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ネトゲの嫁と離婚したら、クラスのギャルお嬢様がガチギレしていた  作者: 春海たま
地獄のコミュ力アップブートキャンプ編

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第23話 強すぎる陽光は日陰者を焼き殺す

「はいっ、これで一区切りね。メガネをどうぞ。どうかしら、真白ちゃん? 気になるところはある?」


 猪原いはらさんが鏡を持ちながら尋ねる。


 伊達メガネをかけた俺の前髪は大分サッパリした感じになった。つい癖で髪を触ろうとしても空を切るだけ。


 全体的にスッキリして、数十分前の俺とは違う姿だと分かる。まだ恐怖心はあるけど。


「いえ、問題ないです」

「兎野君、いい感じじゃん。うん、ブレザーも執事服もさらに映えそうだね」


 後ろで黙って見守っていてくれた獅子王さんにも好印象でほっとする。


「……そういえば、レオナちゃんは今日は何もしていかないの?」


 猪原さんがニッコリと笑って獅子王さんに聞いた。


「私はまだいいかなーって。今日は兎野君メインだったんで」


 獅子王さんもニッコリと笑い返したけど、なんか二人の間で火花が散ったような?


「レオナちゃん、放っておくと髪のケアをサボる癖あるわよね? 夏場も髪の天敵は一杯盛りだくさんよ! はーい、一名様ごあんなーい!」

「え? 私は今日予約してないですし?」

「大丈夫、勝手に予約しておいたわ。特別サービス価格だから安心していいわよー」

「くっ。特別サービス価格と言われたら、受けておきたい自分もいるけど! でも今日は兎野君の日だし!」

「はーい、レオナちゃん。行きましょうねー」

「ちょっ!? ごめん、兎野君! また後でー!」


 獅子王さんが店員さんによって別の座席に連行されてしまった。


「ごめんなさい、真白ちゃん。待たせたわね。じゃあ、仕上げていくわよ」

「あ、はい。お願いします」


 呆気にとられている暇もなく、俺の方も続きが始まってしまう。

 健康に良さそうなパックを顔にされ、もう一度洗髪して、最後の仕上げに入る。


「……髪を切るなら私のお店じゃなくて、真白ちゃんが通ってるお店の方が気が楽だったわよね? 真白ちゃんの気持ちを理解だってしてくてれるはずだし」


 猪原さんが声のトーンを落として喋りだした。


「いえ、獅子王さんが言っていたとおりみなさんいい人で、素敵なお店だと思いました。リラックスもできましたし」

「ふふっ。ありがと。多分だけどね。レオナちゃんは私みたいなのがいることを知って欲しかったのかもね。まー考えなしだとは思うけど」


 その意味をすぐに理解することはできなかった。

 猪原さんの容姿なのか、言動なのか、生い立ちなのか。


 あるいは、全部なのか。

 俺にしてみれば猪原さんは自分を持ってる大人って感じだ。一つの個性であって、変な印象は抱くわけがない。


 だから、余計に時間がかかってしまったというか。


「自分をさらけ出すって怖いわよね。私も昔メイクして、色んなヘアースタイルに挑戦して、着飾って人前に出るのが怖かったわ。私がベルに勇気をもらったように、真白ちゃんはレオナちゃんにもらったのかしら」


