表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネトゲの嫁と離婚したら、クラスのギャルお嬢様がガチギレしていた  作者: 春海たま
新米彼氏彼女初心者編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

94/108

第94話 レオにゃんの変じゃ……

「光と闇が合わさり」

「最強に見える」

いんよう

超陰陽ちょうおんみょうパワー大炸裂」

「白魔法と黒魔法が拮抗し」

「虚無が開闢かいびゃくする」


 ……なんてカッコイイセリフしりとりをする余裕があるくらい、俺とレオナさんの周囲にはバリアが張られているらしい。


 照れ隠しのガチダッシュのおかげで遅刻はまぬがれ、郷明きょうめい駅で下車。

 さすがに人目が増えたと思い、手をつなぐのは自重じちょうしようとしたけど、レオナさんの方から握ってきた。


 こうなっては俺も覚悟をいれ、受け入れた。

 制服姿の生徒が増え、パーフェクトお嬢様フォームのレオナさんは注目の的だ。


 光り輝く姿に眩しくて目をそらし、今度は光によって生じた影みたいな俺を見てそらし、中心の手つなぎで何かを察し、バリアに弾かれていく。


「ふっふっふっ。みんなカッコイイセリフしりとりをするしているとは思うまい。ガチで驚いてるね。ぱねー。今日はいつになく風が騒がしい」


 レオナさんは周囲の反応を見て、楽しそうに笑う。


「奴が嵐を引き連れて帰ってくる。聞こえても何を言ってるんだろ、とは思うだろうけどね」

「それなー。分かる人は数少ないし。たとえ分かっても、意味分からんし。王の凱旋がいせんだ、退くがいい」

「我が城に裏口から入る臆病な王など存在しない。……でも彼氏彼女、恋人? って噂には、なるよね。臨むところだけど」


 ここまで大々的に手をつないで歩けば、否が応でも察するだろう。

 今さら周囲の目を気にして及び腰になる理由はないし、離す気もない。


 ……そもそも体育祭の時点でかなり目立ってただろうし。


 それよりもクラスのみんなにどう打ち明けるべきなのかで頭を悩ませる。

 今のところクラスメイトに会っていない。


 いっそ今のうちに会ってくれた方が楽というか。話も切り出しやすいし。

 恋人同士になりました、って改めて説明するのもどうなんだろう、と。


 家族に打ち明けるのとはさらに違った難しさがある。


「う、うん。もう真白君のか、かの、じょってのは一目ー……りょーぜん……じゃん?」


 レオナさんがうつむき、キュッと握った手に力を込める。


「……レオナさんの負け?」

「はっ! しまったー! 真白君のデバフに引っかかったー!」


 俺が勝ったからといって特に景品はない。

 あるとすれば、レオナさんの照れポイントを少し学習したくらいだ。

 人前で手を握るのはいいけど、言葉にするのはまだ慣れないらしい。


 俺たちは新米彼氏彼女初心者なのだ。日々学んでいくしかない。


「……さすがに校舎が見えてきたし。ここら辺にしようか?」


 つないだ手を見る。

 浮かれるのはいい。

 でも、先生たちに目をつけられ、レオナさんが困るのは本望じゃない。


「うん。学校的健全的節度あるこ、恋人コミュでいこう、ぜ」

「そうだね。学校的健全的節度ある恋人コミュでいこう」

「大事なことだからって繰り返さなくてもいいし!」


 レオナさんはむすっと頬を膨らませる。


「大事なことだし、ね?」

「そ、それはー……確かにそーだけどー。なんか真白君だけ余裕ある感じでずるくね?」

「こう見えて俺も余裕はないんだけどね」


 そう言いながらお互いに手を離そうとしない。

 中々手を離せず、校門が視認できてようやく、なんとか、名残惜しそうに離せた。


「あ? え?」

「兎野君に、レオナちゃん?」


 タイミングがいいのか、悪いのか。

 またしても一緒に登校してきた安昼あひる君と白鳥しらとりさんに出くわした。


「お、おはよう」


 見られた? と思いつつも挨拶をする。


 さっきまで出くわしてくれと願っていたはずなのに。

 残っていた余裕があっさり吹き飛び、一気に緊張感が増してしまった。


 やっぱり友だちの前だと全然違う。


「あ! 安昼君にナギりん! おはよー!」


 レオナさんも同じようで、勢い任せに白鳥さんの手を握ってぶんぶんと振った。


「う、うん。レオナちゃんに兎野君、おはよー」

「お、おう。おはよう」


 安昼君が前回みたいに俺の方にやってくる。


「獅子王さんのお嬢様っぽい格好なんて見るのは中等部以来か。ビックリしたわ。兎野、その。なんか、あった、よな?」

