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ネトゲの嫁と離婚したら、クラスのギャルお嬢様がガチギレしていた  作者: 春海たま
99.9+0.1編

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第78話 ライオンな君が

 昼休みになった。

 お弁当を広げたり、食堂に行ったり、みんなが行動を始める。


安昼あひるー、ちょっと部活の相談があるんだけどさ。中庭で食べながら相談していい?」

「おーう。いいぞ。悪いな、今日はそっちですます」


 そういって白鳥しらとりさんと安昼君は教室を出て行く。


「ヘブンの呼び声がします。星の逢瀬おうせに行って参ります」

「あーはいはい。逢瀬にいってらっしゃい」

「彦星と織り姫によろしく」


 不思議系設定レオナさんが、虎雅こがさんと豹堂院ひょうどういんさんに断りを入れて後を追った。


 俺も行動を開始しよう。

 寄り道をしてから中庭に行くと、安昼君と白鳥さんがベンチに並んで座っている。


 お弁当を広げながら会話をしている様子を、死角の柱からじっと見つめるレオナさん。


「獅子王警部。あんぱんどうぞ」

「うむ。ありがとう」


 レオナさんがあんぱんの包装を破り、あむっと一口食べて固まった。

 あんぱんをくわえたまま俺の方を向き、


「ましゃのくぅん!?」


 目を見開き、ふがふがと叫んだ。

 よかった。


 あんぱんを食べてなかったら二人にバレてたな。

 いやまあ、バレてるんだけどね。


「レオナさん、牛乳飲む?」

「飲み、ます」


 紙パックの牛乳を渡すと、レオナさんはストローをぶっさしてグビっと飲んだ。


「真白、君。あ、いや、なぜこんなとこにおりますの?」


 レオナさんが俺を見ずに、視線を落として言った。


 一瞬、キャラ設定を忘れそうになったけど慌てて修正していた。もう不思議系じゃなくなってる気がするけど。


「ちょっと飲み物買いに行こうとしたらレオナさんが見えてさ。ご飯も食べずに見てるから気になって。二人に何か用があるの? これも……ヒロイン強化週間イベントの一つだったりする?」


 えっと、とレオナさんは話しづらそうにしながらも続ける。


「ナギりんとは中等部から同じくクラスになってね。プールの授業で初めて泳ぐ姿を見た時、凄い綺麗だなーって思ったんだ。本当に白鳥はくちょうみたいで綺麗で美しいっていうか。

