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グラッドストン伯爵邸 1


__翌日。


グラッドストン伯爵邸の前で、ジークヴァルト様を待っていた。


「リリアーネちゃん。寒いから邸で待ちましょう?」

「お義母様……でも、もうすぐで戻ってくると思うんです」


夜には帰ると言ったジークヴァルト様が、まだ帰ってこない。まさか、骸骨姿になって戻って来られないんじゃないかと心配になる。


「少しその辺りを見て来ますね」

「リリアーネちゃん……早く会いたいのね。わかるわ。乙女心ね。なら、これを羽織って行って」


乙女心は無いと思う。けど、寒さを心配するお義母様が、羽織っていたストールを私にかけてくれる。


「ありがとうございます」

「いいのよ……ノキアのことは気にしないで行きなさい。今は部屋でお勉強中だから」

「はい」


今は、グラッドストン伯爵がノキアの勉強を見ている。しばらく学校に行かせないつもりなのだろう。


庭を進みグラッドストン伯爵邸の門の外に出ると、丁度よく馬車がやって来た。


ジークヴァルト様かもしれない。期待するが、知らない家紋のある馬車だ。しかも、何台も連なって来ている。ジークヴァルト様はラッセル殿下のお忍び用の馬車を借りているはずだった。


急いでいるのか、乱暴な走り方の馬車から横に避ける。グラッドストン伯爵邸に入れていいのだろうか……。すると、近づいてくる後ろの馬車には、騎士団の鷹の紋章が目に入った。


「止めろ。ノキアの姉だ!」


その声で馬車が止まった。出てきたのは、ノキアの同級生の親たちだ。後ろの馬車は、街の騎士団だろうか。


「あの……何かご用ですか?」

「お前たちをひっ捕らえに来た。グラッドストン伯爵もすぐに出せ!」

「はぁ、グラッドストン伯爵様は邸にいますけど……捕まる理由は何でしょうか?」

「あの男を出せ! 公爵を騙った男だ!」

「まさか、ジークヴァルト様を捕まえに来たのですか?」


ちらりと、騎士団を見る。貴族からの要請だからすぐに動いたのだろうか。


「当たり前だ。公爵を騙るなど、罪に問われるのは当然だ!」

「きちんとお調べになってないのですか? ジークヴァルト様を捕縛することは出来ませんよ。そもそも、公爵を騙る理由もないですし……」

「どうせ、公爵を騙れば我々がノキアから引くとでも思ったのだろう。金も権力もない成金貴族だった没落寸前の男爵家の考えそうなことだ。いくら見栄を張ろうが先祖代々続いた我々貴族とは違うのだ。身分の高い貴族も用意出来なかったから、騙るしかなかったようだが……」

「確かに、私は領地もないお金で爵位を買った貴族の娘です。でも、ノキアは違います。彼には、先祖代々続く立派なグラッドストン伯爵家の血が流れています」

「惨めなものだな……結局はグラッドストン伯爵の威光に守られなければ、貴族としても過ごせない。恥ずかしくないのか? だから、偽物の公爵を用意して、我々に対抗しようとしたのだろうが……」


目の前の貴族たちの方は、貴族を傘に着て弱者を痛めつけようとしているように感じる。


確かに、惨めだと思う。お金もなくて、領地もない爵位だけの貴族。そう思っていたけど、今はそう思えない。

お義母様は貧乏でも彼女は何も変わらなかった。お義母様は、格式高いグラッドストン伯爵家の令嬢なのに、貧乏な私たちを蔑むことは一度もなかったのだ。申し訳ないと思っていた自分が恥ずかしくなるほどお義母様の言葉に胸を打たれた。今まで、私たちが卑屈にならなかったのは、すべてお義母様のおかげだと気付いたのだ。


