた縮こまる。


「大丈夫だ。一緒にいるよ」

「でも……ご迷惑では?」

「助けてくれた礼だ。すぐには、礼ができないからな……あぁ、そう言えば、名前を聞いてなかった。名前を聞いてもいいだろうか?」

「……リリアーネです」

「可愛らしい君に似合う名だな……さぁ、リリアーネも寝なさい」


そう言って、骸骨様が優しく手を伸ばして私を包み込むように抱擁した。

骸骨なのに、彼の腕の中は人肌の温もりを感じるように温かくて、一人で震えていた私はホッとした。


「自分の名前を名乗れなくてすまない」

「いいのです」


こんな深夜に子供を抱えた骸骨が来るなんて、訳ありにしか思えない。だからといって、理由を問い詰める気にもなれない。

骸骨様は、怖い見た目と違いずっと優しくて紳士的だから……。


「骸骨様……温かいです」

「そうか……」


慈しむように私を抱き上げたかと思えば、私を彼の膝の上に乗せて、そばにあったブランケットをかけた。一つのブランケットに骸骨様と包まれていることが不思議な光景に思えた。


まるで、私を寒さから守ろうとして抱き合っている。それくらい、暖かくて……そっと骸骨様の胸板らしきものに手を添えた。


「リリアーネ。俺が怖くないか?」

「最初は驚きましたけど……骸骨様は、玄関を開けた時からずっと丁寧で紳士でした。今も、私を労わってそばにいてくれてますし……だから、大丈夫です」

「……」


何も言わない骸骨様が、私を抱き寄せている手に力が入った。さらに骸骨様に身体が密着する。雷鳴から私を塞ぐように、その温かな腕の中で、眠りについた。






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