0.2 なにかがおかしいパーティ会場
(え、え、どうなっとんの?)
私が戸惑っていると、正ヒロインであるリリスが声をかけてくる。
私が戸惑う原因その人である。
「あぁら、お待ちしてましたのよ?」
まさにヒロインをイジメる悪役令嬢のような仕草で華麗に声をかけてくるリリスは、物語とはまるで別人だったのだ。
パーティの参加者も、優しくて可憐なイメージのリリスが豹変していることに心底驚いていた。
「どうぞ、ドリンクでもいかが?」
入口のすぐそこで引き止め、その上その場でドリンクまで渡すとは、とても非常識な行動だ。
――――――まるで、ルナのよう
ルナがポカンとしていると、リリスは強引にドリンクを渡そうとしてくる。
そして、「きゃあっ!?」とリリスが悲鳴を上げた。
ドリンクがルナのドレスにかかってしまっていた。
「あらあら、どうしましょう。
このワインは簡単には取れませんし、着替えていらしたらどうでしょう?」
「…………え、ええ。そうさせていただくわね。」
ルナは、断罪パーティを前に、一瞬で退場させられたのである。
ヴィオレのドレスにワインをつけ、ルナは自室に帰る。
従者の少女―――――カレンが、心配そうに声をかけてくる。
正直嬉しい。
「だ、大丈夫ですか?こちらでお待ちいただければ、私がお持ちしますが……?」
持ってきてどこで着替えるのかと不思議になり、ルナはカレンの提案を丁寧に断った。
カレンはルナより年下の少女である。
年下の少女をこき使うことは、現代っ子の美学に反することだ。
「大丈夫。運動がてら、自分で取り行くわ。」
そう宣言し、ルナは歩くスピードを早めた。
すれ違う人々の中には小さな子供から老人まで、様々だった。
給仕の女性達が「なんだかいつもより人が多いわね。」と話していたことから、ルナはそこまでして婚約破棄の証言者を増やしたいのかとうんざりする。
だが、王子は正義感が強いため、キッパリとケジメをつけるためなのだと、ルナは知っていた。
部屋の前にくると、ルナは扉になにかが挟まれていることに気がついた。
(なにかな)
どうやらリリスからのレターのようだった。
丁寧に折りたたまれた手紙は、平民から成り上がった男爵の娘とは思えない程に高価な物だった。
ルナは使用したことがあるが、おもに以下上級貴族の貴婦人方が大切な相手に送るのだ。
それを、なぜルナに?
疑問に思いながらも、ルナは慎重に封を開ける。
中にはまたもや庶民出身とは思えないほどに丁寧な字で書かれた小さなカードが入っていた。
内容はこうだ。
『麗しきルナ様へ。先程のご無礼、どうかお許しください。
そのお詫びと言ってはなんですが、最高級エステへ予約を入れさせていただきました。もちろん、費用は私がお出しします。
予約時間はⅥの刻(6時)からⅧの刻(7時)でございます。
どうか、優雅なおひと時を。
by リリス・アルノコトン』
正直に感想をのべると、「エステ行きたい」の一言に尽きる。
正確には、異世界のエステ?なにそれ、面白そー!である。
前世ではバイト代の6割実家、3割生活費、1割趣味であったため、そんな余裕はなかったのだ。
だが、6時から7時はちょうどパーティの時間。
その間に断罪イベントも終わってしまう。
ルナの頭には、究極と言うには偏りすぎている選択が浮かんだ。
1.エステを断ってパーティに出席し、断罪される
2.パーティを投げ出し、エステへ行き、極楽の時間を過ごす
答えは一択。後者である。
そりゃ、断罪されて気分を悪くするよりも、エステでゆっくりしたほうがいいというものである。
(まぁ予約してくれたリリスちゃんにも悪いし、サエステの人も用意しているのやろうし、なにより善意は受け取ったほうがいい!!)
当てつけで正当化し、早速用意をする。
とにかく重いドレスを着替えようと衣装室に入ると、カレンが衣装室の前に立ち、見張りをしてくれる。
その姿は、まるで一人の騎士のようだ。
ほとんどの服は伯爵家に置いてきているため、衣装室にはルナのドレスの一部を保管している。
ルナは汚れたドレスを脱ぐと、軽く優しい色合いのドレスに着替えると、衣装室を出る。
すると、カレンはルナが出たあとの衣装室に入り、汚れたドレスを回収する。
ルナはドレスを脱ぎ捨て、ある意味の惨状を生み出していた事を思い出し、それを見たカレンの反応を想像して頬を赤らめる。
「さ、さあ、行こっか……!」
アハハとごまかすと、何がおかしいのだろうという顔をするカレンを強引につれだし、エステへ向かうのだった。
ルナの前世ー関西人
ーとてつもなく雑な性格で、服は足に引っ掛けて投げる
ー名前は赤橋 カナノ