貧乏でも何も変わらないお義母様はずっと綺麗だけど、目の前の貴族はとても醜く見えるほどだ。


「ご令嬢。一度我々と来ていただきます。そうすれば、グラッドストン伯爵も出てくるでしょう」


騎士たちが私を囲んだ。


「お断りします。私は、聖女です。騎士団に捕縛される謂れはありません」

「だが、教会を解雇されたとお聞きしました。そんな方が聖女だとは……」


鼻で笑う騎士に、苛ついて眉間にシワが寄る。なんて失礼な騎士だと。


「そんな聖女だから、捕縛してもいいと? 聖女は騎士団とともに、このアルディノウス王国を守っているはずですよ。それとも、私までもが聖女を騙っていると言うのですか?」

「それも、お聞きします。それに、ノキア・シルビスティアがこちらのご息子たちを傷つけたと被害が出ています。そのうえ、グラッドストン伯爵様がご子息たちを閉じ込めていると……」

「……閉じ込めて? どこに!?」


思わず、声音が大きくなった。確か病院に行っていたはず。グラッドストン伯爵様が病院に様子を見に行っていたし、夕食の時にお聞きしても元気だったと言っていたような……。


目の前の貴族たちは、私たちが謝らなかった腹いせなのか、ご子息たちを閉じ込められたせいか……どちらかわからないけど、騎士団を使ってまで私たちに報復に来たのだ。


グラッドストン伯爵様のお名前を傷つけるつもりなのかもしれない。彼を連れて行かれるわけにはいかない。ノキアにも、お義母様にも、グラッドストン伯爵様が必要なのだ。

私が必要なのではないのだ。

まだ子供のノキアには、庇護してくれる権力のある人がそばにいないと守れない。


「お引き取りください。私の話が聞きたいなら、私が行きます。ですが、グラッドストン伯爵家は関係ありません。私は、グラッドストン伯爵家の娘ではありませんし、ノキアのことは、きちんとお調べください。ノキアも怪我をしていたのです」

「そんなはずはない。私たちがノキアを見た時には、傷一つなかったではないか」


ああ、しまったですわ。ノキアの傷は、この人たちが来る前に治してしまったのだ。

良かれと思ってしたことが裏目に出てしまっている。


「とにかく、グラッドストン伯爵家には一歩も踏み入れないでください。これ以上ノキアを傷つけるなら、私にも考えがあります」

「いったい、何をする気だ」

「戦います」


こんなところで問題を起こせば、結婚がダメになるかもしれない。ラッセル殿下からもおしかりを受けるだろう。ジークヴァルト様はガッカリすると思う。


それでも、ボロボロになって帰ってきたノキアが忘れられない。


私が捕まっても、グラッドストン伯爵様がいて下さればノキアは大丈夫だ。彼がノキアを守ってくれる。私には、出来なかった生活も何もかもを庇護して与えてくれるのだ。


門の前に立って、毅然として言うと、門の向こうが慌ただしくなった。


「姉さま!? 姉さまに近付くな!!」

「待て! ノキア!」


門前での異変に気づいたノキアが走って来たかと思うと、私が囲まれた姿を見て、怒りを露わにする。そして、感情のままにノキアから魔法が出ると、その勢いで門が音を立てて壊れた。


「姉さま! 姉さま!」

「ノキア。ダメ! 落ち着いて」


私の前に駆けてきたノキアを抱きしめる。使用人の誰かが門前の異変に気づいてグラッドストン伯爵様を呼んできたのだろう。


「なんて乱暴なんだ!」

「グラッドストン伯爵! やっと出て来たか! 息子たちを返してもらおう!!」

「ふん。貴殿らの望み通り、病院で診てやっているだけだ」

「ふざけるな! 面会謝絶にして、息子たちを病院に閉じ込めているくせに!!」


グラッドストン伯爵様、何をしたのですか。

その時に、また何台も馬車がやって来た。


「いったい、どれくらいの人数をお呼びしたのですか……貴族が聞いて、呆れますよ」


これほど無駄な権力の使い方はないだろうと、ため息が出そうだ。


「あれは、私たちでは……」


騎士たちも、親たちも驚いている。彼らが呼んだのでは無ければ……まさかと思うと、私たちの目の前で馬車が次々に止まった。







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