 普段は物腰が柔らかいし、穏やかだし。私も……その、少しはお淑やかになれないかなあって、思って」


 白鳥さんの顔立ちは綺麗と可愛いのいいとこ取りというか。愛嬌がある。それでいて美人さんだ。


 艶のある黒髪のボブカットは、毛先がちょっとはねているのも含めて似合っている。


 俺は泳ぐ姿を見たことはないけど、想像できるくらいの容姿だと思う。

 性格も容姿にあった穏やかで、朗らかって感じだ。


 ただそれは白鳥さんなだけであって。


「それに幼なじみって何も言わなくて通じ合えてるって感じがしてさ。羨ましいなって」


 幼なじみだからってお互いに全部が分かってるわけじゃないと思うけど。


 それでも察すれば、レオナさんは言いたくても言えないことを抱えてるってことだ。


「……レオナさんは白鳥はくちょうになりたいの?」

「……分からない。でも、あんぱんで餌付けされて、ふがふが言っちゃうよりは真白君も……いいかなって」


 レオナさんは一口しか食べてない、あんぱんを握りしめた。

 俺は、なにをやってるんだろう。


 俺だけは軽い気持ちで受け止めてはいけなかったのに。


「レオナさん。俺は湖を優雅に泳ぐ白鳥はくちょうも綺麗で美しいなって思うけどさ。

 太陽が照りつけるサバンナを元気に走り回って、狩りをして、仕留めた獲物を食べちゃうライオンの方が……好き、だな」

「はへ!?」


 レオナさんがやっと俺を見てくれる。

 綺麗な碧い瞳は不安の色に染まっている。


「だから、レオナさんはレオナさんのままでいいんじゃないかなって。俺は、そう思うよ。

 もちろん。ヒロイン強化週間イベントなんて始めるレオナさんも可愛いかったよ。でもやっぱり普通に話したいなって。駄目……かな?」


 今の気持ちを伝える。

 レオナさんはあんぱんを半分にし、かじってない方を俺に差し出した。


「ライオンは仕留めた獲物を仲間に分け与えるんだよ」

「うん。ありがとう」

「ごめんね、真白君。変なイベントに付き合わせちゃって」

「いいよ。寂しかったけど、楽しくなかったといえば嘘になるし。色んなレオナさんのキャラ変見れたし」

「あーあー。あんまり言わないでー、今になって恥ずかしくなってきたし。けっこー……いや、かなり適当なキャラ作りだったし。

 ファンの人が見たら大炎上だよ。酷評されても致しかたなしー。なんで私こんなイベント実行しちゃったんだろー」


 レオナさんは恥ずかしさをごまかすようにあんぱんを食べて、牛乳をずずーっと飲む。


 そんな姿も可愛らしくて……うん。

 好きだ。


 文化祭とか何かのイベントとかデート……とか、特別な日に告白した方がいいのかなって考えていた。


 俺は告白をされたこともないし、したこともない。

 告白のTPO――なんてよく分からないことまで考えちゃうタイプだ。


 でも、レオナさんをここまで悩ませるのなら早く行動した方がいい。

『だいすき&俺も』問題を解決する時が勝負になるかもしれない。


 ただ今は目の前の問題の解決をしよう。


「ちなみに獅子王警部。ネタばらしをしますと。尾行、白鳥さんたちにバレています」

「マ!?」

「うん。レオナさんにはサバンナでの狩り適性レベルが足りなかったみたい。まずは初心者向けの草原で頑張ろう」


 レオナさんに事情を話し、安昼君にもう大丈夫と連絡して中庭に出る。


「ナギりん! 怖がらせちゃってごめんねー! 今度デラックスマウンテンチョコパンゲットしてあげるからー!」

「え!? いいよ! 私もうレオナちゃんに回転寿司で無限におごられちゃったんだから! もう食べられないよ!」

「え!? 記憶にないけど!? でも、そんな天然さがナギりんの魅力だよー! もー! ナギりんがお清楚ぐうかわなのが悪いんだからねー! 罪作りな女の子なんだから!」


 レオナさんと白鳥さんが仲直りし、一件落着。


 これで白鳥さんはレオナちゃんシンドロームに悩まされなくてすむし、レオナさんのヒロイン強化週間イベントも終わりを迎えるはずだ。


「解決したのか?」


 安昼君に声をかけられ、頷く。


「うん。ちょっとだけ」

「そうか……まあ、一気に全部解決しなくていいんじゃないか?」


 爽やかに笑う安昼君を見て思う。

 まるで俺とレオナさんの問題なんて何もかもお見通しなんじゃないかと。


「さすが幼なじみもちの人は人徳の経験値が違う」

「幼なじみは関係ないだろ。いや、人徳もだけど。なんか獅子王さんみたいなこと言ってるぞ?」

「影響、受けたのかも」

「そっか。そこまで言うなら今度、俺にもデラックスマウンテンチョコパン取ってきてくれや。兎野なら余裕だろ?」

「なるほど白鳥さんと一緒に。さすが幼なじみ、俺たちとはレベルが違う」


 目を手で覆い、天を仰ぐ。


「なあ、兎野。本当に影響受けまくってないか? お前がキャラ変したら大惨事だぞ」

「ごめん。調子に乗りました」


 落ち着く意味を込めて、最後のあんぱんを頬張る。


「はっ!? ま、待って! 兎野君とレオナちゃんであんぱんを半分こにしたの!? その牛乳はもらったの!?」

「え? うん? そーだよ?」


 レオナさんも手に持っていた残りのあんぱんを頬張り、牛乳パックのストローに口をつけた。


「そ、そうなんだ! あ! 駄目! レオナちゃん! そんなことしたら真白君のデラックスがマウンテンしてチョコっちゃうぱん!」


 ……白鳥さんが突然なにもない空間に向かって手をパタパタと動かす。


「ナギりん!? そんなことしたら真白君のデラックスがマウンテンしてチョコっちゃうぱん! ってなに!?」


 レオナさんも驚き、同じ空間に向かって片手をわたわたさせる。


「白鳥は昔から少女マンガが大好きでな……まあ、あれだ。最近は部活も忙しくて落ち着いていたんだがな。体育祭の兎野と獅子王さんの一件で再燃してしまったらしくて」


 安昼君が腕を組み、遠い目をして語る。


「今白鳥の頭の中のお前たち、ヤバいことになってるぞ。あれが清楚系幼なじみの姿か?」

「えっと。多感なお年頃のおませでちょっと想像力がたく……いや、豊かな……清楚系幼なじみ?」


 かなあ……。


「あ! レオナちゃん! そんなところ触ったら兎野君のマウンテンがチョコっちゃうよ!」

「マ!? 今私、真白君のマウンテンでチョコっちゃうポイント触ってんの!? じゃあここは!」

「そこはデラックスだよ!」

「マ!? じゃあじゃあナギりん! こっちは!?」

「レオナちゃん大胆すぎるよー! もう見てられないよー!」


 レオナさんと白鳥さんは顔を赤らめながらも心なしか楽しそうだ。


「……飯、食べに戻るか」

「……そうだね」


 俺と安昼君は想像力豊かな女子高生の怖さを、知った。

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