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第7話 リアルでサポっちゃうよ!

「な、なに?」

「〈GoF〉で遊ぶのはもちろんいいけどさ! 顔バレしたし、リアルでも別ゲーとか色々遊ぼうよ!」

「え? リアルでも……?」

「もしかしてウサボンの信条だとNGだった?」

「NGじゃないけど。そういう経験……あまりなくてさ」


 全くないとは言えず、ちょっと見栄を張ってしまった。

 獅子王さんが手を離してくれたので、席に座って改めて話し合う。


「ウサボンが〈GoF〉を始めたのもリアルでコミュ力アップが目的だったんだよね。なおさらリアルでもお話しないともったいなくない? でも、そっか……うーん」

「やっぱりリアルの俺って何か問題があるよね?」


 さっきまでのふわふわとした気分が一転して不安が押し寄せてくる。


「え? 違う違う! ちょっとプランを練ってただけだから。ウサボンってリアルは孤高を愛し、自分の時間を大切にするハードボイルドクールな男子だと思ってたからさ」

「知らない間に俺にそんな属性が」

「だって昼休みは一人で静かに、かっこ良くお弁当食べてるし。孤高のグルメのココロウさんみたいに」

「……それは単純に一緒に食べる人がいないだけで」

「食後はイヤホンつけて、スマートにスマホ操作してるし。ひとりぼっちが嫌いな釜井さんはかまいたいの一人大好き人間の須磨くんみたいに」

「……それは他にやることがないのでマンガとか動画見ているだけで」


 自分で弁解しててなんだか悲しくなってきた。

 マンガに出てくる主人公たちのような明確な意思があるわけじゃない。


「あー……そーなんだ。ウサボン、クラスでも隠れた実力者と一目置かれているし。完成された尊み空間を壊したくないなーって、私も勝手に思って声かけられなかったんだよね……。もっとちゃんとウサボンのことを見るべきだった」

「レオが悪く思うことはないよ。実際、そういう風に壁を作っていたのは事実だからさ。話しかけられるのが怖かったんだ。何て答えればいいか分からないから」


 郷明学園に入学した当初の自己紹介でも事前に考えていた台詞が吹き飛び、「兎野真白です」としかハッキリ言えなかった。


 やっと絞り出した声も「……し」だけだった。

 よろしくお願いしますの「し」だけである。


「――え? 死……?」


 長身に加え、髪の隙間から見える目だけでも極悪の顔つきは隠せず、クラスメイトに恐怖を植え付けたのはいまだに癒えない傷だ。


 結果、獅子王さんが言ったイメージができあがったんだろう。むしろ獅子王さんはかなり好意的な捉え方をしてくれている。


 他のクラスメイトがどう思っているかは……あまり考えたくはない。

 だけど、それを変えようとせず、よしとしたのは自分自身だ。


 獅子王さんが負い目を感じることは本当にない。


「うーん。けどさ。私とはこうしてふつーに話せるじゃん? 私と話すのは楽しい?」

「もちろん楽しいよ」

「リアルで話せるようになりたいってことは、他の人とも楽しく話したい?」

「それは、できることならしたいと思ってるよ」


 真っ直ぐに聞いてくる獅子王さんに対して、どうにか思いを声に乗せて伝えた。


「オッケー! 決めちゃった!」


 獅子王さんがテーブルに両手をつき、こちらに身を乗り出した。


「決めた、って言うのは?」

「ウサボンが初心者の私に〈GoF〉のレクチャーしてくれたようにさ! 今度は私がリアルでウサボンをサポってあげるってことを決めた!」


 ニッと明るく笑う獅子王を見たら、不思議と断る言葉は出てこなかった。


〈GoF〉で一緒に遊んでいたからか……かな。楽しいことになるのは間違いないともう知っているから。


 それにリアルの獅子王さんだってほんの一部ではあるけど、知っていることはある。


 俺とはコミュ力の経験値が違うし、頼もしいことこの上ない。いつだってキラキラと輝き、人を惹きつける。


 問題は俺がヘタれず、ついていけるかだけ。

 ハッキリ言って自信なんてこれっぽっちもない。すぐに折れる自信の方があるくらいだ。


 ……それでも。 


「私がウサボンの素晴らしさをみんなに広めてみせるから!」


 獅子王さんが立ち上がり、ドヤ顔で胸を張った。


「ありがとう。レオが一緒なら安心できるよ」


 こんな風に言われたら、何度ヘタれて折れても不器用に直すくらいの気持ちは生まれるものだ。


「えへへ。まかせなさーい! 百戦錬磨にして無敗! 現代世界の荒波を乗りこなす処世術の魔術師たるレオ様にね! ウェーイ!」

「頼りにしてます。ひとまず一件落着だね……あ、そうだ。ちょこさんとドラさんに報告しないと」

「はへ? そう、なの?」

「うん。だんまりはよくないし、ちゃんと話さないといけないと思ってさ。昨日相談も兼ねてしたんだけど」


 んっんー? と獅子王さんは明後日の方向を向いた。

 曖昧な反応から見るに、まだ伝えていなかったみたいだ。


「……まずかったかな?」

「いやいや! そんなことないよ! ギルマスに報告は当然だし! ホウレンソウはちょー大事! そーだよねーさすがウサボン仕事できるマンと思っただけで……うわっ! ちょこさんからめっちゃ個チャきてるし!? まさかお説教? あわわ! どうしよーウサボン! 助けてー! ヘルプー!」


 百戦錬磨にして無敗の神話が早くも終焉の危機らしい。

 この後ドラさんとちょこさんに会いに行き、二人でめちゃくちゃ謝った。


 けれど、ドラさんもちょこさんも俺たちが仲直りしたことを笑って喜んでくれた。

 ……俺たちは本当にいいギルドに入れたと思う。

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