「そ、それは。まあ、ね」


 安昼君は気まずそうに聞いてきた。

 この口ぶり。全部バレてしまっている気がする。


「また今度、話す感じで、お願いします」


 今はこの答えが正解な気がする。


「そうだな。校門で話すことじゃないしな。行くか――ぐッ!?」


 安昼君が爽やかに頷き、一緒について、来なかった。

 顔を真っ赤にし、目をギュッと瞑った白鳥さんが、安昼君のブレザーを後ろから引っ張っていた。


「白鳥ー! 今のお前の気持ちは俺でも分かるぞっ! でも気きぶるのはほどほどにな! やるとしても校門前ではやめてくれ!」

「わー! ナギりん落ち着いて! ステイステイ!」

「白鳥さん! 安昼君が苦し……そうに見えないけど落ち着いて!」


 またしても俺たちのせいで妄想を爆発させてしまった白鳥さんを落ち着かせてから、教室に向かった。

 

 ◆


「はあ!?」


 俺たちが教室に入って聞いた最初の声は、それだった。

 虎雅こがさんが机に手を叩きつけ、立ち上がっていた。

 ずんずんと俺たちの方に向かってくる。


「レオナ!? は!? え!? は!?」

「桜ー? モデルがしていい顔に動きじゃないよ?」


 虎雅さんはレオナさんの顔を至近距離から見て、制服のあらゆる箇所をチェックし、


「兎野ごめん! レオナ借りていい!?」

「あっ、はい。どうぞ」


 圧倒され、頷くしかなかった。


「ありがと! ほらレオナ! さっさと荷物置いて来なって!」

「りょだからー。桜、落ち着いてくれー」


 レオナさんは慌ただしく自分の机に荷物置いて、


「ごめんね、真白君。また後でね。さらばー」

「また後で……」


 虎雅さんに手を引かれて廊下に出て行った。


「来たい、女子、いる?」


 と思いきや、虎雅さんは真剣な面持ちで顔だけだして聞いてきた。


 クラスの女子のみなさんが、虎雅さんと同じように真剣な顔で立ち上がり、教室を出て行く。

 さながら戦地に向かう戦士の顔だ。


「本能寺の変にも引けを取らないレオにゃんの変じゃ……えらいこっちゃ……炎が燃え盛っておるぞ……」


 最後に豹堂院ひょうどういんさんが教室のドアを閉め、教室には男子しかいなくなってしまった。


「なんだなんだ。女子全員驚いてよ。獅子王さんのあんなお嬢様みたいな格好初めて見たけどよ。そんなに驚く程か?」

「獅子王さんのあの姿は中等部以来、高等部では初めて。無理もない。どうしてそうなったかの理由は不明だけど」


 根津星ねづぼし君と瑠璃羽るりば君はそう言いながら、俺と安昼君の方にやってきた。


「まあ、その、色々――」


 俺ははぐらかそうとしたけど、


「レオナさんと付き合うことになったから」


 やめた。


 俺があがいた体育祭を支えてくれた友だちだから。

 打ち明けて、関係がどうこう変わるものとは思いたくない。


「……エ? ムシロ、マダ付キ合ッテナカッタノ?」


 根津星君は驚き、最後にそう言い残して固まってしまった。


「根津星は……どうでもいいや。兎野、おめでとう」

「遅かれ早かれこうなるとは思ってたしな。よかったじゃないか、おめでとう」

「くっ! 根津星なら許さなかったが、兎野なら血涙けつるいだけで許そう!」


 みんなが恨み節も交えながら、なんだかんだ祝福してくれる。


「ありがとう」


 俺が伝えられる感謝はこれくらいだ。

 変に気取ったセリフなんて出てこないし、十分な気がしたから。


 しばらくして教室のドアが力強く開け放たれ、虎雅さんたちが帰ってくる。


 レオナさんは……それはまあ、何を聞かれたのかは分かっちゃうくらい顔を真っ赤っかにして自分の席に座る。


「兎野、外でイチャつくのはいいけど。学校じゃほどほどにね。あとバレずにね。困ったら相談して」

「え? は、はい。ありがとうございます?」

「ウサノスケ。武運長久ぶうんちょうきゅうを祈る」

「お祈り感謝……?」


 レオナさんの親友である虎雅さんに、豹堂院さんにも……祝福? され、


「あっ! だめ! レオナちゃんに兎野君! そのロッカーは一人用……あたっ!?」

「白鳥ー……いい加減にしなさいっ」


 妄想にふけっている白鳥さんを、安昼君が軽く優しくチョップで正気に戻していた。

 そのおかげで教室がいつもの空気に戻る。


 クラスメイトに打ち明けても、想像よりも変化はない。

 あっさりしていた。


 でもこれくらいが助かるし、嬉しい。

 こうして1年A組で俺たちの交際は公認のものとなった。

 そして新たに学んだのは……女子の嗅覚って凄い。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