①ローズ婦人の夢
新シリーズです。書き始めが今年の1月とかいうびっくりなのです。
そして予告なしですね。
よくあることです。きにしないように。
①ローズ婦人の夢
心地よい風にのって甘い香りが記憶をくすぐる。物静かなあの人は周囲を見習って誕生日や記念日に数本の花束を買ってくるようになったわ。花言葉は知らないだろうから、お店の人に照れくさそうにお任せする姿が想像できるの。渡すときもおんなじだもの。たくさんの感謝と思い出は今も変わらないわ。
リリン リリン
ある日、小さな子供たちと出かけた先で見つけたの。庭にお花が欲しいって、園芸コーナーを眺めてたら甘い甘い香り。それが始まり。店員さんにおすすめされたのはオールドローズ。大きいのから小さいのまで香りもいろいろ。子供たちは実が食べられるとかジャムにできるとかで喜んでいたわね。その後も色んなお花を増やしていたら、贈られる花がどんどん豪華になってきたの。あの人ったらお店の人に何を言ったのかしら。
だからあの人を見送った後、楽しかった思い出に浸っていたらなぜか孫たちにも心配されたのよ。変ねぇ・・・・・・
リリン リリン
「オーナー、お時間ですよ」
ゆっくり目を開けると、一面のバラとかわいい妖精。ここは私の夢の庭。たくさんのお友達とお茶やお菓子を食べておしゃべりする場所。今日もはりきっておもてなしよ。
久槌 津が10時出社した時、いつもとちがう光景があった。
社内の掲示板の前には数人が立ち話をしている。自分と同じくスーツを着ている出社したばかりの同僚と、【作業着】を着た先輩たち。情報交換や打ち合わせなら談話室があるのだからそこまでの話でもないのだろう。近づいてあいさつをし会話に加わる。その中に一人だけいる女性は社長秘書で年齢がまったくわからない。入社して5年たつが彼女の美貌に陰りはない。
「久槌君、今回も活躍を期待していいかしら」
「どうでしょう、あの2人は参考になりませんから」
秘書兼上司の魅惑の流し目に耐えつつ掲示板に書かれた文字を追う。思い出すのは幼馴染とその妹の顔で、にかっと笑う2人に顔が緩みそうだ。今日はどこのダンジョンに行っていたっけ。
デザインズダンジョン社 採用要項
・ 迷宮職人・・・・・若干名
二年以上の実務及びダンジョンオーナー・マスターの推薦、もしくは迷宮職人の推薦が必要。
研修期間・場所は応相談。
担当 阿汐
外部に向けての告知でないから足りない情報だらけだな。まずうちの会社、ダンジョンのデザイン・管理と一部運営をする。まだぜんぜんわからん?じゃ、ダンジョンについてか。まずダンジョンキーというものを購入する。手に握れるサイズのキューブ型で、ベーシックタイプが1000万。うん、お高い。これで5キロ四方10層の空間を自由に使える。ここで注意なのがVR=バーチャルリアリティーではないということ。そして時間経過は同じなので1時間ダンジョンにいると現実も1時間過ぎる。
実例があったほうがわかりやすいだろうから、祖母のダンジョンに関わったことを記そう。
高校に入った慌ただしさも落ち着いたころ、祖父が亡くなったことも重なり高校生活は地味に過ごしていた。部活動にも身が入らずただぼんやりと将来とか見えないなにかがまとわりつくのを、初夏の陽気のせいにしていた。
「りっくん!!休日に勉強なんかしてる場合じゃないんだよ!!!!」
いきなり部屋にやってきて世の学生を全否定したのは1つ下の従兄妹。後ろの立って申し訳なさそうに手を振るのはその兄。
「夏陽、うちが大学院まであるとはいえ来年困るぞ。学科も選択科目も変われば今までみたく教えてやれないからな。」
「だ、大丈夫。10位以内はキープするから。それよりこれ読んで」
手渡せられたのは手紙だ。よくある封筒ではなく、どこぞの晩餐会の招待状のようだ。手に吸い付くなめらかな紙質とエンボス加工の装飾は、待っていたものだった。差出人は「デザインズダンジョン社」
「・・・2人とも、夏休みはつぶれるから課題は2日で終わらせるよ」
自分の中に足りなかった熱が満ちていくのを自覚しながら笑って見せると、逆に2人はこの世の終わりな顔をした。
ダンジョンのオーナーにはだれでもなれるものではないのだから