第68話 フルアーマー兎野君が完成してしまった……
「ひ、日取りは追々決めるとして。そ、そだ! 兎野君。このイラストにタイトルってあるの?」
「あ……ごめん。描くのに夢中で考えてなかった」
「ちょ、謝んないでよ。責めてるわけじゃないし。ただ気になっただけでさ。もったいないし……じゃあじゃあ! 私が考えていい?」
「獅子王さんへのプレゼントだからもちろんいいよ」
「ありがと! うーん、そうだなー……獅子王レオナ画伯としてはー……あ! 閃いた! 枯葉冷愛ちゃんコスだし」
獅子王さんはタブレットを抱きしめ、
「こ、恋に目覚めた悪の魔法少女レオ……みたいな?」
顔を赤らめながら言った。
まるで俺が描いたレオがリアルに飛び出してきたみたいに。
アマリリスエースは主人公の花咲恋花が枯葉冷愛と死闘を越えて、恋人になっちゃう百合アニメでもあるので間違ってない。
「いい、と思うよ」
「う、うん! 兎野君! イラストありがと! マジで嬉しい!」
夕日に照らされた獅子王さんの笑顔は今までとまた違った色彩で溢れている。
この笑顔が見れて本当によかった。
俺のイラストなんて獅子王さんには敵わない。
一生をかけても敵わないかもしれないけど、これからも描けていけたらいいな。
「そだ。このイラストってギルメンに見せる予定ある?」
「ごめん。それも考えてなくて。獅子王さんが見せたいならいいよ」
「んー……やめとく。私だけのULR限定一品ワールドアイテムだし。スマホとパソコンに〈リンクギア〉の壁紙にしていい?」
「うん。後でデータを送信しておくね」
「ありがとっ。後はー……オリTシャツ、オリマグカップ、オリプレートでしょ。それからそれからーなにがいいかなー」
「うん……?」
なんか知らない間にグッズ展開が……?
忘れがちだけど、獅子王さんはお嬢様だった。
やろうと思えばやれてしまうんだろう。
自動推しうちわ製造機があるくらいだし。
まあ、さすがに獅子王さんでも本当にはやらないだろうし。
嬉しくて舞い上がってるだけだ。その姿を見るだけで俺も十分嬉しい。
「でも本当凄い描き込み量だよねー! マジでビビったし! この二匹のウサちゃんもミニシルクハット被って、蝶ネクタイしておめかしてかわよ。もしかしなくても兎野君のキャラだよね?」
「は、はい……そう、です」
自己嫌悪は忘れた頃にやってくるものだ。
「そっか。枯葉冷愛コスとお揃コーデだね。へへっ。ねえ、いつ描いたの? 体育祭の練習もあったし、描く時間なんて……」
あ、まずい。この流れはよくない。
獅子王さんから目をそらす。
「兎野君。昨日、バイトだったよね?」
「はい」
獅子王さんから顔をそらす。
「一昨日、クラスの祝勝会だったよね?」
「はい」
獅子王さんから背を向ける。
「兎野君やい、いつ、描いたのかね?」
しかし、回り込まれてしまった。
肩に手を置かれる。
逃げ道はなかった。
「えっと。その。昨日のバイト終わってから……徹夜……その、完徹、です」
嘘をついても獅子王さんの眼力に見抜かれそうで正直に答える。
みんなと祝勝会をした日に構想を練って。
バイトの日は鷹城さんたちに迷惑をかけられないので、終わってから描き始めた。
気がついた時には太陽がおはようしてて、一睡もしていない。
もっと時間をかけてもよかったけど、一日でも早く描いて伝えたい気持ちが勝ってしまった。
今日は帰ったら軽く食べて、さっとシャワーを浴びて、すぐ寝よう。
「ほんと、無理ばっかしてもう……かわよ」
獅子王さんに頭を撫でられる。
〈GoF〉のキャラならまだしも、リアルの俺にはもっとも似つかわしくない言葉だ。
でも、可愛くない俺を見る獅子王さんの表情は優しくて。
そんな似つかわしくない言葉も悪くない、嬉しいと思ってしまった。
「よし! じゃあ、今度は私の番! お礼のお返しに送らせてもらうね!」
獅子王さんが気合を入れて立ち上がる。
「え? 大丈夫だよ。ちゃんと家に帰れるから。眠気もないし」
「いやいや! むしろそっちのがヤバいし! 今の兎野君死亡フラグ満載だからね! 電車で寝落ちしたらどーなるか! ほっとけないからマジで!」
「本当に、大丈夫――」
「はい。もうデス美に連絡したから。私から逃げたらデス美デストロイビークルモードが、地の果てまでデストロイでキラーしにくるよ? 逃げ切って脱出する自信ある?」
「即キルされると思います」
俺に逃げ道はなかった。
◆
「むむむ! これはいけませんですわ! コーションコーションですわ! 兎野様のバイタルがデンジャーレッドですわ! どーしてこうなるまで放っておいたんだーですわー! このおバカですわー!」
ビークルモードで迎えに来てくれたデス美さんからメディカルチェックの診断を告げられる。
そんなに体調悪かったのかな……体育祭で無理して、祝勝会に、バイトに、授業に、似顔絵デッサンからのイラスト完徹。
デンジャーレッドとお叱りを受けて当然だった。
学習能力が皆無だな、俺。
悪い癖が増えた気がする。
「はい。兎野君の家に着くまで寝ていていいよ」
獅子王さんが自分の太ももを叩いて、招く。
「本当にそこまでしなくても。俺、重いし。疲れるよ」
「重くないし! 女子高生の太ももなめんなし!」
獅子王さんがヤケクソ気味に自分の太ももをバンバン! と叩く。
「兎野君が! 私の太ももで! おやすみするまで! やめないよ!」
それはそれで困る。
いや、獅子王さんの膝枕は大変魅力的だけど。
そうすると即寝落ちしそうで、余計疲れさせちゃいそうだし。
さっきは大丈夫なんて言ったけど、やばい。思考がいつもより回らない。
「レオナお嬢様ー? 車で膝枕は上級者向けプレイですわよ。よい子が真似しちゃ駄目なプレイは車内で禁止ですわ。
そもそもシートベルトをしっかりつけないと、セーフティが解除されないので発進できませんわ」
「っー! い、今のは冗談だし! 分かってるし! 兎野君、隣に座っていいよ!」
獅子王さんに言われたとおり隣に座る。
座席は柔らかく暖かい。
睡魔が一気に襲ってくる。
送ってもらうんだから家に着くまで眠るわけには……。
「ほら兎野君! このアイマスク使う!? 蒸気でぬくぬく目に優しい! あと首に付ける枕のネックピロー! ふわふわもこもこ! あと足つぼマッサージ器! 血流改善健康第一! それとブランケットもおまけだもってけー!」
「うん」
獅子王さんがどこからともなく最新の安眠グッズを召喚し、俺に装備させていく。
「フルアーマー兎野君が完成してしまった……」
「ありがとう」
全身ふわふわもこもこぬくぬく状態になった。
睡魔はあっという間に俺を眠りに誘っていく。
「兎野君。膝は駄目だけど、肩なら遠慮なくのっけていいからね」
「……うん」
「おやすみ、兎野君」




