0.7 あなたとわたし
アルバートと別れ、通路を通って部屋に帰ると、そこには意外な人物………リリスがいた。
アルバートはリリスを待たせていると言っていたので、矛盾が発生している。
「あら、おひさしぶりですわね。ルナ伯爵令嬢様。」
あくまでも今ルナがいることに気づいたような口ぶりで、リリスは当然のようにルナの部屋の上質な椅子に座って寛いでいた。
そのことにも違和感を覚えながらも、ルナは表情を崩さずにリリスにあわせる。
「お久しぶりですわね、リリス男爵令嬢。どのようなご要件で?」
転生してからというもの、リリスの行動に度々違和感を覚えていた。
キャラ設定では、リリスは温厚で控えめな性格なはずだというのに、いざ会ってみると傲慢で高らか…………まるでルナのようだった。
周囲の者からすると、ルナは以前より温厚で優しく、リリスは傲慢で自信家になったと感じていることだろう。
まるで、二人が入れ替わったような。
「ルナ様、おこがましいですわよ。もう少し腰を低くなさったらどうですの?」
「……………………」
「ちょ、あれ、セリフ間違えたかな。いや、あってるか?…………コホン、とにかく、腰を低くしてくださる?」
無言で見つめ返してやると、リリスは偉そうな態度にボロを出しはじめる。
内心苦笑しつつ、ルナはリリスの思惑に興味をもった。
そのため、とりあえずちょこっと腰を下げてみる。
すると、ルナは表情を取り繕い、また雰囲気をかえる。
「あの、ご要件を聞きたいのですが?」
「あ、忘れてた…………、エステは堪能されまして?」
「ええ、とても!!」
思わず身を乗り出して答えると、リリスはなにも仕掛けていないというのに、引き下がるまいと強気になった。
「そう、それはよかったですわね!!
そして、私の要件というのは、アルバート殿下についてですわ!
今後、一切アルバート殿下に関わらないで頂きたいの。」
「ああ、いいですよ?どうせ断罪されますし。」
スルッと了承すると、リリスは「えっ?」と間抜けな声をあげる。
よほど意外だったのだろう。
だが、この答えはリリスにとって都合のよいはずだ。満足げな顔をすると予想していたルナも、普通に驚いてしまった。
(即答したのは間違いやったかも)
「そ、そう。貴女がどうしてもというのなら、アルバート様に近づくことも許容いたしますが、そこまで諦めがついているとは思いませんでしたわ」
狼狽えながらも、リリスはルナを誘導するような提案をする。
その顔は、一か八かの賭けに出たとでもいうようだった。リリスはルナがアルバートに近づくことを望んでいるようだった。
ルナは『お願い』に弱い。お願いと言われたのは当然として、直接そう言っていなくても、なんとなくそう感じただけでも許容してしまう。
リリスは後者に当たるのだ。
「で、では、現状維持という形でも?」
現状維持というのは便利な言葉だ。
リリスはそれはそれは嬉しそうにガッツポーズをくりだした。
やはりかけていたのだろう。
現状維持というのは、アルバートとは少し距離をおいて生活するということである。だが、少しでもアルバートとは接触する機会があるだろう。
「ええ、よろしくてよ!!」
リリスは扇子を口に当て、満足気に頷いた。
ふと、ルナは最初に感じた矛盾を口にした。
「・・・・・そういえば、アルバート様が待ち合わせを・・・・・」
そう言いかけ、扉が開閉する音がしたことに気がついた。リリスも聞こえたのか、豪華で重圧な扉に目を向けていた。
ギィィィ、と音を立ててドアが開かれる。
「おい、これはどういうこと、だ?」
そこには、驚愕したアルバートがいた。