0.5 騎士団長 アルムフェルザ
バリュエクリナス国騎士団長 アルムフェルザは苦悩していた。
それも、周囲の人間どころか、すれちがっただけの者にまで伝わるほどに。
だが、それも仕方がないのだろうと、事情を知る副団長は言う。
ついさっき、入団の希望をしてきた少年(?)が来たのだが、それはそれはあの伯爵令嬢 ルナ・カルテトに似ていらっしゃったとかとかなんとかである。
もしそうならば大問題だ。
女性や伯爵以上の上級貴族の入団は禁じられているため、正規の入団はできない立場にいるため、ルールにのっとり拒否することもできる。ましてやあのご令嬢は過激な方で、気に入らないものがいると社会的に潰しに来るのだとか。
しかも、そんな方が男装して来るとは誰も思わないだろう。
だが、それもあくまで推測にすぎない。
もしかしたら、ただの女性らしい少年かもしれない。
そんな仄かな希望を胸に、騎士団長/副団長は、少年(?)自称 ルナリエル・アルテンデールが入団しにやってくる。
……………………………………………………………………………
…………………………………………
……………………
翌日の早朝、ルナは入団届けを提出しに、騎士団本部に向かった。
王の一族を最優先に守るため、本部は王宮の向かいにあり、少し歩いたらすぐに着く。
女性の入団は禁止されているため、ルナはカレンに協力をお願いし、男装して入団に挑む。
従者がいると貴族か疑われかねないので、危険と止められたが一人で行くことにした。
内側のルートを使うと王宮の関係者だと思われるので、一度外に出て正規の入口から入る。
「あのー、失礼します」
ノックし、重圧な扉を開ける。
現代ではこんなところに来たことがなかったからか、若干緊張した。
扉が開くと、そこには筋肉質な男性が二人、雑談をしていた。
一人は、筋肉質な細マッチョで、赤毛を肩まで伸ばして結っている爽やかな青年。
もう一人は、華奢で小柄な青年。珍しい白い髪が黒い隊服と映え、アルバートより王子様気質だ。
「おう、どうした。もしかして、入団希望者か?」
赤毛の青年がそう言うと、今気づいたように白髪の青年もルナをを見る。
軽く話しかけられ、ルナは緊張が少しずつ解れていくのを感じた。
「は、はい。」
戸惑うように返事をすると、白髪の青年が口を挟む。
「君、女性だろ。なら、入団は諦めたほうがいいと思うけど?」
「へぅぅぇ!?」
なぜ見破られたのかが不思議でたまらず、思わず奇声を上げる。
だが、少しすると思考も冷静になってくる。
すると、ルナは思い出した。ここは、『異世界』なのだと。
となると答えは簡単。彼は異能力者なのだ。
異能力は、簡単に言うと魔法である。だが、少し違うのは、生まれつき持っているという点であり、持っているものと持っていない者がいることだ。
因みに、物語りでルナは無異能力者である。
「ち、違いますよ。」
「嘘だ。だって声が女だぞ?」
「声変わり前なんだよ!!」
「そう……なのか?それでも波長がーーー」
痛いところをつかれ、ルナがたじろいだところを攻めてくる。
白髪の青年はルナを女性だと思っているのなら、女性に対する態度というものがあるのではないだろうか。
「まあまあ、アルウェン意地悪すんなよ。」
仲介してくれたのは、赤毛の青年だった。
これにより、赤毛の青年への好感度がアップし、白髪の青年の好感度がダウンした。
白髪の青年は不貞腐れた顔をしていたが、赤毛の青年の言う通り、口を挟むのはやめてくれた。
赤毛の青年は、どこからか入団希望用紙を取り出し、ルナに渡した。
「これにサインしたら、お前も団員だ。」
ペンをもらい、偽名 ルナリエル・アルテンデールと名を書き入れる。
書き終えたのを見計らい、赤毛の青年が用紙を取り上げる。
「よぉし、これでお前も仲間だな!これからよろしく。俺は騎士団長 アルムナイ・カルウェルト!」
「…………俺、副団長 アルウェン・クリスヴェール。
アルウェン副団長様と呼べ。」
「はい!わた…………僕の名前はルナリエル・アテンデールです。
よろしくお願いします!」
やっと、第一歩が踏み出せたという喜びが込み上げる。
騎士団には3日後、正式に訓練に参加する事になった。
「おい、絶対あのルナリエルとかなんとかってやつ、女で貴族だぞ?見た目からしたら、俺はあの貴族社会の問題児 ルナ・カルテトだと俺は予想する。」
「えっ!?あれマジだったのかよ。
不味い、あの方の気に触れたらたしか、社会的に潰され………」
その日から、アルムフェルザの顔色は悪くなってゆき、最後の時を迎えることに…………
「おい、勝手に俺を殺すな!!」