 それでも気持ちだけはなんとくだけど分かる。

 猪原さんとはある程度普通に喋れるくらい親近感を覚えたのも確かだ。


「そう、ですね。獅子王さんがいなかったら俺はリアルで一歩踏み出せなかったし、まだ暗いままだったと思います」

「あら、ストレート。そこがレオナちゃんにはストライクだったのかしらねえ……。あの子、意外と面倒だから頑張ってね?」


 これもちゃんと意味を理解できてないけど、今まで見て聞いて思ったことを口にする。


「獅子王さんは面倒というか、自分の感情に素直なだけなんだと思います」


 横目でちらっと見える獅子王さんは「おぉぉぉぉー……」と謎の声を上げながら、髪の毛を弄られている。


「だから間違うこともあるし、でも反省してすぐ立ち上がって前を向いて。俺にはないキラキラとした暖かいものを持っていてる人なんじゃないかって」


 俺みたいなのが言える台詞じゃないですけど、と続けて言おうとした言葉はそっと飲み込んだ。


「よく言う太陽みたいな?」

「太陽はちょっと。焼けるし、暑すぎますし。俺みたいな日陰者を照らしてくれる暖かい陽だまりくらいだと、心地よくていいかなって思います」

「……はあー、なるほどね。ベルが真白ちゃんのことを話さない理由が分かった気がするわ」

「どういうことですか……?」

「んー、ひ、み、つ。やっぱり私もおじさまね。余計なお節介を焼きすぎたわ。うん、完成よ。真白ちゃん、改めてどうかしら?」


 伊達メガネをかけると、鏡に映る俺と目が合った。

 中学二年のあの日以前の俺に少し似ていて、少しだけ違う。


「ありがとうございました。ちょっと、気合が入りました」

「そうよねー。ちょっと、って意外に大事よねー」


 猪原さんが朗らかに微笑んで頷いた。


 ◆


「うんうん。進化形兎野君ちょーいい感じじゃん。これは限定フェス輩出率00.2%のURクラス。私もなんかよく分からない凄い編み込みされて盛られちゃったぜー」


 獅子王さんが軽く両手を挙げてポーズをとる。


「本当に凄い編み込みだね」


 俺の言葉で言い表せないくらい後ろ髪を中心に編みに、編みに、編み込まれている。

 美容師さんって凄い。


「ふふっ。二人ともいい感じよー。若さが羨ましい」


 一仕事を終えた猪原さんが満足げに言った。最後に哀愁があったけれど。


「ただ二人に忠告しておくわ。変化を恐れるのは自分だけじゃない。周りもそう。もし周りが決して追いつけなくても、焦らないで。じっくりとね? 大丈夫。お互いにその、えっと、そうね。いいお友達が隣にいるのだからっ」

「はい。分かりました」


 猪原さんの経験から来るアドバイスだ。

 素直に受け止めて、頷く。

 獅子王さんは首を傾げてしまったけれど。


「う、うーん? 兎野君は分かったの? 含蓄がんちくのある言葉だったけど。キンちゃん、なんか私より兎野君のこと分かった風な顔してません? 後方彼女面というか」

「男の友情は時間で積み重ねられるものじゃないのよ? 一瞬よ、一瞬」

「くっ! 前方彼氏面の方だったか! それを言われたら私に反論の余地がなくなってしまう!」


 それでも獅子王さんは変わらず獅子王さんだ。


「ま、からかうのはこの辺にしましょう。この後予定があるだろうし。最後に一つだけやりたいことがあるの」


 猪原さんが真面目な声で呟く。


 やりたいことってなんだろう? 

 これだけ真剣な目なんだ。きっととても大事で、大切なことに違いない。


「レオナちゃんのお友達の真白ちゃんご来店記念日の撮影会よ!」


 あれ? そのフレーズ、どっかで聞いた気が。

 猪原さんと鷹城たかじょうさんが恋人同士だったのが、なんとなく分かった気がする。


「あ、うちらもいっすかー?」


 と、手が空いた店員さんたちまでゾロゾロと来て、あれよあれよと俺のスマホで撮影準備が始まってしまう。


 俺の隣に獅子王さんが並ぶ。


「ほら、兎野君。笑って笑って。ピスピースだぜー」

「う、うん」


 だがしかし、俺には突発的な集合写真の撮影経験がなく、場数なんて一切踏んでいない。ゼロに等しい。日陰を好む者にはほど遠い場所だったから。


「はーい、撮りますよー!」

「いえーい! 兎野君見てるー!?」

「ぃ、ぃぇーぃ……」


 俺だけか細い声だった。

 強すぎる陽光は日陰者を焼き殺す。


 俺の目だけ死んでいた。

 まだ陽だまりは苦手かなと思うくらいでちょうどいいのかも……。

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